下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






みんなのうた

●ソロコーラス
 今日は遅くなってしまった。
 いや、正しくは今日も、か。
 残業残業、今日も残業、明日も明後日も。
 嫌になる上司、気分の悪い同僚。そんなことばかり考えている。こうして帰路についているというのに。
 だからかもしれない。
 だからかもしれない、それに気づかなかったのは。
 それはコーラスだった。
 老若男女。累々様々な声、声。
 それらが歌っている。低い声が歌う、高い声が歌う。しゃがれた声が歌う。透き通る声が歌う。
 聞き入ってしまったのは、疲れていたからだ。
 危機意識もなかったのは、聞き惚れていたからだ。
 その歌は心地良かった。その歌に魅了されていた。気づいてしかるべきだったのに、自分以外の誰も、周囲にいないことを。心してしかるべきだったのに、極彩色ほど危険なものはないということを。
 だから、それがいつ現れたのかもわからなかった。
 男だった、と思う。
 背丈は自分のそれより遥かに高い。フードを目深に被り、顔を隠している。
 歌は、そこから聞こえていた。
 音漏れだろうか、と呆けた頭で思う。そんなはずはないのに。
 彼は目前まで近づいてくると、ゆっくりとフードを取り払う。

 悲鳴を、あげそこねた。

 現れた顔に、脳が冷水を浴びせられる。
 それは、口だった。
 目はない、鼻もない、口しか無い。顔中に無数の口しか無い。
 女の口、男の口、老婆の口、子どもの口、あれも口、それも口、誰の口、口、口、口、口、口口口口口口■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■クチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチクチ。
 歌っていた、楽しそうに歌っていた。高音で、低音で、重音で、軽音で。日本語で、英語で、仏語で、独語で、知らない言葉で、聞き取れない言葉で、歌っていた。
 楽しそうに楽しそうに楽しそうに楽しそうに楽しそうに楽しそうに楽しそうに歌って止まった。
 止まった。
 止まってしまった。
 一斉に歌が、止まってしまった。
 あんなに心地良かったのに。恐怖の中で唯一の救いだったのに。
 視線を感じる。これに目なんてないのに。ありはしないのに。
 それでも感じる。静まり返った中で、口が顔を近づけてくると、視線も強まるのを感じる。
 静まり返った、静まり返った? ではこの音はなんだろう。
 カチカチと、カチカチカチと聞こえてくる。聞こえてくる。
 鼻も触れそうな目前に、口の群れが迫った頃、ようやく正体に気づいた。
 おかしくて笑えてくる、震えで涙が出てくる。
 
「いただきまぁす」

 歯の根が止まる。目を瞑る間もなく暗転した。

●デッドアングル
 飛び起きる。
 荒れた息。寝間着をぐっしょりと濡らす汗。
 しばらく、混乱した意識を整えるために枕へ顔を押し付ける。
 ああ、そうか。あのひとはあのときあんなばしょであんなものにああされてしまうのか。
 僅かでいい、心が落ち着いたら彼らを招集しよう。
 だから少しだけ。
 お気に入りのうさぎを抱き寄せると、予知者の少女は安堵の涙を目尻に浮かべた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月01日(日)22:06
こういうのが夢に出てきました。
皆様いかがお過ごしでしょう、yakigoteです。

冒頭の彼女が襲われる前に、口だらけのエリューションを打倒してください。

※口だらけのエリューション
歌いながら移動する。外観は大男。背は高く、痩せている。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
覇界闘士
関 喜琳(BNE000619)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
ナイトクリーク
瀬川 和希(BNE002243)
ナイトクリーク
三輪 大和(BNE002273)
デュランダル
アイシア・レヴィナス(BNE002307)

●シンガーソングライター
 基本的にそれは優しかった。他人に甘く、自分に微温い。誰も彼もに優しかったし、誰も彼もに易しいと信じていた。誰かの為になることをいつも考えていたし、誰かの故に挙がることをいつも浮かべていた。掻い摘んで言えば、つまるところ――

「数多の口で人を食らうとは……」
 日も沈んで久しい頃、上着をはおりながら『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は思う。齧りついて、かぶりついて、咀嚼する。大口に一飲みよりも質が悪そうだ。悪夢のような悪行悪口、全て噤んで彼方に消えてもらうとしよう。
「合唱曲は心を合わせて歌う曲。一人でいくつも声を出してもできるのは別の……何か」
 ソロコーラス。独合唱。規定から外れることで矛盾を貫いたそれ。けれども、独りで歌うことは楽しくない。『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)は更けた空を見上げる。小さく、小さく紡いだ何かは星の奥に混ぎれ溶けていった。
 それがどう、とではなく。ただ何とかせねばと思う。誰かが悪意に飲まれる前に、某かが敵意に討たれる前に。それを善と呼ぶのかは知らないが。
「悲しい出来事は、少ないほうがいいしね」
 それでも『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は決めている。そうであると決めている。
「いただきます、と言うのは行儀が良いことですが……」
 人食い。カニバリズムの観念とは相容れない絶対悪。人間として一切が咬み合わない相対悪。人が故にそれは敵である。人が為にそれは悪である。『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)にして、同じことであった。人を食事とさせるわけにはいかない。
「一人で色々な歌を歌っているなんて、多芸ですのね」
 少しずれたことを考えながら、初仕事、と『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)は意気込む。その合唱はひとりぼっちなせいなのだろうかと、やっぱりずれたことを考えながら。
「これでよし、と」
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は『ライトバイザー』瀬川 和希(BNE002243)とアドレスの交換を終えた。多かれ少なかれ人通りのある場所で、それも夜間に大声で合図しあうわけにもいくまい。
「こっちもええで」
『武術系白虎的厨師』関 喜琳(BNE000619)も送信先と文面を書き揃えて端末を畳む。件の化物と相対した後、のんきに12符を叩けるわけもない。最悪、見ずとも送信できる状態でセーブしておくことは当然と言えた。
 それでは、コンサートにでかけるとしよう。

●ボトルマインドレス
 失敗をしたことはなかった。少なくとも、失敗をしたと落胆したことは一度もなかった。ただ不可能を焦燥に駆り立て、発見を歓喜としただけだ。世界を愛していたし、未来を信じていた。目に映る何かのために、脳で思う全てのために、自分を省みたことなど皆無であったと言い切れる。それを自己犠牲などと愛情まみれた言葉で言い表すにも浅ましく、つまるところ――

 歌が聞こえた。
 若い歌だ、老いた歌だ、誰の歌だ、彼の歌だ、男の歌だ、女の歌だ、此の国の歌だ、あの国の歌だ、人間の歌だ、人外の歌だ、獣の歌だ、虫の歌だ、魚の歌だ、何の歌だ。私の歌だ。
 4班に別れ、エリューションの捜索を行っていたリベリスタ達は、それぞれが同時にそれを聞いていた。聞いてしまっていた。効いてしまっていた。否応なく耳内に入り込むリズム。情け容赦なく脳髄を揺さぶるメロディ。精神を肉体と乖離させ、確固たる自己を曖昧にしたてあげる。
 歌声が敵の特徴だというのなら、これみよがしの歌声が敵の目印だというのなら。それが欠点になりうるはずもなく、問答無用に武器でしか無いのだ。武器であることが分かっていたのだから、それが武器であることは当然であった。
 朦朧と溶け込む意識の中、星空が大地に立ち替わる中、すぐさま耳を塞がなかったことを呪う。あまつさえ、それをあてにしてしまったことを呪う。戦力を四半に割いてしまったことを呪う。悔やむ、悔やんでいる心も落ちていく。
 今や空と化した大地に浮かび上がりそうになる身体を必死で支え、脳神経にかかるジャミングを振り払おうと頭を揺する。それでも甘美な誘惑は侵入してくる、浸食してくる。犯されている。思考は歌詞をなぞり、肉体は伴奏に囚われている。
 歌声が大きくなる。より鮮明に、より美麗に聞こえてくる、聴こえてくる。近づいてくる、すぐそばに来ている。もうそこまで来てしまっている。構えろ、逃げろ、武器を抜け、戦闘に思考を切り替えろ。そう命令する書式も流れる楽譜に書き換えられている。
 歌声は最早耳の隣にあった。感じる、はっきりとしない意識の中で感じる。後ろだ、後ろにいるのだ。そいつは歌いながらゆっくりとフードを取り払い、眼窩も鼻孔も口腔に取って替わった醜態をさらしていく。醜い、醜い。それでも歌声は愛おしい。
 口、口、口。
 口、口、口。
 歌が止む。同時、散らばっていたリベリスタ達が意識を取り戻した。
でも、もう遅い。もう逃げられない。もう逃がしてなんてもらえない。
「いただきまぁす」
 海底の星空に血飛沫が舞った。

●ソロコーラスプラス
 晴れやかな夜だった。晴れやかな星空だった。心は透き通り、意識は明瞭としていた。何と喜ばしいことか。これで皆がもっと幸せになる。これで皆がもっと喜んでくれる。確信していた。核心していた。ほら、正しいじゃないか。間違っていないじゃないか。見るがいい、世界が僕に笑いかけている。涙を流して感謝している。それは自己を世界の味方だと再認識し、そうあるものとしてごく自然に人の規定を踏み外した。自分の行いを人類愛だと信じて、つまるところ――

「レヴィナスさんッ」
 大和の黒線が直線に伸びる。飛来する死線を警戒してか、歌い手の化物は大きく後ろへ飛び、距離をとった。
 くっちゃ、くっちゃとこれ聞こえよがしに響いてくる咀嚼音。嗚呼、食われている。無残にも乱杭歯で引きちぎられた、アイシア・レヴィナスそのものが食われている。
 こみ上げる吐き気を抑え、倒れているアイシアへと駆け寄った。肩から血を流している。御世辞にも軽傷とは言えない。肩の肉がごっそりと持って行かれてしまっている。
 袖口を千切り、傷口へと当てる、押し付ける。それでも血は止まらない。どくどくと、どくどくどくどくどくどくと。
 はっと、顔をあげる。後ろに下がっていたはずのエリューションが目前に見えた。ごくりと、喉を鳴らす。納まった肉を感じ入るように腹をなで、目のない視線をこちらへと向けると――そのまま横合いから蹴り飛ばされた。
 喜琳と疾風の2人が合流したのだ。もう歌は流れていない。ノイズの消えた意識を以て、独唱の楽隊に構えを取る。
「不気味なエリューションだな。行くぞ、変身!」
 疾風の叫びに呼応し、手にした携帯端末のモニタが陣を描く。翳したそれのスライドを畳むと2本のメイスが地に突き刺さり、持ち手を主人に向けていた。
「こっからは一気に攻めるでー!」
 虚空を切る喜琳の脚が凶刃となり、起き上がるエリューションに追い打ちをかけた。

 気持ち悪い。
 口、口、口。口が蠢いている。
 右目のあたりにあるあれは老婆のものだろうか、皺が刻まれている。頬に開いた大口はどうして臼歯しか生えていないのだろう。鼻の位置にあるそれは女性のものか、唇が艶めかしく、舌なめずりをしている。
 気持ち悪い。
 うさぎのそれは極めて正しい感情であった。歌の美麗を味わわせておいて、ヴォーカルがこれである。怖い、怖い。これと戦わなくてはならないのか。正直、触りたくなど無い。
「素晴らしい歌を有難うございます。さ、御代をどうぞ」
 全身から殺到する麻痺毒の気線。あくまで無表情に、心は空を仰がない。少しだけ、泣きそうになっていても。
「そらっ、こっちだ!」
 うさぎに合わせ、和希も気糸を放つ。歌声の恐ろしさは十二分に味わった、二度とあの喉を震わせてなるものか。
 二重の麻痺糸が化物の指先に弾かれる、爪先に防がれる。鉤爪かなにかだろうか。目を凝らし、それを後悔した。嫌悪感がこみ上げる、生理的に気分を狂わせる。
 爪は前歯で出来ていた。両指を繋ぎあわせ、歯の噛合う音がする。嗚呼、あれも口なのか。

 突き出された右腕を小盾で受け止める。返した長剣は左の腕に並ぶ犬歯で受け止められる。こんなところにまで。
 競り合い、刀身を軋ませながらアラストールは投げかける。
「一つ問うても良いだろうか、何故に人を食らう?」
 まともな解答が帰ってくるとも思っていなかった。本能で生きるエリューション。言葉を話すとしても、自分たちとはロジカルで異なっている。
 と。
 答えのつもりだろうか、口だらけのそれが動きを見せた。
 頬肉が膨れ上がり、水ぶくれのように弾ける。そこに生まれたのは新しい口だった。若い、女の、口。
 それが声を出す。無邪気に、無邪気に、どこかずれたような物言いで。

「一つ問うても良いだろうか、何故に人を食らう?」

 今日何人目かの嘔吐感。
 上へ上へと逆流するそれを必死に食い止める。身を折る。心を整理するのに数秒を要した。吐き気は治まらない。理解したことがさらに混乱を呼ぶ。こういうことだと分かっていれば、こういうことだと知っていれば、尋ねなかったのに。聞きやしなかったのに。
「そんな歌に耳を貸す気は……ない!」
 アラストールへと追撃に移るエリューションの一撃を朱子が割り込み、食い止める。大きく剣を振るい、奮い、自分はここだと叩きつけながら。
 強く押しこみ、自分から化物を離す朱子を目に映しながらもアラストールは動けないでいた。
 自分の出した問いを、鳥のように返したあの口、声、言葉。それは自分のものではなかったが、それ故に結論を浮かび上がらせた。
 あれは、アイシアの声だ。
 新しく生まれたあの口は、声は、たしかにアイシアのものだった。
 噛みつき、咀嚼、嚥下、消化、そして成長。一部とはいえ、アイシアを食ったことでその要素を取り込んだのだろうと否応なく予想させられる。食べている。食べることで歌い手を増やしている。何もかもを自分にしようとしている。
 食われれば、自分もああなるのか。
 それは嫌だと、立ち上がる。倒れたアイシアが気を失っているのは不幸中の幸いだったかもしれない。化物になった自分など、間違っても見たくはないだろう。
 倒さねばならない。人を食うからより、人に害をなすからより、本能的にあれの存在を認めることなどできはしない。

 それでも、多勢に無勢。
 何度目かの攻防の後、跳ね馬の光糸がついにエリューションへと絡みついた。脚に巻きつき、バランスを崩した好機を逃さず全身を拘束する。食いちぎろうと全身の口が暴れるが、がちんがちんと虚しく乾いた音だけを響かせる。
 殺到。
 真空の凶刃が、死の破裂が、強念の十字が、渾身の斬撃が、業火の鉄槌が、致命の黒点が、腕に脚に頭に口に口に口に口に口に口に口に口に口に押し込まれる。刻まれる、叩き込まれる、磨り潰される。何度も、何度も。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。その果てに、
 こぽりと、嫌な音がした。
 口から、顔の口から、腕の口から、身体の口から、血を流して、血液を吐いて、声を絞り出して、
「ごちそぉさまぁ」
 そうして異形の災害は絶命していった。

●サイレント
 つまるところ、邪悪であったのだろう。

「しっかし、イヴも気持ち悪いの見たもんだなー」
 エリューションがもう動かないことを確認すると、和希は構えを解いた。今回の件で被害があったとすれば、それを直視したリベリスタ達と幻視した予言の少女くらいのものだろう。なんにせよ、失われた命はどこにもなかったことが救いと言える
 肩を食い抉られたアイシアだったが、一命は取り留めたようだった。これもリベリスタとしての恩恵だろう。そうは言っても、しばらくは安静の身となるだろうが。
「……ふむ、確かにイヴ嬢の年頃が見るには過ぎた悪夢」
 エリューションとの戦闘を専門とする自分たちでさえ受け入れがたい生き物であった。これの醜悪さに年端も行かない少女があてられたかと思えば、不憫でならない。後ほど、何か夢見のいいものでも贈るとしよう。
 大和が念のためと周囲を警戒する。他の敵、無し。通行人、無し。ほっと一息。さて、帰るとしよう。アイシアを病院に運ばねばならないし。それに、何よりも今日のことを忘れて寝具に身を沈めたかったのだ。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
グロ注意。