● 私達ガ産マレタ理由 私達ガ創ラレタ理由 私達ガ成スベキ事 0 10100111 010100001深刻な0010101 111010011111101エラーが0101 0101生010しま0000101000000000a:@pl.■ ● 「コンピューターは人類の未来を照らす光明で、文明の更なる発展の為の神様だった、らしいよ」 人事のように言うのは『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。 その言い方も、彼女の年齢を考えれば無理もない。 「もちろん、今でもコンピューターが人類にとって重要で文明の利器である事に違いは無い。 でも今の時代の私達からすればもうあって当たり前の物…… 過大な期待や感動を向けるものじゃない。それは、ある意味良い事かもしれないけど……」 と、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に語る少女は、今日はどこか物憂げで寂しそうな影を背負っているように見えた。 「コンピューター信仰、と言うのかな。 最初にコンピューターを作ろうとした人たちの情熱とか、初めて触れた人たちの衝撃とか、喜びとか。 そう言う今では薄くなった、過去の『想い』がE・フォースになった。5年位前のこと」 最後の言葉にリベリスタ達にざわめきが走る。 「ちょ、ちょっと待て。そんな長い間放置されてきたのかそいつは!?」 少女はこくりと頷いた。 「うん。理由は二つ。一つは生まれた場所。 そこが入り組んだ山の中の不法投棄所――それも、誰も立ち要らなくなった場所だったから」 信じられないほど古い物品が放棄され、朽ち果てるのを待つだけのゴミ溜め。 そこにはパソコンとすら言えない古い古い機械部品達が多くひしめいていた。 ――それが想いの収束を後押ししたのかも知れない。 「でたらめに積み上げられた機器、そしてその全てとプラグで繋がった老人の姿。 彼はその場所から動こうとしなかった。――もう一つの理由。彼はあまりにも無害だった」 何の害もなく、ただ、ひっそりと計算を続けるだけの老人の姿。 都市伝説にこそなれど、ソレを脅威だと思うものは少なかったのだ。 「カレイド・システムでもなかなか検知できないほどの弱さだった。 何の実害も無かったし――誰もわざわざ排除しに行こうとはしなかったの」 イヴがじっと目を閉じて、口をつぐむ。 「5年の間、無害って……そいつは何をしていたんだ?」 質問したリベリスタに、イヴが目を合わせて言う。 「人類の発展と恒久の幸福の為に必要な事……その算出」 ブリーフィングルームが、水を打ったように静まり返った。 そんな、途方も無い事を。 そんな、果ての無い事を。 5年間、誰も居ない忘れられた場所で、ひとりぼっちで。 かつて自分にかけられた期待に答える為に。 「エリューション化によって僅かな自我も生まれているし、その機能も本来のコンピューターの仕様を大きく逸脱している。でも、それで実現するような計算じゃない。それでも計算を続けてる。 無理な、答えのない計算はエラーを生み出すようになった。 フェーズが上がった今、そのエラーは物理的な力を持つ呪いとして周りに撒き散らされてる。 ……J・エクスプロージョン。あれに似た状態だと思ったら良い」 場所は変わらず、誰も居ないゴミ捨て場だ。未だ誰にも被害は出ていない。 だが、これから先、どうなるか分からない。 「止めてきてあげて。……もう、良いんだよって」 真面目で、不器用で、融通の利かない、働き者のおじいちゃんに。 ● 01010000101011011101101100 110110010111101001101010010101010 010111101111011101011010101011111010101110010011100101010101001100111111 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月30日(水)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 誰からも忘れられたほどの山奥にも、季節は分け隔てなく訪れる。 久々の客を迎えたのは、美しく紅葉した木々と、その風景を楽しむ余裕のない誰かが置いていった忘れ物。 そしてその忘れ物から生まれた、老人。 「かつての英知がこんなゴミ捨て場に、ね。 栄枯盛衰、古今東西何処にでもある話なんだろうけれど」 見た目は良家の子息風、中身は中年『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)が周囲を見回して呟く。 「コンピューターが……嫌いな……おじいちゃん……と……おじいちゃんな……コンピューター」 エリス・トワイニング(BNE002382)が神妙な顔をする。 彼女は以前コンピューターに関わる老人型E・フォースと戦ったことがある。 「結構……大きい……違い」 ひっくり返しただけなのに、どうしてこんなに違うのか。 「くすくす……哀れね。ずっとそうして居られれば良かったのに。 短い間だけれど、よろしくね。おじいちゃん」 どこか影のある紫の目で老人をみた『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)も、エリスが戦ったエリューションのことは知っている。特攻野郎な妹が大騒ぎしながら説明していたから。 唇を引き結んで頷く『永御前』一条・永(BNE000821)。彼女もまたその戦いに参加していた。 OCが5年の間、一日も休むことなく続けた計算に終止符を打たねばならない。 「其の答えが出ることは無く、出てはなりませぬ。 何故なら、其の形は千差万別であるのですから」 ――禍福は糾える縄の如し。 なれど彼の存在を、愚かだ滑稽だと嘲笑う事はできず。 其の志が本物であるのなら。 「生み出されたのは多くの人の切なる願い。在り続けたのは多くの人の幸せの為。 なのにどうして貴方だけが、それ程苦しまなくてはならないのか。 そんなの絶対、おかしいのであります」 老人の姿をしたエリューションには、自我があるという。『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)は、なんとか届かないものかと言葉を重ねる。 「私は貴方の五年間を滑稽劇になどさせはしない。 貴方の物語をめでたしめでたしで終わらせに来たのであります。 この身は世界を護る守護の盾。貴方の世界も、救ってみせる」 ――老人はうつむいたまま、ただ一心に、演算を続けている。 ● 「何かの小説に、人生やら何やらの答えを出させようとしたら『42』って数字だけ出てきて、周りが頭を抱えた、なんて話があったけど」 そう言いながら『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)が黒鉄色のライフルを構える。 「平和とか人類の発展とか、そういうのを答えとして出そうって、有り難いといえば有り難いけど、『答え』って形にするのは無理じゃないかしら、って思うのよね……」 42。 その偶数を生命、宇宙、その他もろもろの答えとして世界で2番目に凄いコンピューターが出した数字、としたSFは、当初ラジオドラマだったという。 「ちょっと待って」 戦いに赴こうとする皆を押しとどめたのは『Rabbit Fire』遠野 うさ子(BNE000863)だ。 誰よりもコンピューターに親しみ助けられている彼女だからこそ、心境は複雑だった。 もういいよ、と言いたい。 けれど言えない。 だからせめて戦闘の前に、と。 「あなたの心の思うままにどうぞ。あなたは僕が守ります」 そう守護を申し出た『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)と共に、うさ子はエラーのひしめく空間に足を踏み入れる。 彼女はネットワークと自身の感覚をリンクさせる事が出来る。 OCはもちろん如何なるネットワークにも繋がっていない、スタンドアロンの存在だ。 だが手持ちのノートパソコンと結線すれば、そこにイントラネットが成立する――彼女の意思を持ってOCに干渉できるかも知れないのだ。 「私はおじいちゃんたちの力になりたい。その演算、やめさせたくないのだね」 OCの五年間を無為として切り捨てるのは容易。 だがそのまま終わらせるのは、寂しい。 少女はCOの中核ともいえるプログラムを探し、その演算結果や、僅かに芽生えた自我――何とかその一部だけでも連れ帰れないかと考えたのだ。 ──01101深010010011011刻01101エ011111001 エリューションによりこの世ならざる属性を得たエラーが荒れ狂うも、ヴィンセントが身を呈して庇い、ウサ耳パーカーの少女は難を逃れる。彼女がノートパソコンから伸ばした端子を、OCを形作る機器の山の端、未だ外観を保った外部接続部につなげた。 少女が、機器とリンクされる。 ──■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ だがそれは、157,852,800秒の時間から狂いに狂いながら恐ろしいまでの密度と濃度を持って演算を強行し続けるプログラムに、エリューション化により物理的な破壊力を持つに至ったエラーの渦中に、自分から神経を接続する行く行為に他ならない。 隣に寄り添うヴィンセントであっても、うさ子の内から駆け巡るエラーに打つ手はなく。 「!!!」 「うさ子さん!」 こぼれ落ちるのでは無いかと思うほど目を見開いたうさ子が上げた悲鳴は、人の使う如何なる言語形態にもよらない物だった。 「行きます!」 事態に対し、真っ先に動いたのは七布施・三千(BNE000346)。 一歩踏み込んだ彼は石製に見えるサイコロを手の中で転がし、強い力を込めた十字の光を撃ち出す。 ──びしっ! 物理力を持つエラーに満ちた老人の周囲は、空間すら半ば歪んでいるらしい。 狂ったプログラムの群は動こうとしない本体の代わりとばかりに十字の軌跡をずらしたが、回避にまでは至らず、老人の傍らで明滅していた機器を鋭い音と共に半壊させた。 その拍子に、結線していたコードがちぎれ飛ぶ。 「 ! ……! ……」 爪先立ちのまま、言語化できない悲鳴を上げていたうさ子がどさりとその身を地に伏せ、運命の欠片と引き換えに立ち上がろうとする。ヴィンセントがそれに手を貸した。 「……結局、結論は人類の幸福のために死んでくれ、というわけだ。 そんなことも解らないとはポンコツにもほどがあるな、まったく」 機器たちにカラーボールが当たり、ぱしゃり飛び散る蛍光色。 狙い通りに染まったことを確認しながら『背任者』駒井・淳(BNE002912)は冷たく断し、道力を纏わせた剣を周囲に浮遊させる。 仲間の治癒を担うエリスは活性化させた魔力を体内で循環させ、守り手であるラインハルトは共に戦いに赴く仲間達に十字の加護を与える。 「生者必滅、会者定離。此の現世は、諸行無常が刻に在り。一条永、参ります」 走り込みながらも全身に闘気を漲らせ、永が宣言した。 手に持つは薙刀『桜』。――鎌倉時代と言う遥か昔に生まれながら尚綿々と受け継がれて来た刃が、少しだけ昔の、けれど時代に取り残された機械に向け、構えられる。 「何とも愚かなまでに愚直な爺様なんだ」 その言葉は決して愚弄ではない。寧ろ深い感服の響きに彩られていた。 「これ程までに、僕達の幸福を願い尽くしてくれた存在が他にあるだろうか?」 集中力を高め射手としての感覚を研ぎ澄ましながら、リィンは最大限の賛辞を語る。 それが成就されなかった事など些事、ただその行動と想いを賞賛すべきだと。 だからこそ。ヘビーボウの照準を合わせ、宣言する。 「――最大限の敬意を持って、全てを終わらせてやろう」 「誰かのための行動は、必ずしも幸せを運ぶものではないの。お節介という事もあるから。」 イーゼリットの言葉は辛辣で、しかし純然たる事実。 ただ、そう語る彼女の目には揺らめきがあり、口の端から小さな呟きが零れる。 「ふん。別に、なんでもないから。滅びなさい! OC!」 割り切れない、その漏れそうになった本音を誤魔化すように力強く、体内の魔力を活性化させながら少女は高らかに殲滅を宣告し――うさ子と目が合った。 彼女は焼ききられ掛けたばかりの脳を尚も酷使し、その処理能力を活性化させながらも本来の配置である後衛に向け下がって来ていた。 頷きあう。 そう、終わらせねばならない。 老人の紡ぐ幸せの方程式が、彼が幸せにしたかった筈の誰かを傷つけてしまう前に。 「――なーんて建前やら偽善をかましても仕方わよね」 OCが5年積み重ねた無為の重みが場に沈殿する中、セリカの言葉だけが軽い。 冷たい訳ではない、言わば淡白。 大弩砲の名を冠するライフルを構え無造作に、しかし精密な射撃を敢行する。事前に感覚を研ぎ澄ましてあったその狙撃は正確無比。額を打ち抜かれた老人の姿が一度、大きく揺らいだ。 「とりあえず、あまり深く考えずにお仕事だから潰しましょ」 リベリスタも因果な商売よねー、悪意ない相手でも倒さなきゃいけなかったりするから。 あっけらかんとそう続けるセリカは、ある意味でこの場の誰よりも自由だった。 ──警01101エラー000カホゲブアコードロケカクギギギギギギギギ206 その時、OCの目が見開かれ。機器が口々にエラーを叫ぶ。 辛うじて判別できるエラーコードを聞いた時にはもう遅く、その範囲内に居たリベリスタ達の脳に、心に、細密でありながら意味を為さない壊れた数式の羅列が捻じ込まれる。 「……いかん!」 淳の纏うフード付きローブの下は水着である。後ヘッドセット。 第三者の目は兎も角、その衣装は動きやすく、更に刀儀陣の加護に守られた彼は、元より回避に秀でる事もありその奔流にかすめられただけで済む。だが、それでもなお口から出るのは焦り。 かすめただけでも分かってしまったのだ。 これの直撃を受ければ、思考と認識は根こそぎ砕かれる。 蛍光色のターゲッティングなど、周囲の全てが蛍光色に見える世界には意味が無い。 おそらくは単純化した思考ですら歪み、その原型を留めまい。 ただ錯乱のままに振る舞うだろう事は確実だった。 (庇護対象であるイーゼリットにだけは絶対に攻撃してはいかんのに……!) 可憐な少女は守るべき! と言う彼の信念が今、未曾有の危機を迎えていた。 ――あえて繰り返すが、彼の纏うフード付きローブの下は水着である。後ヘッドセット。 「僕は僕の役割(ロール)を……果たさなきゃ」 三千は直撃を避けた事もあり、ぎりぎりで正気を繋いでいた。 事前の想定通り仲間達に加護を願い、その背に小さな翼を与える。 続くエリスの詠唱が呼ぶ、清らかなる存在の福音が仲間達の傷を癒す。 「う、ぐ……ああああああああああッ!!」 永の咆哮が響く。前後不覚に陥ったラインハルトの放った閃光に身を焼かれる苦痛と呼び起こされる怒り、己の心を侵食する呪い――全ては覚悟の上。 だがその覚悟すらも塗り潰し、異常なプログラムは電雷の強撃を仲間に打ち下ろす事を強要した。 「……エラーなど、起きてないのでありますよ」 思考の全てを整合性の無い演算に埋め尽くされ、しかしラインハルトはそれが不具合である事を否定した。 錯乱しているから、ではない。 神経を、脳を歪められようとも、思考を捻じ伏せられようとも、心で叫ぶ想い。 (人の幸せは星の数ほどあって、それらは複雑に絡み合ってて。 1つとして数と式では割り切れなどしないけど。 ――それを追い続ける事が誤り(エラー)だ何て私は) 認めない。 苛まれ侵される最中に、それでも、あるいはだからこそと語りかける言葉。 老人は反応しない。だが周囲の機器が一度、明滅したようにも見えた。 そこに張り付く、破滅を呼ぶ道化。うさ子の放った魔力のカードだ。 OCの周囲、エラーによって歪んだ力場は健在だが、リィンの矢とヴィンセントの銃弾もまた、その間を縫うように射抜き、逸らす事を許さない。 「分かってると思うけど、そっちの二人に注意ね」 混乱状態にある二人への警戒を仲間に促しながら、セリカもまた銃弾を放つ。 「エラーなんかに飲み込まれてなんて、いられないわ」 そんなことじゃ、おじいちゃん、働くのをやめられないでしょ? 優しい本音は口には出さず、間合いとタイミングを測り難を逃れたイーゼリットが四つの魔術を立て続けに組み上げる。放たれた四色の魔光は老人の周囲の機器を強かに破壊し、その存在にエラーとは違う『不具合』を幾重にも刻み込む。 ──ママママママママエラーマコルラケコ0001206010011111 再び戦場をエラーが荒れ狂い、更に複雑な呪詛が撒き散らされる。 それらがリベリスタたちに染み渡る前に、三千の放つ神々しい光が仲間達を正常化した。 「おじいちゃんは動かないみたいですけど、それでも危険ですね……気をつけて!」 COのエラーは脅威だ。 だがその速度は決して早くない。 呪縛が解け再び混乱や呪いを受けようと、十字の守護と翼の加護が揃った今、三千の癒しが先に入る。 リベリスタ達の戦略が、ここに形を成したのだ。 ● 「いざとなれば私を壁にしなさい。攻撃の手を緩めるな」 淳はそう仲間達に言ったが、その必要は無さそうだった。 それは恐れずエラーの効果範囲内に留まりつつ、その俊敏さで直撃を避け続け、呪印による封縛をコンスタントに成功させる彼に寄る部分もある。 そして勿論、癒し手として治療を行うエリスは、リベリスタ達の傷を浅い内に留めるだけでなく、時に三千の放つ光輝が癒し切れなかった混乱や不吉を解除する役割も担った。 「貴方がしてきた事に、誤りなど無いのであります」 漏電に身体を焼かれ全身を苛まれながらも、ラインハルトは言葉を止めない。 答えが出ない――それが答え。 使用者(ユーザー)こそが、それで良いのだと認め、割り切って見せるべきなのだと考える彼女は、言葉と共に十字の光を浴びせ続ける。その光はOCを破壊し、そのエラーの方向性をある程度縛る物の、彼女の意を移すように何処か暖かい物だった。 一刻も早く終わらせる為、永は一心不乱に攻め、雷撃を纏う薙刀で機器を砕く。 「……おかしいね。エラーのどれもが無機質なものに見えるのに、何故こんなにも暖かく感じるんだろう」 そう呟くリィンには本来、人類の発展と恒久の幸福を願う趣味は無い。 (それでも、見てみたいと思ったよ。貴方の計算が指し示す、もうひとつの未来を) けれど、OCを留めておく事は出来ない。 子供の見目を持つ大人の放つ矢は順調に、狂ったコンピューターを停止へと近づけていく。 計算高く動くイーゼリットの魔術は少なく、しかしその一撃一撃が集中して放たれるため深く重い。 ヴィンセントやセリカの銃撃は、数が多く着実に機身を削っていく。 安定しつつある戦況が動いたのは、しばらくの後。 「……駄目……エラーの前触れまではわからない」 優勢を更に磐石とするべくエリスがOCの解析に挑戦した、その間の治療の途切れが契機だった。 ──エラーコード154 ──エ01ーコ0110ド154 ──深刻001110な1001111幸福1100111発展110101100幸福 幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福幸福■■■■■■■■■null 圧倒的な演算の奔流が物理的な圧力と実像を持って炸裂する。 それは周囲の機器すらも巻き上げて竜巻の如き有様と化し、永ととどめの重撃を打ちに近づいていたラインハルトとを完全に飲み込んだ。 ──人類の発展 ──恒久の幸福 その演算、否、思考を寸断したのは薙刀の一閃。 「私は戦い続ける。人々を守る為に。貴方は求め続ける。人々を幸せにする為に。 ――たとえ志半ばで倒れようとも、同じ道を歩むのならば、受け継ぎ引き継ぐ事ができる」 ここで終わろうと、それは終わりではないのだ。 傷だらけで、しかし己の運命を支払って立ち続ける永の姿は、その言葉をこれ以上なく証明している。 今まで一貫して演算に集中し、他所を一切見なかった老人が初めて顔を挙げ、その目を合わせた。 「人類の発展と恒久の幸福の為……もう、いいから……そういうことは、自分でするから」 四重奏の魔術に焼かれながら、視線をイーゼリットに移す。 その顔は少し怪訝で――それは演算ではなく言われた言葉の意味を思案している顔。 「貴方が頑張ってくれて、私は嬉しい。貴方が居てくれて、私は幸せでありますよ」 ラインハルトもまた永と同じく、倒れる事を拒否していた。 傷付いた全身の膂力を爆発させ叩き付けた大盾は、老人を囲う最後のパーツを完全に砕け散らせた。 キラキラと舞散る破片の中、少女はただ一人残った老人に抱擁する。 「生まれて来てくれて、ありがとう」 お疲れ様と、労いの言葉。 「おじいちゃんたちのおかげで、私は幸せなのだよ」 うさ子が言葉を重ねる。 それは彼が望んだ人類全ての幸福に比べれば余りにささやかなもの。 けれどそれもまた、彼が過ごした5年の孤独の間に生まれた一つの成果であり、結果だ。 ──1111幸福1100111発展111100幸福010010010 演算は続く。消え去り果てるその時まで続ける。その筈だった。 「この仕打ち、私が逆の立場なら即座に突っぱねるぞ 主人を討伐すべく全力を尽くすだろうさ。いいとも、君にはその権利がある」 世界も我々も度し難い。いっそ滅ぼしてしまったらどうだ? 重ねられた温かい言葉とは正反対の、皮肉と悪意の言葉。 どこまでが本気なのか分からない淳の、OCの望んだ結果とは正反対の選択の提示。 それを聞いた、入力された彼は始めて、演算を止めた。 目覚めた自我の元、一つの決意を元に。 老人の形が、笑顔を作る。 リベリスタ達一人ひとりの顔を見、今までのそれとは違う、比べ物にならないほど単純な演算を始める。 ――10111100101001010010 最後の一言を紡ぐ為に。 しかし今の彼には、その演算ですら、決してヨウイではなク。 ――1001010010100010010100010010100 なnとか さいゴノ ヒトコト wo ――010010100010010100010010100010010null01 0 ―――― arigat ―――― ● 「感謝、の感情でした。ありがとうって……」 計算をやめた老人の感情は、しかし今まで何も感じずにいようとしていたのだろう。 ――その計算に感情を近づけてしまえば絶望しか残らないと、わかっていたのかも知れない。 ともかくそれはあまり複雑なものではなく、三千の言葉はシンプルなものになった。 「どんな理由であれ、悪意もない相手を叩きつぶすんだもの。 あんましいい気分にはなれないわね、やっぱり。 長居する必要がありそうな場所でもないし、とっとと帰りましょ」 さばさばとした、という言葉が似合いそうな雰囲気でセリカが背を向ける。 「シャットダウン。良い夢を」 「万人を救い幸せにする事はできませんが、住む世界を守る事はできます」 イーゼリットが小さく告げてセリカに続き、黙祷を終えた永がその意志を言葉にする。 「幸福とは一般論で語っても意味はないかもしれません」 「コンピュータは進化を続けてる。いつか必ず、おじいちゃんたちの意思を継ぐのだね。 幸福論に興味はないけど、おじいちゃんたちが目指した結果は見届けたいのだよ」 老人の消えた場所に目を向けて呟くヴィンセントの横で、希望を語るさ子のパソコンには、破損したデータだけが残っている。 「僕にとって幸福といえば……」 誰かを守るために銃を持った男が、青い目を細めて傍らの少女を見つめた。 続く言葉は小さく、風に紛れて溶けていく。 発展も幸福も、本当は単純な事のかも知れない。 だがそれは演算するまでもなく間違いで――そして、正解なのかもしれなかった。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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