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<強襲バロック>アサルト・ヴァンパイア

●賢者の石の魔物
 リベリスタたちが敗れた前回の戦いより後、ジ・オルドは一人彼の研究室に閉じこもっていた。
 海の中を地道に探しまわることで手に入れた賢者の石。これをジ・オルドはシンヤやジャックに渡してはおらず、こうして研究室で一人勝手に使っているのである。そのだるそうな顔には、忠誠といったものはない。或いは、最初からなかったのかもしれない。
「まあ、楽しかったよシンヤ君」
 さて、彼が賢者の石を使って何をしようとしているのかと言えば、賢者の石を使ったモンスターの精製だ。彼が持ち込んだアーティファクトと賢者の石を一人のフィクサードの体に埋め込み、融合させることで強大な力を持ったモンスターを作り出そうとしているのだ。
 埋めこまれたアーティファクトの名は、シザース・キャンサー。黄道十二星座の一つ、蟹座の力を持った秘宝とも言われるアーティファクトである。アーティファクトコレクターであるジ・オルドのコレクションでも一番の代物だ。
 そして、埋めこまれているフィクサードは……彼を慕って欧州からやって来たヴァンパイアの若者だ。これをジ・オルドは惜しげも無く、材料として使ったのである。
「あが、あがががが!!」
 若者は強大すぎるパワーを前に、理性を崩壊させ、狂気の瞳を宿し、体を変質させた。その姿はエリューションやアザーバイドにも似た巨大な人蟹のバケモノである。
「おお、お見事お見事。これでキミは立派なモンスターだよ」
 ケラケラと笑いながら、ジ・オルドはその成果に満足そうに笑う。ジ・オルドにとっても賢者の石のパワーは未知数。だから“試しに”人の中に入れてみたが、この結果はジ・オルドにとって上々らしい。

 そして、星座と賢者の石によって作られたバケモノを連れてジ・オルドは動き出した。ジャックが儀式を開始するというので、それを守るためにジ・オルドも召集されたのである。
「リベリスタ……だったかな。彼らは絶対に来る。だったら、その時がチャンスってわけ」
 誰に言い聞かせるまでもなく、自分に対して呟きながらジ・オルドは肩を笑わせていた。
 決戦とも言える重要な戦場の中で、自分の目的のために動く。それはジャックやシンヤに対する裏切り行為。即ち、バロックナイツに逆らうという愚かしいこと、普通の神経では考えられぬこと。
 ……賢者の石を勝手に使っているという時点で、裏切り者ということは間違いなく。もしバレてしまったらジ・オルドはすぐさま粛清されるだろう。このバケモノを連れていけば、賢者の石を使っていることはすぐにでもバレるはずだ。
 それでも、ジ・オルドは震えていた。無論、恐れではない。歓喜だ。
「ああ、ゾクゾクするねぇ。面白そうなゲームになりそうだ」
 自分の命をチップに、ジ・オルドは一つのゲームを持ち込む。そのゲームの目的は分からぬが、個人的な目的であることは間違いない。
 そのために、ジ・オルドは無茶を承知してシンヤとリベリスタの両方と本気で戦うだろう。アークにとっても人事ではない。
「オ、オオオ……」
「ふふふ。そろそろ、僕も本気で行かなきゃね。……本当のヴァンパイアってやつを、見せてやろうか」
 くたびれたスーツを正しながら、ジ・オルドはマスケットライフルを手に三ツ池公園へと向かった。

●ジ・オルド強襲!
 舞台となる三ツ池公園の地図を広げつつ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は今回の作戦に至る経緯を説明し始めていた。
「塔の魔女アシュレイの情報と、賢者の石の一部を組み込んだカレイドシステムによって、この場所でジャックが儀式を始めることが判明した。神奈川県横浜市にある三ツ池公園だね」
 細かい住所も念のためにリベリスタたちに教える真白イヴ。これに加えて、手元にある分厚い資料。まだ説明がありそうな真白イヴの顔を見る限り、リベリスタたちは多くの話を聞かなければならないようだ。
「カレイドシステムによれば儀式によって“特異点”が公園に生まれ、大きな穴と赤い満月――バロックナイトが観測されるみたい」
 その禍々しい光景はリベリスタたちでも中々想像することができない。それでも、何かまずいことが起きるということは明らかであった。
 最近の崩壊の加速はこの特異点の前兆だったらしいと、真白イヴは付け加える。ならば、より見逃すわけにはいかない。
「三ツ池公園には既にジャック側の戦力が十分に整っている。今まで戦ってきたフィクサードに、ジャックへ力を貸すフィクサードたち。そんなフィクサードに協力しているエリューションもいる。だけど、あなたたちはこの敵を突破してジャックの儀式を止めなければならない」
 ジャックを止めることも、崩壊をさせないこともリベリスタたちの使命だ。これに異論する者はいなかった。
「フィクサードの戦力は非常に高い。正面の防御はとてもじゃないけど突破できない。だから、蝮原率いる部隊とセバスチャンたちアークの一部が南門からの陽動に動く予定。私たちは西門と北門から潜入することになったよ」
 大規模な作戦になる。動員されるリベリスタもかなりの人数になるだろう。しかも、その一人一人の働きが期待されている。
「今回この部隊には西門から侵入してもらって、ルートを確保してもらう。そこには、前にも戦ったことがあるジ・オルドが蟹のような巨大な怪物と一緒にシンヤ派を強襲している。ジ・オルドの目的は分からないけど、フィクサードを好きにさせるわけにはいかない。それに、戦前を突破する以上戦闘は避けられないね」
 この蟹のような怪物は、元はフィクサードであるがアーティファクトと賢者の石を使って怪物化させられたものらしい。強大なパワーを持つこの怪物は理性をなくし、ジ・オルドの命令のままに暴れまわるだけの存在だとか。
「アシュレイの情報によれば、賢者の石を十分に確保できなかったジャックは弱体化する。このチャンスは逃せないね」
 しかし、そのアシュレイにも思惑があるようで、儀式が制御者を失っても成立するまではアークの味方をする心算は無いらしい。
「当然、シンヤとジャックを裏切ったジ・オルドも何かを企んでいる。逃がしたらダメだよ」
 そして、今回戦うことになるジ・オルドにも独自の思惑があるようだ。
 躊躇なく人をバケモノに変えてしまうような危険な人物……ジ・オルドを放っておくわけにはいかない。リベリスタたちはようやく本性を見せ始めたこのヴァンパイア相手を相手にするのだ。
 願わくは、ここで決着をつけよう。
 リベリスタの誰かが、そう言った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:nozoki  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月18日(日)23:31
 さて、決戦シナリオですね。ジ・オルドとの戦いもこれが決戦となるかもしれません。
 また、全体シナリオの結果が決戦に影響を及ぼす可能性があります。ご注意ください。

●成功条件
 戦力が遭遇戦に勝利して突破する。

●舞台
 全体的な舞台は三ツ池公園です。住人の避難は終わっており、封鎖の態勢は整っています。
 今回、ジ・オルドと遭遇戦を行う場所は三ツ池公園内の遊びの森です。西側にある小さな広場とローラー滑り台が特徴的ですが、基本的には戦闘に支障がない広い場所だと考えてもらっていいでしょう。
 時刻は夜ですが、儀式の影響で赤い月が浮かんでおり、異様な雰囲気があります。

●ジ・オルド
 欧州のアーティファクトコレクターであるヴァンパイアです。飄々とした人物で、くたびれたスーツに身を包んでいます。
 高レベルのスターサジタリーであり、“テレスコピウム・ライフル”という命中率の高いマスケットライフルのアーティファクトとプロトストライカー、それに光弾を素早く連射し遠距離範囲神秘攻撃を行うスキル、高度な精密射撃による遠距離物理攻撃スキルを使います。
 また、ジ・オルドは特にDA値が高く、連続攻撃を得意としています。これまでの戦闘から収集したデータによれば、回避能力も高いようです。
 いつもは撤退していた彼ですが、目的のためにシンヤ・ジャック側のフィクサードを強襲しています。賢者の石を勝手に使っていたことがバレた彼は、ジャック側からも既に裏切り者として認識されているのです。
 彼にとっても、ここは命を掛けた現場のため今回は撤退をせず本気で戦います。リベリスタたちを打ち倒した後に、自分の目的を達成するつもりなのです。

●蟹の怪物
 元はデュランダルのフィクサードでしたが、ジ・オルドの悪魔的研究によって賢者の石と“シザース・キャンサー”というアーティファクトを体に埋め込まれ、怪物のようになった哀れな者です。
 どちらのアーティファクトも単体では便利な物ですが、合わせることによって巨大すぎるパワーが発生しこのような事態を引き起こすようです。
 全体的に能力が高く、特に防御能力が非常に高いです。また、元となったシザース・キャンサーというハサミと蟹座のアーティファクトの力を持った4本の腕を振り回して近接物理範囲攻撃を仕掛けてきます。
 このシザース・キャンサーの力は“物理防御力と神秘防御力の低い方で防御判定をさせる”という能力があります。気を付けてください。
 巨体ではありますが、非常に俊敏のため後衛であっても攻撃される可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
デュランダル
★MVP
東雲 未明(BNE000340)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
デュランダル
歪崎 行方(BNE001422)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
ナイトクリーク
クリス・ハーシェル(BNE001882)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)

●因縁
 リベリスタたちが遭遇したその男は、いつものような飄々とした雰囲気を持ちながらもどこか覚悟を決めた目をしており、後退はないことが直感的に分かった。
 その男が連れていた蟹のバケモノも、既に周辺に配置されていたシンヤ側のフィクサードを打ち倒しており、リベリスタたちはその男とバケモノを同時に相手にせざるを得ないことを確信する。同時に、強敵であるということも確信できた。
「やあやあやあ、また会ったね。ここは見逃してくれないかなぁ?」
 目の前の男。ジ・オルドはそう言うが、リベリスタたちにとって彼を放置する道理はない。
「ジ・オルドめ。ここで必ず、貴様を倒す」
 問いに対して、燃やした拳を掲げることで答えたのは『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)だ。ジ・オルドと何度も戦い、因縁めいたものを感じていている優希の心は、彼の赤い髪のように真っ赤に燃えている。この男を叩きのめせと。
「思ったより、早い再開でしたね。貴方からすれば、一方的な因縁付なのでしょうが……。この辺りでそれもお終いとしましょう」
 同じく、因縁めいたものを感じている『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)の目は蛇のように鋭く、今は柔和な表情を見せる顔も戦闘となれば苛烈なものに変わるだろう。一発触発とはこのことである。
「いつも、何処まで本気なのかは分からない奴だった。命をチップにゲームふっかけててもそうなら、いつも本気だったのかな」
 そんなジ・オルドとの戦いを思い出しながら、『薄明』東雲 未明(BNE000340)はふと呟く。目の前にいる、命を賭けた戦いの最中でも飄々としているこの男がどんな気持ちなのかは分からないけれど、何度も戦ってきたから少しは感じることができる。それが因縁というものだ。
「やれやれ、交渉は決裂ってやつか……。ま、キミたちならそう言うと思っていたけどね」
 ふふふ、とジ・オルドも薄く笑う。
 因縁、というやつは厄介なもので、相手も自分のことを知っていることが多い。ひょっとしたら、それは恋人や友人よりも濃い関係になっているからだ。
「分かっていたよ。キミたちが僕とジャックのフィクサードを戦わせようとしたのは。……だけど残念。もう彼が始末したよ」
「ヴァァァァァァッ!!」
 沈黙を保っていた蟹の化け物が、すでに冷たく動かなくなったフィクサードたちの体を投げ捨てる。その数はゆうに30を超えている。
 もしもまだ戦っていたら、という希望的な前提であったが、シンヤ派のフィクサードと戦い合わせる作戦は失敗ということなのだろう。
「勝手に連中で同士討ちしてくれるだけなら、放っておいても全く構わないんだがな……やっている事を見る限りはそうもいかんか」
 それまで吸っていた煙草を灰皿に投げ込みながら、寝癖の強い髪を押えて『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)はマジな顔を作る。サングラス越しの瞳は、警戒を怠っていない。ジ・オルドの方もそういう表情をしていた。
「ジ・オルド。何をたくらんでいるのやら。以前は世界征服だとか言っていたな。ジャック側の戦力を削ってくれるのはありがたいが、生かしておけば必ず良くない事になるだろう」
 そんなジ・オルドの表情を見つめながら、『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)は首を傾げている。そんなクリスの揺れるアホ毛が、まだ嵐の前の静けさであることを象徴しているかのようだった。
「そういうこと。それじゃあ、始めようかな」
 しかし、静けさと問答はここで終わり。後は戦いの中で語り合うしかないのだ。
 敵と味方。それに因縁。
 ジ・オルドの狙いは分からなくても、これだけで戦う理由はある。
「今度こそ、今度こそ! 貴様を叩く!」
 優希の目が燃え上がり、腕は震えて戦いを今かと待ち望む。
「ジ・オルド。お前に恨みは無いが、ここで死んで貰うぞ」
 クリスの鋭い刃のような眼が、ジ・オルドに突き刺さる。
 戦いの準備は整った。
「さて、あの時受けた借りを返しに行くとしましょうか」
 さあ、戦いだ。

●大和の想い
 ジ・オルド。これまで多くの戦いを重ねてきました。
 何度戦っても、飄々とした顔を変えない強敵。一度は私たちが敗れもした相手。本人も自称する、本格的なヴァンパイア。
 ですが、あなたは私の獲物となりました。ここからは、蛇のように絡みつきましょう。蛇のように噛みつきましょう。
 あなたも何か古きモノを持っているようですが、蛇神を司る一族は伊達ではないことを教えましょうか。
「そういえば。あなたはこれをゲームと言いましたね。これもゲームだと言うのなら、ルールやクリア条件があるのでしょう?」
 一つ、ルール説明をしてもらえませんか。
「僕が勝てば、僕は自分の目的の為に好き勝手する。君たちが勝てば、僕はゲームオーバー」
 ジ・オルドはそう答えた。分っていた答えでしたが、ひとつ分ったことがあります。それで私には十分。
「以前、私達に利用価値を見出している、と言いましたね。それは、この状況のことを指していたのですか」
「うん。君たちは僕にとって必要だったのさ」
 先にも理解しましたが。今確信しました。あなたが倒すべき相手だということが。
 そう思いながら、私の手は自然に止水の柄に行き、ゆっくりと鞘から抜いていました。
 磨きあげられた刃が、私の顔を写す。
 ……ああ、私は今苛烈なのですね。
 この鱗、この顔を見れば、分りますよ――私。

●蟹と吸血鬼
 最初に放たれたのは、ジ・オルドからの一撃であった。
 空に掲げられたアーティファクトのマスケットライフルから放たれた光の弾丸は扇状に広がって、広がった弾丸は流星のように降り注ぎ一気にリベリスタたちの体を貫いたのである。
 その一撃はかなりの威力を持ち、一撃ではリベリスタは倒されなかったものの、リベリスタたちの間に強い緊張感を与えた。
 それでも、リベリスタたちは攻める。
 アンタレスという名を持つハルバードの矛が煌めいて、飛ばされた疾風居合い切りの刃はジ・オルドの鼻を掠める。
「ぶっ潰すよー」
 そんなアンタレスを振り回しているのは、アンタレスのデザインとはかけ離れた外見を持つ『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)だ。
「おおっと、危ないねぇ。……面白いアーティファクトだ」
 アーティファクトコレクターであるジ・オルドはアンタレスに興味を示しながらも、うまく距離を取って振り回され続ける攻撃を紙一重で体を反らし、曲芸のように避けていく。
「アンタレスはボクの存在意義。絶対に、渡さないよー!」
 しかし、アンタレスのためだけに鍛え上げられた岬の一撃は、避け続けようとするジ・オルドの体に届く。
 刃はジ・オルドの体を傷付けて、血を流す。
「やれやれ」
 それでもジ・オルドは不敵に笑い、戦いはまだまだ序盤だということを示していた。
「ジ・オルド。蒐集家の伝統的ヴァンパイア。良いデショウ、その心意気。自らの為に生き、自由に血を流す」
 そんなジ・オルドの前までダッシュをし、虚ろな瞳で喋り続けながら『飛常識』歪崎 行方(BNE001422)は集中している。
「ああ、されど悲劇。ここは都市伝説の領域デス。滅びよ吸血鬼。夜はアナタの物じゃない」
 このお喋りも行方なりの集中方法なのだろう。しかし、銃を構えたジ・オルドの目の前でするそれはとても常識的とは言い難い光景ではある。
「詩人だねぇ」
 ジ・オルドもそれにはにっこりと笑いながら、マスケットライフルを突きつけて一発。二発。三発。連続で至近距離の銃弾を浴びせ、行方の体に地を飛び散らせる。
「アハハハハ! ヴァンパイア、裏切りは悪の華、利己は蒐集家の華デスネ! よりにもよって歪夜の使徒を裏切るその覚悟、見事デス!」
 自らの血で赤く染まりながらも、行方はお喋りを止めない。フェイトの力を借りて立ち上がっているのだ。狂気と血に彩られているのは、ジ・オルドも行方も変わらないのだ。
「本当の吸血鬼を見せてやる、なんて言っていたけれど。私にとって“本当の吸血鬼”は、軽薄に笑う愛しいあの子だけよ」
 恋人の姿を心に抱きながらも、そんなジ・オルドの目の前にただ突撃していくのは『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)だ。スレンダーな体から振り回される捨て身的なギガクラッシュは、連続でジ・オルドの体を掠めていく。
「……惜しい」
「危ない危ない。……一つだけ教えてあげようか? キミの想い人はもう……」
「……!?」
 ジ・オルドの言葉に、思わず武器を握る手が震えて力強くなる。振り回される攻撃も乱雑になり、ジ・オルドに当たらない。
「なんてね。嘘」
「……お前!」
 その表情の変化を見て、吸血鬼は笑う。本当に、愉快そうに。
「アハハハハ!! 愉快愉快!!」
「アハハハハ! こちらのセリフデスよ、それは」
 横から放たれた行方のハードブレイクをまともに受けながらも、吸血鬼は本当に愉快そうに笑っていた。

●岬の想い
 こいつ、アンタレスを狙っているのかー。アーティファクトコレクターだかなんだか分らないけど、このアンタレスは大切な人から貰ったボクのモノ! アンタレスのお陰でボクはリベリスタになって、馬鹿兄ィの居る世界を守れるんだもん。
 それに、やっとアンタレスが手に馴染んだ処なのに、人に渡すなんて絶対できないもんねー。
 この人、たしか世界征服とか行ってた人だよねー、唯でさえ大変なときなんだからマッドな趣味人はお話の中だけにしてほしんだよー。
 だから、このアンタレスの力でジ・オルドも蟹もぶっ飛ばすよー!
 いくよ、アンタレス。ボクに力を貸してね。

●こじりの想い
 驚いた。
 奴があの子のことを言うから、それも不穏なことを言って私を動揺させようなんてしたから。
 でも、私は大丈夫。あの子の想いはこの胸にあるし、信じているから。
 ……嘘。
 本当は怖い。あの子が、どこかに行ってしまうことが。私の傍から離れて行ってしまうことが。
 だから、お願い。私を不安にさせないで。
 物語には終わりが来る。まるで御伽噺の怪奇譚の様ね。
 だけど、あの子と私の物語はこれから。赤い月と、吸血鬼に誓って、私は戦いましょう。
「なら、今夜私は鬼を狩るクルースニクとなりましょう」
 もちろん、誓う吸血鬼はあの子のこと。
 力を貸して。

●行方の想い
 アハハハハ!! なんとも愉快な方デショウカ、聞いていた話よりもずっと愉快愉快デス。
 いくら攻撃を与えても、いくら言葉を投げかけても、笑い続けている。マルデ都市伝説のような存在デスネ!
 なんて、思っていまセンよ?
 だって、都市伝説は私の領分デスから。
 ジ・オルド――THE Old。あなたは古いのデス。古風と言えばいいのデショウか? それが持ち味としても、もうちょっと分りやすくして欲しいものデスね。
 さて。
 都市伝説は未だに生まれ続けている新しきモノ。今夜だって、古いヴァンパイアをも切り殺す常識的な都市伝説が生まれるデショウ。
 覚悟デス、古き伝説。
 大丈夫。常識の範囲で細切れにするだけデスヨ?

●終強襲
 自らの力をエンチャントで高め、集中を重ねている『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)はジ・オルドの様子に首をかしげる。元々変わった所はあったが、ここまでテンションが高いとは聞いていない。
「脳内で何度かシミュレーション戦闘してみた! けど、なんだか話に聞いたのと違うなー?」
 そうしながらも、終はナイフと防御用の短剣を構えてジ・オルドへと飛び込んでいく。まるで恐れを持たないかのような、突撃だ。
「楽しいんだよ、僕は」
 ジ・オルドはそれに対応してマスケットライフルを振り回し、その砲身で終の腹を狙う。終を迎撃しようとバットのように使ったのだ。
「それじゃあ……。オレは死んでアンタは生き残る。これって超ハッピーじゃね?」
 その迎撃を終は防御用の短剣で防ぎつつ、身を屈めて回避。そこから、振り上げるようにして至近距離からのソニックエッジ。
 上昇する風の刃がジ・オルドを襲った。

●終のキモチ
 とうとうジャックとの決戦かー……。色々あったけれども、オレも最後まで戦えてよかった。だって、死ぬ前にいろんな命を助けられたから、オレの人生ちょっとは役に立ったじゃん?
 だけど、まだまだ人助け足りない! 今年最大のパーティーに参加するために! 蟹さんと吸血鬼さんをぷちっとしないと!
 だから覚悟しろよな! あんたの目的はちっとも分んないけど、生きている人の為にここでオレが止めてやる! この命の限り!
 死にたがりのピエロの戦い、とくと見よ!

●絶対防衛線
 一方。巨大な蟹の化け物は腕を振り回しながら、リベリスタたちを一斉に薙ぎ払おうと走り始めていた。
「カニ座って俺の星座じゃねえか! 黄道十二の蟹座の力とか、俺にこそ相応しい!」
「賢者の石を連れてくのは止めてくれない? どうしても行くなら置いてってよ。」
 それを未明と一緒にメガクラッシュで吹き飛ばしてから、『原初の混沌』結城 竜一(BNE000210)は眼鏡をくいっと挙げてみる。スタイリッシュ風味だ。
 しかし、蟹はすぐに体勢を立て直すと再び接近し、蟹の抑えに回っていた竜一と鉅の体を一気に薙ぎ払おうと蟹の腕を振り回す。竜一はこの攻撃から鉅を庇おうとするが、先に攻撃を行ったために庇いきれない。
「全く……! 請け負った役割こなすまで、倒れるわけにはいかねえのさ!」
「やれやれ……厄介事が多過ぎる」
 結果、二人とも蟹の腕に叩きつけられてダメージを受け、フェイトを使った復活を余儀なくされる。
「……仕方ない」
「怪物を打倒するのは人間の役目。確実に仕留めに行こう」
 それでも、クリスの天使の歌を受けながら二人は蟹の押えに回る。こいつを通してしまえば、ジ・オルドと戦う仲間たちに被害を与えてしまうからだ。
「私の歌が続く限り、誰一人死なせるものか!」
 二つの激戦を見ながら、クリスは歯をギリギリと噛む。まだ仲間たちは傷を負っている、だからクリスはやるべきことがある。
 この絶対防衛線を突破させないためにやるべきことだ。

●竜一の想い
 ジ・オルドとやらが何を狙っているのか、オレには分らない。だけど、ここで会ったのも何かの縁だ。オレがそれを止めてやるよ。
 原初の混沌。封じられし右手の力よ、まだお前は出番じゃない。
 だが、この激しい戦い。お前の力を借りる時が来るかもしれない。
 しかし、大丈夫だ原初の混沌。オレには力がある。
 我が雷切、そして幾星霜ノ星辰ヲ越エシ輝キヲ以ッシテ原初ノ混沌ヲ内に封ジ留メシ骸布があるからな!
 フフフ。
 ザ・ゾディアックキャンサード! 十二星座の力を借りし破壊の蟹!
 女の子たちがちょっぴり大胆になれる世界の為に、お前を止める!
 ……ウフフフ。今のオレかっこいい。

●鉅の想い
 まったく、やれやれだ。これほどまでに巨大でパワーのある相手だとはな。
 面倒だ。
 そう切って捨て、倒れてしまうのは簡単だが、これはオレの性分だな。仲間たちを放っておけない。
 まったく、やれやれだ。
 深入りはしないつもりだったが、こいつは少しだけオレの中にあるモノを引っ張り出そうとしてくる。
 早くこいつを止めて、煙草と珈琲を嗜みたいものだ。
 だから、巨大な蟹よ。お前は止まれ……オレの中にあるモノが引っ張り出される前にな。

●クリスの想い
 私の歌が、戦場に響き渡っている。私ひとりでは回復も間に合わないから、歌も忙しなく響いていた。
 私の影が疼いている。私の歯がガチガチと震えている。影に奴を切り裂けと命令したい。影を動かして仲間と共に戦いたい。
「だけど……私は!」
 それでも、この歌は私の戦いだ。私は、仲間を信じている。きっとジ・オルドを倒してくれると信じている。
 喉が枯れようとも、私は助けてみせるんだ。
 あの日、私を助けてくれたあの人のように! 弱者を守る戦いのために、私は全力で歌う!
 ジ・オルド。欧州から来た吸血鬼よ。ここがお前の最後だ!

●古きヴァンパイア
 戦いは続いている。リベリスタたちは、その戦いの中で虫の息まで追い詰められていた。
 ジ・オルドの攻撃は強力で正確であるし、なにより素早いから連続で攻撃を受けてしまう者が続出していたのだ。
「まだだ!」
「面倒ね、だから仲間なんて居たら……熱くなってしまうのよ」
 フェイトを使って、優希とこじりは立ち上がる。立ち上がったまま、こじりは自分が庇った仲間を見ていた。一匹狼を目指していた自分を変えた存在である、リベリスタたち。
「もう、独りじゃない、だから私は、変われた。嫌いだった世界を好きになった」
 こじりは独白する。赤い月の浮かぶ空に向かって、この世界にいる仲間たちに向かって。
「だから、この世界は壊させない。誰も、壊させやしない!」
 覚悟を決めて武器を握り、仲間とタイミングを合わせてひたすらにギガクラッシュを振り回す。
「いやぁ、がんばってるねぇ」
 それに対して、ジ・オルドは余裕の表情を崩さないものの、集中して放たれたギガクラッシュが命中し、ダメージを受けていた。
「本物のヴァンパイアに食らいつくとは、予想以上だ」
「本当のヴァンパイア? ボク達はこの赤い月夜を閉じに来たんだ、月に浮かれて踊ってる蝙蝠はご退場願うよー」
 優希から聞いた癖を思い出しながら、集中を重ねた岬の疾風居合い切りを放ちジ・オルドへのダメージを重ねる。
 重ねられたダメージは大きくなり始めており、ジ・オルドの動きも鈍くなってきた。
「……癖を読んできてるってことかぁ」
 が、それでもジ・オルドは余裕の表情を崩さず。アーティファクトのマスケットライフルから正確無比な一撃を放って岬を地面に伏せさせ、フェイトの力を使わせる。
「まだ月が赤いんだから寝てるわけにはいかないだろー」
 更に動き、一撃で大和の体も撃ちぬく。が、大和もフェイトの力で立ち上がる。
「私たちの因縁は、これぐらいでは切れません。……さて、あの時受けた借りを返しに行くとしましょうか」
 立ち上がった大和はそのままジ・オルドの体に接近し、体がぶつかり合いそうな至近距離からの抜刀。ライアークラウンによってジ・オルドを切り裂く。
「何が本当の目的なの?」
「命運尽きたは今この場! さあさあどうするデスカ? 首? 命? アハハハハ!」
 続いて、奇襲をするように背後から放たれた終の幻影剣と行方のハードブレイクを受けた。いくらレベルの高いヴァンパイアといえども、これだけ食らえば……フラフラにもなる。
「フフフ、キミたちは本当に強い。今はまだ勝てない相手もいるかも知れないけれど、僕の見立てでは、これからずっと強くなる」
 呟くジ・オルド。攻撃を受け続けたことで血まみれとなり、夢遊病患者のようにふらつきながらも呟くその姿は異様で、見るものに一種の威圧感を与えた。
「貴様の狙いは何だ? ジャックの血を吸い伝説となることか。格上の化け物の血を食らい、進化を計るか」
 そこに飛び込んだのは、優希である。己の拳に決意を込め、決着を付けようと拳を振り上げた。
「キミたちは僕に勝つ。これも一つの結末」
「どちらにせよ……危険因子はこの場で排除してくれる!」
 銃口から発射された光の弾丸を飛び越え、優希はペンダントを握りしめがらジ・オルドへと向かう。

●優希の想い
 ジ・オルド……! 思えば俺は、この男と何度も戦ってきた。
 最初は見えない獣を引き連れて、大量殺人を企んだ倒すべき相手! 次に会った時は、賢者の石を俺の目の前で奪っていった相手!
 俺は何度も相対し、時間を稼ぐために戦った。だが、今までまともに相手もされなかった。
 だから、この瞬間は俺の待ち望んでいた時! この場で決着をつけてやる!
 日常を締め出し、戦闘に集中しろ……表情から奴に悟られるな。
「一気呵成に撃ち貫く!」
 ジ・オルドが腕を回してマスケットライフルを向けようとする。だが、それは体が想定済みだ。足が自然と動いて、奴の足を振り払った。
「キミたちの心に僕は残った。そのキミたちが世界を支配するほどに強くなれば、僕は世界を征服したと言えるんじゃないかな。世界を征服した者は歴史に残り続ける! その強敵と共に! 僕もそこに入るんだ!」
 そこから、大雪崩。地面に叩きつけたジ・オルドは何か屁理屈を言っているが、俺には関係ない! ここで、奴を仕留める!
「それが、貴様の狙いか! だがこれで決着だ!」
 ……!
 そして、俺の拳がジ・オルドの体を破砕した。あっけないほど簡単に。
 感慨が無いわけではないが、今は思いに耽る時ではない。次の戦闘へ向かおう。

●蟹座強襲
 蟹座の力を受けたバケモノは、鉅が放ったギャロッププレイの麻痺を受けてうまく動くことができず、抑えられていた。
「グギャァァァァァ!!」
 それでもクリスと竜一を庇っていた未明の体を吹き飛ばし、二人にフェイトの力を使わせていたのは大きいだろう。
「……まったく、ゆっくりもしていられないわね」
「それでも!」
 だが、その蟹のバケモノも既にリベリスタたちに取り囲まれていた。ジ・オルドを倒したリベリスタたちが、駆けつけたのだ。
 そうなれば、後は範囲攻撃に気をつけながらの戦いである。囲み、それぞれのスキルを使って蟹の体を軋ませていく。
「私の歌は、終わらない!」
 蟹も反撃をするが、クリスの天使の歌が戦いで傷ついた仲間たちを癒し、蟹の一撃ではリベリスタたちに致命傷を与えられない。
「これまでの借りは返させて貰うぞ」
 更には、鉅のギャロッププレイによって巻き取られた蟹は動きを止めていく。これでは反撃もうまく行かない。
「裏がえれっ、カニ! 起き上がってくんなよ!?」
 そこに、余裕ができた竜一がメガクラッシュを放ってその身をひっくり返してしまう。
 後は、料理されるだけである。
「私、蟹って嫌いなのよね」
「確かに食べづらいデスネ」
 こじりと行方が皮肉げに笑って、メガクラッシュを同時に叩きこむ。お互いの一撃はほんの僅かな時間差で行われたクロス攻撃であり、蟹の腹に強烈なダメージを与えた。
「ひっくりかえしー」
「転んじゃえ!」
 更に岬もメガクラッシュし、終も幻影剣で切り刻む。これはバツの字を描くようにして放たれた連続攻撃であり、いかに堅い装甲を持っている蟹とて、その体力をほとんど削り取られていた。
 ダメージを受け続けた蟹は肩で息をしながら口から泡を出しており、誰の目にも最後が近いことが分かった。
「さあ、オレの出番だ!」
 後はトドメの一撃だ。
「怪物を打倒するのは人間の役目らしいしな」
 最後は竜一が、赤い月をバックに飛び上がってからのメガクラッシュを放って、その身を叩き砕いた。雷のような一閃であり、その一撃は月光のようでもあったという。
「おー、ぶっ壊れたー」
 本体が叩き壊されたことによってバラバラになっていくパーツ、賢者の石、アーティファクト。勝利の証。
「俺たちの勝利だな」
 リベリスタたちは、ここでひとつの決着を付けた。
 勝利を喜ぶ声と、安堵の息が場を支配していく。
 これで、ひとつの終わり。

●未明の想い
 やれやれ、体が重たくて少し動かすのも辛いわ。重傷は確定ね……。
 それでも、私たちは勝ったのよね。結局、最後までよくわからない奴だったけど、なんだかんだで長い付き合いだったわね。この蟹のアーティファクトは迷惑料として貰っておきましょう。
 それにしても、疲れたわね。家に帰ってこたつでゴロゴロしたいわ。
 そうね、猫に餌をあげて着替えて……みかんでも食べながら、クリスマスの予定を考えましょう。
 私は一人じゃないのだから。最後まで孤独だった、ジ・オルドと違って。
 だから――さようなら、古い吸血鬼。
 私たちは、明日へ向かうわ。
 仲間たちと過ごす明日へ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 と、いうことで勝利となりました。お疲れ様でした。
 ジ・オルドは破れ去り、決着となりましたね。
 難敵として設定した相手ですが、リベリスタの皆さんのがんばりもあって、見事撃破となりました。さらばジ・オルド。
 MVPの理由は、仲間を気遣い、堅実な戦いを繰り広げたからです。


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レアドロップ:『シザース・キャンサー』
カテゴリ:アームズ
取得者:東雲 未明(BNE000340)