●中東より愛を込めて ――体制死すべし。 赤い月の下、三人の男が立つ。 彼らは揃いの迷彩服に身を包み、油断なくその時を待つ。 三ツ池公園。横浜にある市民の憩いの場。現在そこは厳戒態勢となっている。 制圧するは世界の裏に生きる者達。フィクサードにエリューション。 彼らもまた、フィクサードである。 リーダーである男。名をファッターフという。 中東にあった故国において『砂漠の狼』の異名を持ち、支配者の下に抵抗勢力や大国と戦い続け、多数の戦功を挙げ恐れられた男である。 いつしか彼の国は大国の干渉により消滅した。 民主主義にあらぬ独裁の国は大国により押さえつけられる。その構造を彼は許すことが出来なかった。 結果として彼は信頼できる部下と共に地下に潜り、社会的にテロリストと呼ばれる存在になった。 戦いは続いたが大国に決定打を与えることは出来ない。だが、その時ある噂を耳にした。 極東の島国で、神秘の界隈では名の知れたバロックナイツが暗躍しているという。 彼らは即座に日本へと飛んだ。そして知ることとなったのだ。 バロックナイツの傘下となったフィクサードの暗躍とアークとの闘争。そして目的。 彼は即座に決断した。世界に穴を開けるという計画に力を貸すことを。 神秘の側から世界を歪めよう。大国の威信も何も関係がなくなるほどに、圧倒的な異変を導こう。 それこそが彼が、彼らが選んだ道だった。 覚悟と殺意を秘めた凶刃、凶弾がここにある。 世界を裏返す時の為に。邪魔するものは一切合財排除する為に。 彼らの心にあるのはただ一つ。 ――体制死すべし。 ●ブリーフィング 「さて、皆さん。今回は腹を括らないといけません」 アークのブリーフィングルーム。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)はいつも通りの胡散臭い笑みを浮かべていた。 だが、その表情とは裏腹に室内には緊張感が満ちている。 アシュレイからの連絡があって間も無く万華鏡の強化が完了した。 それに伴い、彼らの目的――『閉じない大穴』の作成、という行為を執り行う場所が発覚したのだ。 神奈川県横浜市に存在する三ツ池公園。そこで儀式が行われるわけだが…… 「当然ですが、ジャックの側も厚い防衛網を展開しているのが発覚してるわけですよ。 さすがに先手必勝、ってわけにはいかないですよね? そりゃ相手は布陣してるんですから」 四郎の言うとおり、以前のシンヤの配下のように油断している場所に攻め入るわけではない。 当然ながら相手も全力の防衛をしてくるのだ。手元にある最強の戦力を投入して。 「というわけで皆さんには手分けして頂いて突破を仕掛けてもらおうと思ってるわけですよ。 私から皆さんに提供する作戦領域はこちらです」 そう言って馳辺がリベリスタへと差し出した資料には目的ルートの地図と、情報。そして一枚の写真。なのだが―― 「……なんだこれは」 場にいたリベリスタの一人が思わず呟いた。 その写真に写っていたのは一台の鉄の塊。 それは日常では見慣れない、だが誰もが一度は見たことがある形状の―― 「はい、戦車です。しかもアシュレイの手によってエリューション化したもののようですよ?」 ゴーレム戦車。それが道を塞ぐように鎮座しているのだ。 「この相手は『砂漠の狼』と呼ばれる男です。中東に置いて独裁国家に所属、多数の敵兵を殺害し恐れられた人物ですね。 今は国際テロリストとして指名手配されている身です」 その男が今、こうしてリベリスタの前に立ち塞がるのだ。 「観測された戦力は『砂漠の狼』と部下二名。それにこのゴーレム戦車一台。 相手は言わば、殺しを生業にしてきた相手です。今回の戦場に置いても一切の容赦はないでしょう」 さらりという四郎。だが、はっきりと危険を明示しているとも言える。 それほどに油断ならない相手なのだ、この相手は。 「目的は撃破及び突破です。彼らを撃退すればその後の戦いは楽になるでしょう。 一人でも多くの戦力をジャックの下へと向かわせ、彼を撃破する。それが第一目的なのですよ。 現場での判断は皆さんにお任せしますが、無事をお祈りしますよ? ええ、世界の為にもね」 四郎の口から飛び出す平和と言う言葉。飄々としており到底善人に見えない彼ではあるが、その思いは本心である。 彼の思い、そして戦いの命運はリベリスタへと託される。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月19日(月)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●我、敵ニ遭遇セリ 赤い月が昇る。 今宵は特別な夜。世界に穴が開き、新たな時代を迎える時。 今この夜はバロックナイト。歪夜の元に踊れ、戦士達。 ――爆音が響く。 横浜市、三ツ池公園。普段は市民の憩いの場であるその場所。 赤い光に照らされたその場所は、平和とはほど遠い光景となっていた。 「面白いじゃねぇッスか!」 『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)が不敵な笑いを浮かべ、駆ける。 彼女だけではない。その場にいるのは七人のリベリスタ達。 彼らが目指すのは視線の先にある一台の鉄の塊。 それは戦車だった。凡そ平和なこの国において、見る機会は映像や駐屯地といった特別な環境に限るそれ。 だが、現在塞いでいるの遊歩道である。到底このような場所にあるはずのものではないのだ。 「ひいぃ、なんだよあれ! 冗談じゃないっての!」 『原初の混沌』結城 竜一(BNE000210)は半ばパニックを起こしたかのように歩道のあちらへこちらへと走り回る。だがそれも作戦。民間人であるかのように振る舞い、相手の注意や油断を誘う企みである。 駆け抜けるリベリスタ達の周囲に爆発が起こる。長距離からの砲撃、それは現在の距離ではさしたる損害はない。ただ、その爆音と爆風にて威圧を与えるのみ。 「戦闘じゃなくて戦争って感じだね。それじゃ段取り通りいこう!」 『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)の号令と共に全員が散開する。同時に嵐子が発煙筒の口火を切り、全力で放り投げた。 白煙が上がり戦車からの視界が不明瞭となる。それに合わせリベリスタ達はそれぞれの行動をとり始めた。 戦車へと駆け抜ける者、周囲に目配せを送る者、大きく迂回して駆け抜ける者。 散開することには意味がある。それは警戒した結果。この場にいることがわかっており、姿が見えない者を。 「……見えたで御座る!」 「ええ……そこに」 『無影絶刃』黒部 幸成(BNE002032)と『優しい屍食鬼』マリアム・アリー・ウルジュワーン(BNE000735)が同時にある一点を指し、マリアムがそのまま突撃する。 手にした『狂恋ラブリュス』が唸りを上げ振り下ろされ……何もない空間に火花が散った。 「ほう……看破したか。さらに俺がいることも知っていたようだ。予言の力という奴か?」 影より滲み出すように男が現れた。その人物こそが今回の障害、『砂漠の狼』の異名を持つファッターフ少佐である。 「中東の戦いにおいて革醒して後、手応えのある相手に会う機会は少ない。お前達は俺に牙を突きたてられるか?」 ニヤリと凶暴な笑みを浮かべる少佐。相対するマリアムはそれとは対照的に、悲しげに。 「私は出来得るならば戦いなんてしたくない、それが私の女としての本音」 金属と金属、斧と湾曲刀がギチギリと音を立てる。金属の牙と牙、相手を抉る凶器が鬩ぎ合う。 「でもね、私は女である前の淑女だもの。相手の希望を汲み取ってあげるのも淑女の務めだわ」 マリアムは見た目にそぐわぬそれなりの人生を積み重ねてきている。その中で様々な男達の生き様を見てきたのかもしれない。だからこそ、望まぬ戦いをまたやらねばならぬ時もある。そう思うのだろう。 「素晴らしいな、いい女だ。いい年をして惚れてしまいそうだ!」 少佐が力を込め、腕力で一気に押し返す。 マリアムとて並の腕力ではない。革醒したことにより常人の範囲を遥かに超える力を手にしているのだ。それと鉄の塊である大斧を合わせた圧力を、彼は片腕一本で押し返して見せたのである。 そこをフォローするように、他のリベリスタも一気に少佐へと押し寄せる。 「全力で、ぶん殴る!」 「ここで止める、必ずだ!」 イーシェが、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が、次々に接敵する。リベリスタ達の狙いは個別撃破。発見した相手を集中攻撃し、一人づつ確実に削る作戦。 大きく迂回し、林の側を警戒しながら駆け抜けていた『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)も発見した少佐へと向かう。 ――その時である。軽く足がもつれ、がくんと上体が傾く。その頭上を鋭い風が吹き抜けた。 「――――!?」 「――運がいい」 それは鉄の塊が頭上を通過した大気の乱れ。森に潜伏していた男。発達した筋肉を持つ巨漢、アナス軍曹の振り抜いたスコップの一撃であった。 リベリスタ達は全力で警戒を行っていた。だがその警戒を抜けるにはそれ相応の理由がある。 どれほど相手の神秘的隠蔽を看破する能力を持っていようともそれは視覚に依存するもの。ならば、彼が遮蔽を取り息を潜めて潜伏していたならば? 長くの間、隠れ続けていたならば? 尤もその致命のその一撃は幸運にもエナーシアを傷つけることはなかった。幸運を引き寄せるもまた、リベリスタの力の一つだ。 「背後からとは紳士的じゃないわね」 「――育ちが悪いからな」 即座に向き直り、手にしたショットガンを向けトリガーを引く。その銃弾をスコップで受け止め、逸らす軍曹。 結果的に一人、エナーシアは分断される形となる。 一対一。正面からぶつかり合う形となった両者は必然的に厳しい戦いとなり得る。 一方、幸成は二つの交戦を避けるように真っ直ぐ戦車へと向かう。 彼はこの鉄の怪物を止めることが狙いである。他の全てを無視し、ただひたすら走る、奔る。 戦車の銃座が銃弾をばら撒く。機械音を響かせ、戦場全てに貫穴を開けようと唸りを上げて。 銃弾を避け、掠め、時に忍甲で受け止めつつ突き進む幸成。その姿へと戦車は主砲を向けた。 正面から向けられた主砲が装填音を立て、打ち出そうとした時――戦車の駆動が止まった。 その車体表面には多数の呪印が浮かび上がり、戦車の行動を束縛している。強引にその呪縛を振りほどこうとする駆動がギシギシと音を立てるが、動くことは叶わない。 「奇襲とはこのようにするものだ。都市のゲリラ戦法、見せてやるとしよう」 戦車の近く、死角となる場所にその男はいた。『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は地中を抜けることにより、相手の注意を逸らし動きを拘束することに成功する。 「まずは挨拶代わりだ――!」 瞬間。収束された思念の濁流が戦車を襲い、凄まじい衝撃が戦場に吹き抜けた。 ●交戦未だ収まらず 「くっ……!」 エナーシアが歯噛みし、軍曹の振り回すスコップをかわし、受け止め逸らす。 スコップは日用品である。穴を掘る用途が主であるそれは日常においてなんら脅威を及ぼしはしない。 だが、存外これは殺傷力を発揮するのである。 突けば槍、振るえば鈍器、受け逸らせば盾となる万能工具。軍隊格闘においても使用法が明示されている、戦場においては立派な凶器なのだ。 「やらせはしないさ!」 防戦となるエナーシアをフォローするように竜一が飛び込み、手にした『雷切』と自らが呼ぶ刀を一閃する。 軍曹はそれをスコップで受け止めるが、そこに逆手の長剣が襲い掛かる。右に左に、次々と振り回される刃は軍曹をなかなか正確に捉えはしないが、そこへエナーシアの射撃が入る。 「――やはりな、この場に民間人がいるわけがない」 「あら、バレてた? まあ……最後まで騙せるとは思ってないけどな」 フォロー役として待機していた竜一のおかげで、辛うじて孤立だけは防げた戦況。だが、結果的に分散気味の戦場となっていることは否めない。 「もう一発!」 戦車戦。思念の爆発がさらに戦車へと叩きつけられる。 金属が軋み、一瞬衝撃で浮かび上がりはするがその車体が転倒することはない。 じりじりと衝撃で押される鉄塊。だがそれは横転させるには余りにも、重い。 「ちっ、面倒な!」 動きを拘束され、オーウェンによる妨害の数々を行われた戦車に見切りをつけたかハッチが叩きつけられるような金属音を立てて、跳ね上がる。 そこから顔を出した男は神経質そうな顔をした痩身の男、ムバラック曹長である。 曹長は即座に手にしたアサルトライフルを構え、戦場全体へと掃射を始める。例え機銃がなくとも搭乗員たる彼は射撃の達人。火力が劣ろうとも戦場へ与える損害は腕でカバー出来る。 「させんよ!」 オーウェンが戦車に駆け上がり、曹長を蹴りつける。炸裂式の脚甲である『LaplaseRage』が唸りを上げ襲い掛かり、曹長はそれに銃床を叩きつけることで辛うじて逸らした。 「っと、危ねえな!」 そのまま曹長は銃床をオーウェンへと叩きつける。足技と銃を使った格闘戦、それが彼の近接戦闘である。 相手の急所を突くように放たれるオーウェンの脚技。理論から構築された、相手を無力化することに特化された、殺意に満ちた曹長の近接戦。それらが交錯し、戦車上にて無骨な演舞と化す。 その時、突如足場が振動する。 戦車とて自我持つエリューション。ただ黙って拘束されてはいない。 エンジンが唸りをあげ、無限軌道が回転を始めた時。その車体が鋼線にて縛り、締め上げられる。 「そう自由にはさせんで御座るよ!」 行動させぬようギリギリと締め上げる幸成。凄まじい質量を持ち、暴れまわろうとする戦車をその技を以て拘束し続けるのは、まさに成熟された忍びの極意と言えよう。 一方車両の上ではオーウェンと曹長の一騎打ちが過熱していく。 戦車内に飛び込み内部から破壊を行おうとするオーウェンと、それを阻止しようとする曹長。押し合い殴り合い、一進一退の攻防が継続される。 「ウゼェんだよ!」 鈍器の如く振り回されたアサルトライフルがオーウェンを強かに車上へと叩き付け、そこに銃口が突き付けられる。 「そうは……いかん!」 トリガーが引かれようとした時、車上に衝撃が吹き荒れる。その一撃は曹長を弾き飛ばし、同様に車上へ叩きつけた。 「ぐっ……!」 衝撃の範囲は広く、戦車に接近する誰もが無事ではいられない。だが、最悪ではない。決定打となる時は未だ訪れず。 「少佐、悪いけれど後回しにさせて貰うッスよ!」 白兵戦の最中。イーシェが叫び少佐の横を駆け抜けた。 同様にリベリスタ達は少佐の脇を抜け、軍曹へと向かっていく。 ターゲットの優先順位、それにおいて少佐の優先度は後回しである。 「ほう、俺を無視するか!」 「いいや、俺がいる!」 追撃するファッターフの前に立ち塞がったのは優希である。 低く腰を落とし、拳を構える優希に満ちるは覚悟。ここで食い止めるという決意。 「若さだな、だが嫌いではない。この俺を止められるか?」 「俺にも……誰にも譲れん信念がある。そちらにもあろうが、されとて貴様如きに潰されはせん!」 襲い掛かる少佐。優希は正面から相手を迎え撃つ。 流れるように振るわれる曲刀が優希の得物を掠め火花を散らし、重い山刀が優希の肉を抉る。 されど優希の瞳はファッターフを睨み続ける。決して屈しはしないと。 「体制死すべし!」 「戦場の狼たちにも安息を!」 軍曹の怒号が響き、エナーシアが買い言葉とばかりに返す。 竜一がフロントを押さえ、エナーシアが次々と散弾を叩き込む。膠着した戦況は続いたが、戦況は一気に傾くことになる。 「御免なさいね。貴方達をゆっくりと解ってあげたかったけれど」 マリアムが飛び込んで来て、重みのある一撃を叩き込む。咄嗟に軍曹はスコップで受け止めるが、ぎしりと軋み、動きが止まる。 「全撃必殺!」 動きが止まった所をイーシェが振るう、全体重が乗った一撃が貫いた。 「ぐっ……!」 スコップを振り回す軍曹。リベリスタはそれを嫌うように即座に間合いを離し、即座に壁となる前衛が再度張り付く。 少佐の追撃を振り切り、軍曹へと攻撃を集める。個別撃破の戦術がここに成立する。 「こっちも神秘側のプロだからね。負けてられないよ」 嵐子の愛銃『Tempest』が轟音を響かせ、軍曹に鉛玉が叩きつけられる。 鮮血を吐きながらもスコップを振るい、暴れまわる軍曹。突き、叩きつけ、薙ぎ払う。 凄まじい暴威ではあるが、やがてそれにも限界が訪れる。 「体制に、死を……!」 眼前のイーシェを蹴り倒し、叩き伏せ。その喉へとスコップを突き込もうとした時――背後からの一撃が、軍曹を襲った。 マリアムが振り下ろした刃が深く食い込み、揺らめかせる。その一瞬をイーシェは逃さない。 「――アタシすら倒しきれずに、なにが体制打破ッスか」 その刃は。騎士の誉れ『Knight's of honor』は一点のずれもなくアナスの心臓を貫き。――彼は、絶命する。 ●忍び難きを忍ぶ 「うおおおっ!」 優希が吠え、拳を繰り出す。 その一撃は少佐を打ち、打撃は守りを抜けて傷を生む。 少佐の二刀から繰り出される攻撃の数々も凄まじい威力を以て、優希の命を削り取る。 何度絶命してもおかしくない怒涛の攻め。だが自らの内気を高め治癒へ回し、運命の手助けも借りて優希はその場を支え続ける。 「お前は十二分に頑張った。だが、そろそろ終わりだ」 宣告し、少佐が全力で武器を振るおうとした。 ――その一瞬。 「――一矢は、報いる!」 優希が少佐の足元を払う。不意をついたそれは少佐のバランスを見事に崩した。 「でやあぁぁぁ!」 そのまま相手の体を捉え、渾身の力を込めて地面へと叩き付けた。すかさず拳を振り下ろし―― ――その腕が。転がったままの少佐に絡め取られる。 一瞬の攻防。お互いの天地は逆転し、優希は強かに地面へと打ち付けられる。 「今の一撃は、なかなか良かった」 即座に優希の胸へと蹴りが叩き込まれた。 「がっ――!」 呼吸が止まり、肺の空気が体外へ押し出される。酸素を失った肉体は鉛のように重く機能しない。 動けぬ彼へ少佐は無造作に山刀を振り下ろす。確実に仕留めんと。 「やらせねぇよ!」 間一髪、竜一が飛び込み攻撃を受け止める。曲刀と刀、山刀と長剣。洋の東西を問わぬ多彩な剣が数合交差し、再び血飛沫を撒き散らす。 その数合で十分だった。 「そこまでだよ!」 声と共に、高速で鉄同士がぶつかる激しい金属音が響く。 嵐子による精密射撃がその刀身を捉えたのだ。誇りを纏わぬ無骨な山刀はその一撃に耐え切れず、砕けた。 「――曹長!」 「Sir!」 号令と共に、交戦中の曹長が眼前のオーウェンから銃口を逸らし戦場全体へと掃射を始める。同時に戦車が唸りを上げ拘束を引き千切り、機銃にて戦場を引き裂いた。 武器一本、仲間一人を失おうとも彼らの戦意は衰えず。 「この状況は……皆、退き際で御座るぞ!」 戦車から飛び退きつつ幸成が叫ぶ。 相手の余力もあるとは言えない。だが、それ以上にリベリスタの消耗は激しく、戦闘を継続することは困難であった。 なによりもこれ以上続けることは、幾人かの死を覚悟しなくてはならないと彼は判断したのだ。 この戦いはこの場が全てではない。この後に、本当に阻止しなくてはいけない目的がある。 幸成の声に呼応するようにリベリスタ達は素早く撤退に入る。だが、少佐もそれを黙って見過ごしはしない。 「逃がしはせん――!?」 追撃に一歩踏み出した瞬間。戦場全域に弾幕がばら撒かれた。 それは嵐子による撤退の布石。その名のように、愛銃の名のように。まさに嵐の如き連射にさしもの少佐も足を止め。 防ぎ切った時にはすでにリベリスタ達の姿は遠くへ走り去る所であった。 最後に振り向いたマリアムの視線。それは郷愁であり、哀悼であり。故国に近しい者に対する未練だったのかもしれない。 ●幕間 「――少佐、ご無事で」 「なんとかな。この平和に塗れた国、さぞ退屈だろうと思ったが……」 歩道に残されたのはフィクサード達。決して彼らとて楽に戦っていたわけではない。 「そちらはどうだった?」 「大したモンです。彼の国の正規軍よりよっぽど歯応えがありましたよ」 ムバラックが疲労をアピールするかのように肩を竦め、笑みを浮かべる。 ファッターフが浮かべる表情もまた、笑み。 彼はささやかな満足と共に思い返す、たった今交戦した相手を。 奇策を用いた男がいた。 ただひたすらに真っ直ぐな騎士がいた。 二刀を振るい、渡り合った男がいた。 自らの信念を貫き、牙を突き立てた男がいた。 あの銃撃者達もまた、良い腕だった。味方にいればさぞ戦時において心強いだろう。 東洋の忍者、彼もまたファンタスティックだった。 そしてあの女性は郷愁を感じる女性であった。 故国にも吹く砂の匂い。照り付ける太陽に焼かれたその匂い。 ただ違うとすれば。彼らの砂には死臭が混じり、彼女の砂には温かかった家庭の残滓があった。 今のファッターフに少々焦がれる気持ちがあったとしたら、それはかつてあった故国の平和を感じさせた、彼女の為なのだろう。 「戦車はまだ生きているか?」 「かなりガタガタですが、もう少しなら」 「ならば行くか。軍曹を置いていくのは忍びないが――」 テロリスト達の戦いもまた終わってはいない。 彼の大国を転覆させる為、世界ごと裏返す事を決め参加したこの戦い。それはまだ終わってはいない。 無限軌道が路面を捲り上げ、戦車が去る。 後に残されたのは荒れ果てた憩いの空間。戦火の爪痕を残す公園と、たった一人の戦士の亡骸。 赤い月は照らす、その空間を。思想は未だ潰えず、戦いは続く。 ――この戦いもまた渦中の一幕。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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