●誰にでも出来る簡単なお仕事です。 「仕事としては、すごく簡単。だけど、多分すごくつらい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、しばらく目を閉じていた。 これからリベリスタが受ける苦しみを、わずかでもわが身に受けようと天に祈るかのように。 これからリベリスタを過酷な現場に送り出す自分に罰を請うように。 やがて、ゆっくり目を開けると、ぺこりと頭を下げた。 「お願い。あなた達にしか頼めない」 苦しそうに訴える幼女、マジエンジェル。 だが、断る。なんて、言えるわけがなかった。 ●お仕事内容は検品です。 モニターに映し出される、着せ替え人形。 世代を越え愛されている長い髪、キュートな顔。結構ボンキュッボンなナイスバディ。 「タイニー」 さすがに誰でも知っている着せ替え人形だ。 女の子なら一体は持っている、持っていたと言っても過言ではない。 「E・ゴーレム。レベル1。現場はおもちゃ工場。皆には検品アルバイトとして現場に入ってもらう。50体発生する」 イヴの声は、いつもより精彩に欠ける。 確かに、可愛い人形を破壊するのは心が痛む仕事だ。 「問題は、発生は未来だということ。わかったのは、その日からその生産ラインで作られるタイニーのうち50体がゴーレムになること。だから、終日生産ラインに張り付いて、出来てくるタイニーを全部チェックして欲しい」 確かに、エリューションを見分けるのはリベリスタにしか出来ない。一体一体異常を調べるのはつらい仕事になるだろう。 「見分け方は、普通のと違うところ」 リベリスタたちは、無言でイヴを見つめた。 「このエリューションゴーレムの欲望は『個性化』だから、普通のタイニーとは明らかに違う様子をしてくると思う」 それを見つけ出して、まず隔離。そして処分。それ自体は非常に簡単。とイヴ。 「現時点でゴーレムはすごく弱い。レベル1といっても0ではないという意味。でも一体たりとも逃がすわけには行かない。エリューションは強くなり、増える」 イヴは、モニターの中のタイニーを見上げる。 「それにタイニーを手に取るのは子供。どんなに弱くても、ゴーレムが何かしたら大事になる」 しゃれにならない都市伝説増殖の予感。 伝説どころか現実だ。全国で死傷者続出は想像に難くない。 「ちなみに、現在増産中。製造ラインは、24時間ノンストップ。一瞬たりとも目が離せない」 ぶっちゃけ、50体処分するまで帰れません。もちろん、ほとんどは普通のタイニーだ。ごくまれに出来上がってしまうおかしなタイニーをあてもなく待ち続けるのだ。 というか、ラインを止めればその分仕事が終わるのが遅くなる。 この生産ラインが、50体のゴーレムを産むというのは確定事項なのだ。 逆に言えば、それ以上は絶対出来ないのがわかっているのだけが救いだ。 「戦闘にはならない。ばかばかしいと思うのもわかる。ストレスがたまると思う。でも大事な仕事」 イヴは、もう一度頭を下げた。 「お願い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月29日(金)22:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●証言・1 『戦闘は怖いから……こ、こういうのから、アークのお仕事に慣れていこうと思いました』 『ロンサムブラッド』アリシア・ガーランド(ID:BNE000595) 『社会勉強のバイト体験を兼ねて、崩壊を防ぐ事も出来る。一石二鳥とはこの事だね。張り切っていこう! って、思ってた』 『From dreamland』臼間井美月(ID:BNE001362) ●某月某日9:30(作業開始から00:00:00)残50体 マスクに極薄ゴム手袋、ファンシーなロゴ入り防塵服に着替えさせられ、一箇所に集められた。 「楽しいお仕事の前に、皆に喝を入れるよ~」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(ID:BNE002285)は、こぶしを突き上げる。 「月杜さんの訓示か。良いね如何にも仕事って感じだ!」 美月は応じて、先を促した。 とらは頷き、可愛く一つ咳払い。11人の仲間を前に声を張り上げた。 「お前ら耳の穴かっぽじって、よ~く聞け! いいか、エリューションゴーレム50体だ、一体も見逃すな!」 (って海兵隊風味ー!?) 美月の頬が引きつった。 「「「サー! イエス・サー!」」」 反射的に返事する、よく訓練された2割。唖然とする全うな8割。 「わかったらグズグズするなっ! 配置につけ、この低脳ども!!」 「「「アイアイ・サー!」」」 (何か僕の思ってたバイトと違う!?) 美月は、混乱したままベルトコンベアーの前の椅子に座った。 『はぁい、わたし、タイニー!』 可愛い電子音声が辺りに響く。 『病気のタイニーはここでサヨナラ。みんなががんばってくれるって信じてる! タイニーは、みんなのことが大好きよ!』 ポップに流れるタイニーのテーマ。これが検品作業開始の合図らしい。ごんごんとベルトコンベアーが動き出した。 流れてくる、お散歩タイニー。 『お散歩タイニー生産ライン最終工程・検品ブース』 そこが彼らの戦場だった。 戦争が終わるまで、このベルトコンベアーが止まることはない。 ●証言・2 『オレ達は、完全な検品係に作りかえられた。完璧なタイニーを出荷することだけを考える機械に生まれかわったのさ。完璧なタイニーが正義。他は悪。それでも縞パンはロマンだった」 『合縁奇縁』結城 竜一( ID:BNE000210) 「個性的なタイニー……ちょっと楽しみだなー。なんて考えてた。長ラン晒にリーゼント。競泳水着にゴーグル。どこで散歩する気だったんだろ。知ってる?首長族ファッションだと、首輪が引っかかって抜きにくいんだよ』 美月、引き抜く動作しながら。 『後のことを考えれば、機械でいた方が幸せだったかもしれない。アレをみるまで、自分たちがリベリスタで何の為にここに来たのかすっかり忘れていた。それ位、アレはありえないものだった』 『テクノパティシエ』如月・達哉(ID:BNE001662)、震える手で顔を覆いながら ● 某月某日20:42(作業開始から、00:11:42)残43体 達哉は、震える指でそのタイニーを取り上げた。 バニーコートと網タイツ、スワローテイルの上品なバランス。 少し大きめのうさ耳が可愛らしさを演出。 尻尾はミンク、手にしたお盆が純銀であることは意外と知られていない事実である。 純正品ならば。 (超少数限定生産のバニーガールタイニーだと!? オークションで超高値で取引されマニアには超垂涎のアイテムになった、あのっ……!? この造形、まさに神と言っていい……!! ぼ、僕はどうすれば……っ!?) 眉間にしわを寄せて苦悩するスタイリッシュイケメン、一般世界ではご馳走です。 防塵服で手にバニーちゃん人形握り締めていなければ。 しかし、これはお散歩タイニーのラインから出てきた以上、パチモンである。 ここで達哉が見逃したとしても、「お散歩タイニー」の箱に収められた日陰者人生が待っているだけだ。というか、それ以前にゴーレムだ。 「ごめんよっ……!!」 葛藤の末、指先から放つ気糸は、達哉の心を写した涙色だった。 ●証言・3 「ええ。本職はオペラですの。皆様の励みになればと歌い続けておりました。休み時間にはロシアンティーとビスケット。サモワールを持ち込みましたの。ちょっと凝ったつくりでしたのよ」 『未姫先生』未姫・ラートリィ(ID:BNE001993) 「エンジェルさんに頼まれたんで、断れるわけがないよね。それがまさか……あんな事になるなんて……」 『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(ID:BNE001581) ●某月某+1日 21:56(作業開始から、01:12:26)残40体 未姫のソプラノが響く。 工場内に。リベリスタ達の脳髄に。ガンガンと。 ラインに張り付いてタイニーを検品しているリベリスタの後ろでニコニコ笑いながら、廃棄待ちのタイニーのロット確認・回収しつつ、歌っているのだ。 ずっと。作業開始からずっと。延々と。ぶっ続けで。 歌い続ける気なのだ。 これからも。ずっと。延々と。ぶっ続けで。 やめる気なんかこれっぽっちもないのだ。 大丈夫、声を枯らしたりなんかしない。プロだから! 『誰が為の力』新城・拓真( ID:BNE000644)は、耳鳴りをこらえつつ、ふと合格と判定されたタイニーを見て目を見開いた。 ひげだ。ありえない。即座に首を抜く。 「内地!」 ひげタイニーを素通しした智夫が振り返る。 「ちゃんと観てるよ?」 その目は腐った魚のようによどんでいた。もともと細身の頬が痛々しくこけている。 「うん。たまに変なのが流れて行ってるよね。さっきはヒゲが生えたタイニーが流れて行ってた」 「しっかりするんだ!」 薄笑いを浮かべたまま、がくがくと為すがままにゆさぶられる智夫。 「仕事しなきゃ……。人形のスカートの中は見なくていいよね?」 力ない表情の中ですがるような目をした智夫に、新城は心を鬼にして首を横に振った。 「見ないとダメかぁ、気が引けるなぁ……」 数瞬後、したた、したたっと、赤くて鉄の臭いがするとろりとしたものが清潔な工場のゴムの床を汚す。 「ええと……く、黒いのはダメだと思うんだ……」 どさり。ついに仲間の一人の心が折れた。 「「「智夫ーっっ!!」」」 リベリスタ達の悲壮な絶叫。 その間も、未姫は凱旋行進曲をハミングし続けていた。 ●証言・4 「休憩中?子供たちの笑顔を守るためにガンバろ~! って喝入れたり、『お好み焼きの上で鰹節が踊るのと、アスファルトの上でミミズがのた打ち回るのって似てるよね』ってお話したり。詳しく聞きたい?」 とら、笑顔で。 「作業中、心が折れそうな時は近くの仲間に適当に話を振ったりして。タイニー人形についての思い出話とか聞いてみたかったから」 結城・ハマリエル・虎美(ID:BNE002216)。 ●某月某+X日 21:56(作業開始から、XX:12:26)残38体 作業に慣れれば、雑談をする余裕も出来る。 小康状態とも言える和やかな空気。砂漠の水のように貴重なものだった。 「ふむ……年の離れた妹に良くせがまれて着せ替えセットとか自作したりしたものだ」 「私も昔は遊んだっけ。お兄ちゃんがスカートめくったり変な事してた覚えもあるけど……そうだ。お兄ちゃん、ほんとにわたしのタイニー舐め回したりしてた、の……」 これだけは聞いておかなくちゃと、振り返った妹の瞳からハイライトが消えた。 そこには、今まさに、『タイニーよりロリッ☆ 』のふくらはぎをぺろーりしようとしていた兄。 赤縞(角っ娘)青縞(ツンデレ釣り目)緑縞(ツインテール)桃縞(超巨乳)黄縞(カレー)。 ずらりと竜一の周りにスカートを捲り上げられた縞パンタイニーズが並べられている。 「おにいちゃ……」 妹の震える声に、兄はきりりと立ち上がった。 「ああ、そうさ。お前のタイニー、舐め回したりしたさ! だって男の子だもの!」 まさかの全肯定。スタイリッシュな美形なのに、残念すぎる。 「ちょっ、言ってる事おかしい!? 理解しかねる内容だよ! 今の僕には理解出来ないよ正気に返ってー!?」 美月は半泣きだ。 「咎められたり、生温かい目で見られようと負けない! オレは舐めるぞ! ぺロリストでロリコンだから!」 正気でコレだ。もうだめだ。 「何その斬新なセルフ鼓舞!? 本当にそれでいいの!? そんなんで元気出るの!?」 美月の突っ込みは、もはや悲鳴だ。 「出る!」 救いようがありません妹さん残念ですがご愁傷様ですこれから強く生きてください。 一人の男の信条を貫くため、ロリッ☆ は、犠牲になったのだ。 竜一は、やり遂げた男の顔でロリッ☆ の首を抜いた。 ●某月某+Y日 02:18(作業開始から、YY:17:48)残30体 アリシアがけたたましく笑い出した。 「しっかり検品もしないと! 同じ事の繰り返しって、思ったより疲れますね……もう嫌だ……早く終わって……時間が長く感じます……うう、あれからまだ30分しか経ってないぃ!」 パタパタと目から涙を落としながら苦しそうにアハアハと笑い出すアリシアの肩に、『水底乃蒼石』汐崎・沙希( ID:BNE001579)がそっと手を置き、小さくうなずく。 「ありがとうございますぅ~~」 アリシアの椅子に座ると、代わりに検品し始めた。 『だいぶ良いペースです。後、残り99123体、後少しです』 周りにいた全員にピキピキピーン。 なに。そのやけに具体的に遠大な数。 「仕方なかったんだ。人形をひたすら観続けるのが辛くて……もう拙者働きたくないでござるっ……」 「さあ、血反吐を吐くまでお仕事だ! 無事に終わったら、幾らでも休憩していいからな!」 智夫は、ずるずる引きずってこられる。12回目の脱走失敗である。 「はーいこうたーい。そこにクッキー置いてるから食べなよ」 『七色蝙蝠』霧野楓理(ID:BNE001827) が、智夫の代わりに席に着いた。アフロ紫パンツの首を殺意をこめて抜く。 もはやサポートメンバーの助けがないと、通常の検品すら出来ないところまで追い込まれていた。 その間も、未姫のカンツォーネは片時も止まることなく流れ続けていた。 ●証言・5 「最初の頃はまれだったゴーレムは、僕達が弱ったと見るや一気呵成に襲い掛かってきた。そのたび僕達の心はぐちゃぐちゃに踏みにじられた。もうなにが敵で何が味方なのか。目の前にある奴の首を抜くことしか考えられなくなっていた」 達哉、自嘲気味に。 「皆の励ましが支えでした。美月さんに泣きついたりしたけど、作業はしっかりやりました。泣こうがわめこうがノルマは向かってくるのです。50体やっつければ、おうちに帰れるとそればかりを考えていました」 アリシア、泣きながら。 ●某月某+Z日 04:21(作業開始から、ZZ:19:51)残20体 「ありしあみつきみきとらさきとらみ、みんなのしまぱんはどんなかな……しろにしーするー」 「お兄ちゃん、脳みその中が漏れてるよ。これ、目のハイライトが消えて服の裾に小さく赤い斑点がついてる。普通の欠品かな……包丁、似合いそうだよね」 「今度は超限定生産二丁拳銃のマフィアタイニーだとっ!? 持っていればマフィア王の地位が約束されたも同然という都市伝説のアイテムが今ここにある……!」 「ヘビメタですかー!? もう悪魔の軍団メイクに! こ、これカブキの隈取だ! ジャパンの伝統芸能ですよ!? ポーズ取ってる! 見得を切ってる! もうお散歩とかそういう話じゃないです!?」 「大変だ! この人……脈がないっ。こっちには……バラバラ死体が……なんて酷いっ。犯人はこの中にいるというか犯人は私!仕方なかったんだ、仕方なかったんだぁぁ」 「一つ積んではとらのため~♪ 二つ積んではとらのため~♪ はっ!! 『かつおぶしが熱で踊り狂うというお約束』が、場の連帯感を生んで、一種のエクスタシィを皆に感じさせてるのかもっ!」 「……魔法少女タイニーか。お金稼いだら工場に依頼して作ってもらうさちくしょぉぉぉぉぉっっ!!」 「そうそう、犬の散歩ってそういう……ヨーヨーじゃないですか! 惜しいけど違いますよ! してやったりって顔してるー!?」 「ワイシャツ一枚裸エプロン……ねえ、こういうのが男の夢?夢なのそうなのそうなのね!? 出たな、モールタイプゥゥゥゥ!」 ●某月某+W日 19:47(作業開始から、WW:10:17)残1体 「後、一体です」 今まで工場に響いていた歌がやんだ。 「49体確認しました。後一体だけ」 抜いた首の数を数えていた未姫がうふふと笑った。 「それで、おしまいです」 指差した先には、今まで遅刻しまくり戦力外通告されていた『Trompe-l'œil』歪ぐるぐ(ID:BNE000001)が、一体の人形のほっぺたをつついていた。 「この子ぐるぐさんによく似てるわ……首抜きにくっ……抜きにくっ!」 もったもった、もったっもった。つるんつるんと指が滑る。 「「「四の五の言わずに抜きやがれえええええっ!!!」」」 十数本の手が、ぐるぐ似タイニーの首を引っこ抜いた。 程なくベルトコンベアーが止まった。 「はぁい、わたし、タイニー!ありがとう。お仕事はおしまい。タイニーは、みんなのことが大好きよ!」 いつ聞いたか忘れてしまったタイニーの電気音声。 消えていく照明。久しぶりの暗闇。検品ブースは真の静寂を取り戻した。 疲労困憊ながら、全員で最後を見届けた。 一つ、二つと焼却炉に放り込まれるゴーレム。五十を数えたとき、誰ともなく嗚咽が聞こえた。 役目を果たし、次々に地に伏すリベリスタ。 もう、休んでいい。タイニーのスカートをめくらなくていいのだ。 戦争は、終わった。 終わったのだ。 ●証言・6 「アークのお仕事って、大変なんですね…… 」 アリシア、疲労困憊で。 「次はこの報告を見ている人に手伝って貰おうかな……」 智夫、微笑みながら。 「はぁい、わたし、タイニー!」 ??? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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