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<強襲バロック>イレギュラー


 其の夜、三ツ池公園は常ならぬ異様な雰囲気に包まれていた。
 今夜この公園に生まれると言う『特異点』、『賢者の石』による『大規模儀式』、そして集められた多くの『異能者』達。
 刻一刻と迫る其の時に向け、場の空間は揺らぎ、犇めき合う特異条件が生み出す力の余波は世界の壁に穴を開ける。
 謂わばそれも予兆の一つと言えるだろう。
 三ツ池公園の上空に開いた小さな穴。名状し難き世界へと続く、其の穴の向こうから、満ちる力に気付いた其れは、ほんの一滴の自分を穴へと垂らす。
 其の一滴は、向けた意識の欠片であり、或いは餌の存在に反応して流れ出た涎。
 天より降り注いだ其の一滴は、
「……ん、雨?」
 黒服にサングラスをかけた男、後宮シンヤ配下のフィクサードである飯島次郎の首にぽつりと当たった。
 思わず天を仰ぐ次郎。
「おい、次郎。ぼけっとするな。もう儀式は始まってるんだ。何時アークの連中が突っ込んで来るかもわからないんだぞ」
 そんな次郎の肩をどやしたのは、ここに配置された部隊を任されたリーダーであり、後宮派のエリートでもある機械のハートを持つ男、『爆葬炎神』春日京間だ。
 そう、戦いの時は迫っていた。
 複数のフィクサードに、アシュレイより譲り受けたエリューションまでをも擁するこの部隊の戦力は大きいが、其れでも尚アークのリベリスタ達は油断ならざる相手である。
 ほんの僅かな気の緩みが、この戦域の勝敗を、或いはこの戦い全体を揺るがすダムの穴と成りかねないとは誰にも言えない。
「はは、すいません。雨でも降って来たのかと思いまし……っ!?」
 照れた様に頭をかく次郎が、不意に我が身を襲う激痛に悶えて崩れた。
「おい、次郎! どうした! しっかりしろ! 次郎! 返事をしろ!」
 ボコボコと波打つ自らの体を抱き締め、苦痛に地面を転がる次郎に京間が必死に呼び掛ける……だが、其れは些か危機感に掛ける判断だったと言えよう。
 突然の異常事態に京間が取った行動は、距離を開けるでも、異常ごと次郎を処理するでもなく、仲間の心配。
 人としては正しくとも、異常への、神秘への対処としては甘い。

 次の瞬間、次郎の体が爆ぜて膨れた。広がる血の色をした肉塊は、京間を、配下のフィクサードを、更にはエリューションまでをも飲み込み、この世界に顕現した。


「さて、諸君。決戦だ」
 ギィと車椅子の車輪を軋ませ、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が告げる。
 ブリーフィングルームのモニターに写るのは、 神奈川県横浜市にある県立三ツ池公園の見取り図だ。
「諸君等も既に把握しているとは思うが、県立三ツ池公園に特異点が出現する。既に現場はジャック、後宮派のフィクサード達が抑えて儀式の準備に入っているとの事だ」
 胸の前で手を組み、リベリスタ達を見詰める逆貫の瞳は何時に無く余裕が無い。
「付近の住民の避難は完了し、蝮原咬兵が率いる部隊が協力を申し出てくれてはいるが、其れでも状況は既に後手だ。……今回はアークを挙げての総力戦となる」
 モニターに灯る光点や矢印は、蝮原咬兵やセバスチャン等の戦力を陽動に、リベリスタ達の本隊を突入させる作戦を示している。
 更にはジャック、シンヤ、アシュレイ、絡み合う彼等の思惑。
「諸君への任務は、北東の休憩所近くの森や道路に配置された敵部隊への襲撃、撃破……だったのだが、申し訳ないが諸君等には急遽イレギュラーの対処を頼む事になった」
 北東の休憩所付近に展開していた敵部隊を示す光点が次々と消え、代わりに大きめの光点が一つ出現する。
「イレギュラーは、この状況が生み出した力の余波に惹かれて飛来したアザーバイドの欠片、名状し難き狂気の世界より降り立った者だ。諸君等が到着する頃には、周辺部隊はほぼ食い尽くされており戦力を成しては居ないだろう」
 敵の敵は味方と言う言葉があるが、しかし此れはどう工夫しても味方には成り得ない。
「出現位置や、現在の状況から鑑みるに戦況への影響は少ないと思われる。だが放置は出来ん。今も取り込んだフィクサードから力と知識を吸収し続けてる奴の、その其の果てがどうなるを確かめるにはリスクが大きすぎる」



 資料(要約済み)

 アザーバイド:混沌
 25mプールを埋め尽くせる程の体積を持った蠢く肉の塊。一少しずつだが更に拡大中。
 所々に取り込まれたフィクサード等が生えており、ゆっくりと力や知識や正気を吸われている。

 能力1
 アザーバイドの半径30m以内の存在は、ターン終了時に10点のEPを失う。

 能力2
 アザーバイドからの攻撃は1度目が捕獲、2度目が取り込み。つまり2度、攻撃回避に失敗すると取り込まれる。
 捕獲された状態で2度目の攻撃を回避すれば、捕獲から脱出する事が出来る。
 遠距離範囲に届き、一度に2つの範囲まで同時に攻撃できる。
 捕獲や取り込みの際には攻撃ダメージと共にEP20点の消失が発生する。
 取り込まれた者はターン終了時に50点のHPとEPを失う。一切の行動も不能。
 取り込まれた状態はバッドステータスとして扱い、脱出もバッドステータスのルールに従う。
 取り込まれた状態で全てのEPを失った者は『死亡』してアザーバイドの体表に生える。

 能力3
 時折、取り込まれた生えてるフィクサード達が攻撃してくる。
 生えてるフィクサードは11人で、ジョブもそれぞれ11種。能力のほぼ全ては吸い尽くされており、それぞれのジョブの初期習得スキルのみしか使えない。
 生えてるフィクサードは混沌の表面上なら移動が可能。



「私は一つ、謝らねばならない。このアザーバイドは他にも能力を隠し持つ可能性があるが、……これ以上探ればその能力を解析する前に私の心が狂うだろう。私の力不足だ。すまない」
 名状し難き、悍ましき、狂おしき敵。
 今回の決戦に破れれば、この様な怪物が闊歩する世界にならぬとは、誰にも言い切れなくなる。
「諸君の健闘を、武運を、諸君等が正気で再び私の前に現れる事を、祈る」



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー……あ゛ー」
 声に成らぬ呻き。
「ひひっ、ひひひひひひっ、うへあははははははひひひひっ」
 引きつった様な笑い。
 辺りを覆う異様な雰囲気と、肉塊。
 けれど其の肉塊の一部、血の様な赤と口腔内の様なピンクにぬめる部位が、不意にぼこりと持ち上がり内側から裂けた。
「ひっ、ひぃっ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌!!!」
 中から這い出たのは、部隊長やエリートとしての顔をかなぐり捨て、恐怖に歪み、必死にもがく京間だ。
 戦って死ぬ覚悟なら出来ていた。シンヤの、ジャックの下でこの世界を変える為ならあらゆる犠牲を払う心算だったのだ。
 けれど、
「嫌だああああああああああああああっ!」
 訳の判らぬ物に取り込まれ、吸われ、流し込まれ、自分を自分で無くされて、少しずつ狂って消えていくのだけは絶対に嫌だ。
 渾身の力で肉塊を掻き分け、抜け出す京間。
 だが、其の抜け出た京間の腰から下は、無い。
「ああああああああああ!? 俺の、俺の脚が無い! 嫌だ、戻りたくない! 嫌なんだ……」
 恐らくは、京間が逃げ出せたのも肉塊が戯れにワザと逃がしたのだろう。
 地を這い、なんとか肉塊から距離を取ろうとする京間を、暫く放置した後に、肉塊は再び取り込んだ。

 彼の名はアザーバイド・混沌。異なる世界の化物にして赤き月の申し子なり。





■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月19日(月)23:43
『全体シナリオの結果が決戦に影響を及ぼす可能性があります』


 言うまでも無いとは思いますが、敵のHPはかなり多目。でも持久戦に陥ると危険です。
 取り込まれていない状態でもEPが空になったら暫く正気には戻れません。戦闘不能です。
 敵が巨大なので全体攻撃に関してはブロックブロックで多段のHITをします。しかしバッドステータスもブロックごとにしか掛かりません。
 一応3ブロック。混沌への攻撃は3体の敵が居ると考える方が楽かも知れません。混沌からの攻撃はブロック関係ないですが。
 まあサイズがサイズなので距離も色々ややこしいです。
 生えてるフィクサードは部位扱いですね。

 今回のEP消失による戦闘不能はドラマ判定が発生しません。
 通常のHPダメージによる戦闘不能は何時もどおりです。

 また取り込まれた際には大事な知識や記憶から優先して狙われます。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

 死亡する可能性がある攻撃は記載してあります。お気をつけくださいね。


『目標』
 アザーバイド・混沌を撃破し戦線を突破する。

 敵陣地を抜けていくので集中や事前強化は不可能と考えて下さい。


 崩界したらこんなの一杯来るんですかね。
 2度目の探査を行って判明した情報の追記です。

 アザーバイド・混沌は出現した敵を脅威と認識すると体内から京間とエリューション(E・ゴーレム)を混ぜた物体を吐きます。
 Eゴーレムは物理攻撃を、京間は只管彼のEXスキルである業爆炎陣(範囲遠距離射程スキル)を弾切れせずに放ってきます。性能等はご想像下さい。
 狂ってますが混沌の支配下にあり、それなりに厄介な性能です。


 さて、ではお気が向きましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
クロスイージス
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
★MVP
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)


 赤い月が地上を照らし、生臭くぬめり気を帯びた風が吹く。
「あ゛っあ゛っあ゛っあ゛っあ゛っ」
 肉塊、アザーバイド・混沌より生えたフィクサードの一人が呻きとも笑いとも判別のつかぬ声を発して身を震わせる。
 混沌の発する瘴気が一際濃くなり、周囲の木々を枯らし、腐らせていく。
 混沌には2つの行動原理がある。
 一つは獲物を取り込み、喰らい、味わい、楽しみたい。そして増大進化し、更に全てを飲み干したいと言う生物的で根源的な本能の命ずる欲求。
 もう一つは、彼の世界に続く穴を開け、より多くの自分を、或いは本体を、この世界へと招き入れねば成らぬと言う欠片としての使命だ。
 この状況は、この世界は、素晴らしい。
 充分に辺りを満たす魔力。感情豊かで、面白く、更には美味しい、簡単に狂う脆弱な獲物達。
 捕らえた獲物、何でもこの世界ではフィクサードとやらに分類される連中から吸い出した知識によれば、放っておいても穴は開くらしい。だが其れを阻止せんとやってくるリベリスタとやらは食っておいた方が良さそうだ。
 ジャック、シンヤ、アシュレイ、アーク、単純なものなら兎も角、複雑で多量な纏め切れぬ知識を身とするにはまだ時間はかかるだろう。
 けれど取り合えずやるべき事は明白である。
「ぎぃあああああやあああああぁぁぁっ」
 飛来した攻撃、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の放ったピンポイントが炸裂し、悲鳴を上げる肉塊より生えたフィクサード。攻撃を受けた腕がぼとりと落ち、肉塊へと吸収されて溶けていく。
 そう、まだ混沌が味わった事の無い敵意と言う感情をぶつけて来る眼前の小さな10人組、恐らくは此れがリベリスタとやらだろうが、今はこいつ等をただ貪れば良い。


 戦場を駆け抜け、作戦目標であるイレギュラーの前に姿を現したリベリスタ達を吐き気が襲う。
 比喩ではなく、この場の空気は腐っている。吸えば肺、胃の腑だけでなく心までが淀み腐れ堕ちてしまう瘴気を混沌は放っている。
 此処に来る途中で分かれた八人組、フィクサード・地野海衝吾を倒しに行った彼等を、ほんの僅かだ羨ましく思ってしまう。
 命を懸け、心を、魂を削る戦いをする身に違いは無いが、少なくとも彼等はこの腐れた空気を吸わずに済むのだから。
 蠢く、表現し難い色合いの肉塊の発する異様な威圧感が、近寄りがたい生理的嫌悪と相俟ってリベリスタ達の心を圧迫する。
 本当ならば、目に入れたくない、近寄りたくない、攻撃など加えたくも無い。汚物や蟲を見た時に一部の人間が感じる衝動を、倍に倍して受けるリベリスタ達。
 けれどリベリスタの一人、彩歌は真っ向から混沌を見据え、其処に生えるフィクサードの一つ、資料で見たプロアデプトのジョブを持った個体を狙って気糸をピンポイントで撃ち込む。
 彼等にはこんな所で心を折って居る時間は無い。リベリスタ達が辿り着かねば成らない本当の戦場は、まだ先に在るのだ。
 空に光る不吉な赤い月。
 目の前に在るのは、崩界が進んだ後に訪れる世界の先写しとも言える。
 こんな物が跋扈する世界にする訳にはいかない。此処を抜け、ジャックを、シンヤを、或いはアシュレイもを倒し、崩界を食い止め、バロックナイトを打ち砕く。
「進むべき道には理由がある。もう迷わない」
 交わした約束が、彩歌の心に力を与える。決して失えない、混沌の餌に等する訳にはいかない大事な想い。
「記憶を奪うなら奪えばいい。思い出を喰らうなら喰らえばいい。どれだけ記憶を奪われても、新しい思い出を作ればいいんだから。この戦いの後も、ずっとっ!」
 広げた七布施・三千(BNE000346)の両手から加護の力が溢れ出し、仲間達の戦いに赴くその意志力を極限にまで増大させる。
 支援に特化した三千には敵を打ち砕く類の力は備わっていない。
 だが混沌に食われる仲間を作り出さぬ様に仲間を支える事こそが三千と、
「君達の懸念事項は私が全て排除する。さぁ、全力で戦いたまえ」
 翼の加護を展開して仲間達に飛行の力を与えたもう一人の支援役である『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)の戦い方だ。
 支援に徹する者達の戦い方は、華が無く、地味で苦しい物となる。
 敵の攻撃に傷付く仲間達を、後ろから支え続け、時には庇われ仲間が更なる傷を負うのを目の当りにする役割だからだ。
 けれど彼等の存在が無くば戦線の維持は難しくなってしまう。特に卯月の存在はこの戦場において非常に重要な、そう、死者の出る出ないが、彼が支援を継続出来るか否かで決まってしまう程の大きな意味を持っている。
 そして其の二人、戦線の命綱達をさりげなく庇える位置に立つ『女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)の手から強い力の込められた十字の光が放たれた。
「……こりゃ、なおさら穴を開けさせるわけにはいかないじゃないの」
 皮膚を刺す瘴気に唇を苦々しげに歪め、普段は常に眠たげな目を鋭く顰めたレナーテが呟く。
 彼女の放つ攻撃はダメージを期待した物では無く、自らに其の攻撃を引き寄せる為の献身の一撃。
「なあ、アザーバイド」
 果たして混沌が投げ掛けられた言葉を理解するのかどうかは定かではないが、コンセントレーションにより集中力を練り上げる『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)は、戦闘の最中とは思えぬ程に落ち着いた、静かな声で混沌に対して話しかける。
 其の言葉に込められた感情は、敵とは言え余りに惨い最期を遂げたフィクサード達への憐れみと哀しみ。
「私は基本、異世界の放浪者が嫌いではないのだが……」
 死する者にこそ最期は安息を。人の悲哀を戯れに弄ぶ事は家畜にも劣る所業にしか思えない。
 勿論、其れがこの世界に生きる者の倫理観にすぎぬ事はヴァルテッラにも判っている。
 異世界には異世界の倫理があり、アザーバイドにこの世界の倫理観を押し付けるのはナンセンスだろう。
 ただ、この世界にとって害を為す存在だからこそ倒さねばならぬ。殺し合わなければならぬだけの事。
 けれど、それでも、
「君の事は、好きになれそうも無いな」
 ヴァルテッラの言葉から悲しみの響きは消えない。


「今宵の太刀は一味違うぜ……? 化け物よ」
 そして次いで前衛達が一斉に、だが範囲攻撃を警戒してか間隔をあけて襲い掛かる。
 先ず最初に混沌の体に刃をつけたのは、名乗り名と共にガラリと雰囲気を普段とは変えた『鬼蔭の虎』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)だ。
 輝くオーラを纏った連続攻撃、オーララッシュが振るわれ肉塊を切り裂いていく。赤い月が見下ろす今宵に、只一つの刃へと立ち戻った虎鐵は折れず曲がらず良く切れる。
 しかしそんな血に飢えた虎鐵の顔が不意に苦痛に歪む。
 切り裂いた混沌が血と共に撒き散らして虎鐵の体に付着した肉片がうじゅうじゅと衣服を溶かし、その下の肉への同化、喰らい付きを始めたのだ。そして血も酸の様に浴びた者の身体を焼く。
 事件を案内したフォーチュナが読み切れなかった混沌の隠された、能力と言うよりは生態の一つ、返り血や撒き散らす肉片の心や身体に対する侵食に、虎鐵の動きが鈍くなる。
 カレイドスコープは神器とも言うべき強力な力を持つ先読みの道具だ。だが其れを扱うフォーチュナは万能の存在には程遠い。
 どれだけ注意を払おうと、攻撃による返り血や撒き散らされる肉片を完全に避け切る事は不可能だ。
 知らされていなかった、避け様の無い驚異的な能力を前に、けれども前衛のリベリスタ達は躊躇わなかった。
 対策方法は無い。更に知恵を絞り、練れば、或いは画期的な対策が思いつくかも知れないが、そんな時間があろう筈も無く、リベリスタ達が出した答えは、只怯まず押し通る事。
「押し通る……っ! 我が剣戟、全て受け切れるか――!」
「肉の塊が、鈍いんだよ!」
 吼える二人のリベリスタ、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)と『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403)、2本の刃から放たれる気合と強烈な打ち込みが混沌の巨体を揺るがした。
 盛大に飛び散る血や肉片。当然注意を払っていた二人は幾らかを避けるが、やはり完全に避け切る事は難しく其の身に侵食を受けてしまう。
 だがリベリスタ達の攻撃はまだ終っていない。続いた矢は仲間達の中でも随一の、尋常ではない速度を誇るソードミラージュ、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)だ。
 パーティ内で最速を誇る彼女の攻撃が此処までずれ込んだ理由は只一つ、範囲を襲う混沌の攻撃に備えて一番の機動力を誇る彼女が一番遠い位置へと回り込んでいたからである。
 目にも留まらぬ速度で動く彼女が振るう刃もまた目には止まらぬ速度を持つ。
 澱み無く続く連続攻撃、ソニックエッジで混沌を切り裂き、更にルカルカは攻撃終了後即座にダブルアクションによる追加行動で全力防御の隙の無い構えを取っていた。

 だが此処で遂に混沌が動く。
 生えたフィクサード達の中で今回動いた者はプロアデプトとスターサジタリーの僅か2体。だがその2体は狙ってか狙わずかは知れぬが、2体ともがリベリスタ達の要となる卯月を狙って来たのだ。
 初歩的な技とは言え、其の命中力や威力は油断出来る代物ではなく、決して回避力に長けるとは言えない卯月の身体を1$シュートとピンポイント、2つの技が的確に貫く。
 前衛達には引けを取るとは言え、卯月も精鋭の一人。一度や二度の攻撃で落ちる程にやわではないのだが、問題はピンポイントの直撃によって引き起こされた怒り状態だ。
 この戦いにおける命綱たる卯月が攻撃に回ってしまう怒り状態は、放置すれば死者の発生に繋がりかねない致命的な痛打である。
 これを警戒して彩歌は真っ先にプロアデプトを狙っていたのだが、一撃で落とし切れなかった事が悔やんでも悔やみきれない。
 更に混沌本体の攻撃は、ジャスティスキャノンやら何やらで異常を受けたブロックではなく別のブロックから放たれた。
 狙うは最初に混沌に刃を付けた虎鐵と、リベリスタ達の中で唯一、混沌の行動後のブレイクフィアーに備えて待機しており未だ動いていない『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)の2人。
 5m四方を覆う範囲攻撃と化す程の大きな其れは、触手と呼ぶにはでか過ぎる。
 迫り来る肉の塊に間近に居た虎鐵は成すすべも無く、少し間を置いてはいたけれど、他の仲間達に比べると覚悟や戦闘プランが薄く、未だ混沌の異様さに呆然とした心を隠せていなかった躑躅子も反応が遅れてあっさりと捕獲されてしまう。
 だが、混沌の行動は此れで終わりではない。ルカルカの行動を見習って、と言う訳ではなかろうが、混沌はダブルアクションの追加行動により捕らえた二人をあっと言う間に己の肉体の中へと引きずりこんだのだ。
 其れは万全の布陣を期したリベリスタ達に唯一隙の生じる、支援、フォロー役が強化に手を取られた初手での出来事だった。


 取り込まれていた時間は数多く取り揃えられた仲間達の取り込みへの対処策から考えて10秒に満たぬ間だっただろう。
 だが取り込まれた二人にとってその10秒に受けた苦痛は、此れまでの人生で受けて来た其れとは全く質の違う、生きながらにして地獄に落とされたのと何ら変わぬ責め苦となっていた。
 耳から、鼻から、皮膚の毛穴から、穴と言う穴から肉が体を侵食して来る。苦しさに思わず口をあければ、口に入って来た肉が口腔内と融合し、吸い上げ、注ぎ込む。
 何も見えぬ、何も判らぬままに食われる二人。だが取り込まれた二人が其れに恐怖を感じる事はない。何故なら、感じた恐怖すら理解する前に吸い上げられていくからだ。

 降り注ぐ神々しい光、三千の放ったブレイクフィアーを厭うかの様に吐き出された躑躅子と、一度のブレイクフィアーでは離されず、更にもう一度とレナーテが放った2度目のブレイクフィアーで漸く脱出に成功した虎鐵。準備された濃密で厚いな対策の数々は、不慮の事態にも其の効果を充分に発揮する。
 支援役としては珍しく素早い速度を誇る三千のブレイクフィアーは、速度に劣る卯月が怒りに駆られて突撃する前に仲間の異常を解除した。
 けれど生き地獄から救い出された虎鐵の顔は、青いを通り越して蒼白となっている。
 混沌が喜んで狙い、貪り、汚すのは大事な記憶や知識からだ。
 虎鐵にとっての其れは、心の拠り所である大事な義理の娘の事に他ならない。
 名前は思い出せる。彼女が自分を何と呼ぶかも、彼女の好きな物、苦手なものも、思い出せる。
 なのに、彼女の顔が、笑顔が泣き顔が寝顔が自分を見る時の彼女の顔が、どれ一つとして思い出せない。
 まるで写真の顔だけを墨で塗り潰したかの様に、真っ黒に……。
 だが虎鐵の心を決定的に抉ったのはこの先だ。思い出せぬ大事な記憶に、必死に想いを集めて何とか彼女の顔を取り返そうとした虎鐵に、不意に記憶の中で娘の顔を覆っていた闇が割れる。
 しかし其処から這い出てきたのは、蠢くピンクの肉塊、てらてらと虹色に光る舌、虎鐵の心に注ぎ込まれた混沌と言う名の狂気と穢れ。

 ぶちりと何かが切れる音をその場に居た者達はハッキリと聞いた。
 虎鐵の身体から噴出した破壊的な闘気、爆砕戦気が、ボロボロで用を成さなくなった服と、未だ彼の体を喰らっていた肉片を吹き飛ばす。
 怒りに凶獣と化した虎鐵以上に、同じく取り込みを経験した躑躅子の状態は深刻だった。
 彼女から奪われたのはこの戦いにおける目的と動機。更に侵食された心は混沌に対しての異様なまでの恐怖を躑躅子に与えていた。
 見覚えの在る仲間達が戦っているから、彼女も戦いに参加はする。だがモチベーションを奪われた状態で相対するには、混沌は余りに醜悪で恐怖を煽る存在だ。
 どうしても混沌を正視出来ずに及び腰になってしまった躑躅子からは、何時もの皆を守るのだという強い使命感をまるで何処かに置き忘れてきてしまったかの様に、彼女らしさを感じられない。


 けれど戦いは無情に只続く。
 これまでに混沌の受けたダメージは耐久の総量から見れば然程大した量ではない。
 だが一度取り込んだ筈の獲物が逃げ出した事や、非力な筈の獲物が心折らずに未だ立ち向かってくる事に、混沌は身の内に仕舞い込んでいた、この世界で手に入れたお気に入りの玩具を吐き出した。即ちアシュレイが作り出したE・ゴーレムと、其れに取り込まれる形で融合させられた『爆葬炎神』春日京間だ。
 ズンと地を鳴らして足を踏み出すE・ゴーレム。そしてその胸に埋まる京間は、虚ろな表情で月を眺めて嗤う。其の顔に知性や意思、人らしさは感じられない。
 本来ならば、イレギュラーが発生しなければ、戦う筈であった強敵の哀れな末路に、リベリスタ達は言葉も無く武器を構え直す。
 ゴーレムが更に一歩を踏み出そうとした時、高速で突っ込んだ人影、ルカルカの姿が宙を舞い、其の手の刃が月に煌めく。
 しかし振るわれる刃の奏でた音はカチンと言う硬質な、硬い物同士がぶつかった音だ。
「……硬いのね」
 僅かに刃の欠けた手に持つナイフと、ゴーレムの表面に薄っすらと入った傷跡を見比べ、ルカルカは不満そうに、けれど僅かに艶を含んだ呟きを漏らす。
 次の瞬間、その場に居た筈のルカルカの姿は掻き消え、降って来たE・ゴーレムの拳が大地を揺らした。
 いち早く動き、其の巨大な拳の攻撃を掠めながらも潜り抜けたルカルカ。だがカス当たりとは言えゴーレムの一撃は非常に重く、拳の掠った肩はそれだけで関節が外れてしまいぶらぶらと垂れ下がっている。
 しかしルカルカはそんな己の損傷を気にした風もなく、再び振るわれた刃は今度は胸の京間を狙って。
 其の一撃は、咄嗟に防御に回されたゴーレムの逆腕に弾かれ虚しく硬質の音を響かせた。だが、其れで良い。ルカルカの役目はゴーレムを惹き付ける囮なのだから。
「別にたおしちゃってもいいんでしょ? ルカが、壊してあげる。殺してあげる」
 其れが厳しい事は先の攻防で充分過ぎる程に判っている。ずきん、と外れた肩が鈍く痛む。
「理不尽に、不条理に」
 けれどルカルカは刃を振るい言葉を連ねる。心を賦活し、闘気を滾らせて。

 ぴくりと蠢いた混沌に、攻撃の予兆を感じ取った拓真は飛び込む様な前転を披露し、咄嗟にその場を飛び退き……、直後、先程まで拓真が居た辺りを肉の塊が押し潰した。
「あぁぁぁぁっ!!!」
 起き上がり様に雷光を纏った剣を振るう拓真の口からは、意味を成さない咆哮が轟く。
 相手の、己の、一挙手一投足に全力で集中力を注ぎ込み、感覚を研ぎ澄まして、拓真は薄氷を渡るかの様な危険な位置での戦闘を続けている。
 はっきりと聞こえはじめた死神の足音。己に迫る濃密な死の気配に、けれども拓真は更に一歩、足を踏み出し技を繰り出す。
 踏み抜く事は恐れない。退く事は考えない。
 ふと背中から、卯月の力が拓真へと注ぎ込まれ、消耗した彼を賦活、更には三千の天使の歌による加護が傷を塞いで行く。

 拓真には、彼に薄氷を踏み抜かせまいと支えてくれる心強い仲間達が居るのだから。


 京間を投入しても衰えぬリベリスタ達からの攻撃に、混沌は更に己に生えたフィクサード達をも吐き出し戦線に投入する。
 此処までの戦いは、一見すれば双方が互角に削り合っているかの様に見える。だがその実はリベリスタ達の優勢に戦いは進んでいた。
 最大の要因は矢張り支援層の厚さだろう。
 卯月から補給、インスタントチャージは上手く決まればリベリスタ達の最大EPの1/3~1/2近くを一度に回復する事が可能なのだ。
 多少の消耗や、一度の取り込み程度ならそれこそ一回卯月が回復の手を回せばそれでチャラになってしまう。
 無論卯月自身が取り込まれてしまえばその強力な支援が途切れる事もありえるが、卯月の護衛にはアークでもTOPクラスの盾使い、盾の扱いなら右に出る者が居ないと言っても凡そ過言ではない優れたクロスイージスであるレナーテが付いている。
 更には、そのレナーテに加えて三千、躑躅子はブレイクフィアー、つまりは取り込みに対する対策を所持していた。
 ここまで揃ってしまうと戦いは、其の質を大きく変化させる。即ち、心を削られ、力を吸われる生贄と悪魔の戦いから、血を流し、体力を削りあう何時も通りの殴り合いへと。
 無論混沌からの攻撃は肉体に対しても大きなダメージを与えうる。けれど血で血を洗う泥沼の修羅場、命のやり取りは、寧ろリベリスタ達にとっての土俵だ。
 単純な殺し合いになってしまえば、集まったアークの精鋭達にとってこの程度は幾度も潜り抜けて来ている、慣れ親しんだ修羅場に過ぎぬ。

 吐き出されたフィクサード達の一斉攻撃を受けたランディの耐久が限界を迎える。
 ……けれど、
「戦で死にたかったか? 気の毒にな……良いぜ、殺してやる!」
 ニヤリと笑い死の淵で留まった男は、前のめりに倒れ込む様な動作から一気に脚力を爆発させ、一気に、事前に仲間達との打ち合わせで決めていたフィクサード達の撃破順序に従った目標の眼前へと移動し、
「弾けろッ!」
 込められ過ぎたオーラに輝く両手剣を、眼前の敵に対して振り抜く。
 そうリベリスタ達は混沌に生えたフィクサードが京間と同じ様に吐き出され障害になる可能性に予め気付いていたのだ。
 不足していたフォーチュナからの情報。だが彼等は混沌の形状、知り得ている能力等から隠しているであろう力を推測し、それに対する備えを怠らなかった。
 強力なランディのメガクラッシュに、ホーリーメイガスのフィクサードが粉々に吹き飛んだ。
 既にホーリーメイガスより以前の優先撃破対象である、プロアデプト、インヤンマスター、ナイトクリーク等は、混沌より生えている時に彩歌のピンポイントで一つずつ破壊されている。
 残るフィクサードは後7体。

 観察眼と推察で敵の力を見切り、順調に流れを引き寄せ戦うリベリスタ達ではあったが、一つだけ誤算も存在した。
 戦場に響く轟音。まるで大型のエンジンを全開で噴かす様な腹の底に響く音と共に、京間のEX『業爆炎陣』がリベリスタ達に炸裂、蹂躙する。
 辺りを覆う炎の海。京間の無限機関が暴走し、生み出したエネルギーを撒き散らす。
 振るわれるE・ゴーレムの拳を何とか避けたルカルカが悔しげに歯噛みをした。
 自らを囮にゴーレムを惹き付け、其の攻撃が他に行かぬよう己の身体を傷だらけにしながらもブロックし続けている彼女ではあるのだが、遠距離攻撃を持たぬゴーレムは兎も角、京間の攻撃を食い止める術をルカルカは所持していないのだ。
 並の人間なら、己の周りを飛び回るハエを鬱陶しく思い、何とか打ち落とそうと躍起になる事もあるかも知れないが、既に己を失った京間にはそんな人間らしさは残っていない。
 ただ視界に写る敵に黙々と己の技を放ち続けるのみだ。
 元々異常に動きの早いルカルカを視界に捉える事は正常な者でも苦労を要する。そんなルカルカよりも、もう少し先には自分の事を見もせずに別の敵と相対する狙い易い的が幾つもあるのだ。
 けれど技を放つ京間の身体もルカルカからの執拗な攻撃に加え、無限機関を暴走させた反動で徐々に崩壊を始めている。
 そんな京間の前に、新たなリベリスタが突撃をかけた。
 放たれる炎の直撃を、運命を消費する事で何とか乗り切り距離を詰めたのはヴァルテッラだ。
「さあ、今殺してやろう。……抵抗せんでくれたまえよ」
 哀れみを込めた呟きと共に振り被る拳は、弱点を抉るプロアデプトの技、アデプトアクションの構え。だが、そのヴァルテッラに対し京間ではなくゴーレムが、その巨大な拳を振り下……さんとしたままビシリと固まる。
 一陣の風の様に駆け抜けた少女、ルカルカの渾身のソニックエッジがゴーレムの動きを縛ったのだ。
 そして振るわれたヴァルテッラのアデプトアクションは、正確に京間の胸部を貫き、彼の機械の心臓、無限機関を打ち砕く。


 積み重なったダメージに、一人、二人と力尽きる者が出始めたリベリスタ達。
 けれど京間とゴーレムは崩れ、フィクサード達も其の全てが掃討された。

 降り注いだ肉塊から要である卯月を庇い、混沌の捕獲を受けたレナーテ。肉塊が服を溶かし、その下の身体への侵食を始める。
 だが、
「させるかよ!」
「邪魔、だあぁぁぁぁっ!」
 轟く二人の戦士の叫びと、振るわれた技がレナーテを捉える肉塊に炸裂する。拓真とランディ、二人が同時に放ったメガクラッシュでも巨体すぎる混沌が吹き飛ぶ事はない。
 しかし其の一部に負わせた傷は、其処に捕らえられたレナーテの脱出を容易な物とした。
 侵食された肉を引き千切り、抜け出したレナーテの身体を、爛れた皮膚を、三千の天使の歌が癒し綺麗な状態へと戻していく。
 そして拓真とランディの攻撃で起こった変化は其れだけではなかった。遂に混沌の体の一部、1/3程が其の豊富な耐久の全てを失い、真っ黒な石の様な硬質の物体へと姿を変えてぼろりと本体から切り離されたのだ。

 先の炎を喰らってより、感じていた違和感がある。
 ヴァルテッラは何かを確かめる様に拳を握り、開く。先程の京間との戦いより、ずっと体が、……否、彼の機械化した体の一部、無限機関が熱を持って仕方ない。
 ふぅ、と体内に溜まった熱を吐く様にヴァルテッラは小さく呟く。
「……そうか、いや、そうだろう。君は無念だったのだな。あぁ、ならば私が力を貸そう。せめて一撃、君の手で報いると良い」
 次の瞬間、ヴァルテッラの身体を衝撃が走る。轟音を立て暴走を始めた無限機関。
 体内を駆け巡るエネルギーが大き過ぎる為に反動で其の身を傷つけながらも、
「行きたまえ『業爆炎陣』!」
 渦巻く炎は誰が為に。

 力を食らう混沌が喰らい切れぬ、リベリスタ達が放つ力の、心を吸う混沌が受け止め切れぬ、ぶつけられた想いの、奔流。
 度重なった雄叫びに、喉は枯れどもそれでも力は尽きず、卯月からのインスタントチャージを受けたランディが、随分と小さくなってしまった混沌に最後の一撃を繰り出した。


 …………ほんの一時、静まり返る戦場。
 無論公園内では今も戦いが続いており、その音は遠くから響いてきているのだが、疲労感が、達成感が、リベリスタ達の口を、耳を塞ぎ、ほんの一瞬の休息を彼等に与える。
 不意に、パタリと卯月が自らの日記帳を閉じた音が、やけに大きく響く。
「……ここで立ち止まっている暇も惜しい。先を急ぐのだよ」
 こうしている間にも儀式は進み、周囲に満ちる魔力は刻一刻と増している。このようなアザーバイドがまた出現しないとも限らない。
 過去の記憶を持たない卯月にとって、自分から何かが奪われたかも知れない、そして其れに気付けていないかも知れないと考える事は、大きな恐怖だ。
「どうせ、私は……」
 俯いた卯月の口から漏れる、自嘲気味な呟き。
「まだ戦いは終っちゃいない。勝つぜ。……何としてもだ」
 卯月の様子に気付いてか、殊更強いランディの言葉に、レナーテが頷く。
 どの道一度は無限錬気部隊の元へ戻るのだ。どうせなら早く戻って換えの服と、それに予備のヘッドフォンを手に入れたい。

 そう、リベリスタ達にとって先の戦いは前哨戦に過ぎない。
 本当の戦いはこれからだ。ジャックの、シンヤの、そしてアシュレイの企みを、赤い月の夜を打ち砕く事こそが、本当の勝利なのだから。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 インスタントチャージ、ブレイクフィアー、クロスジハード、それに加えてチャージを持ってる人も多く、確定した参加者を見た時の衝撃はすさまじい物がありました。
 が、其れより何より素晴らしかったのは其れだけのコマが揃っていても油断せずに混沌の隠された能力をきっちり推察、対策して来た事です。
 外見、判っている能力等からの判断は素晴らしい物がありました。

 細々した事で大成功には至りませんでしたが、充分に成功ラインをクリアしたと判定しました。

 ラーニングは条件を満たした上での傾けた心情、プレイングの出来から。
 アイテムは其処目掛けて本体落ちて来いとの願いを込めて。
 MVPは支え続けたあの人に。


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ラーニング成功!
業爆炎陣(EX)
取得者:ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)

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レアドロップ:『カオスシード』
カテゴリ:アクセサリー
取得者:鬼蔭 虎鐵(BNE000034)