●恐怖 恐ろしい。ああ恐ろしい。 何なのだあれは。一体何なのだ連中は。 アレは本当に人間か? 我らと同じ種族なのか? バロックナイツというのは別種族の名前では無いのか? 「“災害”とはよくもまぁ例えた物だ……あぁ恐ろしい恐ろしい……」 周りの連中も周りの連中だ。何故あんな恐ろしい者に従っているのだ。 気付かぬのか馬鹿どもめが。伝説が誇らしいのか。どう見ても化け物だろうが。人が、人を薙ぐ大災害を見て尊敬するのか。アレになりたいと。 「愚かしい……あぁ愚かしいぞシンヤ……! 酔っ払って、災害を人と見間違ったか!」 アレは災害。アレは別種。アレは異次元。 だからこそアレは我らとは違うのだ。あの強さは無理だ。手に入る訳が無い。 「しかし、だからこそ……」 近くに行くのだ私は。 死にたくないから。まだ生きていたいから。あえて近くに行って危険を凌ぐ。 プライドなど捨てた。恥など知った事か。そんなものが“生きたい”と言う単純にして全ての生物の根底にある願いにいかほど役に立つ。 嫌だ近寄りたくないこっちを見るな来るな気を向けるなどこぞへと頼むから消えてくれ。 そんな思いを幾百も抱いたが、 「しかし災害から離れても災害は存在する……“もしかしたら”いずれ来るかもしれない存在。“もしかしたら”明日にでも私を気まぐれで殺すかもしれない存在。“もしかしたら”私はアレとたまたま会ってしまうかもしれない……あぁそんな不安を持って生きていくぐらいなら……!」 近くに行って取り入る方がマシだ。それなら殺されない。相手が満足している限りは。 ……シンヤが良い例だ。アレは試練をクリアして、気に入られたため殺されていない。 “化け物の最も近くに居ながら殺されていない”のだ。 「この世の何よりも恐ろしい場所が最も安全とはな……皮肉な物だ。だが、だからこそその地点は私の求める場所。あぁまずはあの地点に近付く為に手土産が必要だな……」 故に従おう。賢者の石をこの手に納めて見せる。 高みで見物しているが良いシンヤ。私はお前とは違う。あんな化け物に魅了されたりなぞしない。貴様らの様な伝説に心酔する酔っ払い馬鹿共とは違うッ! 私は、連中が―― 「……あぁあ、恐ろしい……!」 ●三つ巴 「御苦労さま諸君。さて早速だが――諸君らには“賢者の石”の奪取をお願いしたい」 ブリーフィングルーム。『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)の告げた言葉は、そんな一言からだった。 「先の依頼の報告を聞いた者も居るだろうが――賢者の石が発生した。早い話が異世界のアーティファクトだ。シンヤの一派がこれの一つを狙っているのを補足出来た為、彼らと戦闘。及び賢者の石をアークに届けてもらいたい」 「あぁそれについては構わないが……シンヤ達は結局、一体何がしたいんだ? 賢者の石とやらを手に入れて……」 うむ、と八雲は一呼吸置いてから、 「恐らくは大規模儀式、“穴を開ける”と言う事だろうと思われる。『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)から得た情報も元に推測した結果だがね。賢者の石はそれらの補佐を担っていると言った所だ……実際、その内の一つを使用する事によって万華鏡による賢者の石探索が非常に捗っているしな。他の事にも存分役に立とう」 「……また面倒な物が出てきたって事で良いのか?」 リベリスタ達の表情はあまり明るくない。 無理も無い。基本的にアークの戦術はカウンターだ。故にどうしても後手に回る事が多く、ジャック達の横暴も止めにくい。そうして被害がでてしまう現実があればモチベーションが下がってしまう者もいるだろう。 「まぁそう悲観することもあるまい。賢者の石は連中だけでなく、こちらにとっても力と成り得る物だ。上手く大量に確保する事が出来ればアーク全体の強化も図れる。転じて見れば、これはチャンスだよ」 八雲は間をおかず矢継ぎ早に告げる。 「シンヤ達の邪魔も出来て、戦力増強の可能性も見える。チャンス以外の何物でもあるまい。ここ最近の情勢は真に混迷の一途だが……だからこそ踏ん張り時だよ、諸君?」 「……それは発破を掛けてるつもりか?」 「フフ、さてなぁ? ま、頑張りたまえよ。努力しても報われるとは限らぬが――報われている者の中で努力していない者などいないのだからな」 ……違いない。と、リベリスタの一人が微笑混じりに呟けば、八雲はブリーフィングルームから退出する。 伝えるべき事は告げた。ならば後は彼ら次第となるだろう。私は待つだけだ―― ……と、そう考えた瞬間、思い出した事があったので一旦振り返り、 「ああそうそう伝えるのを忘れていたんだが――この依頼、武闘派『剣林』から友軍が出されてるからな。彼らと共闘して事に当たってくれたまえよ」 「ハ、ハイハイちょっと待てぇ――! それ忘れていいレベルの情報じゃねーぞテメェ!」 一斉にリベリスタ達から文句が入った。と言うか、なんか空気が変わった。 それもそうだ。どう考えても忘れて良いレベルの話では無い。なんというか『剣林』の情報がオマケ程度に追加された印象があるではないか。いや実際八雲にとってはそうなのだろうか。でも伝えろよ。 「何か問題あるかね? そもそも不可侵同盟なんてものはな――『今は仲良くしよう。後で殴り倒すけどな』という感じの物だよ。古来より同盟というのはそういう意味だ。しかも彼らはアレだぞ? 自分の組織に利益をもたらす事しか考えてないからな。そんな連中が“友軍”? ――ハハッ、ワロス。出し抜け、利用しろ。向こうもそのつもりなのだからな」 「ス、ストレート過ぎるだろ! もっと、こう、包めよ優しく!」 「むっ? そうかね、ならば訂正しよう。……名目上は一応援軍だから攻撃は控えたまえよ。利用するに留めたまえ。例えば、そう、アレだ――盾として」 「本音ダダ漏れじゃねぇか……!」 ともあれ纏めれば“援軍は居るが、向こうには向こうの事情があるので出しぬかれないように出し抜け”という事だろうか。どうも敵は一つだけでは無いらしい。 賢者の石を巡る攻防は、やはり争奪戦の様相を呈しているようだ。さて、それでは勝つのはシンヤの私兵か、『剣林』か、それともアークか―― 今、様々な思惑を元に、三つ巴の闘いが始まろうとしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:29 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●発見 「ほう。これが賢者の石、か」 廃工場。その一角に発生した“賢者の石”を手に入れるは荒井・風香だ。 真紅の宝玉たるその石は、彼女が恐れる者らが求めしモノ。あんな連中の為に働くなど心底御免だが、死の恐怖は嫌悪感すら凌駕する。故、これは必ず手に入れなければならぬモノであり、 「――だからこそ貴方達には渡せないモノなのよ」 声が響いた。と、同時。風香率いる配下の一人に、魔力で作られた矢が命中した。 顔面横から着弾した勢いにより、思わず倒れ込む配下を涼しげな表情で見つめる風香は襲撃を受けた事を瞬時に悟る。 ……やはり来たなリベリスタ共め。 そんな思いを抱きながら視線を巡らせた先には、先程攻撃を仕掛けたであろう『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が居た。彼女の他にも人影がいくつか見えるが、暗くて正確な人数は掴めない。 だから驚いた。向こうもこちらが見えにくい筈であるのに、その複数の人影達がタイミングを完璧に合わせてこちらに突っ込んで来たからだ。数にしておよそ十前後。アークだけにしてはやけに多い。つまり、これは、 「成程――敵はアークだけではないか!」 「その通り。賢者の石は、なんとしても奪わせて頂きますわ!」 『アイアンメイデン』夢野・蝶(BNE003135)は咆哮と共に手近な敵に拳を振るう。 先程、突入前に運良く合流できた“援軍”と共に―― ●突入前 「協力だと?」 「然り。我らは相手の能力を把握しており、更には熟練の回復手と、防御陣を抉じ開け目標に到達する術がある。だが……」 友軍として派遣されたフィクサード達のリーダー格と対話しているのは『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)だ。廃工場への突入前、少しでも彼らを利用しようと“協力”を申し込んでいる最中である。 「……人数に関しては少々足りん。そちらには前述三点の利が無い故に、ここはお互い協力するのが得策ではないかね?」 「うむ……まぁ、一理あるな」 提案に、悩みながらも頷きを返すリーダー。 それなりに穏やかな雰囲気で話し合いが進みつつあるのは件の回復手たる『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の放つマイナスイオンの効果もあるのだろうか。彼女自身は今の所、笑顔で推移を見守っているだけではあるが。 「お互い有効活用って事でさ。彼女を護るのは双方の利益になると思うよ? だからそっちも相手の足止めを宜しくお願いしたい所だね」 『サマータイム』雪村・有紗(BNE000537)の言う事はもっともな所だ。ニニギアの持つ回復能力はこのメンバーの中において貴重。ならば、彼女に攻撃が届かないように相手の足止めをなんとかして行くしかない。 「まぁ目的は一緒なんだ。共同戦線を張って闘おうぜ。もっとも――」 そして続けざまに『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)が言葉を紡いだ。 もっとも、と彼は言葉を置いた上で、 「オレらの方が圧倒的に活躍できたら、お目溢しのモノは俺らが貰って行っちゃうからな!」 「……ハッハッハ! ああそうかいそうかい。なら俺らが活躍出来たらお目当てのモノは俺らが貰って行くぜ?」 「ヘッ、上等! やってみなよ!」 ……どうやら話し合いは決着を見せた様ですね。 『ガンランナー』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は淡々と状況を見据えていた。彼女自身の心はこの後の戦闘にある。如何にしてアークに利益をもたらすか――それが、重要だった。 「では時間も無い事だし、突入のタイミングと分断の計画だけでも合わせておこうか。簡易な説明に成ってしまうけど、仕方ないね」 次いで、『隠密銃型―ヒドゥントリガー―』賀上・縁(BNE002721)が打ち合わせの話を切り出す。 彼の言う通り、時間が無い為に簡易的な打ち合わせしか出来ないが――見方を変えれば、ある種、期せずして理想的な展開になったとも言える。時間が無いという理由で風香らの能力詳細の説明を省く事が出来る為だ。協力の要請が完了したとはいえ、やはり完全な味方では無い。伝える情報は、制限するべきだから。 そして彼らは行く。三つ巴の、戦場へと。 ●穴開け 「落ち着け! 前衛は前面へ出て、後衛は下がって援護をしろ!」 紆余曲折あって現在――奇襲された風香側では、風香の指示が飛んでいた。 しかし陣形を整える一瞬の隙を見逃す程リベリスタ達は甘く無い。 「さて、それではまず射抜かせて頂きましょうか」 リーゼロッテのリボルバーが目に映る敵を一斉に撃ち抜いた。連続した銃撃音が響いた先、さらに突っ込むのは有紗だ。 「やあどうもどうも、シンヤの部下の皆さん。残念だけど、あっちもこっちも恐ろしいんだよねー世の中というやつは」 だから、 「――どきなよ。その石はアナタ達じゃなくて私達が手に入れさせてもらう!」 踏み込み、闘気を漲らせた体で大剣を振るう。円弧の動きで振るわれた一撃は遠心力を伴って敵の胴へと向かい、激突した。 衝撃を受けた一人が後方へと飛ばされ、陣形がさらに乱れれば、 ……今の内に退避すべきだろうか? 風香に逃げの一手の案が思い浮かぶ。 そもそも賢者の石さえ手に入ればそれで良いのだ。配下もその事は承知済みである為、賢者の石を持ったまま逃走と言うのも悪くは―― 「貴方、それは間違ってるわよ。石を持って行くだけのただの運び屋風情に、奴が満足する訳ないじゃない」 ソラだ。風香の心中を察したのか、逃走を押さえる為に挑発にも似た説得を試みる。 失望の様な吐息一つ、続けながら。 「シンヤのように気に入られる必要があるならシンヤ以上の活躍じゃないと足りないんじゃないかしら。ホント――バカよね」 「貴様ッ……」 挑発に乗る気は無い。だが、ソラの言う事は中々に的を得ている。 どの道こんな石ころ一つで気に入られるとは思っていなかったが――成程ここで連中を殲滅すればまだもう少しは気に居られる要素が増えるかもしれない。風香は退却の手を一旦保留にし、彼らへと向き直る。 「お前らのボス、ジャックに対して恐怖心丸出しだぜ? いざとなったらお前ら捨てて逃げる気満々だぞ。そんな奴に従ってて不安とか無いのかお前ら?」 が、その時だ。静が配下に対して動揺を誘ってきた。 風香がジャックに対し恐怖心を持っている事。それは配下の者たちなら知らないではない事だが、面と向かって、それも言葉として表されれば動揺も僅かにある。 そして、その間隙を縫うように静は電撃を身に纏った一撃を敵に加えた。動揺を誘った上での一撃は想像以上に相手に通ったようで、一人が地へと崩れ落ちる。 「チッ、一人やられたか。だがまだまだこんな程度では……!」 風香がお返しとばかりに魔力の矢を射出すれば、それだけではない。配下の者達もそれに追随する形で進撃する。数に任せた力押しの様な形で。 「ッ、皆様お気を付け下さいませ――“崩れます”!」 瞬間、蝶が警告を飛ばした。 崩れる、とはどういう意味か。その答えは直ぐに来た――廃工場の、一部崩壊だ。 一度地が小刻みに揺れたかと思うと、屋根の部分が僅かに崩れ、戦場へと降り注ぐ。警告が間に合い躱わした者もいれば、間に合わず直撃を受けた者もいる。 「ならここは私の出番ですね。回復頑張りますよ――! 援護は任せて!」 そんな中でニニギアの詠唱が周囲に満ちた。回復の効果を伴った微風が味方へと流れれば、傷付いた体を癒して行く。 進む。流れは今、リベリスタ側にある。故に一点集中で敵に攻撃を仕掛け、 「今だ――オーウェン、頼む!」 「分かっている。ああ、タイミングは外さんよ……!」 静の合図がオーウェンに飛ぶ。何の合図か。これの答えもまた、直ぐに来た。 「“穴”を開けるぞ! 全員、進めッ!」 同時。オーウェンが放つは思考の奔流だ。 俗に言うJ・エクスプロージョン。思考という不確かな“形”を物理的な“型”に当て嵌めて相手へと叩きつけるスキルだ。そしてこれにはある副効果がある。それは、 「な、にぃ――ぐぉぉお!?」 陣形を乱すノックBの“範囲”効果だ。前衛として展開していた風香の配下が、受けた圧によりその場から弾き飛ばされれば、リベリスタ達は一気に雪崩れ込む。 まさしく、文字通り開いた“穴”へと。 ●混戦 行く。 真っ先に開いた穴へと向かったのは縁だ。突入のタイミングを一番見計らっていた彼だからこそ出来た芸当。スペースを確保し、状況を確認した彼が次に行った行動は、攻撃。 「今の内に、少しでも削っておかないとね……!」 黒きオーラが縁より這い出て、近場に居た敵のマグメイガスへと襲いかかる。 流石に一撃で倒れはしないものの、頭部へと命中した。揺らぎが見えて、それと同じくして背後より味方の合流を感じ取れば。 「ふむ、分断は――それなりに成功、ですわね」 蝶が追いついたようだ。 分断作戦。後衛たる風香に接近するためのその策は、それなりの成功を収めたと言える結果に終わった。敵の数にしておよそ半分の分断に成功。風香を中心とする後方側に六名、前方側に九名。これでもまだなお敵の数の方が優勢だが“石を奪う”と言う観点で見れば、 「充分とも言えるね……! さぁ、それじゃあ覚悟してもらおうか!」 有紗が後方に残ったクロスイージスの敵に対して剣を薙ぐ。 後方に残った前衛向きの敵は少ない。ならば、そこさえ突破すれば大層楽になるだろう。 「だがこちらからすれば貴様ら良い的だよ!」 しかし風香達にとってみればこれはリベリスタ達を包囲した形となっている。無論、そう見ればの話であるし、完全な形では無い。どちらかと言うと挟み打ちに近いか。まぁいずれにせよ“闘う”と言う観点で見れば有利なのは風香達だ。 「押し潰せ……! 勝利に近いのは我々だ!」 応、という声が風香勢の者達から聞こえる。 リベリスタ達と剣林のフィクサード達を纏めて包み込むように布陣し、攻撃を集中させて行く。こうなると数の差が響いて来るのが少々痛い所ではあるが、 「私が居る限りまだ保つわ。この循環だけは絶対に絶やさない……!」 唯一の回復手であるニニギアが回復の歌を響かせ、味方を癒し続けている。 それ故にまだ闘える。攻撃を受けたのならそれをまた返せば良いだけだ。それに、攻勢に出ている側が必ずしも優勢と言う訳では――無い。 「ホラホラどうしたんだよ、数の差があるのにまだ倒せないのか? オレごときを倒せなかったらジャックに飽きられるぜ? お前」 後方側。風香を護る様に布陣する敵の一人を電撃の一撃を加えるのは静だ。 攻勢に出ているのは敵だが、あくまでも勝利条件は賢者の石を手に入れる事。ならば真に勝利に近いのは、石を持つ風香に肉薄しているリベリスタ側だ。風香が逃げ出さぬように挑発を重ねれば、 「黙れ貴様! そんなに死にたいのなら見せてやろう――開けッ……!」 開け。と風香はそう言った。それが何かのキーワードだったのか、彼女の背後に奇妙な魔法陣が展開される。 見た事の無い陣だ。少なくとも、一般的なホーリーメイガスの使うモノでは無い。まさかあれは―― 「成程、それが貴方の……“恐怖”と言う訳かしらね?」 恐怖絵図地獄門。風香の、いわゆる必殺技であるそれをソラは観察する。 バロックナイツに恐怖し、恐怖し続けたが為に技にまで応用できるようになったソレは、風香達に取り囲まれているリベリスタ達に容赦なく降り注ぐ。動き辛い布陣であるが故に、躱わすのも困難である様子だ。 「無駄だ。これは私の恐怖だぞ? 私並に恐怖を抱く者でなければこれは扱えん。真似できるモノならやってみるがいい!」 「ぐっ! これはまた、面倒な特性ね……!」 観察し、あわよくば己のモノにしようと考えていたが――どうもこれを会得するのは難しいようだ。適正のある者ならばあるいは……と言えたかもしれないが。 しかしそれはさておき、状況はいささかまずい事になって来た。大部分に降り注いだ地獄門の影響で攻撃は当たりにくく、防御がしにくくなっている。剣林側のクロスイージスが手を打てば解消できないではないが、彼らの方も相手の対処に手一杯の様だ。 「まだ、倒れるには早い……ですわよね……!」 「――ッ、ぐぅ……! ニニギアさん、ご無事ですか……!?」 「ええ、私は大丈夫! 直ぐに治癒を行うからね……!」 そして、リベリスタ側から倒れる者も流石に出てくる。メンバーの中では比較的体力の低い蝶やニニギアを庇ったリーゼロッテがその対象だ。運命を消費し、なんとか立ち続けるものの、戦況は悪いままである。風香達一行はそれを悟っているのか、攻勢をさらに強め、一気に勝負をつけんと突き進む。 ――まさに、その時だった。 「古来より戦場に置いて劣勢側が取る逆転の一手としてはこう言うモノがある」 戦場の後方、風香達が布陣する――その“さらに後方”において男の声が響いた。 本来そこにリベリスタ達が渡る事は出来ない。しかし彼なら出来る。物質透過を持ち、地面を移動する事が不可能ではない――オーウェンならば。 「指揮官を、討ち取る事だ!」 戦場後方の物影近くから出現したオーウェンは即座に呪印を展開。束縛の意を持つその呪印は風香の体を蝕み、彼女の動きを阻害する。続けて攻撃したい所ではあるが、一度の行動ではこれが限度だ。 「何ッ、ぐ、だがこの程度の束縛で何が出来る!」 風香の合図により、近くに居たマグメイガス二人がオーウェンに対し集中的に攻撃を加える。流石に、後方に敵が居る状態で放っておくことなど出来ないが為だ。 放たれるは二つの雷。そのいずれもがオーウェンに直撃し、彼の体力を急速に奪って行く。だが、 「隙を見せたら駄目だよ? ――こう言う事になるからね!」 「ここが……こここそが勝機!」 後方陣営の意識がオーウェンに集中したその一瞬を狙い、有紗と縁が風香周りのフィクサードに突撃を仕掛ける。有紗は邪魔となる者を弾き飛ばし、縁は纏まっているマグメイガスに対して軽やかなステップと共に切り刻みを与えた。 そして――静が行く。 「――ッぅぉおおおお!」 仲間が開いた道の先、風香が居る。だから、行った。背後から剣林の者が賢者の石を狙わんと来ている気配があるが――知った事か。 滑る様に跳躍し、宙で鉄槌を構えれば左足から踏み込んで、 本日数度目となる――雷撃の一撃を、渾身の限りで叩き込んだ。 「なッ――ぐ、ぉ、がぁ――!?」 体が“く”の字に曲がり、思わず吐血する風香。それと共に、彼女の手から賢者の石が零れる。 「石が……!」 傷付きながらも奮闘するソラは、石が零れ落ちる様子を鮮明に捉えていた。 この戦いにおいて最も重要なアイテムであるソレを、真っ先に入手したのは―― 「賢者の石は……私が手に入れましたわ! 皆様、退きましょう!」 蝶だった。多大なダメージを受けながらも、彼女は石が零れた瞬間を見逃さなかった為、入手する事が出来たのだ。続けざま、彼女は皆に撤退を促す。 「そう、簡単に……逃がすかぁ――ッ?!」 だが風香も諦めない。再び石を奪取せんと、恐怖絵図地獄門の魔法陣を開く。 恐怖の石が戦場に漏れ、再びリベリスタ達に襲いかからんとした――が、それとほぼ同時。彼女の左目の僅か上に激痛が走った。 攻撃を、受けたのだ。 「やれやれ……なんとか、当てる事が出来たみたいですね」 リーゼロッテの狙撃だ。EXの命中率を下げる為に狙った攻撃だったが、どうやら上手く成功したようで。 「ぐ、うっぅおおおッ!?」 風香の左目が血のカーテンにより赤く染まった。その状態から射出された“恐怖”は狙いが逸れ、廃工場の壁に激突する。幾人かのリベリスタを巻き込んだようではあるが、片眼が効かなくなったためにか、風香の配下も巻き込んでしまったようだ。さらには二次災害的に廃工場の一角が再び崩れ、戦場に、混乱が広がった。 「今だ! 一点突破で退こう! 利益配分とかそういうのは――欲しいなら、後から上に通してね!」 「うっ……くそ、仕方ねぇな。こっちも退くぞ!」 撤退中の有紗は剣林のメンバーへと言葉を投げかけた。剣林もやけに素直に応じたのは、とにかくこの場でとやかく言うよりも撤退の方を優先すべきと思ったからか。混乱の生じた一角を全力で攻めて、突破口を彼らは作りだす。 「お、のれぇ……! 貴様らァアアッこのままでは済まさんからなぁ!」 左目の上辺りから溢れだす血を押さえながら風香が叫んだ。が、もはや遅い。風香はもはや闘える様な状態では無く、配下の者達も指揮官がやられた為か士気が低くなっている。この場で闘うならまだしも――追撃は、無理だった。 かくして廃工場における“石”を巡る闘いはなんとかアークの勝利に終わる。三つ巴の意思の絡み合いを制したリベリスタ達は、石を持って帰還を果たした―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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