● 最近、その人物は市内のあちこちにちょこちょこ出没していた。 だから、みんなちょっと安心……油断していたのだ。 『少しは、生活能力がついたに違いない』 それは、大きな間違いだった。 ● 「七緒が、またぐったりしている所を発見された」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、これで四回か五回目。と付け加えた。 電話に出ないので、アーク職員が様子見にいったら案の定。 「うっかり」水分補給と食事摂取と睡眠とエアコンのスイッチ入れるのを忘れた。 「三高平に来る前は、スタッフという名の友達が交代で世話してたみたいだけど、今一人だからね。さすがに続いたから、家事能力についてヒアリングしてみた」 で。 結果は。 「皆無だった。そもそも元は手タレだったらしく、雑巾も包丁も針もアイロンも持たせてもらえなかったって。洗濯は、全自動をかろうじて。ただし、干すと手が荒れるからだめだって言われたって。カメラはようやく持たせてもらえた道具だとか言ってるらしい」 過保護だ。 「とはいえ。この先の人生、そうも行かない。今の内に覚えさせた方がいい。という訳で、一肌脱いでくれる?」 つまり。 「七緒のうちに行って、規則正しい生活、朝起きて夜寝て、三度三度ご飯を食べてと言うのを……」 ふうと、ため息。 近親者に似たような者がいると苦労もひとしおだろう。 「叩き込んで。まだ間に合うかもしれない」 もう間に合わないのがいるんですね、分かります。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月10日(土)23:22 |
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■メイン参加者 19人■ | |||||
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● 富子さんは、いろいろ考えて来ていた。 (さてと、とりあえずは何からさせたらいいものかねぇ……困ったもんだね。よし、じゃぁまずは部屋の片づけから食事、洗濯……と) 「あんれまぁ、なんだいこの部屋はっ!?」 富子さんが考えていたのは、万年床、山盛りの洗濯物、散乱したお菓子の袋、マーガリンとお酒しか入ってない冷凍庫……典型的なだめ人間のすみか。 七緒の場合、そこまでたどり着いていない。 なんにもないのだ。 部屋の真ん中に、カウチソファとローテーブルがある。 それだけだ。 ベッドすらない。 だめ人間ですらない。生物としてだめだ。 「それにしても……一回の訪問でとても改善するとは思えないねぇ。こりゃしばらくは通いだね。まったく……しょうがない子だよ」 富子は穏やかな笑みを浮かべた。 七緒の生活態度は、小夜香の保護本能を刺激してやまない。 (規則正しい生活はともかく、生活能力はつけてもらわないと……ま、今日のところは私達で何とかするしかないわね。 (……なんか、妹が出来たみたい。私のほうが年下だけどね) 「とりあえず、カップ麺の買い方と作り方を教えるわ」 光も同意。 「とりあえず、金があるならカップメンだな。ゴミは解らない時は全部捨てろ」 源一郎も鍋で茹でる袋麺とカップラーメンを持ってきて、七緒の前で一杯作って見せる。 (良く今迄生きてこられたものだと感心するが、三大欲求のうち二つを忘れてしまえるとは、人として問題が有ろう。少しでも改善せねば) 「隣についている故、試してみよ」 かやく袋が破れない。 格闘しているうちに、沸騰したお湯が溢れた。 「難しいならば、こちらを試そう」 カップラーメン。 「お湯、熱い」 「慣れて貰う他無い」 源一郎は、根気よく教えた。 練習の甲斐あってか、かやく袋は三割の割合で破れるようになった。 更なる試練が七緒を待っている。 アークが誇るプロアルバイター、ランディさんは料理講師もできるのだ。 「さて七緒よ、オメーがズボラだってのはよーく知ってる。でもピーラー使うのは好きだよな? んじゃあ、スライスポテト作ろうぜ。ちょっとジャガイモの色が人の肌に見えない事も無いだろ?」 「質感とか丸無視した発言、ありがとぉ……」 「仕方ねぇなぁ……こうやってちょっとお湯にひたすと柔らかくなって人肌の温度になるんだぜ」 「いや、あたしにも素材を選ぶ権利ってものがぁ……」 と言っている内に、七緒は、確かにジャガイモは透けるほどの繊細さでむけた。 思わずダイニングで沸きあがる拍手。 なんで漫才の片手間でそんな器用な真似できて、ビニール小袋開けられないんだよ。 「で、パリっと揚げて仕上げだ。おめーが好きな事やってあとは揚げて塩振るだけ、簡単だろ?」 「揚げる……ぅ?」 なにそれ、こわい。 七緒は、この世の終わりが来たような顔をした。 料理の出来る人間には分からない恐怖と言うものがある。 料理できない人間にとって、煮えたぎった油は一触即発地雷原だ。 「無理。どう考えても、無理。跳ねたらどうすんのよ」 「美人だからって、そんなんだと嫁の貰い手もねーぞっと」 「お嫁がほしいなぁ、稼ぐから……」 「んーむ、では、婿要るかぇ? 美散とか」 瑠琵が、まさかの縁談を持ち込む。 「還暦の頃に、エレガントなお爺ちゃんになるならもらう」 その保証はない。というか、成長止まるんじゃないのか、この一族。 (ここにいるのは、浮世の義理、つったら笑うかね……まあ、いいか) 冥真は、扱いやすい鮭の切り身なんかを持って行き、焼き方を教えた。 「皮から焼くのが鉄則だし、焼き加減は細かく。生焼けじゃ目も当てられん」 「……ねえ。これ、後どうすんのぉ?」 料理の出来る人間には分からない恐怖がある。 料理できない人間に、使い終わったグリルの扱いほど怖いものはない。 終と達哉は、段ボール箱の梱包を解いていた。 七緒のうちに届けられた新品の炊飯器と電子レンジは、まさかと思いつつも事前にアークに問い合わせして手配してもらったものだ。 届けられてから、開封されていなかったのがまた泣ける。 冷蔵庫は据付だったので、かろうじて稼動しているのが奇跡に思える。 終は、七緒の手のために炊事用ゴム手袋を渡した。 達哉は、電子レンジを使いやすい所に設置する。 「あいつらがいないとこうもダメなのか…早いとこアークに貢献して呼び戻してもらった方がいいかもしれんな」 そのためには、真人間にならないと。ああ、アンビバレンツ。 「レンジでチンという超お手軽料理を教えるとしよう。電子レンジや冷蔵庫があればチン1つで飯が食えるのは便利になったな……」 まったくじゃと咲夜が応じる。 「レンジでチンするだけで食べられるような便利道具そろえたらどうじゃろうか? 水とパスタ入れてレンジで温めるだけとか、魚の切り身を載せてチンするだけで焼き魚のお皿等。うむ、最近は便利になったよの」 スーパーの袋から、出て来る出てくる便利グッズ。 ポテチ作るグッズもあるんだよ。 「これなら七緒嬢でもできると思うのじゃが、どうかのぅ? もちろん、熱い物を触るのじゃ、その際はミトンをきちんとつけるのじゃよ?」 「手袋一杯……」 七緒は分厚いミトンを不思議そうに見た。 そあらには、七緒に生きていてもらわないと困る理由がある。 (七緒さんには素敵写真を撮って貰わないといけないですから。いつも元気でいて貰わないとです。まずは冷蔵庫の様子を確認するですよ。いちご発見) と、そあらが考えたときには、もういちごはそあらの胃に消えている。 (本当に果物しか入ってなかったです) 今度は空っぽの冷凍室を開ける。新品の匂いがする。 (食べる事すら放棄する人がお料理なんてしそうにないので、食べるのを忘れないようにする工夫をするです。お料理教えるのはその次の段階です) あまりにも的確な分析だ。 「なにやってんのぉ?」 「ジッパー付の使捨ての袋に1回分のご飯やおかずを入れて冷蔵や冷凍したもの、日付書いてあるですから順番に湯煎やレンジでチンして温めて食べて下さいです。温める時間や、やり方はメモに書いてあるですよ」 「――ゆせん?」 メモを読め。 光は、涙をぬぐいながら言った。 「すがすがしいぐらいなんにもなくても大丈夫。ビニ弁でいきていける」 いや。と、うさぎは、無表情のまま、ずずいっと七緒との距離を縮めた。 「スーパーに行きなさい。弁当惣菜おにぎりサンドイッチサラダ何でもある。スーパーです。コンビニは高い。火急の際以外は駄目!日常的に買うなら絶対にスーパー、それも割引品です。良いですね? スーパーの割引! はい復唱!!」 「すーぱーのわりびきぃ……?」 「割引シールは大体夜8時から9時にかけて貼られます。割引タイムの惣菜コーナーは戦場と心得て下さい」 「え~、なにそれぇ、めんどく」 立て板に水を流すごとくしゃべるうさぎが、「さい」まで言わせるわけもない。 「近辺のスーパーを下調べした情報をこのメモにまとめました。どうぞ」 ずいっと差し出されるメモ。 七緒、うけとるでもなくとらぬでもなく。 「良 い か ら」 今までの騒ぎを見ていた瑠琵は、また別アプローチ。 「ふむふむ、これはなかなか重症じゃのぅ。七緒には生活を管理するモノが必要なのじゃ」 放り出したままの七緒の携帯を取り上げると、瞬く間に、起床・朝飯・昼飯・夕飯・就寝時間にアラーム設定してしまった。 同じことを考えていたとらが、おなかが減るような歌がいいと主張する。 「アラーム音はわらわが直々に吹き込んでやるのじゃ。後は、どうせ放置して歩くだろうから、一部屋に一携帯かの」 「そんなにあったらうるさいわよぉ。一斉に鳴るんでしょぉ?」 止めて歩くの、めんどくさい。 ウラジミールととらは、宅配申込用紙の記入に余念がない。 「曽田女史にも困ったものだ」 ウラジミールは、栄養剤やレーション関係のものを定期的に家に通販されるシステムへの加入を奨めた。 「家の事などは家政婦かメイドのような身の回りの世話をしてもらえる人を雇ってはどうか」 「あたし、ひとみしりだからぁ」 「そちらが構わないなら、生存確認へ訪問しよう」 「暇な時で構わないからねぇ」 ● 那雪は、七緒に同情的だ。 オーバーフロー気味の七緒の前に紅茶が出される。 「大丈夫、私も、うっかり食事忘れたり、うっかり水分補給を忘れたり……うっかり、道端で眠ってしまって、知り合いに回収されたり、することが多いから……」 (気持ちは、わかる……わ。怒られると……みんなが、心配してくれている、気持ちがわかるから、尚更……) 「…お互い、生き抜きましょう、ね……」 手をとって頷きあう。 瞑も、こそこそよってきて円陣を組む。 「家事なんか出来なくても人間生きていけるって! 私だって一人暮らししたら多分おんなじ感じになると思いますし! まあ、食べるの忘れるとかはないけど」 そんなだめ女子の背後に、精神的修養を。 「お前さんらに、規則正しい生活を教えりゃいいんだよな」 フツ、あなたの笑顔がさわやか過ぎてめまいがします。 「よし、わかった。アレやろう、写経。無心になっていいぜ。オレが使ってたスズリとか筆とか持ってきたから、それ使ってやろう」 あれよあれよと、ローテーブルに広げられる半紙にすずりに筆。 なし崩しに正座させられ、写経させられる三人。 まずは、無心になって、理論武装はずして、自分を見つめなおそう。ね。 ● ソラ先生は、更に別アプローチ。 「食べるのを忘れるなんてもったいない……!! ぐーたらしながら美味しいものを食べる……至福の時間じゃない!!」 同年代大人女子、青春の次の季節、朱夏の主張! ぐったりしている七緒の前に置かれる生ビールロング缶。 「お酒を飲めとは言わないけど、食の愉しみを捨てちゃダメ。食べなくてもしばらくは大丈夫とかそんなんじゃないの。飲んで食べて満たす」 腹と心を! 冥真が焼いた鮭、ランディ指導でむいて、咲夜がレンジでチンして作ったポテチ、源一郎とためしに作った袋麺とカップラーメン。 ソラ、容赦なくつまみながら、あおるビール。 「むしろ要求する。つまみがたりなーい!!」 「ちわーす、新田酒店でーす!」 酒がほしいなら、お電話一本で即参上! 酒壜ケースを抱えて、快登場。 (食べることが楽しいと思えるようになれば、面倒臭さを凌駕する。ここは、食べることが楽しいと思えるようなアプローチを試みる。名付けて『晩酌すると、お摘み食べたくなるよね?」作戦!) 流れる勢いでグラスを取り、一升瓶の口を切り、まずは味見とずらりと並べる。 「飲んで楽し、美容に良し、の日本酒をご案内。今なら地方の銘酒お取り寄せ!」 蔵出しの季節が待ち遠しいね! 「そんな日本酒を楽しく飲むにはお摘みが必須。乾き物や缶詰なら調理の手間は要らないよ。気が向いたらスーパーでお刺身でも」 なし崩しに始まる酒盛り。 「あとはスーパーで買ってきた食材を使ってカレーでも作るよ。これがあれば3日は生きてられるだろう」 達哉が台所に消えていく。 「ゆるふわの子に、『美味かった』って伝えてくれ。あと、食い物の好みとかあるかね」 にまぁっと笑ってコップ酒を差し出す七緒に、冥真は目をそらす。 「……他意はねえよ、義理だ義理」 「写真でも見せて貰おうかしら? 今まで興味無かったけど、この間の見て写真もいいものだ、ってね ただし皮とかグロイのはノーサンキューよ」 「この辺が、アーク関係ぃ」 小夜香が言い出したのに、七緒がパソコンのフォルダを開ける。 更になし崩しに始まる鑑賞会。 「つまみ足りない!」 ソラが叫ぶ。 「仕方ないねえ。何か作ろうか。ここにいる全員分材料足りるかい?」 富子の言に、うさぎがぽんと手をうつ。 「よし。では実地訓練と行きましょう。七緒さん、スーパー行きますよ。買出しの練習です」 「えぇ、なにそれぇ、めんどく」 「良 い か ら」 「米買ってこい。この家、そもそも米ないぞ」 「買い物行く人~」 「子供はカレー食べたら帰るのよ~。 大人は酒盛りだ~!!」 「ええ!? 七緒たんちに泊まるつもりだったのに! コタツでいいから!」 「このうち、コタツない」 「買う!?」 「そんな、悪魔の家電製品与えんな!」 翌日。 七緒の家から、ぐだぐだのだめな大人達が大挙して帰っていった。 とりあえず、七緒は二日酔いの朝にレンジでレトルトおかゆを温めることと、取り出すときはミトンをすることを覚えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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