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【はじおつ】エフィカさんとはじめての破界器

●百発百中
 百射れば百を貫き、千射れば千を穿つ。
 こと、射撃に己が身命を賭した者であれば、それは一つの幻想であり、理想像である。
 故に多くの場合、神話に於いても伝承に於いても、人はその奇蹟を具象化する。
 弓の形を取った神は得てして、必中を以って人に非ざる事を証明するのだ。
「本物なの?」
「分からん、十中八九はレプリカだろうな。
 ただ、万が一にも本物である事を考えれば、放ってはおけんだろう」
「……うん、そうだね」

 久々の家族水入らずに、正しく水を射されたとある親子。
 その娘の方が現状動かせるアークの人材を頭に浮かべる。今度の戦いは相当面倒な物である筈だ。
 まず、射撃武器を使えない事には始まらない。
「しかし、神話級破界器何てのは流石になあ」
 怪訝そうな仕草で、『研究開発室長』真白・智親(nBNE000501)が首を傾げる。
 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が彼に相談を持ちかける等と言う事はそうはない。
 出来れば力になってやりたい物だが、万華鏡の。そしてイヴの判断は揃って同じ。
「絶対に贋作とは言い切れない」

 何せ、それは確かに必中を為しているのである。

●処女神の挑戦
「えっと…………」
 困ったような笑いを浮かべて『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)が
 ブリーフィングルームで立ち尽くす。まあ、それはそうだろう。
 イヴの持ち込んだ仕事は、ちょっと、かなり、大分、御年頃のお嬢さんには難の有る代物だった。
「今回の仕事は、アーティファクトの回収」
 ブリーフィングルームのモニターに映し出されるのは、石壁の洞穴。
 そう、石室である。その中央に光を帯びてふわふわと、何かが浮かんでいる。
「狩神の弓。ギリシャに於いて処女神や月の女神としても知られるアルテミスに纏わる弓。
 その射撃は百発百中。決して外れる事が無いとされる」
 すらすらと、暗記する様に告げられる言葉。けれど――
「ただ、オトメを射抜く事は無いらしいのね」
 ……
 …………
 ………………
 空気が重い。恐ろしく重い。重過ぎて思わず視線を逸らしたくなる。
 へえ、そうなんだ。と流す事すら許さない残酷な沈黙。いやだって、オトメって。オトメって。
 何て言うか、うん。いたたまれない。何時も笑顔なエフィカすらが軽く引き攣っている。

「この弓は、自ら在るべき場所を選ぶ。回収するには弓を屈服させるしかない。
 それには射撃で以ってこの弓に勝つ事が必要」
 百発百中、必殺必中たる神話の弓。そんな物に勝つ何て事があり得るのか。
 何事も無かったかの様にイヴは続ける。前振りが前振りだけにいっそその方が気が楽で――
「射る物次第では十分勝てる。チャンスは5回。5番勝負」
 つまり、5回のチャンスでより多く対象を射抜いた方の勝ち。と言う事か。
「射手は5人必要。射抜く対象は動物に限られる。動物は最低限回避行動を取らないといけない。
 これは弓に認められる為の最低限のルール。狩神だからね、狩猟で勝たないと駄目」
 では、何を持って射抜く対象とすべきか。答えは容易い。
「だから、ここにエフィカさんを連れて来た」
「…………」
 沈黙。そっと視線を逸らしたマスコット少女の仕草に、
 思わずリベリスタ達も視線を逸らさずにはいられない。畜生アルテミスめ。
「これもお仕事。幸い、他に射抜かれる候補者が居る場合はエフィカさんにも
 射手として参加して貰える。一石二鳥」
 無表情ロリが冷たく告げる。これがアーク勤めの侘しさである。
「あ……の……よろしく、お願いします」
 ぺこりと、頭を下げる。何所か歯切れが悪いのは言うまでも無い。畜生アルテミスめ。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月16日(金)21:30
 46度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 エフィカさん同行依頼無謀編。かなりアレです、本当にごめんなさい。以下詳細。

●依頼成功条件
 狩神の弓をアークに持ち帰る。

●狩神の弓
 ギリシャ神話の月の神にして処女神。アルテミスに纏わる曰く付きの弓。
 9割5分位の確率で誰かが造ったレプリカだと思われる。
 静岡県北部の発掘現場より出土した石壁の中に封印されていた物。
 意志が宿った破界器であり、近付く者を必中の精度で射抜く厄介な性質を持つ。
 飛行による自律移動、自律射撃可能。但しオトメを射抜く事は出来ない。

・アルテミスシュート:命中極大【状態異常】[致命]

●狩神の試練
 狩神の弓に挑戦する、と言う意思表示が有った場合、
 狩神の弓は挑戦者に以下の試練を課す。

・挑戦者は5名以上でなければならない。
・挑戦者は回避行動を取る動物を遠距離攻撃で順繰りに射抜かなければならない。
・挑戦者が射抜いた物と同じ物を狩神の弓は射抜く。
・狩神の弓の射抜いた数より多く挑戦者が的中させれば勝ち。引き分けは負けと見做す。
・獲物は動物であれば何でも良い。同じ動物でも可。
・集中、自付、回復スキルの使用は不可。

●強硬手段
 狩神の弓を実力で撃破し、これを無理矢理持ち去る事も出来る。
 この場合死亡=破壊、狩神の弓への攻撃は全て部位狙いとして扱われる。
 達成難易度はNORMAL相当。

●戦闘予定地点
 郊外の発掘現場。到着時間帯は自由。
 狩神の弓が封印されていた石室以外に障害物は特に無し。

参加NPC
エフィカ・新藤 (nBNE000005)
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
ホーリーメイガス
大石・きなこ(BNE001812)
プロアデプト
讀鳴・凛麗(BNE002155)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
スターサジタリー
那須野・与市(BNE002759)
覇界闘士
石蕗 温子(BNE003161)
スターサジタリー
リオ フューム(BNE003213)

●射抜く者
 周囲の拓けた工事現場。発掘された石室を遠目に、見つめるリベリスタ達。
 漂う空気は何所か冷たく、何所か重く、公開処刑と言うか合法テロと言うか、つまりはその。
(……き、気まずい……!)
 無言で石室を見つめる『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)
 何時も笑顔を絶やさない筈の彼女が真顔である。無言である。17歳の乙女は繊細なのだ。
 万華鏡の申し子である某真白さんちのお嬢さんにとんでもない仕事を押し付けられた彼女は、
 この石室へ到るまでの間殆ど会話に参加していない。
「あ、」
 そんな空気を何とか取り払わんと、声をあげたのは『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)
 見た目はイケメン、中身は残念。アークで一番有名なえっち依頼専属リベリスタ等と呼ばれようと、
 やる時はやるのが彼である。お調子者である事は否めなくともその明るさが今は頼もしい。
 果たして如何にこの氷結地獄を解きほぐすのか、周囲の期待が自然と向けられる。
「安心しろよ! 僕も処女だし童貞だぜ!!」
 ブリザードが駆け抜ける。滑ったと言うか、大暴投である。流石にその振りは誰もキャッチ出来ない。
 エフィカの目にハイライトが、無い、気が、する。
 成立しないキャッチボール、だが其処ですかさずフォローを忘れないのがイケメンの謙虚な所である。
「おっそろいだよね!」
 ダブルプレーでチェンジ。エフィカが思わず視線を背けた所で誰に文句が言えるだろう。。
「エフィカさん羽根ぱたぱた可愛いのよ。こんな子が獲物役なんてカワイソウなのよ」
 話題を変えるべくかはたまた天然か、『あかはなおおかみ』石蕗 温子(BNE003161)が声を上げる。
 その視線はエフィカの薄緑色の翼へと向いている。
「え、っと、そうですか?」
 きらきらとした眼差しを向けられ、何やらくすぐったげなエフィカ。
 期待に応え翼をぱたぱたと動かすと、数時間ぶりに柔らかな笑いが漏れる。
「だからわたしも代わりに出るのよ。大丈夫。ちゃんとオトメよ!」
 けれど続いた温子の台詞が、そんなちょっぴり緩んだ空気を台無しにする。台無しにする。
 石蕗 温子(10)ご近所のおにーさんからも、オトメでなかったら大問題と太鼓判を押されるお年頃である。

「しかし、百発百中の弓、のぅ。弓兵にはあこがれの存在じゃとわしも思うのじゃが……」
 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)の弱点は、その自信の無さである。
 実際にはリベリスタ達の内に有っても十分及第点と言えるだけの精度を誇るにも拘らず、
 彼女は自分の矢が当たらないと言うネガティブな幻想に取り付かれている。
 その精神性は射撃にも当然現れる。彼女にとって外れぬ弓とはある種の理想的武器。
 けれど、其は果たして本当にそうだろうか。
 弓とは武器であり、殺生の為の道具である。彼女の父親は其を称して言う。
「当てるも人間、引くも人間」
 必中の武器は覚悟を奪う。己を高めんとする気概を奪う。成長を妨げ停滞させる。
「でも、叶うなら」
 叶うなら一度だけでも手にとってみたい。
 『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)は駆け出しのリベリスタである。
 他の射手と比べても力不足を実感する場面は多い。
 例えば強大な壁に立ち向かう時、一発必中の求められる場面でこの様な弓の力が借りられたなら。
 同じ弓道に身を置く者として、その心情は与市にも良く理解出来る。
「まあ、どんな弓も適材適所ぜよ」
 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)が大切そうに抱えるのは、小振りな古弓である。
 かつて彼の大切な人から受け取ったその弓は、決して戦闘に向くそれではない。
 事実、本当の意味での決戦に持ち込むとしたなら仁太は其を持ち出さなかっただろう。
(これを使うと決めたら、無様に負けるわけにはいかんぜよ)
 必中ならざるが故の覚悟。その意は鋭く、また尊い。
 歩み到るは神弓の寝所。その志に応じて答えるが如く、開かれた石室の内より光が漏れ出す。

「これが、狩神の弓……」
 神話級破界器。言葉だけを聞いたなら御伽噺の様な不確かなそれ。
 けれど実際に相対し、『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)の口から思わず驚きの声が毀れる。
 一見した印象を一言で告げるなら、それは酷く素朴ながら極めて美しい丸木弓である。
 複合弓や金属弓とは異なり、材質的には温かな印象を憶えるも
 緻密なまでに刻まれた装飾が、唯一にして無二たるその完成度を引き立たせる。
 万華鏡を以ってして、模造品であると確定出来なかっただけの事はある。
 光を帯びて浮かび上がるその存在感は圧倒的とまで言って決して過言では無い。
 ぞくりと、背筋が震える。其は恐怖か、はたまた畏敬か。
(――もしもし、聞こえますか)
 『A-coupler』讀鳴・凛麗(BNE002155)がハイテレパスで問いかける。
 意思を持つとされる破界器。であるなら、意思の疎通も出来るのだろうか。
 凛麗のその挑戦に対し、言葉らしき物は返って来ない。しかし反応は、ある。
 こうと言語化する事は難しい抽象的なイメージ。理解困難かつ巨大な争乱、生死といった概念の波動。
 一瞬その流れに呑み込まれかけ、けれどその内より必要そうなイメージだけを必死に抜き出す。
 呼吸すら忘れる数秒。ハイテレパスを切った瞬間、凛麗の額にじっとりと汗が滲む。
「……己に挑戦するか、己を壊すか、この場を去るか。立ち位置を明らかにしなさい。
 どうも、そう言っているみたいです」
 告げた凛麗が周囲と視線を交わし、頷く。そうと問われたなら返すべき言葉は1つしかない。
 その為に、彼らはやって来たのだ。
「あなたに挑戦いたします」
 挑戦者達を歓迎する様に、狩神の弓が一際強く輝いた。

●射抜かれる者
「今回は動く的になっちゃいますよ~。これでも耐久力には自信があるので!」
 明るく告げる『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)はMである。
 耐久力に定評のあるきなこさん。だがその実単なるMである。
 ポロリに定評のある、きなこさん。一見健気で献身的なきなこさん。だが……哀しいかなMである。
 突然何を言い出すかと思いきや、事実なのだから仕方無い。そう、射抜かれる側に回るのは仕方無い。
 だが、誰も彼もがMである訳ではない。
「っし! しっかり当てろよ、お前の腕は信じてるから怖くねーよ」
 己を鼓舞する様に夏栖斗が声を上げ、仁太の腕を叩く。対する仁太もにやりと笑いこう返す。
「おう、夏栖斗には悪いけんど本気でいかせてもらうで」
 思わず夏栖斗が己の股間を手で隠す。彼にはこの後クリスマスと言う大切な行事が待っているのだ。
 三高平を支えるリア充の一角として此処で終わる訳には行かない。
 例え運命の祝福を燃やしたとしても、断じて。
「身を犠牲に立って下さる皆さんの覚悟、無駄にはしない」
 リオが精神を研ぎ澄ませる。弓を引き、的を穿つとは精神戦である。
 一瞬一挙の油断は容易く矢の軌道をぶれさせる。意思を、気概を、誇りを込めて、射る。
 射手として立つとは、即ちそういう事。
「そんなら先ずわっしからやらせてもらうぜよ」
 一番手。射手、坂東仁太。受手、御厨夏栖斗。対峙し、間合いを計る。
 互いに手加減は許されぬ真剣勝負。手抜きが見られたなら狩神の弓はその不正を許すまい。
 そして受手の反射神経は決して、悪くない。
 例え其が、仁太に股間指さしてから手で×マークを作っている残念イケメンであったとしてもである。
(こんにゃろめ、クリスマスになんか使わしてやっか!)
 例え仲間であっても、リア充と独り身の間には深くて大きな溝があるのがアークである。
 視線を向け、矢を番え、構える。己が身命を賭しての用いるは連撃の速射――バウンティショット。

「2人ともがんばるのよーっ!」
 温子の明るい応援に比して、当人たちの真剣ぶりたるや本気と書いてマジと読む。
「頼むで、夏栖斗の股間を撃ち砕くんや!」
 邪悪なるリア充の野望を撃ち砕かんと思わず漏れたその台詞を聞いた瞬間、夏栖斗は決意した。
 よし、本気で避けよう。
 放たれる矢は、されど一条。仁太からすれば痛恨と言えよう。完璧とはいかない完成度である。
 一方夏栖斗もまた動いている。股間へ飛んで来ると分かっていれば避けるのは容易い。
 否。そうではない、股間を射ると見せかけて狙ったのは脚部。
 其処へ夏栖斗が動いたが為に奇しくも矢は股間の真下を走り抜け、掠める。思わず何かが縮み上がる。
「うぎゃあああ!! あぶねっ! あっぶねっ! セーフ! セ――ッフ!!」
 セーフである。クリーンヒットとは流石に行かなかったか、仁太が悔しげに歯噛みする。
「さあ、狩神さんもどぞー!」
 半ば自棄っぱち気味に掛けられた声。それが思わぬ波紋を呼ぶ。
 狩神の弓がふわりと浮き上がる。形成される光の矢。狙うは夏栖斗――の、股間。
「ちょ! おま!!」
 弓の思考などは流石にトレース不能ではあれ。
 恐らくは仁太の一言が狩神の弓には、挑戦を叩き付けられた様に響いたのだろう。
 狙いは揺れないぶれない違わない。狩神であり処女神であるアルテミスはその潔癖でも知られている。
「股間は撃つなよ! 絶対に撃つなよ! ぎゃ、ぎゃぁああああ―――っ!!」
 ばさばさと、鳥達が羽ばたく。この日一人の少年が、青春の痛みを知った。

 黒星一つ。二番手、射手、那須野与市。受手、大石きなこ。
 弓の名家に生まれ幼少より弓を引き続けた与市にとって、弓を取るとは呼吸をするに等しい。
 先じて漏らしていたネガティブ発言とは裏腹に、凛と立つと自然な仕草で弓を引く。
「この矢はどうせ当らぬのじゃ。わしじゃしな」
 とは言え、発言は相変わらずネガネガである。流石にそこはどうしようもない。
 対するきなこはと言えば到って自然体。
 全力で逃げようとはする物の、彼女は特に反応に関しては鈍い方である。
 それを補って余り有る程の防御力があればこそ、別段過信していた訳では無いだろう。
 与一の矢はこれを射る。見事的中。だがこれはこれで、上手く行き過ぎた。
「痛―――っ!!」
 その矢はきなこの厚い防護をすら射抜く会心の一矢。
「わ、わしは、わしは何と言う事を……!」
 ふるふると、手が震え弓を取り落とす。その後は泣き土下座である。
 嗚呼、与一にネガティブな思い出がまた一つ。当然ではあるが神弓はきなこを射抜けない。
 白星一つ、黒星一つ。三番手。射手、讀鳴凛麗。受手、続けて大石きなこ。
「えっと、お手柔らかにお願いします」
 精神的にいじめられたり叩かれたりと言った事はむしろ御褒美と言う界隈の住人であるきなこであるが、
 流石に防具を射抜かれるという経験は応えたか、微妙に腰が引け気味である。
「はい、全力で外してみせます――痛みを」
 けれど次の射手が凛麗であった事はきなこにとって福音である。
 彼女は最初から出来る限り痛まない様に、と言う点を注視している。言われるまでも無い。
 凛麗にとっての戦いとは日常を、大切な人を護る為の手段であって目的では無い。
 必要の無い血は一滴でも流したくは無い。弓を引いてきなこのヘビーガードの中央を狙う。
 気糸による攻撃を流用した精密射撃。凛麗の手元から番えた矢が放たれる。
「ひゃっ」
 だが、ここで今度はきなこが過剰反応を示す。やはり射抜かれた恐怖と言うのはMでも厳しいのか。
 射られる瞬間つい跳び退いてしまったのである。
 これにより射線が大きくずれたか、防具を掠めるのみに留まる。

 狩神の御前、的中でなければ勝利は告げ難い。これにて一勝一敗一分。
 挑戦は後半戦へ縺れ込む。

●この一矢に定む
 四番手、射手、リオ=フューム。対して受手、石蕗温子。
「避け切ってかっこいいオトメに! わたしはなるっ!」
 温子が燃える。熱く闘志を燃やす。それは仲間達への信頼の賜物である。
 きっと勝利する。格好良く。だから温子もまた格好良く振舞わずにはいられない。
 他方リオはと言えば、変わらず何所かぼんやりとした仕草でその様を見つめている。
 彼女も、そして温子も、狩猟の意味が分からないほど幼くは無い。
 狩猟とは命を奪うと言う事であり、その本質はあくまで殺生。遊びや戯れで行うべき事では無い。
 であるなら、この試練もまた同じ。色々とハプニングはあった物の、真剣勝負である。
 例え力が足りずとも、今出来る自分の全てを賭す。精神を研ぎ澄ませて、矢を番える。
 霞がかった様な呆とした眼に意思の光が灯る。泣き虫な少女が武器を取る、その覚悟。
「全力でいきます」
「よろしくなのよ! Go Fight!!」
 リオが番えた矢を放つ。1$硬貨をも射抜いてみせる、スターサジタリーの妙技で以って。
 其に向かい、爛とした眼を向けるは温子。鏃の切っ先が己へ向こうともその瞳は揺るがない。
 威厳すら纏わせ狼少女の身が跳ねる。その反応速度は正に半獣の面目躍如と言うべきか。
 超反射神経に後押しされた温子の動きは年齢に比して決して悪くは無い。
 それでも平常であればリオの矢は温子を射抜いていただろう。平常で、あれば。
 他の射手を見続け緊張でもしていたか、リオの射撃は精彩を欠く。対して温子の回避に一片の躊躇も無かった。
 避ける。避け切る。射った矢が砂の大地に滑って転がる。回避し、切った。
「ふふーん♪ 何度だって挑戦して良いのよ! 狩神の試練抜きでもね!」
 そっと息を吐いた温子が調子に乗る。乗りまくる。
 威勢だけは人一倍、ちょっとした事で鼻がエベレストになるのは彼女の常である。
 対するリオはほっとしつつも何所と無く寂しげに、言葉も無く瞳を伏せる。
 乙女である温子を、狩神の弓は射抜かず、射抜けない。

 一勝一敗、二分。
「……えっと……」
 そして大取りを任されたエフィカはと言えば、まさかの引き分けムードに大いに困惑気味である。
 ここで自分が射抜けば依頼は確かに達成される。
 けれどまさか此処まで追い込まれるとは思っても見なかったのである。
 言うなれば、エフィカは緊張していた。それも、ちょっと無い位にガチガチにである。
「エフィカちゃん」
「はっ、ひゃいっ!」
 其処へ、五番手の受手である所の遠子が声を掛ける。視線を合わせればその眼には真摯な色。
「エフィカちゃんの弓の腕を信じてる」
 其れだけを告げて、遠子が配置に着く。振り返り、手を振って笑う。
「えっとでも、できればお手柔らかに……ね?」
 彼女とて、射抜かれる事が怖くない訳では無い。痛い事を好む訳でも無い。
 けれど、自分が射るより、エフィカが射た方が成功する可能性が高いと、遠子自身が見切ったのだ。
 であればその期待を、裏切るわけにはいかない。
 五番手、射手、エフィカ・新藤。対して受手、言乃葉遠子。 
「エフィカ・新藤。参ります」
 碧のショートボウを顕現し、見切り、打ち起し、矢を番え――射る。
 其は与市が撃った業と同じ物。スターサジタリーの魔弾、アーリースナイプ。
 一切の手抜き無く放たれたエフィカ最精度の一撃が、遠子を射抜く。
 これでもエフィカ・新藤。忘れられがちながら元プロトアーク構成員である。
 後に遠子はこう語る。
 あんまり、お手柔らかく、無かった。
 うん、いやまあ緊張している大一番、手心を加えろと言う方が無理である。

 閑話休題。
「アークの仲間は射撃もすごいのよ!」
 尻尾をぱたぱたと誇らしげな温子を余所に、傷付き果てた仲間達が狩神の弓の前に立ち並ぶ。
 ふわりと宙に浮かんだ弓は、それらを一瞥する様に旋回したか。
 反応に困りつつも、凛麗が意を決して今一度ハイテレパスを試みる。
 それは、大河の様な記憶である。神話を再現するべく生み出された破界器。
 彼の弓はこの東方の地へ流されてより長い長い時間を待ち続けていた。己を託すその先を。
 憎い? 寂しい? 嬉しい? 事前にリオが考えていた、弓の気持ち。
 それは一部当たりであり、一部ハズレである。
 弓にはやるべき事があった。其は何を於いても、己が真を証明する事。神話の再現を、此処に。
 であれば、敗北した以上従うは道理。けれどその最後の一押しを、本好きな少女が正確に“射る”
「弓さんが本物かどうかは気にしないよ。だって弓さんには弓さんが生きてきた物語があるんだから」
 だからどうかと。彼女は乞う。ならば然りと、狩神の弓は確かに応える。
「百発百中の弓も、乙女を撃ち抜けねば完全では無い。という事も、ないでしょうしね」
 凛麗の応えに満足そうに、弓はからりと音を立てて地に落ちる。
 いそいそと抱えるのはやはり好奇心には適わなかったか、つい一瞬前まで土下座外交に徹していた与一。
「さて、ほんならアークへ帰るぜよ」
 仁太が音頭を取り、役目を終えたリベリスタ達が帰路を辿る。
 痛みをも耐え抜き神話の試練を乗り越えた、何所か晴れやかな気持ちと共に。
「……あっ、あのっ、御厨さんがっ」
「やっぱり、仲間を撃つんは心苦しいことやね」
 シリアスに締めの台詞をきりっと告げ、仁太が帰る。他の仲間達も帰って行く。
 倒れた少年を残したままに。

 その……クリスマスまでには、完治すると、良いですね。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
イージーシナリオ『【はじおつ】エフィカさんとはじめての破界器』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

まさかまさかの連続でダイスを回す手が震えました。
最後まで一進一退の攻防、皆様のチャレンジャー魂に心より賞賛を。
そして唯一重傷を被られた方はくれぐれもお大事にして下さい。完治するかはリハビリ次第かと。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。