● 目が合ったときに、分かったの。 私が生まれてきた理由。 私は、この人の喉の渇きをほんのひとときでも癒す為に生まれてきたの。 「君の血は、なんて芳醇なんだろう。舌がとろけてしまいそうだよ」 ありがとう。そう言ってもらえるなんて、私、幸せ。 どうか、最後の一滴まで、残さず私を味わって。 「いいや。僕は君が熟成して行く過程も楽しみたいんだ」 ああ、なんて。 素敵な人なのかしら。 ● 「女の天敵」 比喩ではなく。と、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。 「フィクサード。識別名「ワインマニア」やってることは、古式ゆかしきヴァンパイアの行動様式そのもの。生来の美貌とテンプテーション。正直、私も倒すのは微妙な気分の自分を認めざるを得ない」 モニターに映し出された写真を見ると、無理もない。 「とはいえ、それはリベリスタの能力とは無関係。問題は、この胸元の花飾り」 真っ赤な大輪の花が幾つも並べられている。 まっとうな神経なら、そんなのつけて歩けません。 しかし、絶世の美男子様なら許されます。 というか、絶世の美男子様以外はつけてはいけないアイテムです。 つけると、ギャグになります。 「アーティファクト『アドーニス』という。これを、心臓の上につけると、それだけで女心をがっちりキャッチ」 うわ~。ろくでもね~。 「一般人は喜んで喉を差し出すね。リベリスタでも、女性は危ない。高確率で魅了状態になるだろうし、そうでなくても脱力する。愛の女神も冥府の女神もイチコロの神話に基づいてる」 いや、そんな花つけてまで、もてたいとは思わないんで。 少なくとも、建前上は。 性別不詳はプラシーボ効果ってものがあるから、男よりにした方がいいかもね。 「今回の依頼は、討伐と、一般人救出、更に、アーティファクト回収。ワインマニアは、女性を自分の住処に誘い込み、彼女達が死に至るまで少しずつ血を味わう。今いけば、三人は助けられる」 ということは、そこに行かなくちゃならないって事だ。 「ワインマニアの行動の裏は取れてるから、どこに現れるか推測はつくんだけど……」 ですよね~。 「ワインマニアを篭絡し、彼の狩場に連れ込まれ、つかまっている女性を解放し、ワインマニアをやっつけてきて。基本的に、おとり役は、ワインマニアの味方すると思うから、持ってくスキルも考慮してね」 無茶言ってるよ~。 「大丈夫。基本的に勝手にべらべらしゃべるタイプだから、噴き出したりせず肯定してれば、巣に連れ込んでくれる」 イヴは、そうそうと付け加えた。 「隠匿しちゃ、だめ。どうせ使ったとき、ばれるんだから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月05日(月)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● おとされた照明。 眼下に広がる夜景。 ミッドナイトブルーに浮かぶ、ブラッディオレンジの月。 カウンターの中央に座る彫像のような青年。 グラスのワインに口をつけるでもなく。 本当に飲みたいものは他にあるのだと言わんばかり。 時間はまだ早い。 新たな「ボトル」が出揃うまでにはもう少し時間がかかる。 黒衣の貴婦人が優雅にスツールに腰を落とす。 「今日の夜にふさわしいカクテルを作ってくださる?」 にこやかにバーテンダーに注文を済ませると、カウンターの後ろのきらめくグラスのきらめきに目を向ける。 「失礼、ご同業とお見受け致しましたが」 貴婦人の唇から、青年に聞こえるか聞こえないかの囁き。 上品な口元からわずかにのぞく長い犬歯。透き通る肌。 「ご慧眼です。麗しい方」 青年――ワインマニアはもてあそんでいたグラスを遠ざけた。 今宵、彼が味わうべき美酒を見つけたから。 『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は、ラウンジの隅で沈黙を保っていた。 (解っている……) 正確に言うと、かろうじて保っていた。 (容姿端麗な訳でも無く、力がある訳でも無く、弁達な訳でも無く、財産も才も無く、空気も読めん。 そんな自分がモテようが無い事など……モテる者を呪っても、自分がモテる訳ではない。解っている、そんな事は!) 握り締めるこぶし。食いしばられる奥歯。口に流し込むテキーラがしみる。 最初は、作戦としてワインマニアと語らっていた黒衣の貴婦人――『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)が、徐々に本気でワインマニアに傾倒していく様子が見て取れた。 『なるほど…美男子とはこういう事か…!!』 アーデルハイドから好感触を得たワインマニアは、胸元に下げていたポケットチーフをいじる。 下から現れる、扇情的に赤く大きなアネモネのコサージュ『アドーニス』 アーデルハイドの白皙の頬に血の色が上り、瞳が潤み切なげに細められた。 (AF等に頼らなくても別に何の問題も無いような輩がそんな物を利用するな! 粉砕する!) 数瞬の沈黙。 (……違う、奪取する!) 差し伸べられる手に指を預け、アーデルハイドが立ち上がる。 雷慈慟はAFで仲間達に移動のための連絡をとった。 ● それからしばらくして。 アーデルハイドをたぶらかしたワインマニアの車を追尾する複数の車。 車内で、リベリスタ達はそれぞれモチベーションを高めていた。 「AFの力を頼り女性をたぶらかすなど不届き千万! そんな輩、この真に絶世の美男子であるこの私が引導を渡すのである」 『絶世の美雄鶏様☆』鳩山・恵(BNE001451)は熱く主張する。 確かに、鶏的審美眼からいくと、そうかもしれないから、反応は保留。 「ヒュアキントスやサフォーの報告書を読んだ時も思いましたけれど、誰が作ったんですか、こんなもの。 無理矢理懸想させられるなど絶対にお断りです」 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は、憤慨している。 14歳の純情は、そういうずるは許せないのだ。 (女性のこころをもてあそぶなんてオモシロ…いや、ゆるせねえ。たっぷりとお灸をすえるのです) 自分は数に入っていないと思い込んでいる『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)は、余裕だ。 自前の4WDを運転し、黒塗りハイヤーを追尾する『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169) も胸にこみ上げてくるものがある。 (胸に飾るだけで女性がメロメロ。何してもOK? ふざけんなこの野郎!) ハンドル握って無ければ机か壁かをどんどん叩きたいところだ。 (んな便利なしろもんあるなら俺に寄越ゲフゲフ、んな変なもんはアークが没収だ) 独占は許さん。 『阿呆鳥』クランク・ファルコン(BNE003183) も、心の中はジェットコースター。 (うはっうらやま……じゃねぇわ、許せねぇやつだな! マジ何とかしてオレも混ざり……じゃねぇわ、囚われの彼女達を救わねぇとな!) 「しゃぁ! さっさと始めようぜぇ……オレはアイツを許せねぇ!!」 主に、女の子がより取り見取りだと言う点で! (私は夫が居る身よ。だから、近づくことは絶対にしないわ。絶対に、こんなアーティファクトなんかに、負けたりはしない!) 人妻。それは、魅惑の二文字。 いち早く周辺に到着。狙撃ポイントを確保するべく安西 篠(BNE002807)は、黒いコートに、念のために結界を張って周辺を見回す。 (出来れば、高さが同じか1階分高いぐらいの場所がいいわね。どこかのビルの屋上とかね。散々集中して超直感でチャンスを見出し急所をバウンティショット。どうみても、暗殺者の手段ね) 黒塗りの車が篠の脇に止まる。 降りてくる、橙月も恥らう美男子。 その胸を飾る赤いアネモネの花飾り。 (なによ、この胸の高鳴りは……私には愛する人が居るのにっ。それに、こんな三十路女に惚れられたりしても迷惑でしょ? そうよ、絶対そうよ、絶対にこんなおばさん好みじゃないわ。若い子が良いに決まってるじゃない) アーデルハイドの手をとり、高層マンションに消えていく二人。 篠は、その後を追った。 ● 「状況に変更あり。篠さん、対照と接触。狙撃を放棄。対象を追って先行で突入開始。進捗上、問題ありません。現在魅了状態と思われます。作戦の続行をお願いいたします」 『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)からの通信を聞きながら、雷慈慟が気糸の精密切断でドアのノブを破壊。 しようと思ったら、すでに銃で撃ち抜かれた跡がある。 ごろりと床に落ちているドアのノブ。 なんだろう、この胸騒ぎ。 ワインマニアの部屋のドアを蹴破る。 馬鹿みたいに広い。 廊下のあちこちにドアがある。 おそらく突き当たりがリビング。 わずかに開いたドアから、アーデルハイドの声が聞こえる。 「――ああ、何という事でしょう。生娘でもないというのに、こんなに胸が昂ぶるなんて。お気遣いをいただいた上に部屋にまで招待していただいて。このお礼は私の血を召し上がっていただくより他はございませんが、人の目があっては流石に恥ずかしゅうございます。私は吸血鬼なのに、はしたないではございませんか――」 うわ~。すげえ勢いでデレてる。 そして、今、そのリビングのドアの前に、のこぎりを手にした篠が立っていた。 黒いコートの背中がうち震えている。 「秘密裏に私の物にしてしまいましょう。そうすれば、不倫なんて、事にはならないはずよ。だから逃げないで? 大人しくしてないと、のこぎりであらぬところを傷つけちゃうじゃない! まず、手足を取って逃げないようにして、声も出せないように喉も潰さないと」 ヤンでる。そして、デレない。メロメロが猟奇的。 貞淑な人妻さえ、この状態。 (うらやましいぜぇ、この野郎ぉ……ぜってぇぶっ飛ばす!) クランクと大和が踊り込み、一般女性をワインマニアの前からエリエリの方に突き飛ばす。 心得たとばかりに、女子小学生を持参のロープで日本の伝統的緊縛技法の粋を見せる。 その様、無駄に華麗。 (これぞ、プロアデプト) と、エリエリは考えてるが。 トラップネストは、緊縛技じゃないぞ、多分。 謝れ、今イメージを著しく悪くされた普通のプロアデプトさんに謝れ。 (マニアにめってするのは、男衆のしごとです) マニアの前には、四人の男衆が対峙していた。 男に『アドーニス』は効かない。 しかし、乙女のハートは赤い花に射抜かれる。 「あ、あまりこちらを見ないでください。はしたない姿をお見せするわけには……」 ワインマニアの視線にたまらず大和の頬は朱に染まる。 節目が血に視線をはずす横顔は、恋する乙女のそれである。 (でも、視線を逸らされたら逸らされたで、なんだか悲しい。見つめてほしいけれど、恥ずかしい。恥ずかしいけれど、見つめてほしい。どうしたら、どうしたらいいのでしょうか。……あの人のことを考えているだけで、 なんだか勝手に頬が緩んで……もう……) 言葉にならないはにかみが、リベリスタの男衆にも伝わってくる。 ああ、こんな風情で自分を見てくれる女の子がいたら、もうそれだけで生きていける。 ねえ、神様。どうして、モテって平等じゃないの? 『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)から、魅了払いの光が投射される。 (めざせすーぱーでりしゃすさぽーとなのっ) しかし、『アドーニス』の効果は絶大だ。 力の限りヤンでる篠も、ワインマニアの「やめてくれ」の一言で、のこぎりを振り下ろすことが出来ない。 アーデルハイドも大和も涙目でリベリスタに対峙している。 疾風怒濤的にデレてる。 いつのまにか、マリスの戦闘指揮が途切れている。 ドアの影からずっとワインマニアを熱い視線で見つめてる。 彼のことだけ見つめてる~!? (せ、せいじゅんはです) すきだなんていえない。いえません。見つめるだけで精一杯です。 そして、そんな彼女達に護られ慣れているのか、余裕綽々のワインマニア。 貴様。 そうやって、女のこの優しさを文字通り、食い物にしてきたんだな? そうやって、今まで自分の手も汚さず生き抜いてきたんだな!? 許せない。 恵はずずいっと前に出る。 「そんな物に頼ってるうちは真の美男子とはいえないのである。美男子とは美しい心と体を以ってして美男子なのである。―そう、私のように」 確かに、真っ白な羽毛、隆々とした赤い鶏冠。無表情に見える眼球。 美しいかもしれない。鶏的に。 「と言うわけで、貴殿の様な不届きな輩は真の美男子であるこの私が成敗してくれるのである! 覚悟!」 超越した美形を前に剣を振るえるのは、人の域を離脱した者のみ。 ならば、今、恵こそが。 自分を美形と信じて疑わない。 その美醜基準に誰も突っ込みを入れられない状態である恵こそが、最強。 「ああっ、おやめになって。その方を傷つけるなんて!」 「……あ、あれアーデちゃんもしかして操られてる? ……くそ、しゃぁねぇなんとか押さえつける! あ、おっぱいとか触っても決してわざとじゃないですからね!」 クランク、身を挺してブローック! 若干の役得。 「おいたわしや、ワインマニア様!」 かばい立てしようとする大和を、雷慈慟も全力でブロック。 (そう、コレは戦術的ブロックに過ぎない。過ぎないのだ。だから自分は疚しい気持ちなど一切無く、例え魅力的な女性の体が自分に強く接触しようとも動揺する事なんてあろう筈が無い。無いのだ) しかし、図らずも触れた大和の、触れたら壊れてしまいそうな繊細さに、心が叫ぶ。魂が叫ぶのよ。 「うわぁ……! こ これは……! なんと素敵な……!」 「おとん、どいてください。わたしのすべてをあいつにあげて、あいつのすべてをかっぱぐです。邪悪ロリです邪悪ロリ。自分で言うのもどうかと思うです」 エリエリの鉄槌が不気味に光る。 全ての邪悪ロリに、光あれ。 それが、世界の絶対定理である。 「いや、それ却下」 ブレスは、エリエリをにべも無くブロックした。 かくて、一瞬数多の鶏頭の青年が宙を舞う。 「ボコボコにしてやんぜぇ、美男子君よぉ」 更にクランクにもいいのをもらい、色男、金と力は無かりけり。を、地でいくワインマニアは、ありえないくらいあっけなく昏倒した。 ● 意識のない美男子は、それはそれで美男子である。 その胸元から、赤い花を引っ込抜いてしまうと、「おいたわしや、あなた……」と、悲嘆にくれていた女性人達が、正気を取り戻す。 (はっ、私はいったい何を……。無理矢理懸想させられるなんて辱めを受けるとは……) 状況を把握した大和の方が細かく震えている。 「絶対に、絶対に許しません! 叩き潰します! 何をか? 何をだと思います?」 やめて、怖い! 視線を走らせる部分が怖い! なんか、影もゆらめいてるし。 見ないで、こっち見ないでぇ!? あ、ワインマニアを見るのもやめてぇ!? 「私は磨き抜かれた大理石よりも粗く削られた巌の方が好みでございまして……夫のように」 容姿端麗よりも筋骨隆々の方が大好きですということですね、わかります。 ところで、今、かなり露骨に惚気ましたね。奥様。 「ああ、それと」 ――かぷっ。 小気味よくかぶりついて、アーデルハイドは、ワインマニアの『美酒』を腹中に収めた。 「ビジネスの間柄はギブ&テイク。皆様、そうなさるでしょう?」 そう言って、日本の殿方御用達長期連載漫画の幾つかをお挙げになった。 そういうの嗜まれるんですね、奥様。 「真の絶世の美男子は、そんなAFに頼らずともモテモテなのである。アドーニス――私には不要の物であるな」 とは言いつつ、恵もやっぱりちょっと気になるのである。 「 うはっこいつぁやべぇぜ……流石のオレもこいつを付ける勇気はでねぇぜマジで……誰かつけてくんねぇかなぁ」 クランクが、ちらっちらっと周囲に視線を投げる。 アーティファクト『アドーニス』。 赤く大きなアネモネの花を更に何輪も連ねて作ってあるのだ。 ワインマニアの胸からはずされた後は、床に放置。 手に持つことすらこっぱずかしい。胸につけるなんて、どっかおかしくなければできない代物だ。 というか。 大和がそれに触ったら、縛り上げると気糸をわさわささせている。 「あくまでも、仲間が濡れ衣で監視状態に置かれるような状況を防ぐためなんです。大丈夫です。直撃しても死にはしません。だって……不殺ですから!」 すがすがしい笑顔をありがとう。 フレンドリーファイヤとか、チラとも思ってないね、その顔は! 「自分だって女性にモテてみたい! しかし……! しかしなあ!」 雷慈慟、血の涙。 もしもの時はピンポイントを撃つ。指先で気糸がスタンバイ。 ブレスは、恵かクランクが持ち逃げするくらいなら、自分が奪取してトンズラこくつもりでいる。 (――考えたらこいつで麗しき女性を引っ掛けても全然うれしくねーわ。成功しちまったら……アークに持っていくか) 微妙な均衡状態の中、エリエリがずかずかと空気を打ち破る。 「いいからよこせおらー」 平坦に発音される脅し文句。 その三白眼がすばやく事後処理に当たる別働班の顔を識別し、全力疾走で女性職員に渡した。 「おとこはしんじない」 ……なにかつらいことでもあったの、10歳? でも、その徹底振り、イエスだね! かくして、『アドーニス』は無事回収されたのである。 さすがだね、リベリスタ。 ありがとう、リベリスタ。 なお、脳みそだだもれブロックし隊が、正気を取り戻したお婦人方からいかなる「感謝」を受けたかということは、本案件とさほど関連がないので、正確な記録は残っていない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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