●後宮動物園 ライオン、象、クマ、3体の動物が餌をもりもりと食べている。 そんな動物達を優しい笑顔で見詰める飼育員。見方によっては、とても平和な光景に見えるだろう。 此処がちゃんと動物園で、食べられる餌が人間で無いのなら。 辺りに泣き声が、悲鳴が響き渡る。 田舎の村の住人全てが、村の中央に集められ、一人ずつフィクサード『飼育員』の質問を受けさせられていた。 「賢者の石、知ってる? 判る? 何処に出て来るか教えてくれないかな? 判らない? まあそうだよね。じゃあ、君も、……もう食べて良いよ」 伸びた象の鼻が住人の体に巻きつき、泣き叫ぶ彼を持ち上げ、そして、……ゴリッ、ゴリッと、骨の噛み砕かれる音と、絶叫が辺りに響き渡る。 「ふふ、美味しいかい? 可愛いなぁ。こんなに可愛い子達をくれたシンヤ園長には感謝しないと。其の為にも働くぞー! さ、次は貴方だね。賢者の石、知ってる?」 再び繰り返される悲劇。 勿論、飼育員も住民達から有益な情報が得られるとは欠片も考えていない。 ただこの村に『賢者の石』が出現するとされる時刻を待つ間の暇潰しに過ぎないのだ。 この後宮動物園の園長、シンヤは飼育員に動物達……E・ビーストを与え、そして賢者の石の回収を命じた。 可愛い動物達に巡り合せて貰った恩は果たさねば成らない。 「それにしても可愛いなぁ。お、クマ君は頭から行くんだね。豪快だなぁ。偉いぞ。ライオン君、好き嫌いはいけないぞ? ちゃんと腕も食べなさい。其の点象君は流石だね。凄い凄い、丸ごとだ!」 ●第三の意思 「……と言う光景が諸君等が辿り着くまで展開されるだろう」 キィと車椅子を鳴らして振り返り、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が感情を押し殺した声を発する。 アシュレイが『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)に漏らした、『大規模儀式で穴を開ける』というジャック達の目的を考えれば、出現する『賢者の石』が其の目的の達成に何らかの形で利用される可能性が高い。 「残念な事だが賢者の石に関しての情報は、我々よりも敵の方がずっと多く所持しているだろうというのが現状だ。……現状は、ではあるがね」 そう、確かに『今までは』そうだった。 アシュレイ達が賢者の石の出現を察知する何らかの手段を所持しているのに対し、アークはカレイドシステムを用いても其れを成す事は難しい。 けれど後宮派のフィクサード達が再び動き出したと言う恐山会から情報提供や、実際に入手した賢者の石の周囲に対する影響の波長やそのパターンを解析して万華鏡へのフィードを行った結果、アーク側も限定的ではあれど賢者の石に対する能動的なアクションを取る事が可能となったのだ。 「敵の計画に必要な物がこの世界に出現する。嫌な情報ではあるがね。……だが賢者の石を手に入れれば、利用が可能なのは奴等ばかりではないのだよ」 賢者の石はジャックやアシュレイ、或いはシンヤ達にとってばかり有益な代物ではない。 アークが入手に成功すれば、其の力の恩恵はリベリスタ達に対してもたらされる事になるだろう。 「餌の匂いには飢えたハイエナも湧いてくる。……あぁ、失礼。いかに浅ましくとも、仮にも友軍に対する物言いではないな。今回、戦場には『逆凪』から派遣された部隊も向かっている」 アークとの協定を結んだ4派のうち、黙っていても分け前の手に入る『恐山』とは違い、『逆凪』『剣林』『三尋木』の3派はそれぞれが自分達も賢者の石を手に入れんと動き出している。 彼等にしてもアークと恐山が賢者の石を独占する事は、近い将来の脅威として認識せざる得ないのだろう。 「だがアークが賢者の石を譲る義理も当然無い。諸君の任務はアークに賢者の石を持ち帰ることだ。今回の逆凪は友軍だ。交戦は厳禁である。しかし賢者の石は諸君等が確保せよ」 資料: 戦場となるのは森や山によって周囲とは隔絶された村。 人口は100人程で村の中央に纏められており、リベリスタ達が到着する頃には半分位まで減っている。 A後宮派 A-1『飼育員』:後宮動物園を名乗る動物使い。シンヤを園長として慕う。預けられたE・ビースト達を完璧に制御し『戦闘指揮』を行う。当人のジョブはジーニアスのホーリーメイガス。 A-2『ライオン』:E・ビースト。ライオンの頭部とヤギの胴体、蛇の尻尾を持つ。口からは炎を吐き、尻尾の蛇は毒を持つ。2回攻撃。キマイラだと言う説もあるが、飼育員はライオンと呼ぶ事に拘っている。 A-3『象』:E・ビースト。象は象でもマンモス。分厚い毛に覆われた巨大な体躯、そして長い牙と鼻を持つ。恐らくディフェンダーとして非常に厄介。其の他に、鼻を伸ばしての捕獲(麻痺付き)等も行ってくる。 A-4『クマ』:E・ビースト。破格サイズのヒグマ。前衛アタッカーとして絶大な攻撃力を誇り、象に次ぐ耐久力と防御力も兼ね備える。 B逆凪派 B-1『小祭四郎』:半径20m以内に存在する人型の生物全てに自分と同じ動きを取らせるアーティファクト『バックダンサー』を所持し、使いこなせる天才的なダンサー。戦闘能力は少し低め。 B-2『小祭三郎』:半径50m以内に存在する生物全てに、自らの刻むリズムのビートを強制的に脳裏に響かせる、空間をドラムに変えるアーティファクト『エアドラム』を所持し、使いこなせる天才的なドラマー。戦闘能力は少し低め。またエアドラムの所持者はバックダンサーの効果を受けない。 B-3『小祭次郎』:半径50m以内に存在する生物全てに、奏でる旋律を強制的に脳裏に響かせる、空間をピアノに変えるアーティファクト『エアピアノ』を所持し、使いこなせる天才的なキーボーディスト。戦闘能力は少し低め。またエアピアノの所持者はバックダンサーの効果を受けない。 B-4『小祭一郎』:半径50m以内に存在する生物全てに(中略)、空間をベースに変えるアーティファクト『エアベース』を所持し、使いこなせる天才的なベーシスト。戦闘能力は少し低め。またエアベースの所持者はバックダンサーの効果を受けない。 B-5『小祭花子』:小祭一家の末の妹。非常に可愛らしい容姿と、天使の歌声を持つ。バックダンサーの効果を受けなくなるアーティファクト『エアマイク』を所持する。戦闘能力は低め。 B-6『マネージャー』:ペルソナとハイリーディングを使いこなす謎のフィクサード。普段の役割は小祭一家のマネージャー。戦闘能力は並。 尚、小祭一家は全員絶対音感と集音装置の非戦スキルと魔曲・四重奏を所持しており、彼等のアーティファクトが使用状態で一定範囲内に多く揃えば揃う程、放たれる魔曲・四重奏の命中が跳ね上がります。 セッション状態に突入した彼等は、敵に回せば非常に恐ろしい存在となるでしょう。 ●アクセスファンタズムに届いた緊急追加情報 「ンフフフフ、はいはい、鏖殺完了。それにしても逆凪は相変わらず数ばかりで歯応えがありませんね。……貴方もそう思うでしょう?『岩喰らい』」 濃密な血臭が漂う森の中で血塗れの妖刀を携えた男が嗤い、そしてそんな男に相槌を打つ様に食事を終えた巨大な蛭が鳴き声を上げる。 「黙っとれ『狂人』。耳が腐るわ。こんな雑魚はどうでもええ。それよりも問題は『賢者の石』と『アーク』の連中じゃ」 ギリ、と歯を鳴らして宿敵の名前を口にする岩喰らい。 嘗ては固太り気味で、堅牢ではあれど、どこか鈍重な印象を与えていた彼の体は、極限まで無駄を削り落とされ、更に到る所に傷痕が刻まれている。 だが一番変化したのは岩喰らいが其の身に纏う雰囲気だろう。 「アーク、アークね。あんな連中こそ如何でも良いと思うんですけどね。砂蛇君じゃないんだからあんなのに負けやしませんって。それよりシンヤ君の部下に興味が……っと、やめて下さいよ。そんな殺気を向けられたら、……興奮しちゃうじゃないですか」 鋭い殺気が絡み合い、そして躊躇いも無く振るわれた拳と刃が火花を散らす。 ……けれど、 「やめろ。逆凪の部隊の存在が、逆凪に潜りこんだ耳からの情報の裏付けだ。賢者の石はこの先の村に出現する」 二人が本格的な殺し合いを始める前に、3人目の人物が口を覆う布をずらして言葉を発する。 「我等が主『裏野部 一二三』は言った筈だ」 7派の一つ、過激派と呼ばれる『裏野部』が長の名を出し、『夜駆け』と呼ばれる暗殺者は二人に対して問いかける。 「言いましたね。賢者の石を手に入れれば、先だっての私の無茶には目を瞑って、尚且つもっと素敵な戦場をくれると。嗚呼、なんて優しい一二三さん」 「あぁ、賢者の石を手に入れれば兄弟の暴走を許すし、賢者の石があれば『尸解』と、その先すらも容易いて」 拳を、刃を、引く二人。 裏野部が過激派と呼ばれる所以の一つに、所属する者達が無軌道でイカレタ連中揃いである事が挙げられるが、そんな彼等がまがりなりにも組織、派閥としての体裁をとっていられるのは、長である裏野部 一二三の具える、魅力と実力、そして他者の心胆を寒からしめる恐ろしさがあるからだ。 「アークに協力した4派のみが賢者の石を手に入れれば、7派間のパワーバランスは崩れ、残る3派が殲滅される事態になりかねない。いや、この状況があの『時村』の、あるいは『恐山』の策略なら、確実にそうなるだろう」 故に、 「我等が主、裏野部 一二三は言った。暗殺せよと」 夜駆けの姿が地面に吸い込まれる様に消え、 「邪魔する者を鏖殺せよと、目障りならば虐殺せよと。判りましたよ一二三さん。敵は全て吸い殺します」 刃を鞘に納めた狂人が、蛭を引き連れ、村を目指して歩き出す。 「己の為に殴殺せよと。そうじゃ、俺は所詮この生き方しか出来ん。兄弟、すまん。待っててくれ」 呟いた岩喰らいの身体が、岩の鎧に包まれて……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月27日(日)22:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 泣き声、叫び声、舞う血飛沫。 阿鼻叫喚の地獄と化した其の村に、男は威風を纏い降り立った。 男の仕草の一つ一つは、他者の目を引く事に、他者に見られる事に、慣れ親しんだ『特別な人間』特有の物。 男の愛馬が歩を一つ進める度に、村を覆う絶望が男の放つ荒々しい存在感に塗り潰されて行く。 男の名前は『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)。自らを王と称する男だ。 余りに場違いな、そして異質な存在の出現に、迫り来る恐怖を忘れた村人達の、そして村人が虐殺される様を眺めていたフィクサード『飼育員』の視線が、刃紅郎へと集まる。 だが激変した空気にも動物達……、否、化物であるE・ビースト達は気付かない。飼育員からの命令が来ない事にも疑問を抱かず、ただ目の前の村人に死の一撃を振るおうとする彼等。 けれど其の時、王の傍らを一人の騎士が駆け抜けた。 振り下ろされた巨熊の腕の一撃を、村人を庇う騎士が翳した盾にて受け止める。 狙われた村人と比べてもやや小柄な騎士と巨熊の対格差は5倍以上。体重に至っては10倍では効かぬであろう其の相手の一撃を、騎士は真っ向から受け止めたのだ。 血にぬかるんだ大地に騎士の裸足の足が沈み、巨熊の攻撃を受けた左腕は、衝撃に折れた骨が皮膚を突き破り出血している。しかし騎士の膝は、心は折れぬ。 騎士の名は『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)、理不尽に苦しむ弱者の祈りに応えて現れし守護者。 美しい少女の様にしか見えぬ其の身体で、騎士は剣を構えて巨熊を圧する。 更に、自分の力は誰かの夢を、踏み躙られんとする未来を守る為に在ると言い切る『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)がジャスティスキャノンで巨象・マンモスを引き付け、ライオン・キマイラの吐き出す炎の前には、迫る炎よりも更に熱い、決して消えぬ憎しみの火を胸の奥に燃やす女、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)が立ちはだかる。 「我が命ず……走れ!」 王より発せられた強い力を込めた命令に、村人達が弾ける様に彼の指差す先、騎士が予め用意していた村人達の為の脱出手段であるトラック目指して駆け出した。 完全に上からの命令にも誰一人ごねる者など居ない。追い詰められた極限状態、不意に現れた助け、そして王の威。 全てが噛み合い、村人達を動かす。 急変した事態に、飼育員が咄嗟に取ろうとした行動は、逃げる村人の幾人かごと、出現した敵対者達を巻き込む神気閃光。 冷静になって考えれば、飼育員にわずかばかりの村人を狙う意味は無い。だが事態が急に動いた時、概ね人は咄嗟に其の事態を収めようとする。 しかし飼育員が神気閃光を放たんとしたまさに其の時、打ち込まれる弾丸、2丁の銃を両の手に構えた『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の正確無比な銃撃・1$シュートが飼育員の頬を掠め、彼の動きを僅かに止めた。 そしてその僅かな時は、放たれる神気閃光から巻き込まれる筈だった村人達を逃げ延びさせた。 ● 閃光に白く染まった視野を切り裂き、『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が風の様に突っ込む。 彼女の細い、枝の様な腕が振るうは、しかしながら無骨で巨大な鉄槌。されどその重みをルカルカは苦にする事も無く、彼女は一切の淀みない連続攻撃・ソニックエッジを放つ。 巨大な鉄槌を腕で受け止め、痛み呻いた飼育員の喉を『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の早撃ちが狙う。 必死に首を捻った飼育員の、それでも肩口を銃弾で打ち抜いたエーデルワイス。だがその成果にもエーデルワイスは表情を変えず、更なる殺意と怒りをもって飼育員に照準を合わせる。 実は飼育員からの攻撃に巻き込まれた彼女達は、未だ神気閃光によるショックから立ち直っていない。 けれど、……いや、だからこそ、彼女達の攻撃は尚更苛烈なのだ。 騎士が、快が、朱子が、それぞれ懸命に抑えているとは言え、本来このE・ビースト達は単身で立ち向かうべき相手ではない。 果たして彼等が何時まで引き付けて居られるか、2本の足で立ち続けれるか、タイムリミットは刻一刻と迫り来る。 故に、彼女達にはショックを気に留める時間が、余裕が無い。飼育員に出来た隙を逃せない。飼育員に立ち直る暇を与えるわけにはいかないのだ。 「ぞ、象君!」 飼育員の口から、ディフェンダーである巨象・マンモスへの救援要請の言葉が漏れる。 しかし瞳を怒りで真紅に染め、快に向かって鼻を伸ばすマンモスに其の言葉は届かず……、 「猛獣は好きなのだが、な」 巨体であるマンモスの強引な突破を阻止すべく投入された快に続く2枚目の壁、『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)の土砕掌がマンモスの身体に突き刺さる。 麻痺こそ与える事は叶わなかったが、それでも其の一撃はマンモスの分厚い毛皮、脂肪を無視して体の奥底に振動を叩き込む。 他のビースト達が眼前の敵を早めに倒して駆け付けてくれれば……と目をやれば、『宵闇の燐刃』クリス・ハーシェル(BNE001882)の天使の歌が、騎士を、朱子を、快を癒し、容易く囮の壁を破壊させない。 ビースト達の助けを諦め、浄化の鎧を自らに施し、防御を増し、反射を備える事で少しでも抵抗をと試みる飼育員……ではあったが、矢張り虎美も、ルカルカも、エーデルワイスも、一切の躊躇い無く再度の攻撃を敢行して来る。 彼女等の再攻撃に一呼吸遅れ、超頭脳演算を起動させた『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が放つピンポイントが、身を屈めた飼育員の頭部を掠めて彼の帽子を打ち抜き、地に落とす。 ……更に、ずいと前に進み出た飼育員を覆う巨大な影。 其の影の主は、馬に跨り、只でさえ大きめの身体に馬の高さを追加した王だ。そして其の手に輝くは物騒な光を放つ大剣。 飼育員とて後宮派では精鋭と呼ばれるクラスの一人。無論回復役である以上、他の後宮派の前衛連中に比べれば単体戦闘能力は劣るとは言え、それなりの実力も自負も持っている。 けれどこの場に集まったのはアークのリベリスタ達の中でもTOPクラスの精鋭達だ。 数に勝る彼等の苛烈な攻撃に対して出来た事は、只粘り続ける事のみ。神気閃光も、聖神の息吹も、足掻き以上には成り得ない。 そして最後の一撃を決めたのは、 「Hasta la vista (アスタ・ラ・ビスタ)」 エーデルワイスの口にする其れはスペイン語でさよならの意だ。だが其の別れには再会を約束する意味合いが多分に含まれる。 エーデルワイスと飼育員の再会は、そう、きっと地獄と言う場所があるのなら其処で、もう一度殺しあいましょうとの願いを込めて。 殺意の弾丸、ヘッドショットキルが飼育員の額を撃ち抜き命を奪う。 ● 飼育員を屠ったリベリスタ達。だが彼が率いていたビースト達は未だ健在で、一息つく暇も、……そう、本当にただ一度の回復さえも許されず、襲来する新たな禍。 「……彼奴めらが来るか!」 濃い血臭に包まれた村の中でも尚も嗅ぎ分けられる程の、体に染み付く数多の死の匂いに、猟犬の如く鼻をひくつかせた王が注意を喚起する。 王の鼻が捉えた禍、血を糧に生きる『狂人』血蛭・Qは、 「これはこれは……何も無いつまらない田舎の村かと思っていたら、何とも芸術的じゃぁないですか。素敵です。素敵ですよ。作者の曲がった卑しい心根が、嫌って程に表現されてる」 唇を喜びに歪め、己に付き従う巨大な蛭と共に村へ足を踏み入れた。 更にもう一人、猟犬としての鼻等用いずとも、誰もが其の男の出現には気付く。 練り上げられ、圧縮され、それでも抑え切れずに噴出する其れは、物理的な熱量すら伴って吹き付ける、強大な闘気だ。 「『岩喰らい』の匡……っ!」 忘れもしない岩に包まれた特徴的な其の姿。そして嘗てとは比べ物にならないその身に纏った雰囲気に、彼を知るリベリスタの口から呟きが漏れる。 けれどリベリスタ達はまだ気付いていない。後宮動物園の面々に対して優位に戦い、飼育員を封殺した彼等の誤算が、……既に始まっている事に。 嘗て死闘を演じた、因縁ある匡の出現に普段は冷静沈着な快も、血がふつりと沸き立つのを止められはしない。 けれどそんな彼の体にするりと巻き付き締め上げたのは、巨象の長い鼻だ。 「かはっ」 強い締め上げに肺から漏れ出す空気。だが巨象の攻撃は其れだけに終らない。長い鼻をくるりと丸め、鼻で捉えた獲物、快を口へと運ぶ巨象。 ゴキリ、ボキリと響く鈍い音は、骨が砕けた其れだけでは無く、快の機械化された身体の内側が噛み砕かれていく音だ。 「おのれっ」 快の危機に、当初の打ち合わせ通り巨大蛭『血蛭の落とし子』と向かいかけたマリーが身を翻して巨象に再度土砕掌を叩き込む。 体内に浸透する破壊的な気に巨象は口から快を取り落とすが、一拍起き、強引に麻痺を振り払った後、今度は其の鼻でマリーを、足による踏み付けで快を、2人纏めて狙い出す。 勿論快が象に付与した怒り等はとうの昔に解けている。 飼育員を倒し、指示する物を失ったビーストとの戦いに裏野部派を巻き込み、ビースト達と彼等をぶつけようというのがリベリスタ達の目論見ではあったのだが、しかしビースト達からしてみれば、自分達と戦い続けた、目の前の獲物を真っ先に狙わぬ理由が、逃がす理由が、一つも無いのだ。 そしてリベリスタ達に、ビースト達を振り切る為の、或いは裏野部派に擦り付ける為の有効的な方策は用意されていなかった。 当然、飼育員が裏野部を狙えと指示したならばビースト達も従っただろう。 けれど其の飼育員ももう居ない。E・ビースト達の暴走を、止めれる者は一人も居ない。 再び振るわれる巨熊の豪腕に、受け流し損ね、受け止めざる得なかった騎士が剣ごと吹き飛ばされる。 騎士が巨熊の攻撃に耐え切る力を与えていたのは、守るべき無辜の民の存在。 彼らを苦しめる災禍に対する怒りが、弱き者を守ると言う使命感、矜持や誇りが、騎士の四肢に膂力の桁が違う相手からの攻撃にも折れぬ力を与えていた。 しかし既に守るべき弱者は、彼の用意したトラックに乗って逃げ延びている。 戦いの最中に騎士の心に緩みが生じよう筈も無い。……無いのだが、ほんの僅かな満足感、安堵感は、押し殺し様も無く、……巨大な暴力はその僅かな隙間に容赦なくつけ込んだ。 死者達の作った血の池に、騎士の身体が沈んで行く。 一方、比較的相性が良かったとは言え、朱子もキマイラを相手に苦戦を免れないでいた。 その身を火炎に燃え上がらせる事も、毒に犯される事も無い彼女ではあったが、それでもキマイラの二度の攻撃は着実に彼女の体力を削っていく。 朱子とてオーララッシュ、或いはメガクラッシュを用いてキマイラへの反撃を行っているのだが、……彼女はデュランダルとしては脅威的なタフさ、それこそクロスイージスである快や騎士に近しい水準の、……耐性を含めるならば時に彼等を上回る総合的防御性能を誇る。 けれど其れは一方で、彼女が防御に偏り同格のデュランダルと比較すれば攻撃力に劣る事を意味していた。 朱子がキマイラの攻撃に耐え切れているのは其の恵まれた防御性能の賜物だが、其れが故に彼女にはキマイラを単独で屠り切るだけの攻撃力が備わっていない。 肩口に尻尾の蛇が喰らい付き、痛みに顔を顰めた朱子の眼前に、キマイラの、牙を剥き出しにしたライオンの顔面が迫り、……割れた眼鏡が地を転がった。 ● 計画が緻密であればある程、精密であればある程、誤算が生じた時、歯車がずれた時の歪みは大きくなる。 勿論他のリベリスタ達とて、仲間の窮地を救いに駆け付けたい。 だが裏野部派達が其れを許そう筈も無く……。 黒衣の男は、何時の間にか其処に立っていた。 気配遮断で気配を殺し、物質透過で地より湧き出した『夜駆け』のウィウに気付けた者は、猟犬で匂いを捉えた王、超直観で現れた気配無き其の姿をも見落とさなかったイスカリオテ、虎美、エーデルワイス等のみ。 けれど彼等が警告の声をあげるよりも早く、ウィウは全身の呪力を解き放ち、宙に不吉を呼ぶ赤い月を生み出す。 そしてリベリスタ、ビーストの区別なくウィウにとっての敵の身を貫く赤光。 バッドムーンフォークロア。かつての死闘で脅威となったこの技が再び、リベリスタ達の身に真の不吉を告げる。 「やあ、貴方が彼の『狂人』殿ですか、お噂は聞いてますよ」 一方、崩れかけた作戦であっても、イスカリオテは当初の予定通り血蛭の引き付け役として動く。 イスカリオテの放つピンポイントが、リミットオフで己が内の制限を取り払った血蛭の身に突き刺さる。 「何でも出来損ないの玩具で騒ぎを起こそうとし失敗した三下だとか」 攻撃、口撃、人の心を弄び、誘導するは原罪の蛇が得意とする所。己を囮とする事で血蛭を戦場より引き離し、戦線の建て直しの一助とする。 元々数に勝るリベリスタ。単純な-1の引き算が行われても、其の損失は数の少ない裏野部派よりもずっと軽い。 だがイスカリオテはピンポイントの手応えがあったにも関わらず、自らを向かって来ようとしない血蛭の姿に違和感を覚えた。 一体、血蛭の携えた妖刀『ヒルコ』は誰の血を吸い上げているのか。何故、離れた場所に居る筈の自らの胸が裂け、血を溢れ出させているのか。 再度ピンポイントを血蛭に向かって放つも、失血にくらりと視界が歪み……、そんなイスカリオテの体を、再び疾風居合い斬りによって放たれた真空の刃が切り刻む。 「オラオラオラ!」 悪い空気を引き裂かんと、虎美の放つハニーコムガトリングが戦場を吹き荒れた。 戦場を蹂躙する無数の弾丸。血蛭に、落とし子に、巨熊に、キマイラに、巨象に、繰り返し吐き出される虎美の攻撃がヒットし、抉り込んでいく。 しかしそんな弾丸の雨の中を、匡は意に介した風も無く虎美に向かって歩み寄る。 匡の金剛陣は体内だけでなく纏う鎧にも気を通し、体を覆う岩がまるで金剛石の様な輝きを放つ。 虎美を狙う匡に、間に割って入ったのは遊撃に回っていた王だ。 馬に跨った高さを活かし、大剣に全身のエネルギーを集めた王は大上段からの振り下ろし、メガクラッシュで攻撃を繰り出す。 迫り来る大剣の威には、流石の匡も腕をクロスさせて防御に回らざるを得ない。 ぶつかり合う刃と金剛の腕。走った巨大な衝撃に、それでも武器を取り落とさなかったのは王の矜持がなせる業だろう。 けれど彼の跨る馬はそうは行かない。身を駆け抜けた大きすぎる衝撃に、思わず王を振り落として駆け出す馬。 一方攻撃を受け止めた匡は吹き飛びもせず、ただ其の腕の鎧を僅かに欠けさせたのみ。だがその欠けた鎧を見た匡は唇を歪め、笑みを浮かべる。 今の攻撃が真芯から入っていれば、自分を僅かではあれど傷付け得たであろう事に気付いたからだ。 血蛭の落とし子と向かい合うエーデルワイスは、迫る落とし子の攻撃を必死で避けながら苦悩していた。 彼女が取らんとする戦術はバウンティショットによる急所狙い。 ……だが、蛭の急所とは一体何処なのか。 どうやらエーデルワイスは蛭を見た事が無い様子。 当初は蛭(ヒル)を蛙(カエル)と似た生き物だろうと思い、その目を潰す心算で居た彼女だったのだが、蛭に目はない。そして見た目がグロイ。 生理的嫌悪感を煽られる其の姿に、冷静な判断を妨げられ逃げ惑うエーデルワイス。その間にも、落とし子は地を流れる大量の、そう死んだ村人達の血を吸い上げ、少しずつ巨大になっていく。 仲間達の苦戦に一番悔しい想いをしたのは、恐らくクリス・ハーシェルだろう。 彼女の詠唱する天使の歌が無ければ、リベリスタ達の戦列はとっくの昔に崩壊している。 だが如何に彼女の支援が戦線を支え続けようとも、其れ自体に戦局を変化させる力がある訳ではない。 クリスの天使の歌は本職の癒し手に決して引けを取らぬ回復力を持つが、彼女は本来癒し手では無く戦う者だ。 自らの手で敵を倒し、自らの力で戦局を変化させるのが、クリスの本来在る姿なのだ。 ……けれど、再び放たれたクリスの天使の歌にリベリスタ達が何とか踏み止まる。 彼女が攻撃に回れば、既に傷付いた仲間達は一気に崩れ去るだろう。 噛み締めた唇から血が顎を伝い、地に落ちる。 クリスに出来る事は只一つ。仲間の逆転を信じ、最後の瞬間まで回復の手を休めぬ事だけ。 ● リベリスタ達のダメージは積み重なり、更に付与された不運が彼等の行動を阻害する。 けれどリベリスタ達にとって圧倒的不利に進む戦局に、僅かではあれど変化の兆しが垣間見えた。 その変化を運んで来たのは、尋常ならざる速度を誇る少女、ルカルカだ。 騎士、アラストールが倒れた後に、巨熊を引き付け走り回っていたルカルカが、傷だらけになりつつも漸く巨熊の追撃を振り切って、巨熊を血蛭の落とし子に擦り付ける事に成功したのだ。 其の時点での落とし子の体長は、転がる村人の死体からも血液を搾り出して、巨熊の其れを更に上回っていた。 振るわれた巨熊の豪腕に、落とし子から大量の血液が噴出する。だが同時に巨熊の体にも落とし子の触手が刺さっており、そこから体液を吸い上げていく。 ぶつかる巨体と巨体。其の余波は当然リベリスタ達にも及ぶ。 更なる血を求め、ぶるりと身体を震わせた落とし子の体から、四方八方に触手が飛び、巨熊だけでは無くキマイラ、巨象、それに匡と戦っていた王、更にはエーデルワイスや虎美、未だ巨象との死闘から抜け出せぬマリー、癒し手であるクリスを庇ったルカルカ達にも突き刺さる。 乱戦、混戦の様相を深めていく戦場。 リベリスタ達の負った傷は深い。既に、アラストール、朱子、快、イスカリオテ、ルカルカ、虎美、エーデルワイス等が倒れ、地に伏している。 一方後宮動物園側は、ついにマリーの放ち続けた一滴の水、土砕掌によって、巨岩、巨象が打ち砕かれ、其の巨体を地に横たえた。残るは落とし子との戦いで大きく傷付いた巨熊と、キマイラ一体を残すのみ。 けれど最後の一派、裏野部派は、回避に長けたアーティファクトを持つウィウ、防御に長けた匡、自己回復能力を有する血蛭とその落とし子が、大した消耗もせずにそのままの形で残っていた。 村に満ちる血の臭いは、更に濃く、密度を増して、空気が粘り気を帯びたかのよな錯覚すら与える。 そんな真紅に染まった村の中、村人が、戦士達が、流して作った血の池に、戦士達が血を流す戦場のど真ん中に、血よりも赤い賢者の石は不意に、何の予兆も無く突然に出現した。 まるで最初から其処に在ったかの様に、赤い光を放つ其の石に最初に気付いたのは超直観を持つクリスだ。 だが未だ己の足で立つ者達の中では、癒し手として後衛に立つクリスは賢者の石から最も遠い。 賢者の石の確保に動いたクリスの動きに、王が、マリーが、賢者の石の存在に気付く。……否、王とマリー達だけではない。裏野部派の3人も、クリスの動きに、彼女が目指す先、賢者の石の存在に気付いてしまう。 賢者の石を狙うクリスに対し、裏野部派の血蛭は賢者の石の先んじての確保よりも、クリスの抹殺で対処しようと妖刀の切っ先を彼女に向ける。 其の間に割り込んだのは、捨て奸となる心胆でクリスの道を作らんとする王だ。 捨て奸とは、向かい来る敵軍に対して殿が、更に少数の部隊を捨て石として敵にぶつけて時間を稼ぐ、言わばトカゲの尻尾切り戦術だ。 決死の覚悟で挑む王の捨て身の狂気に対し、歓喜の笑みで迎え撃つ狂人・血蛭が選んだ技は、生か死か、デッドオアアライブ。 そして匡の前には、マリーが立ちはだかった。 実のところ、マリー自身には匡やウィウに対する強い執着はない。 寧ろマリーが彼等に抱く想いは好感だ。仇を想い、力を増し、また強敵として会えた事を嬉しくすら思っている。 だが匡にとっては、火吹を殺し、そして朱子と共に砂蛇を殺した、仇と呼ぶべき存在だ。 憎しみに目を曇らせ、嘗ての砂蛇の失敗を繰り返す様な事はせずとも、身の内に燃え盛る炎は闘志となって溢れ出す。 踏み込んだマリーの繰り出す土砕掌に対し、匡が放つは彼の持つ最も強力な、マリーだけでは無く、クリスや王をも巻き込んだ『爆砕装甲』。 ● 「……よくもやってくれましたね。岩喰らい」 心地良い狂気を纏った相手との勝負を邪魔され、血蛭が憎々しげに吐き捨てる。 倒れた王、マリー、そしてクリス。 賢者の石は、誰の邪魔も入る事なく、ウィウの手に握られた。 敵対者として今だ残るは、落とし子と食い合うキマイラのみ。巨熊さえも先の攻撃で既に倒れて肉塊と化した。 其の光景に、ドクンと、胸の鼓動が高鳴る。 「油断するな、狂人。まだ終わっとらんわ。こいつ等は此処からじゃ」 匡が睨む血蛭に注意を呼びかけた。 ドクン、ドクン。 ウィウが賢者の石を持ち去ろうとする其の光景は、朱子、快、クリス、イスカリオテ、虎美、そして特にマリーのあるトラウマを抉る。 悔しさに過ごした眠れぬ夜。やり場無く、自らに向けられた怒り。 そう、嘗て相良邸で『相良に咲く乙女』相良 雪花(nBNE000019)がウィウの手によって攫われたあの時に、今のこの光景が重なるのだ。 勿論雪花は既に救い出し、今はリベリスタ達の仲間として三高平で明るく過ごしている。賢者の石は雪花ではない。 だが呼び起こされたあの悔しさが、彼等の体中のすべてから、後一度、あと少しだけ立ち上がる力を掻き集めて来る。 削り取った運命が、もう一度立ち上がれと囁き掛けて止まらない。 ドクン! 強く打った鼓動が、離れかけた意識をもう一度体に呼び戻す。 「判ってるじゃないか。匡、決着をつけよう。アンタの兄弟が強かったって事、俺達が証明してやる」 噛み砕かれ、踏みつけられ、壊れた筈の内部構造を無理に駆動し、快が再び立ち上がる。 「私は、何時だって、何度だって、お前たちの前に立つ!」 割れた眼鏡を拾い上げ、再び構えを取るのは、消えない火、鳳朱子。 何度踏み躙られようと、彼女の火は決して消えない。彼女の心が折れない限り。 更に、クリスが、虎美が、 「もっと、もっとだ。こんなもんじゃないはずだ!」 己の体に鞭打つマリーが、後に続く様に次々に起き上がる。 「ハハハ、死に損いが何人か立ち上がった所で大した事が出来るとも思えませんが、でも認めますよ。貴方達も中々に素敵だ。貴方達は、運命に狂わされてる」 楽しげに嗤う狂人。 だが、立ち上がるリベリスタ達は彼等のみではない。 「言いたい事はそれだけか、ならば此方は剣で応えよう」 雄々しく、剣を杖にする事も無く、アラストールが再び立ち上がる。 身に纏うボロ布は、獣の爪で既に体を覆い隠す程度の用すら成さない。体を血に染め、風に晒し、それでも騎士は剣を構える。 そしてルカルカが、王が、エーデルワイスが、……最後に、 「雑魚に用はありません、失せなさい」 立ち上がったイスカリオテの周囲を焦熱の熱砂が舞い、戦場を一気に包み込む。 イスカリオテの放った技の名は『灼熱の砂嵐』。嘗て裏野部派の一員であった砂蛇から、イスカリオテがその技を模倣、改造して習得した物だ。 だが其の攻撃は、イスカリオテにとっても博打に近しい物であった。ウィウと匡は、この技の本来の使い手であった砂蛇に近しい人間、当然この技の脅威は熟知しているだろうし、或いは其の対策も所持しているであろうから。 そして其の予想の通りに、舞う砂を、宙を裂いて飛来したかまいたち、匡の放った斬風脚がイスカリオテの身体を切り刻む。 「堕ちろ紛いモンがッ!」 見れば匡の身体は再び岩の鎧に覆われており、身を覆う鎧が灼熱の砂嵐の追加効果を無効化したのだ。 そしてウィウは影潜りの腕輪で回避し、血蛭は傷を負いはしたものの追加効果の影響までは被っていない。 けれどそれでも、イスカリオテはこの技を放つ必要があった。 倒れたイスカリオテ以外の身体を、クリスの詠唱した天使の歌が癒す。もし仮に、イスカリオテが灼熱の砂嵐を使って囮とならなければ、狙われたのは回復役たるクリスだろう。快が、アラストールがクリスを庇いはするだろうが、それでも総攻撃を受けていれば複数人は回復を受ける事叶わずそのまま倒れてしまう。 故にイスカリオテはわざと不利な博打を打ったのだ。 ● しかし、起き上がったリベリスタ達と、裏野部派の戦いはそれ以上続かない。 「掌握した。これ以上の交戦に意味は無い。想定外の事態が起きる前に、退くぞ」 言い放ったウィウが駆け出す。其の手に光る賢者の石は、確かに先程までと少し色合いを変えていた。 追い縋ろうとしたリベリスタ達の前に立ちはだかったのは、遂にはキマイラをも食い尽くし、更にサイズを増した血蛭の落とし子。 「匡!」 落とし子の巨体の向こうで、背を向けた匡の名を快が呼ぶ。 だが匡は振り返らずに、ぎしりと歯軋りの音だけを残してウィウを追う。 そんな匡の様子に溜息を吐いた血蛭も、 「それでは御機嫌よう。まあ貴方達がジャックさんに勝てるかどうかは判りませんが、どうやら目はありそうですねぇ。まあ、乗り越えれたなら、次は更なる地獄でお会いしましょう」 一礼し、上機嫌で去って行く。 そして後を追わんとするリベリスタ達に、育ち切った落とし子は一声だけ「おぎゃあ」と鳴いて襲い掛かった。 村を覆う血の香りは、より一層の深さを増して。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|