●進撃せよ 「バロックナイトが。赤い月の夜が。――来ます。」 モニターに映る血の色の月がブリーフィングルームを不気味に照らし渡していた。 赤い月。それは、大規模な崩界を暗示する終焉の予兆。 それを背景に、事務椅子に座し顔の前で指を組んだ『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は真剣な眼差しをリベリスタ達に向けた。 「神奈川県横浜市三ツ池公園――崩界加速が仄めかしていた『特異点』、バロックナイツがここに『巨大な穴』を開ける儀式を行います。 それは園内の中心部にて行われます。ジャック様とその戦力を撃破し、戦線を押し上げ、必要に応じて対処を取れる状況を作り、最終的には儀式を中断させる事が我々の最善ですが――まぁ、そうホイホイ出来たら苦労はありませんな。当然、障害は幾重にも幾重にもございます。 園内中央部にアシュレイ様の『無限回廊』なる特殊な陣地、園内中にジャック様側戦力の防衛線……先手は不可、厄介な状況ですぞ」 言葉の終了と同時に卓上へ広げられる資料。三ツ池公園の地図や、アシュレイからの情報、賢者の石について、敵のデータ……様々な情報。 「近隣住民の避難や周辺封鎖態勢はこちらにお任せ下さい。 ……サテ、三ツ池公園ですが正門周辺は事実上封鎖されておりまして、そこからの突破は敵戦力の厚さを考えればアレですな、云わば態々飛んで火に入る夏の虫しなくっても良いのです。 で、蝮原様やセバスチャン様方が南門にて陽動作戦を行って下さいます。ありがたいですな。なので皆々様は戦略司令室の提案したプランに従って西門か北門から園内に侵入して頂きますぞ」 メルクリィが卓上の地図に重量のある機械指をゴツンを乗せる。 それは北門を示していた。 「今回、皆々様にはこの北門から侵入して頂き――ここ、多目的広場に布陣している戦力を叩いて頂きますぞ。 エネミーデータにつきましては……こちらをご覧下さい」 そう言って機械男はモニターを操作し、『視た』ものを画面上に展開した―― ●赤・弾丸・戦車 赤い月。バロックナイト。バロックナイツ。賢者の石。魔女。切り裂き魔。 禁忌。儀式。崩界。崩壊。無秩序。破滅。 狂気。凶器。狂喜。兇器。驚喜。 「そんな事はどうでもえぇねん いやシンヤさんには従うけども。 ウチはァ 何かのドタマに一発でもなぁ弾丸ブチ込めたらそれでえぇねん・ ロストコードしたらやりたい放題なんやろかヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」 ケタケタ笑う。未だに無くなった腕が痛む時があるけども。 右腕を抱きしめる。でももう大丈夫、腕なら『在る』から。 無くなったらまた付ければいいじゃないか! 死んだらまた殺せばいいじゃないか。 壊れたらまたぶっ壊せばそれで万事解決ハッピー☆エンドじゃないか!!!!!!!! 「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは 来いよ来いよ来いよォオオオオオオオオオオ全部の全部にブチ込んだらァアアアアア!!!」 暴君戦車。 暴力の部隊。暴力の舞台。 広場に布陣した暴力達。 幾つもの陸兵、幾つもの空兵、幾つもの戦車兵を展開して、巨大な暴力要塞の天辺。 三つ腕の暴君は――狂気の月の下、笑う。 ●覚悟せよ 「ハイ、と言うワケでして」 モニターには四腕の巨大ゴーレム、その頭部に乗った異形の腕を持つフライエンジェの少女――そして、彼等の周囲にズラリと布陣した大量のエリューション達。 どれも巨大ゴーレムと似たタイプだが……中型の戦車タイプ、小型の陸上戦タイプ、小型にプロペラが付いた空中戦タイプと中々に豊富だ。 映像越しからでも分かる。殺意、殺意、殺意、殺意、殺意。交渉なんて出来やしないだろう。 そんな映像からリベリスタ達へ視線を戻したメルクリィが言う。 「アシュレイ様謹製のエリューション達と、『暴君戦車』ガンヒルト・グンマ……フライエンジェ×スターサジタリーの女性で、後宮シンヤ様の精鋭であるフィクサードですぞ。 マイペースさんな気性ですが、超絶好戦的で執拗、残虐、執念深いバトルマニアさんです。 決して侮ってはいけませんぞ、彼女の腕は本物です。先日の賢者の石の争奪戦にも出没したフィクサードでしてな、詳しくはそこにある任務報告書をご覧頂ければと思いますが――」 メルクリィが視線で卓上の資料を示す。それから、と戻した視線で続ける。 「その時に右腕と所有武器を失ったのですが、代わりにE・ゴーレムと失くした腕代わりにと合体しとりましてな――正直、正気の沙汰じゃない――火力は正に『戦車』、お気を付け下さいね」 彼の言う通り、ガンヒルトの右腕は例のゴーレムと同じタイプの腕となっている。それも二本、アンバランスで禍々しい事この上ない。 次に、と機械の指が示したのはガンヒルトが乗っている超大型のゴーレム。ぐぉーんと唸っている。一歩の度に地響きが鳴る事から身形に似合った相当な重量があるのだろう。ウッカリ踏まれでもしたら……。 「E・ゴーレムフェーズ2『ダンマーク』。武器はご覧の通り四つの腕と腹のガトリング砲、兎に角弾丸を撒き散らしまくる恐るべき移動砲台ですな。 勿論、殴られたり蹴られたり踏まれたりしても痛~いですぞ。攻撃も耐久力も侮れません。 こちらも詳しくは先程の過去任務報告書を参照して下さい。 次に他のE・ゴーレム達について」 メルクリィが卓上に三種類の資料を広げる。 中型の戦車タイプ……E・ゴーレムフェーズ1『ダンマークタンク』×10 小型の陸上戦タイプ……E・ゴーレムフェーズ1『ミニダンマーク』×20 小型にプロペラが付いた空中戦タイプ……E・ゴーレムフェーズ1『フライダンマーク』×20 「基本的にこれらはひたっすら弾丸をブチ撒けまくるのが仕事のようですな。 ダンマークタンクはそこそこの耐久・攻撃力を持っとるようですな。他もフェーズ1ってわけでそこまで脅威ではありません、が、『塵も積もれば』というヤツです。数に翻弄されてはいけませんぞ」 以上です、とフォーチュナは説明を締め括った。 そして静かな眼差しをリベリスタ達に向け、薄く微笑む。 「崩界を食い止める事が私の全てです。何故だと思いますか? ……それは、皆々様にいつまでもいつまでもこの世界で笑顔で居て欲しいからです。 この世界が、皆々様が、私の全てです。――どうかご無事で。どうかどうかご無事で」 一寸、間を開ける。深呼吸を一つ。 「……必ず、ご生還を。」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月15日(木)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●Krieg 真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な月。 煌々。不気味に。奇ッ怪に。 朱い月の歪んだ世界。 弾幕 煙幕 幕詞 「幕の切れ目の理不尽あげる」 ルカとしては楽しみなんだけどね。と『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は布陣した幾つもの敵影を見た――その数52。対するこちらは10。凡そ5倍の戦力差。不条理あふれる世界。狂気と無秩序。 でも、目の前の戦いは素敵 戦場に溢れる殺意は心地好い 「ならば、すべて薙ぎ払うわ」 身体のギアを高め、シュトルムボックの鉄槌を構える。 幾つもの視線。幾つもの殺気。 「こんなにも月が赤いのだもの」 有象無象を冷たく睥睨している空の赤から己がショットガンへ、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)はゆるりと目を細めた。 いきなりの誤算――敵は既に布陣を完了していた。こっちに気付いていた。観客席には行けそうにない。今回はこちらが攻め入る、云わば攻城戦……後出しの辛い所だがやるしかない。 「騒がしい夜になりそうね」 溜息、しかし薄笑み、せめて自己強化ぐらいはと射手としての感覚を研ぎ澄ませる。 さてお仕事、お仕事。今回後衛とか言ってられない。『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)も同じく、弓を構えて深呼吸。集中。 (噂の名古屋さん……帰ったら真空管に林檎置いてウイリアム・テムごっこさせて貰おう) 頼もしいメンバー。馬鹿みたいな兵力の敵。如何にその戦力を早く殺ぐかが鍵、精神力供給と援護射撃はお任せ下さいと仲間に告げた。 布陣した戦車部隊に『早くこっちに来いぶっ殺してやる』という視線を向けられながら進軍する――極限の緊張、視線、死線、自分の心臓の音がヤケに聴こえる。 最初からクライマックス。 身体のギアを上げた『第7話:暗黒舞踏会』宮部・香夏子(BNE003035)が『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の方へ向いた。体内魔力を活性化させたアリステアは頷き、皆に翼の加護を与えてゆく。 「うわ……なんかうじゃうじゃいるよ……。げんなりするよねー……。 でも! 誰一人として大怪我なく、が私の役目。頑張ろう!」 その言葉に「任せました」と九七式自動砲・改式「虎殺し」を構えたのは『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)、今回の戦闘に御誂え向きな対戦車ライフルを構えたまま前進する。 こっちを見ている暴君戦車――なんかお嬢様が依頼で会った人らしいですねコレ。 「お嬢様に『貴方向きの敵だから行ってきて』とか言われて来ただけなので彼女の事は一切知りません。 興味も特に無いのでさっさと殲滅しましょう」 いつもの変わらぬ口調だが、その集中は極限状態。視界はコマ送り。いつでも撃てる。また一歩、彼等の、自分の、キリングゾーンが近付いて往く。今この一瞬も。今この一瞬も。 今この一瞬も――これが因縁、っちゅうやつなんかね。『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が構えたのは禍々しい巨銃、パンツァーテュラン。 暴君戦車の名を冠するそれは、それこそ、――彼女の。 「……ガンヒルト。」 「坂東ぉおおおおおおおッ……!!」 視線がかち合った。また一歩近付いた。互いに銃を向けて。憎しみ合う。 なんて血腥い、狂気の、月明かりの下に、バッドロマンス。 「良く来たな坂東ぉおおッ!? 会いたかったでぇえ? アンタ見てると想像してると右手がキュンと痛んじゃうもんでさァ!!」 ガンヒルトが失くした腕――仁太が刎ね飛ばした腕――の代わりに付けた異形を不気味に蠢かせる。 「パンツァーテュラン。ハ、ウチのお古で……まァええわ、ウチの腕、どや? カッコエエやろ?」 「ほー。せやったら今度はそれ貰ったろか? ……再戦できんかった仲間の無念はわっしが代わりに晴らすぜよ」 「アッハ! ほな、ウチは……アンタに殺られた右腕と! アンタらに殺されたダンマークちゃんの仇!」 そして、互いの射程が――重なる。 向ける銃。 向ける銃。 どっちが勝ってもただではすまんやろな。仁太は思う。 向ける銃。 向ける銃。 「来い、坂東ッ! リベリスタァアアアアア!!!」 「往くでぇ、ガンヒルトォオオオオオオオッ!!!」 放つ銃弾。 放つ銃弾。 しかし自分達には進まなくてはならない理由がある。 放つ銃弾。 放つ銃弾。 ――ここで終わる訳には、いかない! ●Panzer 刹那空を空気を全てを何もかも有象無象を悉く埋め尽くしたのは無限数の弾丸、弾丸、弾丸。 「なにこの弾丸飛び交う戦場。FPS苦手なのにぃ……」 集中力を高めた『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)メガスパナと出張版店長で弾丸の被害を最小限にしながら口を尖らせる。凄まじい銃声に鼓膜が破れそうだ。しかし目はきらきら、ダンマークへ。 「かぁーっこいいー!! なにあれ改造したい。めっちゃいじくりまわしたい!」 メガスパナを構えて走り出す。弾丸の嵐――それにあの子ね。視線の先には暴君戦車、静かに照準マーキング。 (早撃ちか。うん。その瞬間は見逃さないよ) 無事成功出来たらバラしたパーツでミニダンマークとか作ってやる。興味深々になったぐるぐさんはしつこいですよ! なんて、ダンマークを目指し、目指すが――届かない、遠い。いや、直線距離ならばリベリスタにとって問題無い距離。 問題は5倍にも及ぶ兵力差。 そしてその兵達は易々と大将の元へ辿り着かせるようなヤワな部隊では決してなかった。 こちらが死ぬ気で立ち向かっている様に、向こうも死ぬ気。勝ち気。四方八方から銃を撃って撃って撃って撃ってぐるぐの邪魔をする。火力と兵力にモノを言わせて圧し退ける。 「ちょっと退いて! バラさせて! どこがどーなってんのかバラしたいから退いてってば!」 キャタピラを唸らせ突進してきたタンクに仕方なくノックダウンコンボを叩き込みつつぐるぐは歯噛みする。 勿論、モニカ、エナーシア、七海、仁太達がありったけの弾丸をばら撒いてはいるが――瞬殺が限りなく不可能である事を知る。 ぐるぐだけでない、ダンマーク狙いの『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)も同じ思い。森羅行で回復しつつ前進を試みるが……駄目だ。フェーズ1達が壁となる。近付かせない。 その間にもダメージが蓄積してゆく。詠唱するアリステアは思う。一瞬でも自分の歌が途切れたらお終いだ、と。 「あーもー! 数多いのうっとおしいよねーっ! ……痛いの飛んでけー!」 柔らかな歌――しかしそれをも切り裂いて、弾丸は終わらない。自分を穿ち掠める弾丸に痛みにアリステアは顔を顰めた。 弾丸の嵐――最中を香夏子は与えられた翼を広げて一直線に、ガンヒルト目指して。 フェーズ1を避けるために遥か上を飛んだのが吉と出た。が、フライダンマークが彼女を逃がさない。 そしてここにもう一つの幸運。それは、 「回避を超強化した香夏子にとっては止まって見えるです!」 香夏子が回避を最も得意としていた事か。フライの放つ弾丸を躱し、掠り、直撃は免れる。しかし数が多い。これは流石に……躱し切れるか? 「香夏子さん、往って下さい!」 「そっちは任せましたよ」 「さあ反撃が来る、備えろ!」 「頼むでぇー!」 降り注ぐ弾丸、仲間達の射撃がフライを強烈に圧し遣る、あるいは撃墜する。 「香夏子、往きまーすっ」 なんて、とあるアニメの真似なんかして、目で仲間達に礼を――包囲網を突っ切った! それを見上げ、『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は深い呼吸と共に戦車へ向き直る。歴戦の着流しの其処彼処には血が滲み、それでも眼光には闘志。生きて帰ると約束したから。 戦車隊とそれを操るフィクサード。正気とは思えないが基より斯様なものは在りはせぬ。 「無頼が一人、古賀源一郎。今宵は戦車殺しが為馳せ参じる。 ――有象無象と纏めて塵滅する!」 その身に誇りを、運命を。拳に破壊を、目に殺意を。弾丸の嵐の中、殺意の中、死の中、荒れ狂う大蛇の如く、己が手の届く有象無象を徹底的に見境なく力の限り破壊し壊して往く。 そこからやや離れた位置、残像と共に高速で飛び回りながら兵士らの頭を粉砕して往くのはルカルカ。いい準備体操だ。身を翻して戦車の主砲を躱す。シュトルムボックの鉄槌。振り下ろす鉄槌。落とす。陥とす。堕とす。 「彷徨う月の雫、引き裂き潰し、罪の帳の記憶の果てに」 残像、羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹。 「流れ落ちるは赤い朱い紅い血の、飛沫」 無骨な鉄槌。機械を鉄槌で切り崩すこの瞬間。 舞う金属片。月にキラキラ、赤くキラキラ、弾丸を掠めて舞う自分の血と、まるで素敵なダンス。 とても、気持ちがいいわ。 うっとり、うっそり、目を細め。 ●Dunkelheit2 前進しながら撃つ。 前進しながら撃つ。 レベルを上げて物理で殴れば大体の障害は排除出来る。モニカはそう信じて止まない。 視界。スコープの世界。倒れる者が見える。それでも立ち上がる者が見える。 この脚は決して止めない。 この弾は決して止めない。 七海も仲間の精神力を供給して支援する。重ねる意識に応援を込めて、番える矢には決意を込めて、放つ。光の矢は纏めて敵を貫いて往く。 「ほんと素敵な夜ね、今日は」 ガンヒルトとダンマークの射程外より兵を狙うエナーシアの傷は他者より浅い。源一郎に破壊されたタンクを盾にパンツァーテュランを構える仁太もまた傷の少ない者の一人。 自分達は一人で戦っているのではない。それぞれの長所を生かせるように。 「絶対に負けないんだからあっ!」 声の続く限り、歌える限り。アリステアは天使の歌を奏で続ける。 「やんちゃさんめー☆」 一方、敵味方の弾丸が入り乱れる戦場のど真ん中、フェイトを燃やしてぐるぐは立つ。未だ大将には辿り付けず――でもこんなメカ前にして倒れるとかあり得ない、まだ伝説の途中だし。 「お前をぐるぐさんのおもちゃにリサイクルしてやろうかー!」 遊びだから本気になれるのよ。メガスパナを振り下ろす。 ルカルカも運命を燃やし、源一郎もドラマを支配し。 見遣る先には闇の世界。 刹那、 闇が弾けた。掻き消えた。 「!」 リベリスタの視線が、同じ方向へ。 ●Dunkelheit1 時は少し――ほんの少し遡る。 「グンマさん、グンマさん、お暇なら香夏子と遊びませんか?」 包囲網を突っ切り、ガンヒルトの前に飛び現れた香夏子は言葉と共に闇の世界を放った。 黒く染まる。全て。世界。 「グンマさんが遊んでくれないなら香夏子シンヤさんとこ遊びに行ってしまうかもしれません、ついでにさくっとやっちゃうかもしれませんね?」 「アッハ。おもろい子やねぇ……もっかい言うてや、ウチを倒せてからなぁッ!?」 一騎打ち。 香夏子は宙、ガンヒルトはダンマークの頭の上。ダンマークは相変わらず戦場に弾丸を撒き散らしている。銃声、無限。 勝負。香夏子は闇に紛れて彼女を狙う――ここまでは作戦通り。 そう、ここ『までは』作戦通りだった。 「アハ!」 ガンヒルトがこっちを向いた――何故!? 暗視は無い筈。放たれた弾丸を咄嗟に躱す。 答えは、超発達させた五感と第六感。そして彼女の右腕――夜に活発化する習性を持つ『フェイトを持たぬ者』と繋がったガンヒルトにとって闇は何ら問題でないのだ。 痛い誤算だった。しつこく狙って撃たれる弾丸の直撃を辛うじて免れる。何て命中精度、そして破壊力だ。流石はあのシンヤの『精鋭』――格上、一騎打ちは流石に無謀だったか。せめてもう一人いれば話は変わってきたかもしれない。 それでも香夏子は何とかブラックジャックを命中させる事に成功した。たった数回だったが、上等だ。 「この程度じゃ……香夏子全然遊び足りませんよ?」 代償に支払ったのは己が運命だったが。 ガンヒルトは頭から血を流しつつ笑っている。香夏子は内心で歯噛みする。 一発でも喰らったら終わりだ。 なら、勝負だ。自分の回避が勝つか、相手の命中が勝つか。 破滅のオーラ、弾丸――視界は黒、或いは赤、そして、白。 落ちて逝くのは……香夏子だった。 「……!」 重なった誤算、予想外に早くガンヒルトは手隙となる。まだ雑兵らを倒し切っていない。残り半分以下か。予定が狂った――狂い始めている、香夏子の代わりにガンヒルトを抑えるべくルカルカが飛ぶ、随分と敵が減っているお陰と仲間の援護射撃のお陰でそう重くは無いダメージと引き換えに敵陣を突っ切る事が出来た。 ハイバランサーを活かし、アリステアの天使の息を受けながらダンマークを駆け上りガンヒルトに肉迫する。 「貴方も戦いが好きだなんて、ルカたち似たもの同士なのかもね。 はじめまして、ルカルカ・アンダーテイカー。 貴方を墓に押し込んで二度と外に出てこれなくする護人の名前よ」 「ガンヒルト・グンマ――有象無象を射殺し轢殺し燃やし壊す暴君戦車!!」 小さな小さな硬貨すら射抜く正確無比な弾丸がルカルカの腹を射抜いた――ゴプ、血濡れる唇、それでも速羊は音速を超える速度でシュトルムボックの鉄槌を振るいまくった。 一瞬でも、時を稼ぐ。 その間に。 弾丸の音が少しずつ小さくなってきているのは敵兵がまた一体と倒れているから。 勝機はまだ――ある、掴み取ってみせる! 「ッ……、」 遂にルカルカも落ちた。しかし決死の覚悟で振るった槌は暴君に決して軽くは無い傷を負わせる事に成功する。 暴君は肩で息をしながら、血に噎せながら睥睨する――戦場、全滅した兵士達。此方を睨む銃口。 「また腕が飛んだら次は更なるパワーアップフラグですよ。良かったですね」 モニカが虎殺しの照準を合わせながら言う。「尤も貴方に次はありませんが」と。 「中々お強いですが、某神父様の腕を刺し違え寸前で捉えた時と比べれば幾らか楽なものです。 ですので貴方は腕だけでは済みません。人生お疲れ様でした」 1$シュート、ダンマークを狙い。予想以上にダンマークが元気なようで何よりです。死ね。 「BlessYou! 女も黙ってワンコインといきましょう?」 エナーシアもガンヒルトへ撃つ。仁太のパンツァーテュランがダンマークに着弾する、爆発の弾丸はそれをよろめかせる。 七海はそんな仲間の精神力供給を、アリステアは回復を。 それでも暴君は笑い、応戦する。ダンマークと共に弾丸の嵐。 遥か後方の七海は彼女の右腕へ矢を番えた――思った通り二回行動、なんかそんな中ボスがいたような。今度は左手もどうです?なんて思ったが。 「バトルマニア? 片腹痛い。貴方はただの死にたがりでしょう」 撃った。超速の矢。それは香夏子・ルカルカが攻め立て軋ませたガンヒルトの右腕一本を刎ね飛ばす! 「ぐッ!」 顔を顰める、それでも狙う――アリステアへ、悪夢の様な黒い弾丸。ミッドナイトマッドカノン。 「きゃ――」 狂乱の闇が回復手を覆い尽くし圧し潰した。黒。手痛い回復手への攻撃、庇う者が居ればあるいは。 しかしその中から歌が聞こえる。癒しの祝詞。楽園の歌。 「負けない、負けない、絶対に負けないんだから、皆で勝つんだからッ!!」 運命を燃やし、痛みに涙を滲ませながら、彼女は歌った。高らかに、清らかに、聖女の如く。 エナーシアの弾丸がガンヒルトを追い詰める。モニカの弾丸がダンマークをまた抉る。仁太もタンクの残骸で弾丸を凌ぎながらパンツァーテュランで狙った。 運。それが自分の武器。 (失敗するなんて下を向いたらあかん) 最後まであきらめずに、希望を信じて、新たな境地に一歩踏み出して、奇跡を。 「チャンスに必要なチップなんぞフェイトでいくらでも払っちゃるわ。 確率が低かろうがやらんかったら奇跡も起きんぜよ。 わしだけに出来るわしだけの戦い方を活かすんや! 来いや――歪曲運命黙示録!!」 1%。 たった1%、されど1%、 七海も決意した。運命を、戦局をひっくり返す奇跡の様な奇跡を。 ――しかし、赤き月の下に 奇跡が起こる事は無かった―― 「……、」 ビス、ビス、弾丸に撃たれ、ふらつくガンヒルトが失血にボンヤリした目で右手を振り上げる。天へ撃つ。宙へ。その弾丸は曲がり――地上へ、火柱となって、 戦場を焼き尽くした。 ●Rot 普通ならば死んだだろう。 だが残念、エクステンド。 「……何処行くの?」 ダンマークの地響きと共に進みだした暴君戦車へ、運命を燃やし立ち上がったエナーシアが銃を向ける。撃つ。ご執心のドタマ。ガンヒルトのこめかみを掠めた。 モニカ、七海、仁太も運命を使う――銃を向ける。が……歯噛みした。 限界だ。 立っているのはたった四人。半分以上削られた戦力。回復手も不在。精神力も限界。 何よりこれ以上彼らが弾丸をばらまいたら……倒れている者が死んでしまう。 「くっそッ……!」 叫びながら飛び掛かりたい気持ちをグッと抑え、仁太はパンツァーテュランを下ろした。モニカは深い溜息と共に仲間を見遣る。 「撤退、ですね」 「……。」 七海は黙って頷く。満身創痍でシンヤの元へ向かうのだろうガンヒルト、エナーシアはその姿を最後まで見据えていた。狙っていた。 「下がりましょう。……別場所の敵に襲われたら、それこそ」 モニカはそれ以上続けなかった。だが、武器を収納したパワードアームでそっとエナーシアのショットガンを下げさせる。 「――……」 黙って目を閉じ、エナーシアは静かに息を吐く。銃を収納する。 仲間達と目を合わせ、協力して倒れた仲間へ手を貸した。 走り出す。撤退地まで。 背後では暴君の足音が――ずーん、ずーんと響いていた……。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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