●夜の集会 月夜だ。 都会の隙間の空き地に、青い月光が降り注ぐ。 なーご……なおーん……と鳴き声が夜空に次々と登っていく。 猫の集会である。 と。 ふと、全ての鳴き声が止んだ。 空気がしんと静まり返る。 同時に遠くから聞こえてくる音。 ずうん……ずううん……と重い響きが複数。別々の方向からこちらに集まってくる。 猫たちが一匹また一匹と逃げ出して行った。 やがて猫が一匹もいなくなった空き地に、『それら』は揃った……。 形はばらばらである。いずれも黒光りしていて、月光がそのシルエットを綺麗に切りだしている。 うずくまって祈りをささげるものや、なにやら壺のようなものを捧げ持つもの――この辺はまだ人めいた形をしているのだが、他にも黒々と重く大きな『二股になった塊』としか言いようのないものや、なにやら簡単な漢字を複数つなげたような飛翔する物体も加わっている。 さらに、月を覆い月影を遮って空中に君臨した、円盤。 そこにはくっきりと巨大な『顔』が刻印されている。 ぽっかりと空いた口が、そこにいない誰かに問いかける。 ――汝、真実を持つ強き者なりや……? ●敵は彫像 「今回のミッションテーマは、エリューションゴーレム5体の破壊です」 アークのブリーフィングルームで、『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が切り出した。 「原因は不明ですが、一地方都市に設置されている彫像の類が複数、一斉にエリューション化しました。これがとある空き地に集まっていますので、それを撃破していただきます」 彫像の集会。シュールだ。 「数こそ5体とやや多いですが、そのうち4体はフェーズ1です。詳しくはあとで資料をご覧ください。警戒するべきは唯一フェーズ2の『真実の口』ですね。……これはローマにある同名のレリーフのレプリカなのですが、空中に浮遊した状態で強力な火炎や凍気を吐いてきます。空中の敵への備えがなければ戦いは困難になるかと思われます」 要するに、空飛ぶでっかい顔面が結構強いという話。 「なおこの『真実の口』にはテレパシー能力が備わっていまして、戦闘中もみなさんの記憶を読んで様々な言葉を投げかけ、動揺を誘おうとすると思われます。耳を貸さないのが最良の選択でしょうね。どうせ相手はE・ゴーレムです。深い考えがあって言葉を投げかけてくるわけではありません。こだまのようなものだと思えばいいでしょう」 まあしかし、と和泉は言葉を継ぐ。 「のべつ幕なしに心を読んでは口にし続けられるというのは、いい気分はしないでしょうね。どうぞみなさん、早々に口がきけなくなるように全力で叩いちゃってください!」 そううまくいくといいのだが。 「みなさん頑張ってくださいね。無事に帰ってくださいね。待ってますから!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:juto | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月28日(月)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●八人のリベリスタ 月は半月。澄んだ虚空にきりきりと弓を張っている。 その月光の下に、五つの彫像が集まっていた。 最も大きいものは切り株の形に似て、大地にどっしりと根を張っている。その名もそのまま『大地』という。 台座の上に高々と立ち、捧げた壺から水をこぼしている裸婦が『きよら』、台座の上でうずくまりなにやら祈りをささげているのが『いのり』だ。 かたかたと小うるさく構成部品を鳴らして宙を飛びまわる文字の集合体のようなものは『つばさ』という。 そして彼らの長。 満月のごとく空に君臨する円盤に、大きな顔が刻まれている。『真実の口』だ。 「まあ……ブリーフィングで聞いては来たが、本当に初仕事が動く彫像とはな」 やや離れたビルの陰で、『硝煙の轍』エルヴィン・グレイ(BNE003171)は双眼鏡から目を離した。スーツにコートを羽織った灰色の男だ。二つ名は多くの戦場をくぐり抜けてきたが故。煙草に火を付けた。娘がそばにいないときは遠慮なく吸える。 「あの口に腕を突っ込んで遊ぶんですよね。ちょっと憧れます。ふふ」 『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)は大胆な露出のスターサジタリーだ。しかし言葉を発さなければその気配は見事に消えていた。『バスタード』はそのまま『私生児』を意味する。 「あの口がなんか色々囁いてくるらしいけど別にルメやましいこととか、トラウマとかあんまりないからそんなに怖くないの!」 元気に言いきるのは『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)だ。高校の制服を着た小学生。二つ名の由来は……語るまでもあるまい。 「しかし……やれやれ。真実の口とは珍妙な」 そうこぼしながら、『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)はいかにも気が重たげであった。齢十の幼きリベリスタだ。二つ名は「なくした輝き」。しかし闇は彼の力である。……心を言い当てられることは、彼にとってはありがたくないらしかった。 「それにしても彫像って存在意義が分からないわね。所詮は他人の手慰み……ああ、どうでもいい」 『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)の吐息にはどこか血の色が帯びられている。エリューションの力で強化された爪をふるうヴァンパイア。その二つ名の意味――夢幻の境界にとらわれてしまった心。 「存在意義がどうあれ、世界を崩界へと向かわせる存在を野放しにはできん」 修正、削除する、と『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)は断言した。有角の用兵家。『生還』はつわものの最低限のいさおしであり、恥辱でもある。 「ええと……月が明るいから懐中電灯はいらないですね。あとは結界を……」 風見 七花(BNE003013)は小さな胸で小心にこまごました手配に気を配っている。二つ名を持たぬのはごく普通の高校生であるが故。しかし魔術師が普通であり続けようとすることは普通ではない。 「結界なら張ったよ。深夜の空き地に如何してもくる理由のある奴も、そう居ないんでないかしらん?」 『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は外見こそ12歳程度だが堂々と煙草をふかしている。実年齢は51歳である。赤い刃のカッターナイフを振るう「鮫」。その二つ名は定まりきらぬ己の有り様故。 「では……いくぞ」 雷慈慟が進攻開始を告げた。今夜集まったメンバーの中では彼がもっとも戦場の指揮に長けている。 リベリスタ達の戦いの夜が始まった。 ●集中攻撃! 真実の口がぐるうりと向きを変え、空き地に踏み込んだリベリスタ達を見降ろした。 「汝ら、悠久の石碑に戦いを挑む者か……?」 そうだ、とわざわざ答えた者はいなかった。すでにそれぞれに戦闘のための集中状態に入っている。時間が惜しい。 ざっと彫像たちが動き、フォーメーションらしきものを形成する。たっぷりと幅がある『大地』と長身の『きよら』が前だ。『いのり』が陰に隠れるように後ろに控え、真実の口と『つばさ』は空中にある。 りりすが恐るべき素早さで『大地』の懐に入ったのをきっかけに、戦闘が始まった。 かしっ! と赤いカッターナイフが大地の表面を削る。傷はわずかだ。しかし確実に命中する。 『きよら』が石でできた『水流』を振りかざし、そのリリスに向けて横なぎに叩きつける。りりすは、くん、と沈み込んでこれをかわした。 真名がその爪を恐ろしい勢いで振ると衝撃波が生じ、『いのり』に襲いかかった。しかし『大地』の巨体がこれを遮る。ごつっと拳よりやや小さいかという石くれが散った。 「やっぱりモノは嫌ね、硬いし、なにより血が出ないもの」 ぺろりと赤い爪を舐める。 「雷の双子よ。来訪し衝突せよ。チェインライトニング!!」 万事控えめな七花の激烈な魔法で、戦場は雷鳴轟く場となった。 雷撃が五つの彫像を平等に襲う。 「裁きの雷か。それはお前たちにこそふさわしい……」 そう告げたのは『真実の口』であった。ごうごうと赤い火炎が七花を襲う。 「――きゃっ!」 とっさに地面に転がり、服に付いた炎をもみ消す七花だが少なくないけがを負った。 しかし地面に転がったのは幸運でもあった。ついさっきまで立っていたところに、がずっと石でできた『文字』が楔のごとく突き刺さったのである。『つばさ』の攻撃であった。 「~~~~~~~~……」 『いのり』が白い光を放つと『大地』の欠けていた部分がみるみる埋まっていく。しかし雷撃による焼け焦げは残ったままだ。回復が完全に追いついているわけではない。 「癒しの力ならこっちも!」 ルーメリアの息吹が光を帯びてくるくると渦を巻き、七花を包んだ。みるみる傷がいやされていく。 「アナタ、大丈夫?」 「うん。ありがとう」 七花が立ちあがる。 「大きいのを標的にするしかないみたいですね。……それとついでに」 ユウの魔弾が岩肌に撃ちこまれた。立て続けに放たれた銃撃が『きよら』をも巻き込む。 「そういうことだな」 エルヴィンもまったく同じ技法で『大地』と『きよら』に銃弾を叩きこんだ。 本当は『いのり』を最優先の標的としたいところなのだが、『大地』が射線を完全にふさいでいる。 「じゃあまず大きいの。動かないでー」 跳躍した影時が『大地』の頭部と思しき切り株の上部に暗器を叩きこんだ。ぎし、と一瞬だが大地の動きが止まる。 「今だな」 雷慈慟の機械化した手から放たれた気の糸が巧妙に回り込み、祈りに絡みついた。 『大地』はさすがの回復力ですぐに麻痺から立ち直ったが、『いのり』はしばらくの間動くことができなかった。 その間にリベリスタ達は敵前線へ、その中心たる『大地』へと攻撃を集中させていく。 七花の雷鳴がとどろく下で、岩肌を穿つ鈍い音が立て続けに響き渡る。 敵も黙ってはいない。『きよら』の『石流』が容赦なく前線のリベリスタを打ちすえ、『つばさ』は幾度となく急滑降してリベリスタの頭上を脅かし、『真実の口』が炎と氷を交互に放ってくる。 ルーメリアの癒しもその全てをケアしきるには少し足りない。 つまりは、命の削り合い。 つまりは、意地のぶつけ合い。 びし! と『大地』にひびが入ったのは、常に先陣を切るリリスの刃が六度目に岩肌を切り裂いた時であった。 「ん。刃が通る」 とカッターナイフの剣士がつぶやく。 「今ならおいしそうね」 真名がその裂け目に手刀を突きこむと、ほろほろと『傷口』が白く褪色して灰になって散っていった。ヴァンパイアの生気吸収の力である。 「続け。集中攻撃だ」 指示を下した雷慈慟も、このときばかりは気の糸を操る手を止めて『大地』を攻撃する。裂け目にピンポイントで照準した一撃だ。 さらに続けて、チェインライトニングの雷が落ちた。 ――ばりばりばり、ばかっ! 『大地』が真っ二つに裂けた! まずは一体撃破である。 「続けていきます!」 一体きりの前衛になった『きよら』の脇をすり抜けて回りこんだ影時が『いのり』に攻撃を叩きこむ。ただ敬虔に祈るていの像に少年が攻撃を叩きこむ様は奇妙なものであったが、戦術的には巧妙な一手である。 ユウとエルヴィンの狙撃がこれに続く――。 『大地』の粉砕後、『いのり』が倒れるのには30秒もかからなかった―― ●真実の問答 真実の口が真名に問う。 「『その子』にとっておまえはただの気狂いの邪魔ものではないのか?」 この問いかけに、真名はまっすぐな視線で答えた。それは一瞬ひらめいた正気の様であった。しかし狂信者の目でもあった。 「信じているわ、信仰してるわ、私はあの子の特別、疑いなんて欠片も必要無い、だってそれは運命で、決まった事だもの」 真実の口がりりすに問う。 「『ヨゴレ』よ。人か鮫かも定まらぬままなにを戦う?」 この問いをかけられても、りりすは黙って意識を集中していた。そして地上に飛来しグライディングで突撃してきた『つばさ』の攻撃を跳躍して越えると、がっとかかとで『つばさ』を踏みつけ、刃を振りおろした。元々脆弱な構造だったうえに雷をなんども受けていた『つばさ』はあっけなくへし折れた。 無言の回答。『振りあげた刃は、ただ振り下ろすのみ』。 真実の口がルーメリアに問う。 「赤い球団は今年も残念だったな……無論来年も残念だろう。むしろ最下位……」 「なっ…!? ら、来年こそAクラス入りなの! 優勝だってありえるんだから!」 「それは可能性ではあるが真実には程遠い……」 「くっ、それ以上言ったら、怒るの! うがー!」 どこからともなく出現したボールを真実の口に投げつけるルーメリア。ボールは『口』にすっぽりと入ってばりばりと咀嚼された。 ルーメリアはやけっぱち気味にどこかの応援歌を歌い始める。一応それは皆をいやす天使の応援歌であった。 真実の口が雷慈慟に問う。 「ムッツリスケベめ……子を残すことになんの意味がある」 「貴様も満足の行く解答は出せまい!」 何を言われてもこれだけ答えてやろうとあらかじめ用意されていた答えである。『ムッツリスケベ』というのは最近人から言われてちょっと気になっていた言葉ではあるのだが。 真実の口が七花に問う。 「家に帰って隠秘学の研究をしなくていいのか?」 「――!」 それはいわゆる黒歴史という奴で、だから七花は思わず膝を折ってしまった。…チェインライトニングの連打で精神的に疲弊していた、というのもある。もう、ごろごろ転がってもだえたい心境である。 だが膝を折った七花の両肩を、雷慈慟の大きな手がしっかり捕まえた。 「頑張れ。君の力が必要だ」 気の流れが同調し、彼の力が七花に流れ込んできた。 かくして七花は再び立ち、答える。 「今は『真実』に触れていますから!」 真実の口がユウに問う。 「バナナはおやつに入りますか?」 「入ります」 「……私生児め。なにごとも断言するほど確固たる己などあるまいに」 言い返したのは、あるいは真実の口、即答されてちょっと悔しかったのかもしれない。 「たしかに確かなものはない。けれど秩序をもたらすリベリスタで在り続けると心に誓っています」 銃弾が真実の口を穿ち、くるくると回転させた。 真実の口がエルヴィンに問う。 「娘との接し方が分からぬのは、貴様が『煙』しか知らぬからではないか?」 「うるせえな。その口よりも、こいつと付き合っちゃくれねえか?」 向けるのは銃口。硝煙が尾を引いて、銃撃が真実の口に叩きこまれる。 真実の口が影時に問う。 「呪われた子が捨てられて転がって、なぜ生きる?」 「なっ――」 影時がひるんだ途端、真実の口から放たれた激烈な火炎が彼に襲いかかった――! 「ぐあぁ! う、ううう……」 火だるまになって崩れ落ちる影時。しかし……終わりはしない。 『運命』が渦を巻いて影時を守る。炎が渦に巻き込まれ、天に放たれた。 影時、立ちあがる。 「そうさ、そうだよ、だからなんだよ!」 返答になっていない返答。だがそこにあるのは確かな意志。 「今はお前らを倒すために此処に居る!」 『きよら』がかさにかかって襲い掛かってくる。その打撃を受けても影時は揺るがなかった。逆に、そのくびれた腹部に一撃を叩きこんで『きよら』をへし折った――! ●決着 「よくも。よくもともがらをぉぉぉぉ」 四体の彫像全てを打ち砕かれた途端、『真実の口』の表情が一変した。 まなじりを吊りあげ、口が耳まで裂ける。悪魔の顔である。 「がはああああああああああああああ――」 吐き出された冷気の量が尋常ではない。リベリスタ達全員を巻きこみ、空き地の地面をばきばきと氷結させる! だがリベリスタは誰一人として屈しなかった。 銃弾が、衝撃波が、魔力の矢が、残り一体となった敵に矢継ぎ早に打ち込まれる。 フォーメーションが変わり、空中の敵を狙えないものは射手や術師の盾となる。 巨大な火の玉が吐き出され地上で炸裂した時に、エルヴィンが倒れた。しかしそれまでだった。 猛攻を受け、ついに『真実の口』――フェイズ2のエリューションゴーレム――は地上に落ち、割れた。 リベリスタの勝利である。 fin |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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