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冷え込んだ冬の日も、気分次第ではこうも麗らかに感じるものか。 (ああ、自分は幸せだ――) 今の天風・亘(BNE001105)には吹き付ける風も、まだまだ寒い気温も何も関係無かった。 彼の目の前――白く丸いテーブルの上には可愛らしいハートの造形が目を引くケーキがある。 甘いものを食べる時間は最高だ。何より、テーブルの向こう側に特別な女の子が居るならば言うまでもない。 「変な亘さん」 感激ひとしおなる亘をまじまじと見つめ、小首を傾げてみせたクラリス・ラ・ファイエット(nBNE000018)は猫のような悪戯気な瞳に少しの洒落っ気を乗せていた。 「……御存知かしら。欧米ではバレンタインは男女の別はありませんのよ? 殿方も女性も、あくまで――親しい方に特別な贈り物をする日ですの。亘さんは何か用意してくれたのかしら?」 ドイツ人のクラリスは『日本におけるバレンタインの風習を理解して』そんな風にからかう。 年下の少年を手玉に取ろうとする姿は微笑ましく、しかし手玉に取られる方も何時までもそうはいかない所だ。 「……コホン。その辺りは後でおいおい……そうですね、今は」 亘の手にしたフォークが器用にケーキを切り分けた。 饒舌なクラリスの口元に差し出された甘い香りは彼女を照れさせるに十分。黙らせるにも十二分。 (――自分は、幸せだ) 二月十四日の、些細な出来事。 |
天風・亘(BNE001105) クラリス・ラ・ファイエット(nBNE000018) |
担当VC:綾部夕貴 担当ST:YAMIDEITEI |