● ざりっ、と砂利踏む足音が夜に響いた。 今夜は満月、素敵な満月。こわいこわい、満月。 「あはぁ……」 知らず、笑い声が漏れる。何か、頭がちょっと可哀想に聞こえてしまったかも、だけど。 でも、それも致し方ないのだ。きっと判ってくれるはず。 何といっても今夜は満月。すてきなすてきなあたしの満月。 砂利踏む足も踊る。 こつ、とコンクリートを踏むと、あたしはふらふらと、やや右に傾きながら道を歩く。がりがりがりがりと、傾くものだから、先が地面を擦って、あぁいけない、なんて担ぎ直すのだ。 くるり、とターンする。あんまり月があかるいから、あたしは嬉しくなっちゃった。きゃふ、と踊る声が漏れる。 「おい……何やってんの、テメ」 見かねたのだろうか。街に入ってしばらく茫洋と歩いていたあたしを、男の人が見咎めた。その人の顔を見る……うん。怪訝そうに眉根を寄せるその顔には品の欠片もない。いけない、いけない。うん、あたしってば信仰の徒だもんね。ちゃんと判断しないと☆ 装飾品だらけ――アウト。 居酒屋から出てきたららしいその姿――アウト。 女の腰に手を回して尻をべたべた撫で回してる――アウト。 何より――こんな月夜に出歩いてる。もうアウト。 「あは。おにいさん」 「あ? んだ、テメ、こんなトコででけえカバン振り回してんじゃ……」 「おにいさんは、異端だね!」 「は?」 その時になって、その男の人はこちらを見てぎょっとした。うん、気付くの、ちょっと遅いかも? あたしはぶん、と背中を振り回すと、背負っていた身長大のおおきなソレを地面にどずんと付ける。 「これ、なぁんだ」 「……は、や、そら、クロス……」 「せいかぁい」 ご褒美に、飛び切りあまぁい笑顔で言ってあげたの。 あたしが地面に思い切り付いたのは、おおきな十字架。それにもう一度、よいしょ、と、言うなり右腕の袖をめくる。ちょっとごてごてした篭手をうんしょ、とむき出しにすると、白くて綺麗な光を放つ。それにあわせるように、十字架が同じような光を放った。 「うん♪」 ふぉん、と光を放つ右腕を上に振り上げる。その動きに合わせてふわりと十字架も宙に舞った。その様子を、男の人と、一緒にいた女の人が呆然と眺めてる。 頭がついてきてないのかな。かわいそうに。あたしは思うしかない。 かわいそうだけど、異端だから。しょうがないのよ。 「じゃあ……バイバイ」 「バッ」 男の人が何を言おうとしていたのか、あたしにはわからない。次の瞬間にはあたしが右手を振り下ろし、それに合わせて十字架が頭上がから勢い良く! 彼の頭の上に落ちたからだ。勢いは止まらない。ぐぢゃぐぢゃと頭蓋を割って頚椎を砕いて下まで下ろして、ふっと横に手を振る。付いてきた可愛い十字架には一適の血も付いていない。当然のことなのだ。真の信仰は、穢れることがない。 となりに居た女の人の頭も手早くすりつぶすと、後ろから悲鳴が聞こえた。あたしが振り向くと、2、3人の人間が走り去って行く。 「あ」 とあたしが言う間もなかった。走り去る動作は、あたしが振り向くまでに終わっていたから。辺りには光条の名残が残るだけ。 うん、かわいそだけど、しょうがないよね。 「あたしから逃げるってことは……異端だもんねぇ」 ふぅん、と手招きをするようにすると十字架は大人しく背中に戻る。それをうんしょ、と背負い直してあたしはまた踊るように歩く。 今夜は素敵な月の夜。 だって、悪魔は月に喜ぶのよ? だから、今日はみんな狩っていい。彼もそう、彼女もそう。あぁ、素敵、素敵よ。 「Dieu est amour ♪」 月夜は誰もが狂う夜。 ● 「七つの大罪、って知ってるかしら」 映像を止めた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が静かに問う。 「傲慢、嫉妬、色欲、暴食、強欲、怠惰、憤怒」 指折り数える。メジャーなものよね、と言った。 「欲は力の源。だから、これにあやかるのは非常に合理的よね。単純に力を求めるなら……けど、こんなのは知っているかしら」 そういうと、少女はスクリーンに違ったものを映し出す。そこに書かれていたのは 「正義、分別、節制、希望、堅忍、信仰、慈愛……これはね、七の枢要徳っていうの。つまり、七の大罪に対応する徳のこと」 そう言うと、イヴは少し暗い、いや苦い顔をする。 「昔、とあるフィクサード組織でこれを模したアーティファクトが作り出されたことがあるの。勿論、既に押収され厳重に保管のち研究対象になっていたのだけど、誰かがこれを盗み出した……その後、行方が知れなかったのだけど」 ここでようやく、その一つの所在が明らかになったのだと彼女は言う。 「このアーティファクトの名は、“信仰の十字”。機能は、あの通り。打撃武器、盾、そして……自動迎撃術」 確保しないと、大変なことになると彼女は言った。 「持ち主の素性は不明、恐らくはどこかの覚醒者であるということ。確かなのは、ジーニアスで、ホーリーメイガスだってこと」 生死は問わない、彼女は言う。ただし、と前置きを付けた。 「このアーティファクトは、未完成品。偽典と、元の組織には名付けられていた。何がというと……この武器の持ち主は、感情を暴走させる。それぞれの武器に対応する徳、それに類する感情を。つまり、正気じゃないのよ」 あるいは被害者であろう、そう言い含めはする。 「どんな結果になろうとも、それだけは覚えておいて。それにしても……」 少女は、映像を見た。その目が憂鬱そうにゆれると、誰へともなく呟くのだった。 「正しすぎるって、考えものね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕陽 紅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月11日(日)23:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ああ、恐るべき日よ 主の日が近づく 全能者による破滅の日が来る ――ヨエル書 1.15 一歩、二歩、軽くステップ。月夜の万能感。 少女は笑っていた。享楽的で、刹那的で、からっぽの笑みを唇に乗せて一歩、二歩、ターン、タップ。鼻歌を歌いながら月の光を浴びて歩く。 「Dieu est amour♪」 ヨハネによる福音書の3.16。少女のお気に入りの聖句。 神は愛。 あたしは神の意志。 そうしてたんたかと、線路の木霊を伴奏に歩いていた少女の目の前に、影がよっつ現れた。 「はぇ?」 首をかしげる。こんなところに、こんな夜中に。現れた彼らはいったい誰なんだろう。その答えは、彼ら自身がくれた。 「信仰の少女の進行を止めよ……」 ……なーんちゃって、とゆるい『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(ID:BNE000805)が首を傾げる。少女が釣られて首を傾げた。不思議な空気。ゆる。 「なんだかわかんないけど、お邪魔虫さん? なら……」 そこからの行動は、先程までのふわふわした動きとは雲泥の差だった。身体ごと振り回して中空に背負っていた十字架を放りなげると 「異端だね!」 捲り上げた袖の下から篭手が現れる。手刀を振り下ろすのに合わせて空の十字架が急降下した。頭上から降り注ぐ十字を盾で防ごうとする、瞬間『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(ID:BNE002873)が後ろから襟首を引っ張って回避させた。 「およ。この子――信仰の十字を避けるなんて」 眼を丸くする。そこに邪気は全くと言って感じられない。青い瞳がきょとりと見つめた。 「信仰だって……ふざけてるぜ。どう考えたって胡散臭い」 け、と顔を歪めてからバスタードソードを構える。全身に気を充実させると、油断無く敵を見つめた。 「胡散臭い! 何てこと言うの! やっぱり異端決定!」 言葉に反して語気は荒くない。澄んだ鐘のような音が夜の線路に響き渡る。 だからこそ、不気味だ。あるべきものが決定的に欠けている。そんな印象すら、宗一は受けた。 そんな風なやりとりを横目にしながら、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(ID:BNE001054)が印を結び守護結界を張る。少女に答える気はなかった。答えはしないが。 「不憫だなぁ……」 やはり、思うことは止められない。この欠落はアーティファクトによるものだろう。器を越えるまで水を注げばどうなるか。眉を潜める僧の横を、カソック姿の少年が駆け抜けた。 「よーお嬢ちゃん、おっぱい何カップ!」 『語り手を騙りて』ドラマ・エルツェーラー(ID:BNE002175)が、手に持った巨大な塊を振り下ろす。唸るソレは 「Aよー、触ったら磔刑だけどね?」 しかし、寸毫を置いて少女の目の前へと戻ってきた十字架によって防がれた。激突したのは、奇しくも同じ十字架。噛み合ったソレをそのままに、少女が頭の上でくるりと円を描くと、信仰の十字が大きく少女の周りを回った。遠心力で弾き飛ばされた少年が着地する、その時間で十分だった。 ぎゅん、と光条が後方へ飛ぶ。 「よよ? 挟まれた?」 十字架の迎撃を眼に、少女がきょとりと首を傾げる。2班に分かれた片方、4人と4人。リベリスタ達によって挟撃されたその状況でも 「いいわ、もっと愛して――Dieu est amour♪」 少女の笑みは、透明だった。 ● 「いいわよぉ、もっと愛してアゲル」 『ディレイポイズン』倶利伽羅 おろち(ID:BNE000382)が蕩けるような笑みと共に全身を舐めるように見る。んふ、こういう子大好き。と趣味も混じりながらの観察、足はそれほどでもないようだが、神秘方面のバランスが良いようだ。そして足りない物理火力、防御力と手数はアーティファクトが埋める。ある意味では2人1組ね、と思いながら集中力を高めた。 「うんうん、愛は信仰よ、素敵ねあなた!」 笑ってきゃらきゃら笑う少女に、『外道龍』遠野 御龍(ID:BNE000865)が踏み込む。御龍は斬馬刀月龍丸を肩に担いで斜め前に飛び出しながら、身体全体の捻りと重力に任せて斜めに刃を打ち下ろした。十字架が真っ向からぶち当たる。 「もう、そんなモノを振り回したら危ないのよ?」 「お前が言うなよ」 ぼそっと思わずツッコんでしまってからしまった、という顔で御龍が口を閉ざす。この程度で迎撃は発動しないようだが、やはり不気味だ。 「それに、あなた、神様を信じていないのね」 「……」 「あなたの神様とあたしの神様は違う。異教ね。異教はまだ救えるわ。でも信じてないってことは――無神論者ね?」 あぁ、それは……異端。とってもとっても異端ね。そんな風に唇を薄く引き延ばすと、眩い光が御龍を灼く。 迎撃術式ではない。意図的な術で、それだけに威力も高い。焼けながら下がった彼女を含めた合流組に、フツが守護結界を施す。 その瞬間、十字架が輝いた。 術自体が発動した直後だ。咄嗟に身を捩った為に貫かれた肩を押さえてフツが後ずさる。 「なっ……」 フツが歯噛みする。トリガーは何だ。その異常に少女はす、と振り向くと首を傾げた。 「何かやったのね。だめよ、異教は改宗させるけど異端は焼くわよ」 澄んだ声色には、取り合わない。元より破綻した少女だ。フツの横に居た小梢が走ると、横から叩きつけられる十字架を盾で流すと懐まで潜り込む。 「さー……て」 少女は、少し驚いた顔をしていた。焦りとは無縁だが、心底不思議という顔。振るわれるブロードソードが鼻を少し斬られた。ここまでぼーっとしたまま動く小梢が珍しかったらしい。対角からドラマが奔り、十字架を振るう。振り上げられるそれを足裏で受けると、そのまま後方に宙返りして勢いを殺す。 「あぁ、もう、やだもうっ鬱陶しいなっ!」 明るい声で叫びながら、少女の指がジェットコースターのように宙をなぞる。複雑な機動を経て斜めに線路に突き立った十字架が先程と同じ神気閃光を放つ。ドラマ、小梢、宗一、フツがその白い光に灼かれ、そして十字架が唐突に光を放った。 「ッ!!」 「あや」 交錯は同時だった。『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(ID:BNE000877)が足を押さえて下がるが、その指から伸びた気糸は既に腕を貫いていた。だらんと下がるそれ眺めながら、少女が首を傾げる。 「はやや、痛い。もう、これは異端ね!」 「随分簡単に言うのね。信仰を自己正当化の道具に使わないで頂戴」 「違うよ。正しい信仰の徒には神罰は下らない、それだけよ!」 「よーしお嬢ちゃん、ここで一つ問答しようか!」 遣り取りをさえぎる様に声をかけながら、ドラマが十字架を打ち振るう。迎撃は、発動しない。 「信仰っつーのは何だ! 救いか、支えか、いいや違うね。究極の自己中って奴さ!」 少年は叫ぶ。 「自分の起こした結果を眼に見えねー誰かに擦り付ける悪行なんだぜ?」 身体全体を使うように振り回す。 「そこんとこどうなのよ?」 叫ぶ。それをずっと見ていた少女は、きょとんとした顔をしていた。上がらない腕で十字架を受け止めると、篭手を嵌めた腕の人差し指をくんと自分の方に招く。そのまま云う。 「あなたが、天におわします主に悪行の責任を擦り付ける異端だってことだけはわかったわ」 ドラマの背後から大質量の十字架が突き刺さった。鈍器がごりごりと全身を砕いて地に叩きつける。 ただの盲信とも違う。もっと根本の何かが狂っている。だから、条件さえ合致すれば、彼女は“狂って居ない”。そんな様子を眼に、仲間を吹き飛ばした代わりに盾を喪った少女へと宗一が剣を叩きつける。爆発的な力の加速が襲う、袈裟懸けに切り払われて、かわし切れずに赤い雫が舞った。 「――あっははははははは!!!」 途端、傷を癒しながら爆発するように哄笑する。痛むのでもない。怒るのでもない。ただ、受け入れている。『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(ID:BNE002998)が味方を治療した。同じくフツも治療を行う。迎撃は……無い。 「挟むぞ、皆」 フツが呟く。チーム同士で少女を挟むように位置取り、少女はきょろきょろと目を動かす。 「ね、ね、何かするのかしら」 フツに尋ねるが、答えない。代わりのようにおろちが背中から走り、黒いオーラを纏った手を伸ばす。頭部を襲ったそれに、びくんと少女は跳ね、しかしそれはおろちも同じだった。 迎撃が発動している。お互いにダメージを交換し合い、互いに笑う。片や嗜虐的な暗い笑い、片や開放的な明るい笑い。互いに狂気に近づきながら。振り向かないまま少女は自らに治療を施しながら、指揮者のように指を振る。宙を舞う十字架を小梢が受け止める。重い一撃に、全身が撓む。腕どころか全身が軋んで痺れていた。 「うん、ちょっとこわーい……かも?」 小梢がぷるぷる小刻みに震えている。恐怖の為ではないが、しばらく取れそうにない痺れだ。任せろ、と云うように宗一がぽんとその背を叩いてから再び剣を振るう。今度は十字架も手元にある。慌てず騒がず手元に引き戻して防ぐ。大きい打撃力は、その感情の強さも相俟って少女を大きく押し込む。 「あはは、何、あたしが嫌い? なら異端だね!」 「お前は間違えている!」 「あたしは正しいよ。正しい信徒だから!」 聞く耳を持たず笑う少女の、その笑顔に何より腹が立って唸る突きを繰り出す。 「信仰? 違う。自らの価値観で相手を決め付けるのは独善だ!」 あは、と笑いながらそれ以上の遣り取りを拒絶するように男を蹴り飛ばす。どこか、処理出来る範囲を超えてオーバーフローをしているかのような笑顔で十字架を置くと、背後へ迎撃の術式を放った。それは狙い違わず御龍の右胸近くを貫いて、しかし傷を負えば追うほど楽しそうに彼女は奔る。 「あァ、知るか知るかよ。正義なんて糞喰らえ、我は我の信じた道を行く」 「あっは、気持ち悪いね! バケモノみたいって気付いてる? あなた」 「そうか今宵は満月か。嗚呼、狼の血が騒ぐ……!」 る、ぅ、と喉の奥から奇妙な唸りを伴って、血の帯を後に引きながら斬撃を叩きつける。十字架ごと、少女が吹き飛ばされた。その先に居たドラマが叩き付けた打撃は直撃するも、ガードの上から。正面からの突撃、迎撃術式は、発動しない。 その様子を見て、気付いた。 今までの状況、敵の術、味方の動き。それだけでなく、それ以上に。 「“神は人がみえないところを見ておられる”……」 彩歌が呟いた。その精神性、彼女の信仰について僅かでも知っていれば気付いたかも知れないこと。それは 「せいかーい♪ あなたはいい人ね!」 少女の答えに、いやなものね、彩歌は思った。これはつまり 「皆。迎撃術式のキーは恐らく、彼女に対する死角での敵対行動」 戦闘における基本そのものを無視するようなものだった。つまり、正面からの突撃以外の否定だ。 それでも、やらなければならない。少女の正面に回ってから、フツは印を結んで仲間の傷を癒す。 「成る程成る程。それじゃ道筋も見えたことだし」 南無阿弥陀仏。もし命を絶っちまったらごめんな。そんな風に呟く。 「この子のことが判っても、そう簡単には負けないよ? あたしは信徒。異端には負けない」 「……ね、あなたの正義ってなぁに? いったい誰の為?」 声をかけつつ、おろちがオーラを練り上げる。指先が僅かに光りる。その声に、少女は首を傾げた。 「何かの為にするのは、信仰じゃないわ」 ほんの一瞬。 この一瞬、この問いだけだった。 少女の顔は、笑っていなかった。 この時だけ、少女は確かに正気だったのだ。 「……そうねえ、貴女だけの為の正義じゃ、貴女すら救えないわねん」 横から殴るように叩きつけられる十字架を這う様にかわし、ちゅ、と投げキスを。 「だから、アタシが救ってあげる」 人差し指が少女の唇をなぞり、そこに植えつけられた爆弾が一瞬で炸裂する。よろめく少女は、小さく聖句を呟いて傷を癒しながら踏みとどまるが、眼前に既に踏み込んでいた宗一がバスタードソードを振り上げる。十字架を操ろうとした篭手をかち上げる。哄笑する少女は嗤う。 「相手を決め付けるのが独善なら、あなたもそうね!」 「そうだ、俺は独善者だろう。信仰する物なんてない。だから、お前を否定できる。俺は俺の独善でお前を否定する!」 「どこまでも身勝手!」 腹腔を突き抜ける剣に、咳き込みながら嗤う。笑う。 「どこまでも、どこまでも、異端! あなた達を神は認めない! 何の為の信仰だと」 「決まっている、人を救う為に」 串刺しのまま笑う少女に、彩歌がすっと近付く。既に論理演算機甲「オルガノン」の指先から放たれた極細の糸は、篭手を嵌めた右腕の自由も奪っていた。 大丈夫、おなかに穴は空いたけど、覚醒者なら何とかなる。そう思いながら、彼女は少女の手にそっと手をかけた。 「誰も救えない信仰なら必要ない」 その腕を引く。いままでの妄念ごと断ち切るように。あっけないほどにするりと、その篭手は抜けた。 ● 宝玉を取ろうとしたおろちや十字架ごと頂こうとしたドラマの案は、アークによって却下された。ただのアーティファクトならまだ許されただろうが、封印品である以上は厳重に管理するべし、とのイヴの鶴の一声だ。 事件後、治療を受ける少女は未だ眠っている。一度、少しだけ目を覚ました時は、悄然とした様子で頭を下げていた。 『危うく、道に背くところだった。……止めてくれて、ありがと』 一言、それをリベリスタに言付けたらしい。ややあってから 『あたしの信仰を、あたしの狂信から守ってくれて』 ありがとう、と続いたらしい。 彼女の口から、盗品であるアーティファクトの出所が語られるかは、今後の回復を臨むしかない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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