● ほのぼのわーるどは、昔、割と殺伐とした戦いの世界でした。 戦いの理由は相手を食べる為。 他に食べる物が無いこの世界では、他の種族を食べる為の戦いがずっと続いていたのです。 幸か不幸か、空腹になって食べる速度と新たな命の生まれる速度はつりあっていたので、そう、本当に永遠に戦いが続く環境が出来上がっていました。 ですが終わりの見えない戦いを、各種族の長は憂いました。 もし戦いに勝って相手の種族を食い尽くしたとしても、最後に待っているのは共食いになってしまう、と。 そして、ほのぼのわーるどに存在する種族の中でも特に大きな3種族、ムーンラビット、ドリー、リビングドールの代表者が集まり話し合いを持ちます。 数多の首を跳ね飛ばした恐怖のうさぎ、ボーパル。万のドリーを従え空を統べる者、ひっちー・こっきー。悪夢と呼ばれた人形、切り裂きチャック。 3者の話し合いは長く続き、種族の英雄達が導き出した結論は、 「お互いに食べるのが問題なら、他の世界の奴食えば良いんじゃない?」 という、真に斬新な物でした。 それ以来、ほのぼのわーるどでは争いもなく、皆仲間として手を取り合い、他の……、成るべく弱い生命体の住まう世界を探し、リンクチャンネルを開いてご飯を食べに行くようになったのです。めでたしめでたし。 ちなみに大雑把にわけると、ムーンラビット族を初めとする森の仲間達、ドリーを主とする空の仲間達、肉人形ことリビングドール等のその他の3種にわかれます。本当に大雑把なのですが。 ただし、どの種にも共通して言える事は、見た目とか雰囲気がほのぼのです。 さてそんなほのぼのわーるどの、在る平原に審議中と書かれた立て札が一本立っている。 「次の議題は第7番餌場、通称ボトムチャンネル、うさー達が推奨する呼び名では『おっぱい畑』での事案だうさー」 ほのぼのわーるどを代表する3英雄の一人、ボーパルが切り株をドンと叩く。 「一寸待ってよ、ずるいぜボーパルぅ。其の呼び方は君達の趣味だろー? 僕達リビングドールは『臓物ラーメン一番太郎』って呼んでるんだぜー」 ムーンラビットのポーパルに対し、リビングドールの切り裂きチャックが抗議の声をあげる。 「ぴー! どう呼ぶかなんてどうでも良いっぴよ。あの世界の生き物はどれも目玉が2つしかないから抉りがいがないっぴ。だからさっさと本題に入って済ませるっぴ!」 更にはドリーの長、ひっちーが会議を急かす。 そうここはほのぼのわーるどの中枢を司る3英雄会議の場なのだ。 「うさー、今回の事案は第七餌場に食事に出かけた同胞達が次々と返り討ちに合った事についてだうさー」 ボーパルのちょこんとした手が切り株、否、神聖な円卓に再度叩きつけられた。 「ぴぴっ? おかしいっぴ。あの世界の生物は初期調査で餌に適した貧弱生物だと判断された筈だっぴ」 ひっちーの疑問に、しかしボーパルは哀しげに首を振り、 「極一部、強力な力を持った突然変異体が以前から存在してたうさー。でも最近そいつ等が群れてうさー達や同胞の邪魔をする様になったうさ。既にムーンラビットは希少種たるうさきんぐすら破れたうさよ」 うさきんぐにはまだ進化した、うさまおう、うさまじん、うさごっど、うさおめが等の強力個体を残してはいるが、それでも希少種たるうさきんぐが敗北したと言う事は、多くの無印ムーンラビットにとっては衝撃的な出来事だったのだ。 「ムーンラビットの一部からは、第7餌場の放棄も考えるべきとの言葉まで出てしまってるうさー……」 ボーパルの両の耳が、情け無さそうに折れ曲がる。 だが、そんなボーパルの肩をチャックが、そしてひっちーが励ます様に叩く。 「ボーパル、駄目だよぅ。ただでさえ第五餌場が異空間侵略者エイリアンとの奪い合いになってるんだぜー。これ以上良質な餌場を失う事は……」 「同胞同士の戦争の再来に繋がりかねないっぴ。それだけは絶対に避けるっぴよ。このわーるどは、他の世界を敵に回してでも同胞との争いを放棄したんだっぴ!」 二人の励ましにボーパルの垂れた耳に生気が戻る。 「まぁ次は僕達リビングドールに任せると良いぜ! 僕に名案があっちゃったりするんだぜ~」 チャックの悪戯っぽい笑顔に、次いでひっちーも、 「同胞の危機は同胞達で救うっぴ! ドリーも大至急侵攻準備にかかるっぴ!」 勲しの歌い声をあげる。 「二人とも……うさーは、うさーは、嬉しいうさー」 喜びに泣き崩れるボーパル。 なんだろうこの茶番。 …………。 「さて、次の議題は最近頻発する食えないゲテモノこと異空間侵略者エイリアンとの戦いについてだっぴ!」 ● 「はっはっは、まあ、さて、仕事に移ろうか」 乾いた笑い声を上げ、少し虚ろな目をした『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が振り返る。 「さて今回の事件だが、最近良くこの世界に来訪する……『ほのぼのわーるど』とやらからのアザーバイドのまたの来襲を、カレイドスコープが察知した」 声に隠し切れない疲れを滲ませ、逆貫はリベリスタ達に資料を配布する。 「今回、敵はバスに乗り町を目指してやって来る。諸君等は走るバスを相手にするか、町に到着したアザーバイドを相手にするか選ぶ事が可能だ」 逆貫の言葉に、資料に目を通していくリベリスタ達。 「ん、誤解を招く言い方かも知れんな。実はそのバスもアザーバイトの一種だ。其のバスの名前はコン・トラ・バス。トラの頭部と狐の尻尾、それにバスの様に乗車出来る構造を持ったアザーバイトだ。何を言ってるのか良く判らんと思うが、安心しろ。私にも判らない。足は狐4本虎4本で公平になっているらしい」 資料1 アザーバイド:コン・トラ・バス 非常に強力なアザーバイド。サイズは大型バス程度で、戦闘になると高速移動、虎の牙、音響攻撃(全体麻痺付き攻撃)、狐火(全体業炎付き攻撃)、変身(巨大ロボットとかになります)等の能力を駆使して来る。 町に付いて中の乗員を下した後は、こちらから手を出さなければ敵対はして来ない。好物は猫とか犬。 「よし、あと少しだ。頑張れ私。…………ごほん。バスの中身はリビングドールと呼ばれる、子供サイズの肉人形達が30体。丁度1クラス分だな。こいつ等が町に解き放たれれば、町は血みどろの惨事になるだろう」 資料2 アザーバイド:リビングドール(切り株組の仲間達) 一体一体の強さはリベリスタに劣りますが、獲物に対して複数で襲い掛かる狡猾さと、一切の容赦をしない残忍さを併せ持ちます。 サイズや容姿は、遠めに見たら園児に見える程度。好物は人間の内臓。 武器はそれぞれがお気に入りの刃物を所持。能力としては仲間に投げて貰っての長距離移動(20m、間にブロッカーが居てもすり抜ける)や、武器に毒や麻痺を付与する、きずぐすりやばんどえーどで癒す、抵抗できなくなった生物を数体がかりで一斉に喰らう等です。 「以上、質問は出来れば勘弁して欲しい。頭がどうにかしてしまいそうだ。諸君の健闘を心より祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月08日(木)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 風を切り、軽快にバスを道路を走る。 カーブをするりと曲がり、タッタッタッとリズムの良い足音を刻みながら。 ……バスなのに足音? そう、勿論足音を立てるバスがこの世界にあるはずが無い。 バスと言っても異世界『ほのぼのわーるど』よりやってきた強力なアザーバイド、其の名をコン・トラ・バス。略して虎バスである。 虎バスは中に、彼と同じ世界のアザーバイドのリビングドール『切り株組の仲間達』30名を乗車させ、一路町を目指していた。 バスの中で騒ぎ、はしゃぐリビングドール達は、一見すればただの遠足に浮かれた園児の様にも見えるのだが、其の実態は人の内臓を貪り喰らう凶悪な化物である。 もしこのまま虎バスが目的地に到着すれば、町では血の雨が降る惨劇が起きただろう。 ……しかし。 「にゃー」 順調に走っていた虎バスの耳が、微かな猫の鳴き声を捉える。 聞き違えようのない好物の声に虎バスは急停車し、其の所在を探し出す。 車内に居るリビングドール達は、急な停車に転んだりパニックになったりしてぶーぶー文句を言っているが、好物の気配に目が眩んだ虎バスが其れに取り合う事はない。 「にゃー、にゃー」 そして発見した其の声の元には、猫の付け耳を装着し、可愛らしく猫っぽいポーズを取る『現役受験生』幸村・真歩路(BNE002821)の姿があった。 所持するICレコーダーから流れる、録音された猫の鳴き声と、猫を真似たこの格好で虎バスの食欲を煽って前衛である自らに引き付けようとの作戦なのだろう。 幾ら声、猫耳、ポーズを取ろうと人間は人間でしかなく、真歩路も引っ掛かったらいいなぁ程度の心算だったのだが……、けれど虎バスはそれに食い付いた。 勿論虎バスとて、本気で真歩路を猫と誤認した訳では無いのだが……、好物に近い特徴を持った生き物なら、とりあえず食べてから考えようとのほのぼのわーるど的思考で餌に食いつく事にしたのだ。猫に比べれば真歩路は些か大きいが、どのみち一口サイズに変わりはしない。 ● シュボッ。 宙に灯った炎を、口に咥えたタバコへと近付ける『イエローシグナル』依代 椿(BNE000728)。 胸中を満たす白煙に椿はスゥと目を細めた。けれど細められた目とは逆に、彼女の瞳孔は散大しており、彼女の中で交感神経系が優位に……別の言い方をするならば闘争の為の神経が興奮状態となった事を示している。 アドレナリンが血に乗って体内を巡り、椿の細胞一つ一つが闘争への覚悟を終了していく。 されど彼女の心中は水鏡の如く凪ぎ、椿の中には興奮と沈静、2つの要素が矛盾することなく同居していた。 戦闘を前にしての喫煙、それは椿にとっての身体に染み付かせた予備動作、プリショット・ルーティーン。 会心のショットを放つ前の集中力を高める為の準備、即ち命中力を高めるコンセントレーションだ。 ずいと真歩路の左右に並び出た、『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)と『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)等もまた強化を済ませ、戦闘態勢を整えていた。 けれど美峰とディートリッヒ、二人の強化は全く相反する性質の物である。 己が肉体の制限を取り払い、限界を超えた性能を発揮する事を自らに強いるリミットオフを使用した攻めのディートリッヒに、自分だけでなく仲間全てを対象に印を結び、術符を散らして彼等の防御性能を向上させる守護結界を展開していく守りの美峰。 頼もしい二人の仲間に挟まれて、 「急には停まれないなら、止めるまで!」 放たれた真歩路の無頼の拳が、猫まっしぐらに突進して来た虎バスの鼻面に突き刺さり其の突撃を食い止める。 虎バスとリベリスタ、両者の戦いは序盤はリベリスタ達が優勢に事を運ぶ。 餌からのまさかの反撃を受けて思わず怯んだ虎バスを、命中力を高めた椿の放つ魔力で作られた呪いの弾丸、カースブリッドが真芯から捉える。[呪い]が虎バスの身を犯し、状態異常から抜け出す為の意志力を奪っていく。 そして当然付与される異常は呪いだけに留まらない。呪いは、其れ単体では然程の意味は無いが、他の状態異常と組み合わさった時に真価を発揮するからだ。 パンチの反撃に上半身をまぐまぐされてる真歩路を救わんと、集中に集中を束ねて居た『世界を記述するもの』樹 都(BNE003151)の気で作られた[麻痺]と[毒]の糸の罠、トラップネストが十重二十重に虎バスを包んで縛り付ける。 糸に縛られ動きを止めた虎バスに、更に椿が都の気糸の上に呪印を展開しその縛を更なる強固な物、呪印封縛による[呪縛] へと仕立て上げていく。 カースブリッドにポイズンシェル、呪印封縛等の多職に渡る状態異常技を高めの命中力で使いこなし、更には其の命中力を自ら高める手段まで備えた椿の戦術は高いレベルで完成されている。ぶっちゃけて言うとずるいっていうかえぐい。 最近の女子大生は皆こんなんなんだろうか? 怖い時代になった物である。 まあ彼女のえぐい戦術はさて置き、完全に身動きを封じられ、尚且つ脱出の力も奪われた虎バスは完全に無防備な状態になっていた。 駄目押しとばかりに式符・鬼人で強化された美峰の陰陽・氷雨による[凍結]さえもが押し付けられている。 其の千載一遇の好機に、仲間の状態異常の回復に備えて待機していた『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)、流水の構えによる命中強化を終えた『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)等も加わったリベリスタ達の一斉攻撃が開始される。 飛び交う斬撃、閃光、かまいたち、リベリスタ達の会心の攻撃が次々と虎バスの体に大きな傷を作っていく。 最も、蓮に関しては想像した以上に衰えていた自らの力に落胆を隠しきれない様子ではあったのだけれど。 そして其の傍らでは、小さく震える依子・アルジフ・ルッチェラント(BNE000816)が、それでも懸命に、でもこっそりと歌い、天使の歌の加護により頭からダクダク血を流す真歩路の傷を回復していた。 ● 少しの間続いたリベリスタ達によるふるぼっこタイム。 だが如何に呪いで解除され難くなっているとは言え、それだけで勝負を決められてしまう程に虎バスは甘くない。 遂に呪いを其の意思で捻じ伏せ、気糸を、呪印を、氷を、其の身を犯す毒や猛毒を体を振るわせ弾き飛ばして、虎バスがその自由を取り戻す。 小さな生き物達の小賢しい攻撃に、すっかり本気になったトラバスの怒りの咆哮は、ある弦楽器を何十個も一度に無茶苦茶に掻き鳴らした音に良く似ていた。骨で増強されるような低い、けれど腹まで響く其の音は、リベリスタ達の脳を揺らして其の働きを麻痺させ、彼等の動きを縛る。 其の凶悪な音から逃れ得た者はただの3名。耳栓をし、連携の中継を真歩路のハイテレパスに托していた美峰と、その托された側であり当然耳栓をしていた真歩路、更には咆哮をあげようとする虎バスの顔が怖く、思わず耳を押さえてしゃがみ込んでしまった事が逆に幸いした依子である。 先程までの押せ押せムードに距離を開ける事すら忘れての攻撃専念が逆に災いしたのだろう。状態異常の回復手たる義弘までもが麻痺に陥った事で全体の立ち直りが大幅に遅れてしまったリベリスタ達に、当然の報復とばかりに次は全体を覆う狐火の渦巻く業炎が襲い掛かり、其の身を炎で包み込む。 身を焦がし燃え盛る炎に、特に体を鈍らせていた蓮や、後衛型の都等が運命を対価に踏み止まる事を余儀無くされる。 だがリベリスタ達にとって幸運だったのは、美峰と依子、二人の癒し手が行動を阻害される事なく生き残っていた事だ。 音や炎による皆の傷を依子の歌が、ついで行われたディートリッヒへの噛み付きの傷を美峰の傷癒術が、それぞれ癒し戦線の崩壊を防ぐ。 そうなると、蓮や都が一度落ちた事は逆にプラスに作用する。踏み止まった際に体の自由を取り戻した二人。 蓮が再び距離と取りつつも集中と斬風脚を繰り返し攻撃を再開し、都はインスタントチャージで依子の天使の歌の消費分を補充していく。 仲間が一丸となり、必死に稼ぐ時間。記述者たる都が出来事を記述する暇も与えられぬ、短く、しかし長く苦しい時間。 そしてやがて、一人、また一人と身を縛る麻痺を振り解いたリベリスタが戦線に復帰し始めた。 ● 真芯を捉えれば敵を大きく弾き飛ばす一撃、ディートリッヒのメガクラッシュは、しかし虎バスの身を浅く薙いだだけに終る。 浅く薙いだだけとは言え、リミットオフで制限を取り払ったディートリッヒの一撃は虎バスに確実にダメージを与えているのだが、其れでもバスサイズもある虎バスのしぶとさは尋常ならざる物が在った。 そして次いで放たれた椿のカースブリッドも同様に、虎バスを傷付けはしても其の真価を発揮するまでには至らない。初撃の時にあった虎バスの侮りや動揺はもう面影すら見当たらなず、ただ、御互いにしぶとく相手の体力を削りあう攻防が暫く続く。 けれど、先に業を煮やし切り札を切ったのはやはり虎バスだった。 どうも先程から定期的にブレイクフィアーでピカピカ光り、折角付与した状態異常を回復する義弘の存在が癇に障って仕方が無かったらしい。 バス内のリビングドール達が座席のシートベルトを絞め、一斉に叫ぶ。 「「「超変身、承認!」」」 煩い黙れ。 額に大きな木の葉を乗せて空中に飛び上がった虎バスの首と硬質化した尻尾が外れて空を飛び、8本の足を引っ込めたバス本体部分が三つに割れて折れ曲がる。 中央パーツが中ほどから更に割れてぐるりと周り、2本の腕と胴体に、其処に分離した2つのパーツが足としてくっつき、中を飛ぶ首が胸の辺りにガチリと嵌った。 新たに生える頭部パーツ。そして硬質化していた尻尾は巨大ロボの武器、剣として其の手の中に納まった。 降臨、ジャイアントタイガーロボ。 変身する事は知っていた。しかしバスとして横に長かった敵が、縦に長いロボに変化するとその威圧感も大きく変わる。 流石にしばし唖然としてしまうリベリスタ達。と言うか、 「……変身ってなんだよ。乗ってる奴の事少しは考えてバスらしくしてやれよ」 と呟く美峰の言葉が表すとおりに彼等の心の大半を占めるのは呆れだ。 バスの面影である窓部分から見える内部には、中央に無理矢理集められてギューギュー詰めにされてもがくリビングドール達が見えている。 「やば、かっこかわいい……」 一人真歩路だけは別の感想を抱いたようだが、ともあれ巨大な剣が前衛を超えて、虎ロボの狙う義弘へと降り注ぐ。 地をも穿つ其の一撃に、けれども義弘は大地の染みと成る事も無く、クロスさせた両の腕で受け、地にめり込ませつつも己の足でしっかりと立っている。 無論今の一撃は義弘の残った耐久を大きく超える一撃だった。けれども彼は運命を対価に倒れる事を拒んだのだ。 ● 虎ロボと化し、更に力を増した敵の猛攻にじわりじわりと窮地へと追いやられていくリベリスタ達。 ブレスト狐ファイアーとか意味の判らぬ攻撃等が降り注ぎ、中には力尽きる者すら出始めた。 だが粘り強く続いたリベリスタ達の攻撃もまた、同様に虎ロボに少なからぬダメージを蓄積している。 そして勝負を決めたのは、真歩路の放ったバウンティショットだ。 ダメージを蓄積させていたとは言え、虎ロボはまだ一発の銃撃で倒れる程までには弱っていない。 けれど真歩路が正確無比な射撃で狙ったのは胸の顔に付いたヒゲだった。 猫化の生物はヒゲをセンサーにして体のバランスを取ると言う説がある。実際に猫のヒゲの根元には液体の入った袋状に成っており、此処の神経がヒゲの揺れを敏感に感知する構造なのだ。そう、其れは人間の内耳、三半規管の構造に少し似ている。三半規管の場合は内部のリンパ液の流れを有毛細胞が感知する仕組みなのだが……。 まあそんな事は兎も角、其の大事なセンサーであるヒゲを真歩路はバウンティショットで打ち抜いたのだ。ひでぇ事しやがる。 衝撃に転び、思わず元のバスの姿へと戻ってしまう、コン・トラ・バス。 ダメージに傷付いた身体。何よりもこっそり自慢だった大事なヒゲの一本を失い、虎バスの戦意は萎えに萎えた。そんな耳を伏せてしょげかえる虎バスの姿に、リビングドール達も敗北を悟ったのだろう。力を合わせて大きな虫食い穴を開け、虎バス撤退を促した。 自分達の世界に帰ろうとする彼等に、足を震わせながらも一歩前に出た依子が差し出したのは、虎バス用の魚肉味のペットフードとリビングドール用にと彼女のこさえた弁当。そして既に力尽き倒れてしまった都の用意した数々の絵本だ。 「人間より、こっちの方がきっと……美味しいよ?」 振り絞った彼女の勇気に、一匹のリビングドールが訝しげにしながらもバスを降り、荷物を受け取り臭いを嗅ぐ。 蓮はアザーバイド達を逃がす事には異論があったようだが、仲間達の考え、其れに何よりこれ以上戦闘を継続するだけの余力が重傷を負った自分には無い事を悟り口を噤んでいる。 「べ、べつに嬉しくなんかないんだぜ? こんなんじゃ俺達には全然足りないけどこう、手ぶらで帰るのも何だから貰っておいてやるだけなんだからなー!」 閉じ始めた穴に急いで虎バスに駆け込む、ファニと名乗ったリビングドール。穴の中へするりと虎バスが潜り込み、其の姿が見えなくなる。 ほのぼのわーるどの住人に手渡された彼等が食べた事のない食料と、其れに込められた想い。 その結果が何かを生むのは、少し先の未来の事だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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