●秋の民宿 秋風が少しずつ冬の訪れを告げようとする中、山も冬に向けてその景観を変えていく。 動物達は冬に向けて食料を集めだし、植物は日照時間の減少にあわせて赤く染まり、葉を散らしていく。 毎年変わらぬ四季の風景。これまでそうであったように、これからもそうなのだろう。世間や世界のあわただしさと切り離されたような自然の光景。鮮やかな紅葉と山の傍に立つ小さな民宿。 毎年決まった人がやってくるだけの客足の少ない宿だ。今年もそろそろあの人から予約が入ってくるかな、と思っていたときに電話がかかってくる。 だた今年は去年と違った。去年は九条様のお連れはたった数名だったのに今年は―― ●紅葉 「お前等、紅葉狩りとか興味あるか?」 開口一番。集まったリベリスタに『菊に杯』九条・徹(nBNE000200)はそんな質問をした。 紅葉狩り。ざっくり言ってしまえば、紅葉を観察する行楽である。この場合の『狩り』は草木を鑑賞する意味合いになる。 鑑賞のスタイルはそれぞれだ。紅葉の木の下を散歩するのもよし。遠くから紅く染まった紅葉を見るもよし。秋の味覚を食べながら見るもよし。百人いれば百人なりの紅葉狩りがあるだろう。 「俺はこの時期になると知り合いの経営している民宿で泊まって紅葉を見に行くんだ。紅く染まる紅葉が綺麗でなぁ。どうだ、一緒に行かないか? あまり客のいない宿だから、大人数で行っても迷惑じゃないだろうし」 徹が示したのは、三高平市駅から数時間の山の麓。人里はなれた民宿だ。朝早くから出かけての日帰りツアーになる。都会の喧騒から離れ、静かに紅葉を見るのもたまにはいいだろう。 「ここのところゴタゴタしてたからな。心を落ち着ける意味でもいいもんだぜ、こういうのは。おおっと、俺もその『ゴタゴタ』の一因か」 元フィクサードでアークに敵対していた男は苦笑して、毛のない頭を軽く叩いた。数ヶ月前、捕われ尋問されていたとは思えない気安さである。 「そこの知り合いは神秘とは無関係だから、幻視必須な」 民宿の人は皆一般人なのでそこは考慮してくれ、と言うことらしい。 「ま、たまにはゆっくりしようや。何も考えず紅葉を見るのもいいもんだぜ。 ああ、俺は酒を戴くぜ。いい杜氏がいるんで旨い日本酒があるんだ」 それがお気に入りの理由か。リベリスタたちは上機嫌の徹を見ながら、しかし楽しくなりそうな小旅行の計画を夢想していた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月02日(金)23:30 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 0人■ |
●トンネルを抜けると トンネルを抜けるとそこは赤く染まる山々だった。 一日数本の電車に揺られ、50人近くの観光客がやってくる。民宿の店員はあまりの客数に驚き、そして喜んだという。 「何もないところですが、ゆっくりしていってください」 民宿の女将は言う。何もない小さな田舎町。しかしその小さな平和を守るリベリスタにとって、今日という一日は自らが守った平和な報酬なのだ。 ●紅葉のトンネルの中 「おー! 真っ赤っかで綺麗だな」 「どうせなら、山全体に火を放った方が美しいと思わない? なんちゃって」 「山火事起こす気かよ?! 風光明媚は大事にしろよ!」 紅葉の中を歩きながら夏栖斗とこじりが仲睦まじい会話をしていた。 「ま、こじりさんと一緒がうれしくて死にそうだけどね」 ストレートに自分への思いを告げる夏栖斗に、秋風の寒さを感じながらこじりは思う。 (万年引き篭もり族の私からすればこんな寒い時期に外に出るなんて考えるだけで億劫なのよ。なのにこの子が行きたいとか抜かすから。ああもう) 「ってうわっ、後頭部打って物理的に死にそうになったわ!」 てぃ、と夏栖斗の足を払うこじり。バランスを崩して倒れる夏栖斗。こじりも一緒に倒れて、紅葉の絨毯に寝転びながら夏栖斗の手を握る。 「寒いわね、御厨くん」 「そ? こじりさんのお陰であったかいけどね」 外にでるのは寒くて億劫だけど、この手のぬくもりは悪くない。紅葉の赤と空の青を眺めながら、こじりは口を開く。 「今度は、雪の絨毯の上で、こうしましょう」 「寒いの嫌いなのに雪の上で? もっと寒くない?」 あーもう、この子は。でもいっか。こじりは繋いだ手を離すことなく紅葉の絨毯の感触を楽しんだ。 「あれ。ルアくんの手、冷えてるんじゃない?」 秋の山を散歩中。スケキヨがルアの手を取って自分のポケットの中に入れる。手のぬくもりがポケットの中で伝わり、暖かくなる。 「ポケットの中で繋ぐとぽかぽかして暖かいねっ」 そのまま二人は山の中を歩き、座れそうな岩の上で休憩する。ルアがお茶を入れながら隣に座るスケキヨに何かを思い出したように語りかけた。 「そういえば、初めて一緒に行ったお仕事の後、こうやってお茶を飲んだよね」 「初依頼……もうそんな前か、早いなぁ」 半年前の依頼。そのときに二人は出会った。半年でその感情は愛に変わる。 スケキヨがそっとルアを抱きしめる。その手に自らの頬を当てるルア。ルアの口から自然と言葉が出る。 「好きだよ」 「ボクも大好きだよ」 言葉は重なる。これからも。 「葉っぱが真っ赤だ! そして空が真っ青! 綺麗だね!」 ブーツで山道を蹴って、玲が静に向かって微笑んだ。満面の微笑み。紅葉が綺麗なこともある。空が美しいこともある。だけど、微笑んで欲しい人がいるから玲は微笑む。 そんな元気な玲の姿を幸せそうに見ながら静は歩く。今までも、そしてこれからもこうして歩いていければいい。向けられた微笑みに、 「玲が一番綺麗だぜ♪」 マフラーをかけて、抱き寄せるように自分の下に引き寄せた。そのまま一繋ぎのマフラーで静の体温を感じる玲。 「静かだね……世界に俺たち二人しか居ないみたいだ」 赤い静寂の結界の中、玲は口を開く。聞こえるのは自分と相手の心音だけ。 「二人だけの世界になっても、世界がどんな変貌を遂げることになっても玲の一番近くに居たい。一緒に支えあって生きていこうな」 静の言葉への答えはない。ただ手を強く握り、二人は抱き合った。 「あ、お弁当作ってきたんだ。ここで食べようか」 「え? 私も作ってきました」 山の中腹の休憩所。ベンチの上で悠里とカルナが、お互い弁当箱を持ちながら顔を突き合せる。 「あはは。二人共持ってきたんだ。じゃあ交換しながら食べようか」 「お口に合うと良いのですが……」 二人は互いのおかずを交換しながら昼食を取る。 悠里はこの前悪戯されたお礼とばかりに、 「はい、カルナ。アーンして」 サンドイッチを一口サイズに切り取って、カルナの方に近づけた。カルナはうろたえつつも悠里の笑顔に促されるように口を開いた。はむ、もぐもぐ。小さな口で咀嚼する。その様子を小動物を観察するような目で見る悠里。 やばい、かわいい。しかしそんな悠里の目の前に突き出される一口サイズの卵焼き。 「それでは悠里もどうぞ?」 カルナからの思わぬ反撃。顔を赤くしながらその卵焼きを口にする悠里。 「お、美味しいね」 恥ずかしすぎて味なんてわからないけど、なんとか悠里はその一言だけは返した。 二人のお弁当タイムは続く。甘く、恥ずかしい二人のときが。 式神は山の中、静かに空を見上げていた。 都会の喧騒から離れ、田舎の自然を満喫する。 紅葉の木陰に腰掛けて、舞い散る紅葉を眺める。秋の情景を視覚で感じ、その静けさを体全てで受け止める。式神はそんな贅沢な時間を過ごしていた。 「んー、外で食べるご飯って何でこんなに美味しいのかしらね」 未明は山の中でシートを広げ、お弁当を食べていた。今日は自分のコーポレーションのメンバーとピクニック。料理の出来る人が結構いるのでピクニックにして大正解だ。和洋色々並んだ食材を前に、舌包みを打つ。こんど、作り方教えてもらおうかしら。 弁当を用意したかるたは前日から準備をした弁当を皆が美味しそうに食べているのを見て心の中で拳を握って喜んでいた。三段重ねの重箱の中には、ご飯、揚げ物、サラダとそれぞれ気合の入った一品ばかり。料理人の娘として全力を出したお弁当だ。 「……おー、ちゃんとタコさんウィンナーの足が8本に……」 リゼットは箸でウインナーを掴み、かるたに尊敬のまなざしを向けていた。そのまま口に含み、良く噛んで飲み込んだ。口の中に広がる味わい。 「えへへー。お姉ちゃんのご飯は冷めてもすっごく美味しいのですっ」 元気に笑うリゼットに心温まる 「この様に皆で集まるのも、久しぶりであるな」 オーウェンは自らが作ってきたクッキーを未明に向けて、 「ほれ、口を開けたまえ。あーん、である」 「ちょっと、他の人が見てるからっ」 「そんなことは気にしないでよろしい。むしろ見せ付けてやろうではないか」 「ちょ、恥ずかしいわよ」 恥ずかしがりながらも、完全に拒絶はしない。いい仲であった。 「コーポのメンバーで出かけるのって、今回がはじめてじゃねえか?」 フツはそんな二人を見ながら、コーポのメンバーに紹介を、と連れてきたあひるを見た。 (あ、あひるの腕が、寂しがってますよ。隙間風ピューピューですよ……っ!) そんな念が通じたのか、フツはあひると腕を組んだ。寒い秋風もこれで大丈夫。 「そういえばお弁当だけど」 「あ。うん! 朝から張り切って作ってきちゃった。たくさん作っちゃったから、皆にも食べてもらえると、いいな……」 あひるの言葉に承諾の笑みを浮かべながらも、やはり恋人同士で食べあいなさいという笑みもむけられた。オーウェンと未明のやり取りを思い出し、あひるは作ってきた卵焼きを箸で掴み、 「はい、あーんって、してして……っ!」 「おう。あーん」 恥ずかしがることなく、フツは恋人の行為を受け取る。ふんわりとした味わいが口の中に広がった。 「っくしゅ! 風邪かなぁ?」 「わ、たいへん。あひるが暖めるからっ!」 今年の紅葉は去年よりも綺麗。そんなことを思いながら、時は過ぎていく。 夢乃は紅葉の中、一人歩いていた。 「うん、大丈夫。今日のあたしは精神無効に呪い無効。カップルを見ても何も動じません。動じませんともっ!」 動じてる動じてる。 個人的な思惑があって夢乃は一人で歩いていた。田舎町にすんでいたこともあるので、こういう風景は懐かしさを感じる。 (お母さん。あたしはこの赤い世界で、ずっとひとりなのですか? いつかお父さんのような人に、あたしは逢えますか?) 小指の先を見る。今は見えない赤い糸。それが誰かに繋がっているのだと信じたい。 しかしそれよりももっと切実な問題があった。 「とりあえずは、どこをどう行けば皆様と合流できるかを考えなければ!」 人気のないところを歩きすぎて、夢乃は迷っていた。 ●宿の中で 窓開ければ紅葉を一望できる部屋。それはまるで時間から切り離された錯覚すら感じさせる。 運ばれてくる山の幸を使った料理を口にし、拓真は自然と顔をほころばせた。 「……うむ、美味い。悠月はどうだ?」 「とても美味しいです。こういうの、良いですね」 悠月はその雰囲気に心穏やかになり、お茶をすする。 二人の視線は、刹那に散り往く秋の紅葉に移っていた。山一面を赤く染める紅葉。その美しさに目を惹かれながら、 「綺麗ですね……。見れて良かった」 「今日、此処に来れて良かった。……心から、そう思う」 こう思えるようになったのは、自分が変わったからだろう。傍にいる女性の存在を改めて感じながら、拓真は幸せであることを感じる。 「有難う、それと……これからも宜しく頼む、悠月」 「私こそ、宜しくお願い致します。……拓真さん」 永遠に歩みたいと想う。その思いは二人一緒。冬の到来を感じながら、しかし暖かな絆を感じていた。 「どう、ですか……殿……」 いつものゴスロリ服ではなく、民宿に合わせた浴衣に着替えたリンシード。そのまま腕鍛に酌をする。とくとくと杯に酒が盛られ、それを一気に飲み干す腕鍛。 「いやー。美味しいお酒でござるよ。お返しにあーん、するでござる」 「えと、その……恥ずかしい、です……」 顔を赤らめながら、口を開いて腕鍛がむいた栗を食べる。恥ずかしさに顔を赤らめるリンシード。 「一番可愛い紅葉でござるなぁ」 その顔の言葉に、さらに顔を赤らめた。 「そうそう。誕生日が近いのでござろう?」 腕鍛から渡されたのは、はさみをモチーフにしたペンダント。それを首にかけてやる。 「その……いいんでしょうか? ……あ、ありがとう、ございます……」 かけられたペンダントを大事そうに手にとって見ながら、リンシードは礼を言った。 「あー、良いもん見た! あんな綺麗に色づくもんなんだなぁ」 一通り紅葉を見て回り民宿に戻ってきた木蓮は、部屋に戻って龍治と一緒に食事をしていた。取れた手の山の幸を食べながら、木蓮は龍治に酌をする。 「……お酌なんて初めてするが、意外といいもんだな」 不慣れな酌を受けながら、しかし悪い気分はしない龍治。それを口にし、美味そうに息を吐く。 「むう、俺様も早く飲めるようになりたい」 「酒をか? もしお前が呑める時まで共に居られたなら、付き合ってやらん事も無い」 「ほんとか! そん時ゃ付き合ってもらうぜ!」 木蓮の言葉に、小さく笑みを浮かべる。木蓮が成人するまで三年。長いようで短い三年になりそうだ。 「おっとそうだった、受付近くで少しだけ土産物が売ってたんだよ。手作りかな?」 「ストラップか?」 「そうそう。これが友達用、こっちがばーちゃん用。……っで、これが龍治のな!」 「まあ、持ち歩きはせんだろうが。部屋に置いてやろう」 渡された紅葉柄の布ストラップを受け取り、龍治は木蓮の顔を見る。こういうのも、たまには良い。その言葉は口に出さず、酌された酒を飲んだ。 「ここが九条さんオススメの民宿か。雰囲気があってよいところだね」 民宿の窓を開け、広がる紅葉を一望する疾風。同じ赤でも木によって色合いは異なり、その違いが心を癒していく。 「愛華ちゃん、紅葉が綺麗だよ。記念に写真撮っておこうかな」 「色鮮やかな紅葉ですねぇ」 疾風と愛華は窓からの風景を楽しみながら、運ばれてきた料理に箸をつける。 「栗ご飯、おいしいのですぅ」 「景色も良いけど食事も美味しいよねえ」 食欲の秋。けして紅葉を美しくないとは言わないが、二人にとってはこちらの方がメインだった。新米とついさっき取ったばかりの栗を鍋炊きして作った栗ご飯は、ほっぺたが落ちそうなぐらいに美味しかった。料理は鮮度だ。 「あぁっ! 疾風さんの方が栗が多い気がするぅ~! ぶぅ~。この栗いただきなのですよぉ」 「もう。それぐらい言えばあげるよ、愛華ちゃん。はい」 「わわわっ。疾風さんありがと~。ん~、おいしい」 否、メインは『二人で』食事をするでした。ご馳走様です。 「食後のブドウもおいしいですねぇ」 美味しそうにブドウを食べる愛華を見ながら、疾風はお酒を飲む。いい思い出ができた。このゆっくりと流れる時間を肴に、酒を嚥下した。 ●飲めや歌えや そんなまったりとした時間を過ごすものもいれば、酒宴を楽しむものもいた。 この小旅行の提案者である徹を中心に、宴は盛り上がっていた。 「いやー。久々の酒は美味いでござるなー!」 喉を通る熱い液体を感じながら、虎鐵が言う。お猪口片手につまみと紅葉。アルコールの高揚感も手伝って、いい気分だ。 「なんだよ。家じゃ呑まないのか、虎鐵」 「家では子供たちに迷惑かけてしまうから飲んでないのでござる」 徹の問いに少し肩を落として虎鐵は答える。パパさんも大変だな、と慰める言葉に今日は呑むぞとばかりにお猪口に酒を注いだ。山菜の天ぷらを口にしながら、 「つまみも美味しいでござるな! くうう……三高平でも飲みたいでござぁ……」 その姿は哀愁あふれるお父さんだった。 「お酒が主でも毎年この時期に来ているなんて、随分とここの紅葉を気に入っているのね」 エナーシアが紅葉を見ながら徹に語りかける。 「まぁな。ここの紅葉を見て初めて秋を感じるってもんさ」 「私はこの国の紅葉や桜のような儚い一瞬こそを大切にする美意識が好きだわ」 本当は何もかも儚いのだ。かつての思い出も、今酒を飲んでいるこの時間も。全ては刹那。だからこそ愛おしい。 「ねえ、九条さん。去年は誰と此処に来たのかしら? 恐らくは来年以降、今年の面子がもう一度全員揃うと云うこともないのでしょうね」 「かもな。そいつはフォーチュナでも『万華鏡』でも読めないだろうよ。 でも皆が今ここにいるって事実はずっと消えねぇぜ。それで充分だ」 お猪口を掲げる徹。そのコップに、カンとコップを重ねて乾杯をするエナーシア。 乾杯。此度の紅葉狩りに皆と集えたことに感謝を。 「此処の料理は秋の味覚尽くしかぇ?」 秋茄子を食べながら、瑠琵が料理に舌鼓をうち、お酒を口にする。ロリババアってお酒OK? 見た目幼女だけど大丈夫? てな空気が流れたが実年齢は20歳以上ですのテロップが流れて事なきを得た。 「まぁ、一献。遠慮は要らぬぞ」 「ありがとよ。しかしよく食べるねぇ」 酌されて徹は瑠琵の食べっぷりに舌を巻く。 「まだ食べたりぬぞ。もっともってこーい」 瑠琵は呑むほうに走る人の分まで料理を頬張り始める。残すよりはいいか、と誰も止めはしない。 「わたしも! りんごじゅーすに、よくあうわしょく! ください!」 食べに走った瑠琵に対抗するようにイーリスも箸を動かす。林檎ジュース片手に紅葉を見ていたイーリスだが、食べるものが減ってきたと思うと慌てて食べに走る。そして徹のほうを見ると、 「九条のおっちゃん! つるつるなのです! さわるのです!」 言いながらぺたぺたと徹のスキンヘッドを触ってくるのはイーリス。誰もがやりたいと思ってやらなかったことを、平然とやってのけた。そこに痺れる憧れる。 「おおぅ!? 慌てるなよ。逃げやしねぇしすきに触りな」 「わーい! いつのひか、かがやける駿河の至宝と呼ばれるのです。おっちゃんは! フツさんの、ライバルなのです!」 「え? そういうライバル?」 ちょうどフツは恋人と食事をしながら、くしゃみをしていた。 「しかし、ジャックザリッパーとか賢者の石の奪還とか都市伝説が現実に出てくると調査したくなってくるな」 「都市伝説というより伝承の類ですかね?調査が出来るほど大人しかったらよかったんですけどね」 足湯から帰ってきた桐と光がふすまを開けて、酒宴に混ざってくる。未成年なので林檎ジュースだが。 「人気者は辛いねっ!」 イーリスに頭ぺちぺちされている徹をみて、光が混ざってくる。同じように頭を撫でる。それをみていたテテロもやってきててしてしと頭をはたく。 「折角風流な機会ですし俳句でも作って詠み合いませんか? 九条さんは得意そうですし」 「お。いいねぇ、じゃあボクも」 桐は徹の傍に座り、一句読み上げる。光も興が乗ったとばかりに読み上げる。 『眦(まなじり)に 姿映すは 紅葉かな 詠み人 雪白 桐』 『ちはやふる 神子の手平 ゆうと舞う 詠み人 天月・光』 『酒少し お猪口に映る 秋の空 詠み人 九条・徹』 「ふふ。九条さんはお酒がすきなんですね」 「ボクらはまだ呑めないから分からないけどな!」 くすりと笑う桐。林檎ジュースを飲みながら、俳句を批評していた。 「おおっ! これはいい! もっと持ってくるんだ!」 初めての日本酒を口に、舌鼓を打つイセリア。洋酒は飲みなれているが、日本酒独特の感覚に酒が進む。ハイテンションなイセリアに大丈夫かな、と言う視線を向けるものに対して、 「大丈夫、私はガイジンだ! 酒には強い!」 全く根拠のない言葉を返した。うわ、ダメそうだこれ。 「やかましい姉でごめんなさいね……」 酔っ払った姉の所業に謝りまわるイーゼリット。その横でドイツをあまくみうなお、とろれつの回っていない口調で酒を飲み続ける。 おおよその予想通り、二杯目の半分ぐらいでイセリアはノックダウンすることになった。畳に寝転がるイセリアにウラジミールが毛布をかける。 「すまないねぇ。潰れたものの世話させて」 「問題ない」 短く言葉を返しウラジミールは日本酒を口にする。 「日本酒はどうだい?」 「良い。口当たりが優しい。様々な味があるのだな」 「お勧めはそっちの吟醸酒だぜ。こいつと山菜の白和えがよくあうんだ」 「なるほど。試してみよう」 徹の会話に答えながらウラジミールは次々と酒を口にする。このロシヤーネは基本的にあまり語らないのだが、けして他人に無関心ではない。打てば返す様に会話は続く。 「日本の良い風景を見ながら日本酒を飲む。趣を楽しむというのはこういうことだろうか」 ふと、窓の外の紅葉に目を留めてウラジミールのほうから会話を振ってきた。 「日本に限らないと思うぜ、オレは。いいものはいい。酒の肴にできるのなら、なおさらだ」 なるほど。短く首を振り、またウラジミールは静かに盃を傾けた。 「うほっ。いい紅葉じゃないの! こいつを見ながらの酒は格別だぜ。 よし、九条、強い酒を一気飲み比べと行こうじゃないの! 酔い潰れたら介抱してやるから、構わないでホイホイ飲んでいいんだぜ」 「言ったな。色々身の危険を感じるが、その勝負乗ったぜ!」 高和が机の上に並んだ日本酒を前に、いい笑顔を浮かべる。そしてそれに乗る徹。 こうして始まる呑み比べ。お互い酒が強い為、勝敗はなかなかつきそうにない。 「九条さんって大人っぽくて包容力あって素敵よね。男性にもてるみたいだけど」 徹と高和の呑み比べを見ながら、ウーニャは甘酒を口にする。白く濁った液体は、予想に反して甘い。最初はゆっくりだったけど、ジュースを呑むようにペースは上がっていった。 「ガールズトークはいるよ。話題はもちろん恋バナ! 本音トーク!」 甘酒を飲みながらウーニャは近くにいる人を招き寄せた。自分は浮いた話がないため、最近恋人ができたユーヌに話を振る。どうなのよ、アンタの彼。 「改めて聞かれると照れる」 ユーヌは無表情で言葉を返しながら、恋人のことを思い出す。何処に惹かれたのかというわれると実は自分でも良くわかっていない。劇的なことがあったわけではなく、徐々に惹かれていったのだから仕方ないのかも。 「……それで、もうキスはしたんですか?」 「ノーコメント。というか私以外のは、その辺りどうなんだ?」 質問を質問で返されて、 レイチェルは虚を疲れたようにきょとんとした。 「私に浮いた話はないですね。まあ今は兄さんが側に居るから特には……。 ……でも恋人が側に居るのって、ソレとはまた別なのかな? 皆さん、どう思います?」 「それはちがうとおもうのぉ~」 甘酒がはいったテテロは、顔を真っ赤にしながら反論する。もしかしたらよくわかっていないのかもしれない。ほわぁぁぁぁ~、と頭を揺らしながら気持ちよさそうにしている。 「甘酒は飲んだこと無いんスよね」 甘酒をお酌して回るリル。リルは紅葉柄の着物を着てガールズトークに耳を傾けていた。キミはなるけど、混ざるのは恥ずかしい。 「はい。どうぞッス」 「リルたんの甘酒は美味しいわね」 ウーニャはリルの格好に目を留める。大和撫子の着物姿(男の娘)に眼福。 「……アリね」 「なにがっスか!?」 背筋に走る寒い感覚。後で甘酒飲んであったまろう。 「アマザケ、私にもちょうだい」 初めての団体行動に不安になりながら、精一杯の勇気を振り絞ってジズは甘酒を飲む人たちの輪に入る。硬く緊張した表情。アークに所属して日が浅く、知り合いのいないジズにとっては見知らぬ人ばかり。緊張の中振り絞った勇気は、 「はい。どうぞ」 あっさりと輪の中に入ることができた。もらった甘酒を口にし、その顔がほころぶ。 「……おいしい。……オカワリ」 「はいッス。甘酒飲んで暖まれば風邪をひかないっッスよ」 「……そうなんだ。甘くて、美味しい」 お酌をするリルにおずおずと会話を返すジズ。少しずつだが、そのぎこちなさもなくなっていく。 「ふふ。初めての甘酒。初めての紅葉の天ぷら」 イーゼリットは甘酒と紅葉の天ぷらを前に微笑む。一年間塩漬けされた紅葉を天ぷらにしたものだ。手間隙かけて作られたそれを口に運ぶ。パリ、という食感が味と共に口に広がる。 「寂しい季節だという印象があったのだけど、ずいぶん華やかなのね」 窓の外に広がる紅葉を見ながら、イーゼリットは甘酒を口に運ぶ。以外にも華やかな赤い山に驚きながら、悪くないと風景と料理を楽しむ。 「こんな風に友達と一緒に話に花を咲かせるのも、また素敵ですよね」 レイチェルの言葉に、皆が首を縦に振った。 ●田舎町をあるこう 秋から冬にかけて日本酒の仕込が始まる。 「今は新酒のシーズン、造りも真っ盛りなんだ」 快は徹に紹介してもらった杜氏の所に行き、その工程を一緒に来たレナーテに説明する。 「お酒にもシーズンとかあるのね」 木造建築の中に作られた木造の樽。その中で忙しそうに樽をかき混ぜている人を見ながらレナーテは言う。確かに、原材料を考えたら納得のいくところではある。 「一に麹、二に酛、三に造りって言って、麹菌を蒸米で育てる工程は最重要視されているんだ」 お酒とはものすごく大雑把な説明をすれば『米を醗酵させた液体』である。しかしその中にはあらゆる要素が含まれている。原料である米や、水は当然のこと。快が言った要素も重要なファクターなのだ。 「酒の出来を左右するのは杜氏さんの勘と経験。伝統工芸や伝統芸能に近いよね」 「なるほどね。機械では扱えないような要素があるからこそ、色んなお酒があってそれぞれが愛されているのかしらね。面白いわ」 一通りの説明を終えた後、二人は今年の新酒を分けてもらった。 「こっちはフルーティーな香りが立ってる吟醸酒、こっちは味のしっかりした純米酒って感じかな。もっと力強いのが好みなら、こっちに原酒があるよ」 快は利き酒をしながらレナーテに酒を勧める。喉に広がる酒を舌で転がし、味わいながら飲み込む。胃に届いて広がる熱さ。五臓六腑に染み渡るとはよく言ったものだ。 「日本酒って、辛いもののイメージが強かったのだけれど、色々あるものね。こんなに違うだなんて思いもしなかったわ」 二人はほろ酔いのまま街を歩き、遠くに見える紅葉を楽しんだ。 落ち葉を集め、火をつける。点けた火が収まって燻っている所にアルミホイルでくるんだサツマイモを入れた。 「はー……落ち着く」 孝文はおき火で身体を暖めながら、芋が焼けるのを待つ。遠くに紅葉を眺めながら、白い息を吐いた。 「ご一緒していいですか?」 「あ、どうぞどうぞ。私は後でも構いませんから」 焼き芋を焼く孝文の元にやってくる人たち。 外に紅葉を見に行った人と酔いを醒ますために散歩をしていた徹が合流し、焚き火を見て足を運んだのだ。少し小腹もすいたので焼き芋をしようという流れだ。 「紅葉を実際見るのは、迫力が違うものなのだな。写真とは訳が違う」 優希が紅葉を見上げ、感嘆の息を吐く。風に揺れる紅葉が盛大に揺れた。赤い波が優希の心に美しく刻まれる。 「実際こうやって近場で見ると本当に違うな。見応えあるよ、来て良かった」 初の紅葉狩りである翔太も自然の生み出す美しさに感動する。 「アニさん、出来上がるまで一杯やって下さいや!」 「誰だよアニさんて。おおっと、酒はいただくぜ」 ツァインが差し出したお酒を口に含む徹。 「こんな秋空の下、そんな格好じゃ寒いよね? そこでハゲのおじさまに茶髪ロン毛ウィッグをプレゼント~!」 徹の寒い頭を指差しながら、陽菜はウィッグ(瞬間接着剤付き)をじゃじゃ~ん、と自分で効果音をつけて取り出した。それを乗せようとする陽菜を物理的に止める優希。 そして焼き芋が焼きあがる。皆に手渡された後、ツァインと陽菜が嬉しそうに叫ぶ。 「ハイ!皆焼き芋持ったな~? 実はこの中に唐辛子エキスを塗った焼き芋が一つあります! 名づけてロシアン焼き芋~!!」 陽菜の手に注射器。唐辛子エキスと書かれた袋。そして皆の手に一つずつある焼き芋。意を決したようにぱくっと口にする。 「……ッ! 水……ッ!」 翔太が口を押さえてのた打ち回る。辛いのが苦手な翔太は慌てて陽菜の差し出したジュースを口にした。 少しはなれたところで壱也とモノマも焼き芋を食べていた。 「壱也は焼き芋食べたいって言ってたしな。一緒に食えてうれしいぜ」 そしてモノマは壱也の頭をなで、油断した隙をついて壱也の焼き芋を食べた。 「ふっ、油断したな」 じゃれあう二人。熱いのは焼き芋の温度だけではないようだ。 「ゆっにゅにゅ~! 紅葉狩りぃ! よ~し、張り切って遊ぶぞ~!」 繧花は並木林を歩きながら進んでいく。途中落ちているどんぐりを拾いながら。 「なぁユンファぁ……どんぐり欲しいなんてリスの真似事かァ……?」 言いながらあとを追いかけるのはクランク。 「真似事じゃなくて本当にリスだよ~」 「半分だけな」 ため息をつきながら放置するわけにも行かずついていくクランク。 「あそこに落ちてた! おっ、ここにもあった!」 「おい~何処まで行くんだよぉ……帰れなくなっちまうぞぉ」 「ん~……なんかちょっと道を外れて森の奥に入ってきてる気がするけど……まぁいっか」 「ちょっとか? 本当にちょっとか?」 どんどん進むどんぐり拾いチーム。そして最終的には、 「アレ!? ココどこっ!?」 「山の中だな」 慌てて周りを見回す繧花。それ以外に情報がないとばかりにため息をつくクランク。 「もしかして、遭難しちゃった? そうなんだよ~!?」 「くそ、思ってた通りだよ! お約束ですよね、そのギャグも含めて!」 「うわぁ~ん! これじゃ紅葉狩りどころかサバイバルだよ~!」 泣く繧花。額に手を当てて山の中を見渡すクランク。さて、どうやって宿に帰ろうか。痛む頭を押さえながら、思考をめぐらせた。 「私はここに第一次ツチノコ探索を宣言する~」 エーデルワイスは華よりUMAとばかりに一人山の中に向かう。草木を掻き分け、崖を上り、ツチノコを探すエーデルワイス。ところでツチノコってどんなところにいるんだろう? まぁ、どこかにいるか。 当てもなく山の中を探索したところで、 「全然見つからないーーーー!」 となるのは自明の理であった。さらには、 「あれ、ここどこ? 遭難ですか!?」 そうなんです。パート2。 ランディは一人、オフロードバイクで山道をツーリングしていた。音を立てるのは風情がないとばかりに普段より小さなマフラーにして山道を進む。 「っと、ここらが一番良い風景か?」 バイクで中腹まで進み、さらには歩いて山の頂上へ。そこから一望する紅葉は赤い絨毯を広げたようだった。完全に赤くなった紅葉、まだ赤まっていない紅葉、同じ赤でもコウも違うのかと思わせる。 その風景を写真に取り、懐に入れる。自らもその風景を瞳に収めながら、ある少女のことを思い出す。 「……あの子は、香奈子つってたっけ」 今は亡き命。幼いまま散った少女。いいものを見ないで死んでしまった彼女の墓に、この写真を備えよう。 秋風が吹く。風が紅葉を薙いで、心地よい音を立てる。その音がランディの心に染み入った。 ●我が家へ 日が落ちる頃には帰りの準備も終わっていた。 「知ってる? 紅葉の花言葉は『大切な宝物』なんだってね」 帰りの電車の中、拾った紅葉を回しながら夏栖斗は言う。この旅行は大切な宝物を得られた旅行だっただろうか? リベリスタたちの顔に浮かぶ満面の笑みが、その答えを語っていた。 電車はがたごとと、皆を運ぶ。 さぁ、帰ろう。三高平市へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|