● 「アシュレイから電話があった」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉に、リベリスタはぴくっと反応を示した。 「おかげで、万華鏡で儀式の場所と日時が特定できた。これは、みんなが手に入れてきてくれた賢者の石も大いに役立ってる。改めて、どうもありがとう」 イヴは、ぺこりと頭を下げた。 「敵が陣地を構えているのは神奈川県横浜市にある三ツ池公園という大きな公園」 モニターには大きな三つの池を中心に、その周囲にスポーツ施設や広場が点在している。 「この所、日本を騒がせていた崩界の加速はこの公園に生まれる『特異点』の前兆だったみたい。万華鏡は連中の儀式の当日に大きな穴が開く様と、バロックナイトが起きる様を観測した。これは当然見過ごせない」 バロックナイトと聞いて、リベリスタの顔が急激に厳しくなる。 大規模な崩界が起きる際に発現する血の色の月の夜。 許してはならぬ危機だった。 「三ツ池公園には既にジャック側の戦力が配置されている。これに先手を打つのは不可能。各所にはみんなが既に何度か交戦を重ねている精鋭達に加え、バロックナイトに賛同するフィクサード達、アシュレイの力で作り出されたエリューション等が防衛線を張っている」 モニターに映し出された公園の地図に、フィクサード、エリューションのアイコンが並び、その下には報告書で見たことがある名前が並んでいる。 向こうも本気だ。 予定していたより賢者の石も少ないだろう。 儀式の関係上、この場所も時間も譲るわけにはいかない。 「付近の住民を念の為に避難させ、封鎖の態勢は整えたけど、状況上、迎え撃つバロックナイツ勢力を撃破し、儀式を行なうジャックの待つ中心部に進まなければならない。当然のことだけど、向こうも必死。敵の防衛力は高く、こっちも突破する為に総力戦を選ばざるを得ない」 モニターの上に、矢印が表示された。 「正門周辺は事実上封鎖されてて、そこからの突破は敵戦力の厚さを考えれば得策ではない」 正門の上に、イヴは大きくバツを書き加える。 「部外から蝮原率いる部隊が協力を申し出ている。裏の世界に名前の売れている彼等にはセバスチャンとかベテランと合わせて南門からの陽動をお願いする事にした」 南門から、大きな矢印。 その上に、マムシバラ、セバスチャンと書き加えられ、大きく「陽動」と書きこまれる。 「本隊は戦略司令室の提案したプランに従って、西門もしくは北門から園内に侵入して貰う事になる」 ここまでいい? と、イヴがいうのに、リベリスタは神妙に頷く。 「『賢者の石』を予定通り確保出来なかったジャックは、儀式に集中を余儀なくされる為、一時的に弱体化するらしい」 アシュレイを信じるならば。と、イヴは前置いた。 「一度大規模儀式が始まってしまえばジャックはそれを中断する事は不可能。彼を撃破し、儀式を中断させるのがアークとしての最善。でも、アシュレイは『儀式が制御者を失っても成立する』まではアークの味方をする心算は無いみたい」 この世に穴を開ける代わりに、ジャックの首を差し出す。 穴は開けたいが、ジャックのいいようにされては困る。 穴さえ開いてしまえば、ジャックは用済み。 なんとでもいえる。 結局は、アシュレイにとって、『穴』と『ジャック』を天秤にかければ、『穴』が勝つのだ。 「園内中央部に特殊な陣地を設置する彼女の守りは完璧。時間を掛ければ攻略法を見つける事も可能かも知れないけど、空間をおかしな形に歪めるこれ、識別名『無限回廊』を即座に突破するのは難しい。越えるにはアシュレイが任意で能力を解除するか、彼女を倒すかのどちらかが要求される」 アークとしては、そもそも『穴』に開いてほしくないのだ。 その点で、アシュレイとは根本的に決裂している。 「とりあえず、アシュレイは棚上げ」 イヴは、アシュレイのアイコンの上に丸をつけて、『後回し』と書き加えた。 「まず、園内に攻め入り、ジャックに味方する戦力を駆逐し、戦線を押し上げておき、必要に応じて対処を取れる状況を作り上げる必要がある」 アシュレイの前に、そっちが出来なきゃ話にならないと、イヴ。 「後宮派の戦意は高い。一部を除けば彼等の忠誠はジャックとシンヤに向いている。それに、シンヤはアシュレイを信じていないみたい。独自に準備を万端に整えている。そこも忘れないで」 ここまでが、概要。と、イヴはリベリスタを見回した。 「みんなに向かって貰う戦線は……ここの前。かなりアシュレイに近い。池の向こうにはジャックやシンヤが見える位置」 売店をくるりと丸で囲む。 「道路の中央に、アシュレイのエリューション・ビーストがどんと四体。これの殲滅」 モニターに映し出されたのは、犬だった。 規格外。子牛ほどの大きさ。手足の所在もわからないほど長い毛並み。 まるで巨大なモップだ。かわいいとさえいえるかもしれない。 毛の隙間から、らんらんと輝く赤い魔眼と、白い牙が見えさえしなければ。 赤い月の下、影はない。 「由緒正しい魔犬(バーゲスト)。凶運をもたらす影なし犬。ヘアリージャック。攻撃力、防御力とも隙がない。強敵」 「見た目にだまされちゃ、だめ!」と、書き込むイヴ。 「おまけに、こちらの攻撃を受けるたび、こちらの運気を削っていく。というより、不吉、不運、凶運とプレゼントしてくる」 こちらの攻撃はまともに当たらず、向こうの攻撃は鎧の隙間を抜けてくる。回復は、まともに発動しなくなる。 「更に押しが強い。一頭抑えるのに、前衛二人は必要。おそらくブロックしきれない。乱戦になる。後衛にも襲い掛かってくる。ごめんね。でも、この場所にこれ以上の人数はさけない」 総力戦。 リベリスタ全員が血を流し、命を削る覚悟で臨まなければならない戦場だ。 「最後には、日ごろの行いがものをいうことになる。みんなの幸運に期待する」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月16日(金)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 池を挟んだ向こう側には紫色の霧が広がっている。 すぐそこに池を横断する橋。 そのたもとの碑の辺りにアシュレイがいるという情報だ。 そこに至るために乗り越えるべき障害。 売店前に、巨大な毛玉がたむろっている。 影なしの魔犬。 日の光の下では、黒。 月の光の下では、銀色。 実在感が少なく、遠目から立体感を感じないのは、その身に影が落ちていないから。 それ自体が、目に見えない何かの影だから。 目に見えない、何か。 その名は、「凶運」 ● 「ああ、鬱陶しい光。月明かりを五月蝿く感じたのなんて初めてだわ」 『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)が、空を仰ぐ。 バロックナイト。 赤い月が、静かな湖面を毒々しい色に染めている。 「…皆既月食の赤い光っていうのは、太陽の光の内赤い光だけが地球の大気で屈折して当たるから見えるらしいわよ。少なくとも、現代科学では」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、たいしたことじゃないと自らに言い聞かせるように付け加えた。 「こんなものに気圧されてる場合じゃない。守れ日常、エリューションゴーホーム、だ」 こんな状況で、体内の魔力の泉を喚起させる暇もない。 状況は逼迫している。 「……もう一度言うわ。守るわよ日常」 アンナの前後を走るリベリスタは、それぞれ応じた。 崩界を食い止めてこそのリベリスタだ。 「答えてみせよう。せめて一人の少女の期待に。応えて見せようとも」 (日頃の行いか… イブ女史も中々哲学染みた事を言う) 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は、ブリーフィングルームの白い少女を思い出す。 (自分の信じた信条を、愛する動物や自然を、アークという組織を信じ、日頃務めてきたのだ。臆する事など何も無い) ● 赤い月は、リベリスタに優しくない。 犬達は、戦闘前の情報収集のために足を止めたリベリスタに向けて、アスファルトを蹴った。 子牛という言葉から連想される、かわいい生き物はそこにはいなかった。 あまりの大きさに距離感が狂う。 なぜ、二人がかりでなければ止められないとイヴが言ったのか、それを前にしたらよく分かる。 生後一年、体重250キロから300キロの「子牛」。 標準的力士二人分の質量が四体、徒党を組んでリベリスタの陣に突っ込んできた。 (災厄を呼ぶ獣か) サバトを主催するのは、山羊頭の悪魔と相場が決まっている。 山羊の角を持つ魔王を自称する『メンデスの黒山羊』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が、互いの射程圏ぎりぎりの位置で子牛のごとき魔犬を看破するのを、リベリスタは自らの牙を研ぎつつ待っている。 「ハッハー!おめーらラッキーだったな!この魔王様が居るんだ、不幸とかそんなのかんけーなく元から大凶だよ!」 直感を超える能力。ノアノアの複合感覚が、前の三匹の毛並みに埋もれるように見え隠れする固体の特徴を捉え切る。 (一番後ろの魔犬が持っているのは、インヤンマスターの癒しの技に近い能力) 「一番後ろ、回復持ちだ!」 ノアノアが叫ぶと同時に、ジルが無数の透き通った刀身を持つ投げナイフを銀色の犬四体に雨霰と降らせる。 「固まってるなら、纏めて串刺しになりなさい!」 ほぼ同時にアンナの体から、神の威光が示された。 定命の者達よ。 汝、不吉に触れる事なかれ。 汝、不運に触れる事なかれ。 汝、凶運に触れる事なかれ。 魔犬はそれぞれ、自らに傷を負わせた二人に、その影にて報いる。 ジルは、三度、自分の体から何か大事なものが剥ぎとられたような感覚を味わった。 錯覚だ。 横を見ると、アンナも虚を突かれたような顔をしている。 「一気に『やられた』! 気をつけて!」 ジルの叫びに、凶事払いの光を放つ役割を負ったノアノアとステイシーの顔が引き締まった。 凶運は、攻撃をそらし、回避の足をもつれさせ鎧の隙間を大きくし、、癒しの御技さえ霧散させる。 長い、滑稽とも思える長く縮れた毛並みに隠された長大な牙と鋭い爪。 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)に突進し、その肩口に噛みつくと、売店のシャッター目掛けて叩きつけた。 細身のノアノアを押しつぶすように、のしかかる。 ぎしぎしと加重で身体中の骨がきしむ。 長い毛並みが更に長さを増しているように見えるのは、目の錯覚ではない。 雷慈慟の手足を幾重にも絡めとり、ぎしりぎしりとその身を絞る。 そして、凶運に取り付かれたアンナとジルに犬が向かう。 『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)が、ジルを。『メタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)が、アンナをかばう。 「噛み付かれても吹き飛ばされても何されちゃっても、可愛い異界からの番犬ちゃんを愛でちゃいたいから自分は痛みも視線も受けっぱなしにしてあげるわぁん」 ステイシーの軽口が今は頼もしい。 ならば受けよと、きなことステイシーの背が牙と爪で蹂躙されていく。 血煙が、銀の毛並みに赤い縞模様をつけた。 アスファルトに、止め処もなく滴り落ちる二人分の血が流れる。 四頭入り乱れての突入。 「見ていたぞ。お前だけを見ていた。回復を持っている、一番後ろにいたのはお前だな。お前は我らデュランダルが倒す!」 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)の強大な斬馬刀に、稲光が宿る。 叩きつけられた衝撃に、犬の毛が一瞬逆立った。 宗一が駆け込んできて、御龍が切りかかった犬に更なる雷の剣をねじりこむ。 無表情な赤い目が、二人を見る。 汝ら、不吉に触れることなかれ。 ● いまだ腹に魔犬がのしかかったままなのを気にも止めずに、ノアノアは上着の襟に手をかけた。 華奢な胸板からもげないかと心配なほど豊かな胸部があらわにされる。 「ブゥゥゥゥレイク!! フィッッアッァァァアアァァアアア!!」 巨大ロボットアニメの先駆け的シャウトと共に発せられた柔らかな凶事払いの光が、リベリスタにまとわりつく影を祓う。 余計なことをするなと、魔犬はノアノアの胸骨と額に前足を置いてのしかかる。 生臭いよだれが、ぼたぼたとノアノアの上に降りかかった。 ぐはっと息が漏れる。 ぎしぎしぎしぎしと体重をかけられた肋骨が悲鳴を上げる。 地面に押し込まれる衝撃で、後頭部が割れて、脳みそを地面にぶちまけてしまいそうだ。 酸素が足りない。 目の前が、暗くなる。 ここまでか。まだ、始まったばかりだというのに。 「――魔犬如きが魔王に盾突いてんじゃねーぞ、阿呆がぁ!」 運命の恩寵は、不撓不屈の精神を好む。 「運も実力の内とは言うがよ、勝つ為に必要なのはそれだけじゃねーって事をわんちゃんたちに教えてやろうぜ」 気糸からの縛めから解き放たれ、動物会話を試みた雷慈慟は、失望を味わうことになる。 犬同士は、少なくとも音声会話をしていない。 そして、凶事の権化達は、自分達がどう動くか敵に悟られるようなへまはやらかさない。 アンナの力ある詠唱により、リベリスタの傷が癒されていく。 (一寸火力不足の布陣だけど、時間が掛かる分は私が保たせる。……保たせてみせる) 宗一の繰り出す斬撃に、魔犬の毛皮は血の赤に染まり、毛並みは電撃でところどころ黒くほつれている。 魔犬は、ひたりと宗一に前足をかける。 程なく、激しい炸裂音。 そこへもう一匹魔犬が宗一目掛けて走りこんできて、その背にのしかかる。 再び炸裂音。 体の両面を吹き飛ばされた宗一は、それでも地面を踏みしめていた。 ● 赤い月は、リベリスタに優しくない。 ジルが弾丸をばら撒き、凶運に取り付かれたタイミングで、魔犬の一匹がいそいそとジルに向かう。 不幸のプレゼント。 魔犬がジルの腕を、べろりとなめる。 次の瞬間、炸裂する。 魔犬の下から這い出したノアノアが、凶事払いの光を放とうとする。 その背に魔犬がのしかかる。 背骨を押しつぶされたノアノアが、再び起き上がることはなかった。 「――っっ!!」 リスペクトしていたノアノアが放ちかけていた凶事払いの光を、ステイシーが代わりに放つ。 攻撃するたび、運を落とす前衛の負担を少しでも軽くするために。 魔犬は、なかなか落ちない。 (相手は犬かぁ、くくく。狼の方が強いということをその身をもってわからせてやる!) 攻撃が当たってはいた。 (とにかく斬って斬って斬りまくる) ただ、よりよく斬るにはどうしたらいいかが、欠けていた。 戦闘にたぎる性分が、御龍の視野を狭くしていた。 べろり。 魔犬が自分の傷口をなめた。 ふさがっていく傷口。 積み重ねたものが無にされた。 汝、不吉に触れることなかれ。 「回復をはじめたということは、もうすぐだ!」 雷慈慟は声を上げ、気糸が、その傷を広げる。 「回復役を潰す」というリベリスタの攻撃方針は一致していた。 魔犬の方針も一致していた。 「自分達に手を出した者から潰す」 魔犬が、宗一の血の匂いに惹かれて群がってくる。 炸裂、炸裂。 不吉が宗一の傷をより深刻なものにする。 アンナの高位回復を以ってしても足りない。 きなこの詠唱も重なる。 (はっ、厄介なモン残していきやがる。見た目こそアレだが相当だぜこいつ等。けどな、俺達がこの程度で怯むと思ったか。絶対に突破してやるぜ!) 人が焦げる匂いに、魔犬共が喜び勇んで、アスファルトの上で踊る。 ● 運が偏ると、振り幅が大きくなる。 凶運に翻弄され、代償に血を流し続けていたジルの氷のダガーに、その瞬間幸運の女神がキスをした。 氷のダガーが、魔犬共を穿つ。 踊り跳ねる毛皮の隙間をくぐり抜け、影を散らす。 ダガーの嵐は厚みを増し、ついに一匹をアスファルトの上に転がし、他の三匹にもありえない傷を負わせた。 「やっと、まとめて串刺しにしてやったわよ!」 ジルが会心の笑みを浮かべる。 その身に再び凶運が宿ったが、今はそれ以上に気分が高揚していた。 魔犬が、赤い月に請うように遠く長く吠えた。 「なん……だって!?」 アンナは、場に集まる慣れ親しんだ気配に、眉を跳ね上げる。 凶事の権化の傷を癒す天使とは、いかなる神に仕えるものか。 犬達の傷が、急速に癒えていく。 赤い舌を出し、へっへっへっと息を荒げながら、アスファルトを踏む姿は、いつじゃれ付いてやろうかとこちらの隙を狙っている人懐こいペットのようにさえ見える。 だが、この犬達は、飼い主の愛ではなく、リベリスタの死の匂いをかぎ分けている。 「回復役から潰すって話でいいんだよなぁ!!」 今まで斬っていた犬が倒れた今、御龍の興味は「回復役」に集積した。 偏った運は、均一化される。 魔犬は、執拗に宗一にその支払いを求めている。 「立ち止まっちゃいられねえ。倒れてられねえと言ってるだろうが――」 一度は立ちあがれた。 しかし、魔犬を最も傷つけた男に報復の手が緩められることはない。 牙と爪がひらめく。犬達は血を求めて踊り狂う。 蹂躙する。 リベリスタ達を蹂躙する。 自分達も傷つくことを意にも介さず。 爆弾を撒き、リベリスタを押しつぶす。 鼻先を押し合わせるようなしぐさが、次は誰を倒すのかと相談しているようだ。 嗅ぎつけようとしている。 次は、オマエだ。 ちょろちょろ動き回って、何か嗅ぎつけようとしているオマエだ。 魔犬の矛先が、雷慈慟に見定められた。 ● アンナときなこの詠唱が続いている。 高位詠唱は、消耗が激しい。 おそらく、その魔力の半分を切ろうとしている。 魔犬に群がられた雷慈慟は、覚悟を決めた。 自分の身を護ることではなく、アンナに共鳴し、その魔力を賦活する。 魔犬の巨体に隠され、雷慈慟の姿が見えなくなる。 ジルがナイフを投げる。 御龍が切りつける。 魔犬とて、傷ついている。 三匹とも、半ば以上その身は立ち割れている。 それでも、魔犬は雷慈慟から離れない。 一人づつ、確実に。 リベリスタを地に落とすつもりなのだ。 雷慈慟の頭部に黒い三叉戟が突き立てられる。 それでも、雷慈慟は頭をもたげた。 遣り残したことがあった。 やらねばならないことがあった。 「遠慮無用……。 盛大にやってくれ!」 それが、その場で聞いた雷慈慟の最後の言葉になった。 ● すでに三人倒れている。 口元を、足先を、リベリスタの血で汚した、魔犬が。 御龍、ジル、アンナに向いた。 ステイシーは、オーバーアクションで魔犬の視線上に立ち塞がり、おいでおいでと笑顔で招く。 只々相手の注意を惹くために。 「どーしてもコッチ向いてくれないなら、メイスで引っ叩くわよぉん?」 金属製の薔薇の花束をちらつかせる。 しかし、実際それを振るうことは出来ない。 凶事払いの光を絶やすわけにはいかないから。 「今度の敵は一人じゃブロック出来ないのが歯痒いですね。でもだからと言って諦めませんよ、絶対に耐えて見せます! 止めて見せますよー!」 きなこは、笑顔を浮かべた。 よだれをたらしながら、アンナに走り込んでくる魔犬を分厚い鎧と宙を飛ぶ盾が阻む。 炸裂音。 「耐久力に定評のある、きなこさんなのですよ~」 煤で頬を汚しながら、息を整えた。 (アタシは不幸を払ったりとかそういう器用なマネは出来ない訳で……。なら、前のめりに突っ込むしかないわよね?) 「致命の呪いも効かないのが厄介ね!」 ジルは、魔犬の頭に黒い光を叩き込む。 ステイシーの光を浴びて、凶運が完全に払われるまで集中し。 貫くべき場所をジルの影が指し示す。 全ての影が、魔犬の味方という訳ではなかった。 まだ、戦える。 もう少し。 頭に黒い光をまといつかせたまま、魔犬はジルに飛びかかる。 御龍とジルが爆炎に包まれた。 「お前は倒す。お前だけは倒す」 ぎりぎりと御龍は運命を消費する。 遠吠えした犬に、御龍は飛びかかった。 バチバチと帯電する月龍丸を握る指はもう痺れて動かない。 それでも、最後まで斬ることをやめなかった。 ● 御龍が倒れ、リベリスタ、残りは四人。 魔力も枯渇し、有効な技が使えない今。 リベリスタに魔犬を屠る手段はない。 回復詠唱を止めたとたん、魔犬はもう二人か三人、あっという間に地面に転がすだろう。 最後まで戦うということは、後を託してくれた四人の命を見殺しにすると言うことだ。 「ここまでか……」 だが、逃げ切れるか? 点々と倒れる仲間を回収し、魔犬に背を見せて撤退することが出来るか? 三匹の魔犬が、不意に空を見上げた。 そのまま動きを止める。 まるで害のないぬいぐるみのように、道路にべたりと四肢を投げ出した。 そのふざけた動きに、ふざけた意思の介入を感じないでもなかった。 それでも、今は倒れた仲間を救うほうが先だった。 警戒しながらも、リベリスタは撤退を始める。 大方の傷は思ったより深くない。 今この場でというのは難しいが、きちんと処理すればすぐに回復しそうだ。 互いの間合いを外れ、振り返った時。 三匹の魔犬がよたよたときびすを返し、道を右に入って森に消えていくのが見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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