下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<賢者の石・争奪>三重奏コンチェルト

●天秤上のカノン
「おう、全員揃ったか!」
「任せといて下さい兄貴! 準備万端っす」
 兄貴と呼ばれた男、『大樹の盾』志藤大地はフィクサードである。
 若い頃からこつこつと下積みを続け、日本のフィクサード組織最大手である『逆凪』の中でもそれなりの声望と地位を得て来た中堅所の実力者。
 そして何より裏社会の人間としては比較的温厚な気質と若い衆への面倒見の良さで知られている。
 自然と彼の周りには行き場を無くした問題児が集まるも、彼らをすら受け入れる度量の広さから、大地を兄貴と慕う人間は少なくない。
 今回の与えられた任務もその人望が在ればこそ、である。
「良いか、今回の仕事は例のアークが探知したっつー賢者の石ってもんを奪取するのが仕事だ。
 但し、俺達は奴らと不可侵の条約を結んでる。
 戦闘中に割り込んで奴らが勝手に巻き込まれる分には構わねえが、此方からの妨害、攻撃は御法度だ。
 良いな、奴らを後宮シンヤの親派にぶつけ俺達が全てを手に入れる」
 裏切り、騙し、口八丁が横行するフィクサードに有って、大地の主義は酷く明朗である。
 得たい物は知恵と力で奪い取る。その辺りが男が中堅止まりである理由であれ、彼の親派はその姿勢に好意的である。
「流石兄貴頭が良いや! 要するに火事場泥棒っすね?」
「馬鹿、要し過ぎだ。 良いかカズ、こう言うのは漁夫の利っつーんだよ」
 カズ、と呼ばれた男は『逆凪』に於ける大地の後輩である。あくまで実力はそこそこながら、
 妙な目端の良さと人脈を広さを買われて今回の作戦に同行する事となっていた。
「てめえら良いかー! くれぐれも兄貴の足を引っ張るんじゃねえぞー!」
 カズが号令を上げる。その後ろには彼が連れてきた新入りが数名付き従う。
 何かトラブルが無い限りはアークの混乱に乗じてお宝を奪うだけの簡単な仕事。
 だが、例え任務が簡単であっても容易とは限らないのが、この界隈でもある。
  
「……ああ、面倒くさい」
「何言ってるんです、もう」
「……仕方無いだろう、面倒くさい物は面倒くさいんだから」
「しっかりして下さい。シンヤ様に殺されちゃいますよ」
 猫背でだるそうに集団の先頭を歩く男、『双頭犬』紬一葉はフィクサードである。
 後宮シンヤの悪友に相当する彼は極度の面倒臭がりであり、
 状況が此処まで悪化するまで傍観を続けていた、『剣林』でも穏健派に属する人間だったと言える。
 ただ、腐っても武闘派フィクサードの一角。その戦闘能力は突出した物があり、
 この度とうとうシンヤの徴兵を拒み切れず前線に放り出された次第。
「……小鳥が逃げてから不機嫌だしなぁ……嗚呼、でももう帰って寝たい。
 いや、事情を聞いてくれ。家では俺の愛する熊の抱き枕が待ってるんだ」
「きちんと仕事を終わらせてからにして下さいね」
 その傍に秘書の様に侍りながら逐一突っ込みを入れる怜悧な印象の少女はヒビキと呼ばれている。
 本名は分からないまでも、一葉の恋人の様であり、愛人の様であり、娘の様であり、
 如何様な理由かは知れないままに常に傍を離れない。当然、元『剣林』である。
「……こんな面倒臭い事をして俺が死んだらどうしてくれる」
「ん。その時は――……」
 彼らの後ろを何処かうんざりした様子で追うのは、後宮シンヤの私兵であるフィクサード達数名。
「一緒に死んであげますよ」
 砂糖を吐く様なやり取りに、はぁ……と重い溜息が漏れる。
 しかし、彼らもやはり気付いている。この一件一筋縄では行かないだろう事位は、既に。

 そしてそれは勿論――

●万華鏡のポリフォニー
「お集まり頂きありがとうございます。これからお願いするのは重要な任務です」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の一言に、集められたリベリスタ達が視線を向ける。
「『恐山会』から情報提供を元に、以前回収した賢者の石の波長と反応のパターンを割り出し
 万華鏡にフィードした結果、新たな賢者の石をの所在が幾つか絞り込めました。
 皆さんには、これらの内1つへ向かって頂き、賢者の石を回収して頂こうと思います」
 アーク本部内ブリーフィングルーム。モニターに表示されたのは
 人知れぬ森の奥。木々の合間から差し込む光を大地の側からも何かが照り返している。
 それは赤く、赤く輝く石。錬金の完成形とも呼ばれ古来より神秘に関わる幾多の者が、
 己が身命すらを代価として追い求めた奇蹟。異界存在にして破界器たる物。
「以前、後宮シンヤに捕縛されていたカルナさんからの情報提供から、
 ジャック一行の目的は世界に穴を開ける為の大規模儀式を行う事だと想定されます。
 これと今回の賢者の石の大量発生、無関係ではないでしょう」
 『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)が塔の魔女から聞いたと言う彼らの目的。
 それは実際、賢者の石の回収に後宮シンヤの兵隊が動いていた事からも信憑性がある話である。
 何故その様な情報を漏らしたのか、アシュレイの狙いまでは分からないまでも――
「また、『恐山会』からもシンヤの私兵が大々的に動き出したと言う報告が入っています。
 恐らく目的は賢者の石の回収、これを放っておく手は有りません」
 ――此処でシンヤの賢者の石の回収を阻む事はジャック一行の目的を阻む事と同義と言って良い。

「ジャック・ザ・リッパーへの直接的な対処法が見つかっていない現在、
 活動を妨害する事で稼げる時間は極めて貴重です。また、賢者の石には未だ研究の余地が多く、
 これをを多量に獲得する事に成功すればアークの設備や装備の強化が望めるかも知れません」
 いずれにせよ先ずは賢者の石の回収。それもシンヤ達へ先手を取ってのそれが求められると言う事か。
 けれどここで和泉は僅かに声を潜める。実の所、問題はそれだけではないのである。
「ただ、今回大手フィクサード組織『逆凪』から友軍の申し出を受けています。
 これを断ってもあちらが独自に動くだけで面倒が増えるだけ。
 であればせめてと、これをアークはこれを承諾する事にしました。
 ただ――勿論ではありますが、これは額面通りの“友軍”ではありません」
 彼らはあくまでフィクサードである。其処に力が転がっているなら求めるのが当然。
 此方をシンヤの私兵にぶつけ、自分達は賢者の石を奪取するのが目的であるのは想定の範囲内である。
「アークは協定通り、これに直接的な干渉は出来ません。ただ、利用出来るのはお互い様です。
 この状況を上手く使えば、こちらの被害を抑えつつ目的を達成出来るかもしれません」
 互いに互いを利用し合う三つ巴。敵の敵は味方とはいかないのが難物である。
 とは言えお互いにはお互いの目的が有り、どの組織の狙いもあくまで賢者の石の奪取。
 
「上手く立ち回らなければ困難な戦いになると思いますが」
 一拍をおいて見回す和泉、その眼差しには信頼の色が強く灯り。
「皆さんの御健闘をお祈りしています」
 ここに共闘と競争、そして抜け駆けがひしめく凄絶な争奪戦の幕が切って落とされる。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月27日(日)22:32
 43度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 情報量の多い三つ巴です、御注意下さい。以下詳細となります。

●依頼成功条件
 賢者の石をアークが取得する

●逆凪一行
・『大樹の盾』志藤大地(しどう・だいち)
 逆凪一行のリーダー格。33歳、ジーニアス・クロスイージス。
 堅牢であり粘り強い戦いに長ける、典型的クロスイージス。武器は斧+盾

 使用一般スキル:不沈艦、歴戦、自己再生、麻痺無効、ハイバランサー、結界
 使用戦闘スキル:ブレイクフィアー、ジャスティスキャノン、魔落の鉄槌、クロスジハード

・カズ。逆凪一行のサブリーダー格。22歳、ジーニアス・クリミナルスタア。
 お調子者の一発屋。威勢は良いが若干ビビり。武器はフィンガーバレット

 使用一般スキル:悪運、美学主義、デスペラードミスタ、面接着、イーグルアイ
 使用戦闘スキル:無頼の拳、バウンティショット、仁義上等

・その他、クリミナルスタア2、スターサジタリー2、
 インヤンマスター1、ホーリーメイガス1の計8人編成。低練度、高士気。
 戦闘スキルは初期スキル2種を使用。

●シンヤの私兵
・『双頭犬』紬一葉(つむぎ・かずは)
 シンヤ派のリーダー格。30歳。ビーストハーフ・ソードミラージュ
 怠惰で面倒くさがり。手数で一気に畳み掛けるタイプ。武器はナイフ×2

 使用一般スキル:超反射神経、ダブルアクションLv2、二刀流、スペシャルギア、気配遮断、幻視
 使用戦闘スキル:ソードエアリアル、ソニックエッジ、トップスピード

 EXオルトロスの牙:物近複、ダメージ+(速/2)、命中減、CT増【追加効果】[連撃]

・ヒビキ。一葉のパートナー。20歳。フライエンジェ・ホーリーメイガス
 戦況を有利に転がすのに特化した支援型。武器はガードロッド

 使用一般スキル:飛行、インテリジェンス、歴戦、戦闘指揮Lv2、ジャミング、幻視
 使用戦闘スキル:天使の息、神気閃光、天使の唄、浄化の鎧

・その他、覇界闘士2、クロスイージス1、
 マグメイガス2、ホーリーメイガス1の計8人編成。高練度、低士気。
 戦闘スキルは初級スキルから2種を選択して使用。

・相性を度外した戦力比は一葉>大地≧ヒビキ>カズ>私兵その他>逆凪その他

●賢者の石
 赤い魔石。アザーバイドにしてアーティファクト。
 それ自体が崩界要因とはならないが、周囲に影響を及ぼす属性がある。
 魔道技術の進歩や躍進に貢献してきた代物でこの世界との親和性が高い

●戦闘予定地点
 郊外の裏寂れた森。時間帯は昼。日差しが射す為光源は不要。
 但し障害物が多く、視界が悪く、足場も不安定。戦闘には余り向かない地形。
 森の最奥には賢者の石が発現しており、リベリスタ達が最短距離を辿る場合、
 先行するシンヤの私兵と遭遇する。
 『逆凪』に先を譲った場合、または『逆凪』の進路に合わせた場合は未知数。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ソードミラージュ
閑古鳥 比翼子(BNE000587)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ナイトクリーク
ジル・サニースカイ(BNE002960)
スターサジタリー
天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)

●波乱の遭遇戦
「あー……面倒くさい。心底全力で面倒だ」
 足音、そして隠し切れない衣擦れの音に気付いた一葉が至極面倒そうに呟く。
 郊外の森林、その大凡中央。8人で移動していたシンヤの私兵達に追い付いて来る人影。
 数は複数。森の中で気付く程度だ、集団で有る事は間違いも無い。さて、果たして何者か。
 足を止める事は無く、しかしやや速度を落としながら後背を伺う。
「……一葉」
「分かってる、石に殺されそうな時に面倒がらねえよ」
 けれど言葉とは裏腹に、変わらずダルそうな仕草で後方を仰ぐ一葉。
 それに寄り添うはヒビキと呼ばれる栗毛の少女。その背には一対の翼がはためく。 
 自然と散開するその他の6名からしても、彼らの練度の高さが伺える。集団戦に、慣れている。
「うっす! ゴキゲン麗しゅう! アークでっす」
 一方で明るい声と共に森から飛び出すリベリスタ、数は6名。
 遭遇時点で身を隠すも何も無い、彼らの風貌と風体は先行する一葉達に丸分かりである。
 先頭を歩いていた『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)を一瞥し、
 一葉が本気で嫌そうに瞳を細める。声音で分からずとも風体で分かる。
 如何にも軽そうな、色黒の高校生吸血鬼。昨今彼らの界隈で無闇矢鱈と耳にする人物だ。
「おいおい、マジで面倒くさいぞ。こいつ御厨夏栖斗じゃねえか」
「ああ……あの」
「えっ? ちょ、何が」
 一瞬でフルネームを当てられ、自身の名声に余りに無頓着な少年が驚いた様な声を上げる。
 更に続くヒビキの警戒する様な眼差し、何があの、なのか気にならないと言えば嘘になるだろう。
 だが一葉は取り付く島も無い。相手が聞いている限りの“御厨夏栖斗”であるなら――

 直ぐ様一葉が踵を返す。身に纏うは高速の絶技トップスピード。
「なっ、んだと!?」
 次の瞬間『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403)による結界が張られた事が分かるが、
 患っている暇は無い。他にも幾つか聞き及ぶ顔がちらほらと。敵は思った以上に厄介である。
 遭遇の際、殆どの前衛が自らの能力の向上に力を注ぐ。
 その隙を――敵味方含めた全員の中で、最も速い男が見逃す理由が無い。
「……6人。ヒビキ、止めれるよな」
「そう言うと思ってました。勝手に野垂れ死なないで下さいよ」
「はいよ」
 対話は最小限。加速した一葉に、ヒビキに、ホーリーメイガスが翼の加護を付与する。
 この場の6人誰一人として、彼を追うと言う選択肢を持たない。であれば、答えは単純で有る。
「覚悟なしに逃げられるとは思わないでね、狙い撃ちにするわよ」
「まあ恐い、とでも言えば満足ですか? 逃げませんよ、今の所は」
 『薄明』東雲 未明(BNE000340)とヒビキとが火花を散らす。けれど口頭とは別に未明は動かない。
 様子を見ているのか、応じてヒビキの周囲に輝く光が渦巻き、その身を包む。其は浄化の鎧。
「残念、こんな山の中をハイキング? ご機嫌だね――とは、行かないかっ」
 それを目の当たりにして、夏栖斗が大きく一歩踏み込む。
 案の定と言うべきか、立ち塞がるは如何にも重厚な鎧と槍を纏った男。
 拳と槍とが交差し、豪快な炸裂音を奏でる。その後背から走り出てくる覇界闘士。
「っ、そっちから来てくれるなら手間が省けたよ!」
 流水の構えを取るが故に身動き出来ない『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)と、
 ランディとが彼らに組み付かれ足を止められる。叩き込まれる土砕掌。

 ――その動きを見れば分かる。彼らは最初からこの場の勝利を狙ってはいない。
 確実に、動ける人間を狙ってくる。何故なら彼らには全てを任せられる双頭の犬が付いているのだ。
 一手凌げば十分である。この場の誰も、一度最高速に乗ってしまった紬一葉は捉えられない。
「逃がさない!」「この、邪魔!」
 未明のソードエアリアルが防御を固めたヒビキを切り裂き、光に焼かれお互いに傷みを分ける。
 その影から『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)の精密射撃が一葉を射抜き、
 咄嗟に避けられた射線が腕を掠めて血の花を咲かせる。――だが、抵抗は此処まで。
「逃げるさ、お前らはもうちょっとそこで面倒くさい戦いを続けといてくれよ」
 踵を返した一葉が森へと駆ける。後方から追い縋ろうとしたランディは動けない。
 立ち塞がる覇界闘士と茂った木々と言う障害物。どちらもが視線を阻害する。
「――くそっ!」
 叩き付けられるメガクラッシュ。立ち塞がった覇界闘士が吹き飛ばされる。
 だが、その向こうに人影は既に無い。
 影を纏い、ダガーを構えた『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)が隻眼を細め呟く。
「こいつは、一本取られたかもね……」
 この競争にビーチフラッグを連想した、彼女の想像は恐らく正しい。
 そしてビーチフラッグで最も重視されるのは、何か。
 陸上競技全般に言える事でもある、つまりはスタートダッシュ――初動と初速、である。
 
●双頭犬の牙
「――やばい、追いついて来た」
 聞こえた音に呟いたのは、6人に先行する形で賢者の石へ向かっていた、
 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)である。
 彼女の集音装置は雑多な音が響く森の中であって、個人の動き等と言う些細な異音を逃さない。
「わかった、あたしが食い止めるよ!」
 追走していた『デイブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)が足を止める。
 この場に於いては舞姫の方が速い。目的地、賢者の石までそれほど遠く離れている訳でも無い。
 誰が追い縋って来ているのかは知れないが、喰い止められれば逃げ切れるかもしれない。
 何より――比翼子には乾坤一擲の秘策が有った。
「お願い。私達で、一手先を行ってみせよう!」
 後ろを振り返る必要はない。信じる仲間たちが足止めをしている。
 そうと信じて舞姫は足を止めない。彼女は彼女の役割を果たす為、ハイスピードで駆け抜ける。
「さあ、どっからでも――」
 待ち構える比翼子。10秒が過ぎ、20秒が過ぎ、30秒が過ぎたか――来る。
 呆れる程の速さで、視界に入った小さな影が迫り来る。一気に常人の倍を踏破する異常な移動速度。
 スピードだけではこうはなるまい。誰ならん、個人行動と言う時点で有る程度は想像出来た事態。
 追い掛けて来たのは後宮派、紬一葉。
「……ん?」
 全く無造作に横を通り過ぎられそうになり、比翼子が慌てて距離を詰める。
 このまま置いていかれたのでは何の為の足止めか分からない。チャンスはこの一度のみ。
「くらえ、星に最強を約束された我が奥義! ひよこ――」
 収束する最強にして不可侵の絶対的必殺技(仮)
「デイ、ブレイク!!」

 叩き付けられるひよこデイブレイクは、けれど何のダメージも発生させない。
 それは対人、対エリューションのみならず、対物に関しても同様である。
 そして、その際はったりに意識を向け過ぎた事で、一葉から距離を取った事が、
 今回彼女にとって最大の失敗でもあった。そう――つまりは。
「次は当てるよ。これせっかくの必殺技なのに相手が飛び散っちゃったりして、
 見栄えがあんまりよくないから使いたくないんだよねー」
「……ああ、うんそうか凄いな。でもまあ急いでるんで」
 潜在的な威力が何所まで行ったとしても見た目はキック。
 彼女の曲芸をふむ、と一瞥した後、一葉は当然の様に横をすり抜ける。
 駆け出されてしまえば到底追い付けはしない。双頭犬が雛を置き去りに疾走する。
 そうして幾許かの時が流れる。舞姫が漸く赤い魔石に辿り着いたのと、
 飛行効果で足場の悪さを無視した一葉が、二度の全力移動を駆使して前を走る彼女の背に、
 手を掛けたのはほぼ同時だった。半ば強制的に足を止められる。振り切れない。
「中々面白い奴が多いな、アークって所は」
「――っ!」
 彼女は誰より速く逃げるのが役割であり、その任務を真っ直ぐに全うしようとした。
 故にそれは、追いつかれた時点でこれ以上はどうにもならないと言う意味でも有る。
 戦太刀を引き抜き、逆手に破邪の鏡を携える。戦いに向く装いではない。
 それでも尚、舞姫は愚直なまでに役割を果たす。彼女が時間を稼ぐ事は決して無駄にはなら無いだろう。
 幻影と残像が森の最奥で舞い踊る。一合、二合、そして三合。
 実力差の有る一葉相手に、彼女は個人で実に良く戦った。運命の加護を削り、視力を振り絞って。
 けれど――事が此処に至ってしまった時点で、王手で有る事は覆らない。
「……やれやれ、最近の子供は本当に成長が早い。もう少しロートルを大事にしてくれよ」
 逆手に構える二本の短剣。身を低くする奇妙な構え。全身を血塗れにしながら舞姫が構え直す。
「女を子供扱いすると、寝首を掻かれますよ」
 掻き消える様な神速の刃。初速であり既に最高速。身を裂く剣閃は二条。両太腿を裂かれる。
 だが終わらない。追撃もう二閃。双頭犬の牙は――対する者を二度噛み千切る。

「うっす! 逆凪の旦那、足止めしといたぜー!」
「たいへんだ~。この人たち石のありかも知ってるみたいだし強いよ~!」
「早く助けてくれないかしら、うちみたいな弱小と違って最大手でしょ、逆凪は」
 しれっと横を通り過ぎ様とした逆凪一行に、凪沙とジルが間髪入れず声を掛ける。
 夏栖斗に到っては逆凪の進行方向に立ち塞がってまで仲間アピールをする露骨さである。
 苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた中年の男、志藤大地が仲間達に手を振る。
 此処は自分達だけで十分だと言う心算か、2人のクリミナルスタア、1人のスターサジタリー。
 そして1人のホーリーメイガスが武器を構え、その影に隠れる様に逆凪数名が森の奥へ消えて行く。
 大地が残ったのは盟約を遵守せんとする彼なりの誠意の示し方か。
 だが、それで目的を忘れる様ではフィクサードは務まらない。場に居るリベリスタは6名。
 対する後宮は倒れている者を含めて計7名。この乱戦、大地であれば5名で十分喰い止められる。
「待たせちまったな、逆凪が一ツ風。『大樹の盾』志藤大地。故有って助太刀するぜ。
 アークの野郎共も、手え抜くんじゃねえぞ。此処で敗けてこっちに益はねえ」
 相手の言質を逆手に取り、あくまで仲間として行動する旨を告げれば、
 所詮は別組織である。別働に振った3人に何をさせる心算か、等と聞いても詮無き事。
「つまりは『一応共闘』って形なわけね」
 それでも、仮にも盟約に従った振りをする辺り、逆凪の内にあっては十分良心的な部類である。
 未明がブロックしていたヒビキを離すと、其処へ2人のクリミナルスタアがにじり寄る。
「一応でも何でも、壁になってくれるなら十分だわ」
 マグメイガスによる反撃で、艶やかな黒髪を焦がされていたセリカが鋭い眼差し射線を通す。
 射抜かれたホーリーメイガスが抵抗虚しく地に落ちる。
 夏栖斗が逆凪を足止めした為、マグメイガスを庇いにかかっているクロスイージスが厄介か。
「斧使いか、気が合うが仲良しこよしって間柄でもねぇな」
「そりゃお互い様だ、名前は聞いてるぜランディ・益母。てめえも斧使いとしちゃ中々良い線行ってるが――」
 奇しくも同時にそれを見て取ったランディと大地が鎧姿の男に組み付き、視線を交わらせる。
 振り抜かれるは黒い両手剣と銀の片手斧。加護を切り裂く刃に続くは魔を落す鉄槌。十字、交差。

「幾ら無骨でも剣に頼るようじゃ、まだまだだ」
「はっ、抜かせ」
 ぐらりと、その連撃に鎧が傾ぐ。倒れる前衛、また一人。
 主力同士の戦いの天秤は、逆凪とアークの共闘により瞬く間に片側へ傾いていく。だが――

●終曲のフーガ
「――――いや、御尤も」
 どさりと。死力を尽くした少女が倒れ伏す。稼いだ時間は幾許か。比翼子は未だ追いつかない。
 両手に持ったナイフを仕舞った男が、眼前の石塊に大きな溜息を吐く。
 それは賢者の石。出来れば冗談で有って欲しかった力の結晶。極上の神秘。赤い魔石。
 喜ぶでもなく、厭うでもなく、只管作業的に特殊な加工を施された袋に詰め、それを背負う。
 大組織の業か、情報格差か、逆凪の初動は遅過ぎる。そしてアークは、選択を見誤った。
「やれやれ……」
 全く、面倒だ。呟きながら連絡を入れる。例えこの先何が起こるにせよ、彼。
 紬一葉に選択肢は無い。悪友の末路を目の当たりにするのが先か、己がくたばるのが先かは知れねど。
「本当に滅んじまうぞ、この世界」
 呟く言葉は何所か哀愁を滲ませて。袋を背負い身を翻す。来た時同様双頭犬は一路を駆ける。
 大凡1分後、元々赤い魔石が眠っていただろう地点へ辿り着いた比翼子が見た物は、
 血塗れで倒れ伏せる舞姫の姿と、漸く駆けて来る逆凪の影。
「な、なんじゃこりゃあー!」
 カズと2人の逆凪がその場に着いた頃には、事は全てが――終わっていた。

「一応でも避けなきゃいけないのが面倒よね! っと」
 ジルのハニーコムガトリングが周囲の木々ごとシンヤの私兵達をを掃射する。
 だが、視線を通さねば狙えない全体攻撃は、この場に於ける相性が最悪に近い。
 隠れるまでも無く存在する死角に、相手もまた動くのだから尚更で有る。
 とは言え、弾幕が降れば一時的にとは言え動きは止まる。その隙に身構えるは凪沙と夏栖斗。
 咄嗟に回避しようとした覇界闘士の退路を、逆凪のサジタリーの1$シュートが塞ぐ。
「アークと逆凪で共闘いいね! 熱いね!」
「本気で殺し合いになる前に、退いてくれないかな!」
 凪沙の蹴りから放たれたかまいたちが男を薙ぎ、踏み込んだ夏栖斗の拳が防御を無視して抉り込む。
 ――不思議な音楽が流れたのは、そんなタイミング。
 重苦しい、多くの物が聞いた事が有るだろう余りにも不吉なその曲は、トッカータとフーガ。
「そうですね、どうもこれ以上用は無いみたい」
 ホーリーメイガス、クロスイージス、覇界闘士2人が倒され、
 残りは物陰に隠れながら攻撃を仕掛けるマグメイガス2人と、ヒビキの3人のみ。
 特にヒビキは2人のクリミナルスタアとランディ、未明に囲まれ瓦解寸前である。
 だが、繰り返し響かせる天使の歌声と、包囲攻撃に向かない地形を利用し耐え切った。
 それが――この時点における全て。
 言葉から悟る。それがブラフでないなら、既に賢者の石はこの森には無いのだと。

「貴方達も帰りなさい。もう此処には何も無い、これ以上の戦いは不毛なだけよ」
「不毛だと? そう言われて帰れるかよ。せめててめえだけでも連れ帰らなけりゃな!」
 そう告げるヒビキに、けれど大地が一歩詰める。であるなら、交渉材料をみすみす逃す理由は無い。
「――程々にしときなさい」
 しかし未明がこれに忠告する。この場合はヒビキの言う通りだろう。
 例え此処で徹底抗戦し彼女を捕らえたとしても、一葉はともかくシンヤや、
 あのジャック、アシュレイがそれで賢者の石を手放すとは思えない。
 当然アークの誰一人として、彼女を捕まえようと言う者は居ない。これ以上は既に不要な戦いだ。
「……っ」
 歯噛みしたジルがダガーをホルダーに戻し踵を返す。
 奪われた賢者の石は、彼我の追跡可能圏を既に越えているだろう。
 被害が幾ら少なくとも、これは紛れも無い敗北に他ならない。動きを止めた大地が斧を下ろす。
 このまま戦って犠牲が出れば、その方が一層取り返しがつかない。
 白熱した思考が正常な温度を取り戻す。それを見遣って、ヒビキが笑む。
「……甘いですよ。でも、1つ貸しにしておきますね」
 羽ばたき1つ。その体躯は森の影へと消え、合わせて2人のマグメイガスも姿を晦ます。
 残された大地もまた仲間を集め、言葉も無く背を向ける。
 交える言葉も視線も無く、踏み出す一歩は想いより重く。敗残兵の役割など多くは無い。
 リベリスタ達もまた帰路を辿る。吐き出す吐息に苦汁の色を滲ませながら。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『<賢者の石・争奪>三重奏コンチェルト』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

諸々の要素が噛み合いこの結果へ至る事と相成りました。
原因等は作中に全て込めさせて頂いております。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。