●向かい風 その日は非常に強い風が吹いていた。 吹き荒ぶ風、という表現がぴったり来るほどには暴風が吹き荒れており、人は外に出るのも困難になっていた。 それだけ聞くと台風のようであるが、そうではない。雨も降ってはいないし、雲も出ていないからだ。 それどころか、すべてを吹き飛ばしたような青空が広がっており、異様な天気だと人はただ首をかしげた。 その原因は、エリューションだ。風のエリューション・エレメントがその街に出現したことによって、その街だけが暴風に包まれたのである。風から生まれ、風を操る力を持っているエリューション・エレメントにとってはそれぐらいは朝飯前だ。 さて、このエリューション・エレメントは困ったことに成長中であった。今はまだ暴風の域に留まっている風であるが、もし成長してしまえば建物を吹き飛ばすこともできる。未曾有の災害となることは間違い無いだろう。 そんなエリューション・エレメントであるが、目的は一体何なのか。それをアークは掴めないでいた。目的が分かれば対策も立て易いのだが、この風は気まぐれである。時には木々を吹き飛ばして人々に危害を加えようとしたり、時には女の子スカートをめくるといった悪戯をしてみたり、時には無意味に空を飛びまわったりするのだ。 もしかすれば、特に目的はないのかもしれない。風の吹くまま、気の向くままという奴である。 しかし、放置するわけにもいかない。エリューション・エレメントを倒すことをアークは決定し、リベリスタ達を招集することに決めた。 ただの風ならば旅人が衣を纏うだけで済むが、強すぎる風なら人は立ち向かわなければならないのだ。 ●風の吹くままに ブリーフィングルームに集められたリベリスタ達は、この目的のないエリューション・エレメントの資料を見ながら戦いにくい敵だと思った。 「集まったね。今回は敵を倒すだけの、単純な依頼だよ」 とはいえ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言うとおりやること自体は簡単である。エリューション・エレメントが現れると思われる場所にゆき、戦いによって打倒すればいい。 「ただ、行動は読めないからどんな行動を取ってくるのかが絞りきれない。豊富な攻撃手段もあるみたいだから、気をつけて」 資料によれば、戦闘時は八種類もの行動をとるという。戦闘以外では何をするのか分からないし、本当にふっと現れた迷惑な風である。 「それと、戦闘する場所は高所だよ。このエリューション・エレメントは高いところを好むから」 風だけに素早く、飛行能力を当然のように持っている敵だ。厄介なことこの上ないだろうとリベリスタ達は思うし、手に持った資料にも似たようなことが書かれていた。 「今回の敵は厄介……かもしれない。がんばって」 ぐっと手を握った真白イヴの姿を見ながら、リベリスタ達はどう対処していこうかと頭を捻る。 「……あまり回り道をすると、やられちゃうかも?」 そんなリベリスタ達に、真白イヴはアドバイスを送った。 ともかくも、単純で難しそうな依頼だ。真白イヴのオッドアイに見送られながら、リベリスタ達は会議を始める。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月13日(火)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●スカートと風 今回の敵は、風のエリューション・エレメントである。風といえば、気ままに吹き荒ぶもの。その実態を捉えることはできないもの。 「風のエリューション、ね。はっ、面白ェじゃねえか」 腕を組んで仁王立ちし、結界を張る『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)の下半身にはスカートが装備されている。眼帯の目立つ顔はいつものように超強気で、スカートに対する羞恥心はない。 「風と雷、どちらが速いか競おうぜ。迅速果断は俺様の身上。遅ェ奴は退きな、雷帝様のお通りだ!」 中指を空に向けて、啖呵を切るアッシュの姿はとても自然で、スカートを穿いていることなどまったく気にはならないようであった。 さて、スカートを穿いているのは気まぐれな敵に無駄な行動をさせるための作戦である。だから、こうやってアッシュは体を張っている。 「気まぐれな風、いたずらをする子供みたいな敵かな。まるで子供と遊んであげる様に、面と向かって一生懸命に戦ってあげなきゃ……」 空に向けて人指し指を向けて、『さくらのゆめ』桜田 京子(BNE003066)は小さく指で作った銃を放つ。 「ばきゅ~ん」 ウインクもしている。京子は空の向こうから来るはずの子供のようなエリューションと遊ぶのが少し楽しみなのだ。なぜならば、証明ができるから。 「私も実は結構気まぐれ。誰かを好きになるのも、アナタに話しかけるのも。でも気まぐれである事に強さを貰ってる。気まぐれだけど臆病でもあるから」」 その言葉の証拠にロープも体に括り付けてあるし、スカートだって穿いている。スカートの下にスパッツを穿いてこなかったことは失敗だとは思っているけれど、いくら気まぐれでも嫌がられなければ何度も手段取ってこないと判断したのだ。 「しかし、凄く強い風だなぁ。落ちないように気を抜かないようにしないとね……」 ビル風にサイドポニーとスカートの裾が煽られていたので、慌てて抑える京子であった。 「気まぐれで、いかにも風らしい、敵……だね」 無表情に、淡々と言葉を紡ぎつつ、ツインテールとスカートを風に揺らせているのは『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)だ。しかし、修行の一環としてスカートの中身が……な天乃は、揺らせはするが、中身を見せはしない。修行だからだ。 「弱いなら、それでいいのかもしれないけど……気まぐれで、破壊を撒き散らされても、困る。力をつける前に、止めないと、ね」 とはいえ、スカートを穿いているのも普段通り。 「高所での、戦いも面白そうだし……悪くない相手」 普段通り、その細くて白い体を使いながら、戦いへの欲求を満たすだけだ。玩具を待ちわびる子供のような心を持ちながら、無表情に天乃はエリューションの出現を待つ。 「高所での戦闘で、しかも相手は風を操るE・エレメント」 戦闘前に眼鏡を整え、呼吸を整えて心構えを作る『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は、その対策をしてきた。スカートではないが。 強風に飛ばされないように、踏ん張りが利く安全靴。それと、重量があるヘビーガード。 「ともあれ、やることは至極単純」 準備さえ終われば、後は簡単だ。糸目を鋭くし、剣の柄を掴んで集中力を高める。風を切るというのだから、これぐらいはしなければならない。 「敵の殲滅、それだけです」 孝平はストイックに、戦いの決着を頭で思い描く。 「ちょっと……というよりかなり重いけど……。頑張っていこう……」 そんな孝平と同じく、ヘビーガードを使って準備をしているのは『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)だ。可愛らしく、子供のような体型のアーリィには、重量級のヘビーガードは少し堪えたようである。 (服の上にヘビーガードを着てるからスカート履いてても捲れないようになる…よね?) スカートも穿いてはいるが、それは外からではほとんど見ることができない。故に、外から煽られたぐらいでは捲れないとアーリィは考えていた。その上、ヘビーガードは敵の吹き飛ばし攻撃にも耐えることができるかもしれない。堅実な選択であった。 「う、うう……でも、重い……」 動きには問題ないが、体よりも大きいそれを身に纏うのはやっぱりしんどい。でも、それがビターな選択ならば……と、アーリィは気を取り直して準備を整える。 「本人にとってはただ気ままに行動してるだけなのでしょうけど、敵に回したら厄介極まりない相手ですね。成長して手がつけられなくなる前にここで何とかしておかないといけませんね」 落ち着いた表情で今回の相手についての感想を述べる『白虎ガール』片倉 彩(BNE001528)は、そもそもスカートを履いていない。捲られたら集中の邪魔になるから、というのが一番の理由のようだ。 「さて、ここは……」 そんな彩は戦場を見渡して、どのような広さであるか、落下する可能性がある場所はあるのかをチェックしていく。ただ、ちょっと背が足りなくて見づらいところもあったので、背伸びをした。 「んー……少し狭い、ですね」 それでもやっぱり冷静に。壁を背にするように動こうと心に決めて、仲間たちにも自分が見たものを伝えていく。背伸びはしたまま。 「風のエレメント相手に高所での戦闘ですか。中々に難しいところですね」 鋭い眼光で周囲を見渡している浅倉 貴志もまた、立ち位置をどうしようかと探っている。 「一歩間違えれば、リングアウトで転落。戦線にそのまま復帰不能となるでしょうから」 鍛え抜かれた体に吹き抜けるビル風が、貴志には妙に冷たく感じられる。戦いの緊張感で汗をかいたからだろうか。 「とりあえず、ヘビーガードと安全靴で重量多くし、足元もしっかりとするようにしてみました。どの程度効くか分かりませんが、それでも無いよりは随分とましだと思います」 工夫の説明を味方のリベリスタたちに伝えつつ、自分の足元をぶらぶらと振って確認する。ヘビーガードの重量制を受け止める安全靴は、しっかりと足元を固定していた。どれほどまでの効果があるのかはわからないが、このことから貴志の真剣味と真面目さが伺える。 「ナントカと煙は高い所に昇る……、って、こいつは煙を運ぶ方だったっけ。まぁ、どっちでも良いわ。吹き散らして消し去ってあげる」 赤眼越しに空を眺めながら、『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)は高い場所であるここにやって来るはずのエリューション・エレメントの姿を待つ。急いでやってきたというのに、相手が遅刻とは……まさに気まぐれといえよう。 「あーもう、寒い! 冬に風吹くとこれだから嫌なのよ」 肩を抱いて足を震わせるジル。その足元を守るものはスカートとスパッツだけしかない。これは冬場には堪える装備だ。 「この結界に敵を閉じ込める効果とかないのがアレよねー」 そんなコメントと共に結界を張りつつも、早く来て欲しいと願うジルだった。 その時、一陣の強い風がリベリスタたちを襲った。その風はダメージが発生するほどでも、吹き飛ばされるほどの威力はなかったが、何かが来たということを知らせるには十分なものである。 「きたね! ばきゅ~んって行くよ!」 くるりと華麗に回って、京子が指を向けた先。そこには、巨大な風が意志を持つかのように渦巻いていた。 ……いや、実際に意志を持っているのだろう。エリューションなのだから。 「どっちが早いか……勝負だ! 行くぜ!」 こうして、エリューションとリベリスタたちの戦いは始まった。 ●吹き荒れるもの 気まぐれな風が最初に放ったのは、吹き飛ばしの攻撃であった。攻撃力こそないものの、体を吹き飛ばすことに重点を置き、屋上であるこの場所から叩き落とそうとする攻撃だ。 「当たらなければどうという事はな……おぶっ」 敵の攻撃を回避しようと動きを止めないでいたジルが真っ先に吹き飛ばされ、落とされそうになってしまう。しかし、ギリギリの所で天乃が投げたワイヤーと貴志の腕に助けられる。 「……掴まって」 「こんなところで仲間がドロップアウトするなんて見過ごせないです」 「悪いね……」 グッと掴んだワイヤーと、鍛えられた腕。そのまま体勢を低く取り、スパイクを床に打ち付けていく。 「風ってな一方向から吹く。そっちに身体の正面を向けんな! 斜に構えて風の流れを逸らせ! 後、出来るだけ身低くな!」 地面を這うように四つん這いになって、強風に耐えているアッシュが仲間に対して声をかける。それもあってかリベリスタたちは、何とかハイバランサーや防具の重量をうまく使って耐えた。 「狙い撃つよ!」 アーリィはそんな風の中でもしっかりと自分を保ち、ピンポイントを使って反撃を行なっていた。飛ばされた細かく鋭い糸が、風に突き刺さる。 「ばーん!」 その攻撃によって風が少し止んだ所に、京子の1$シュートが飛んでダメージを与えていく。 その攻撃を受けた強い風が吹き荒れて、再びエリューションの攻撃が行われる。……しかし、それは。 「いっやーん、ちょっと・DA・KE・YO」 アッシュがダークグレイのボクサーパンツを晒し、 「……!」 見られたら色々とまずい天乃がスカートを抑え、 「……」 孝平が顔を逸らし、 「あはは、スカートめくりたきゃ好きにめくるがいいわ!」 ジルが諦めたように笑い、 「男子こっち見るの禁止!! それと、風のエリューション! 人の嫌がることして楽しいの!? こんな事しちゃ駄目だよ!!」 パンツが見えそうになって必死でスカートを抑えた京子が赤くなりながらも説教し、 「……ひゃっ!」 アーリィが驚くような風の強さでスカートがめくれ上がり、 「今です!」 貴志の大雪崩落をエリューションが食らう結果になった。ダメージもなければ、特にリベリスタたちが不利になったわけではない。風がスカートをめくっただけだ。戦闘的にはなんの意味もない行動。それでも、風のエリューションはやった。気まぐれだから。 「……爆ぜろ」 戦闘中だからとスカートからの意識を外しながら、天乃のブラックジャックが飛ぶ。ひらりと見えそうになるが、気にせずに天乃はいく。 「幾ら風って言ったって、エリューションなら核があるでしょ!」 そこに中心を貫くようなバウンティショットの一撃が風のエリューションに向けて入り込んでいく。見事狙い通りにダメージを与えたそれを見て、ジルの顔は緩む。 「速度は落ちていますが……この刃ならば!」 続いて高速で接近した孝平のソニックエッジが風を切り裂き、ダメージを蓄積させる。素早く振りぬかれた刃は風を拡散させるのだ。 「やりましたか……!」 孝平はそのダメージに手ごたえを感じた。風だけあって、防御能力はそれほど高いわけではない。 ……しかし、致命的な一撃にはまだ遠かった。風は表情も変えずに、反撃を繰り出してくる。風の壁を纏って突撃をしてきたのだ。 「ぐぅ……!」 「……やる」 それによって、前衛で戦っていたリベリスタたちは風の壁に切り裂かれてまとめてダメージを負ってしまう。 「痛いの飛ばすよ!」 そのダメージを飛ばすように、アーリィが手を挙げながら天使の歌を使ってダメージを負ったリベリスタたちの傷を癒していく。この行動が、結果的にリベリスタたちのフェイトを守った。 というのも、風はすぐに動いて、今度は雷の一撃をリベリスタたちに放って来たからだ。 「さすが雷撃! 早いものね!」 ジルはそれを回避しようにも、まともに受けてしまいかなりのダメージを蓄積させる。しかし、まだ致命傷には届かない。 「何も見えず、何も聞こえず、何も語らず。……ここから!」 呪文のように唱えながら、ジルは反撃のバウンティショットを使ってエリューションの風を四散させようとする。だが、これは素早く動くエリューションが避けてしまう。 「テメェの雷光……見せてもらったぜ! だがな!」 そこに、背にロープを付けてバンジージャンプ気味にアッシュが飛び込んだ。落ちても構わない、という表情で向かうアッシュはまさしく空をかける雷光である。 「ヒャッハー! 遅ェ遅ェ遅ェ! 雷光から逃げるにゃ遅過ぎるぜェ――!」 エリューションの体をソニックエッジが一閃。切り裂く。 エリューションは一閃によってよろめき、落ちてくる。その瞬間を、集中を重ねていた彩は見逃さない。 「自由時間はここでお終いです!」 乾坤一擲! 渾身の魔氷拳が、エリューションの体を凍らせていく。まともに受けた風は氷の彫像のようになり、屋上へ……リベリスタたちの方向に投げ出された! 「僕はここで力を振るう!」 「このチャンス、逃すわけにはいかない。全力で行きます!」 貴志の大雪崩落が凍った体を地面に叩きつけ、ボールのようにバウンドした所を孝平のソニックエッジが交差するように決まる。この連続攻撃を前に、凍っていたエリューションの体にひびが入り、もう少しというところまで追い込む! だが、エリューションはここで氷を解除して……逃げ出そうと空に駆け出す。気まぐれな風ではあるが、生命の危機に反応したのだろう。 「気まぐれだけど、臆病。……それに強さをもらっているの、分かるよ。だから、逃げるのは読んでいたよ!」 しかしそこに、京子が人指し指と武器を向けて。 スターライトシュートが飛んでいき、風は空中で四散していった。 こうして、気まぐれな風はこの世界から消えて、リベリスタたちは勝利となる。 「さようなら」 目を閉じて、ポニーテールを風に揺らしながら京子は想う。 次に生れた時は、思いを伝えるよい風になりますように。 桜の花を舞わせる春の風のように。 ●やっぱり恥ずかしかった 戦闘が終わったので、幻視を使いながら彩は後片付けをしていた。楽しかった人知を超えた存在との戦いは終わったけど、これも大切なお仕事だ。 「よいしょ……よいしょ……」 風は派手に散らかしていた。だから、時々小学生体系な彩やアーリィの背が届かないような場所に飛んだ物もいくつかあった。 「はい。これね」 それを取ってあげながら、ジルはクエスチョンマークを頭に浮かべる。みんなで後片付けをしているけれども、一人居ないような。 「……先、帰る」 居ない一人は、壁から降り始めていた天乃だった。表情には出ていないが、その動きは乙女のものである。……つまり、スカートの中を見られたのが恥ずかしいのだ。 (まだまだ、未熟……) そんな天乃の心情を知ってか知らずか。それを見てジルは一言。 「何も見えず、何も聞こえず、何も語らず」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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