●再会 『こんな機会も早々あらへんやろからなぁ……』 その日、『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は、アークの保管庫にいた。 アーティファクトの管理システムのメンテナンスを行う為、暫く各部屋が無防備になってしまう。 それぞれの部屋に見張りを立てる事にしたのだが、手数が足りず呼び出され、今に至る。 ならばと、椿が紳護に願ったモノ。それは、今迄の事を考えれば至極当然のお願いであった。 「ここだ、ゆっくり雑談でもしていってくれ」 道案内を終えた紳護は自身の持ち場へ向かう。 椿はドアを潜り、無機質な一部屋に入る。 ひとつは刀となったSN1、もうひとつはブレスレットの姿を保つSN7。 どれも彼女が関わり、SN7は特に追い求めた存在でもあった。 ●記憶 「お二人さんお久しぶりー、元気しとった?」 にこやかに声を掛けると、頭の中に語りかける声が返る。 『お前か、久方振りだ』 『ぁ、この間のお姉ちゃんだ~!』 系列に沿った武器という割には随分と反応も変わる。 適当なところに腰を下ろすと、椿は言葉を続けた。 「一応7さんから聞いとるやろけど、せっかく会いに行ったのに振られてもうたわ」 『そうだったか、あいつから聞いた時は少々驚いたぞ』 SN1としてもこの流れは予想外だったらしい。 『ななちゃんでいいよ、ななちゃんで~』 物体の姿で声を掛けられるにしも、この人懐っこさは変わっている。 椿は思わずくすっと笑った。 「なぁ、ななちゃんは1さんをなんて呼んでるん?」 『ぇー? はじめちゃん』 『おいお前』 思っていたより可愛らしいあだ名に、椿がニヤッと笑う。 「じゃあ、うちもはじめちゃんって呼んでえぇ?」 『……好きにしろ』 きっと呼吸器官があれば溜息の一つでも吐いていただろう。 「話戻るけど、皆それぞれ個性強い面子やったから仕方あらへんけど……候補者多いから保留・選ばんってやっとったら、何時まで経っても所有者決まらんのやない?」 あの時の理由をより確かめるべくか、SN7へと問いかける。 『ん~、あのね、自分が分からないの。自分が、どんな自分だったか思い出せないんだよ』 優柔不断な答えだったということなら茶化して見せようと思っていたが、今度は彼女が予想外の言葉を受け止めた。 『だから、自分だって分かってないと選べないの。皆すごくて、でも、自分の為の人が分からなかったんだ』 靄が掛かったような言葉に、椿が首を傾げる。 『我輩と同じか。記憶を失っているが、我輩より酷い』 「記憶?」 SN1の鞘の光が、どことなく頷いた動きに見えた。 ●その言葉は二人の為に 自我がある以上、記憶も持ち合わせているのは想像出来たが、まさか欠損等が起きるとは思いもしなかった。 『あぁ、何故かは分からないが我輩も昔の記憶が掛けている。恐らくナナは、欠け過ぎて自分が何者か忘れかかっているのかもしれない』 『ぼ、僕、ボケ老人!?』 といっても、椿より昔に生まれた可能性の高い二体の経歴から考えれば、老人に近い年の可能性があるので否めず、乾いた笑いを浮かべる。 だが、自身の症状を理解したSN7が、何処となくしょげているようにも見えた。 「記憶欠けとってもな、自我持っとって、会話できて、意思疎通ができる……それで仲良くできるんやったら、アーティファクトもアザーバイドも関係なく友達って呼べるって、うちはそう思うんよ。だから、自分が分からないって迷い続けるのはあかんと思うわ、今の自分も ななちゃん なんやろ?」 大丈夫と背中を叩く椿に、ブレスレットの光沢の鈍さが消えたように見える。 「そのままじゃ、運命の相手見つかっても、なんか ななちゃん逃しそうやんなぁ? 嫌やろ? だから、今を生きなあかんよ。それにうちとしては自分らも友達や思っとるよ?」 かくいう椿も、黄泉ヶ辻にメル友がいる。仲良くなれるかは本人次第だ。 『……ありがとう、次があったら迷わないよ!』 元気な返事に満足げに頷くと、ふと何かを思い出す。 「そういえば、ななちゃんもはじめちゃんも、友達の兄弟が、後七人? は居るんやろ? 会いたい人とか居る?」 『ぇ? あと5人でしょ?』 『末はSN9だ、お前の後に2体いる』 どうやら忘れていたらしい。そうだそうだとSN7が呟く。 『やえちゃんと、くみちゃんがいたね。ん~……ふたばちゃんに会いたいな、すごく優しくて大好きだよ、1度しか会ってないけど』 『SN2か、あいつはいい奴だった。良すぎるのが玉に瑕だが』 どんな正確をしているのだろうかと、椿も興味がわく。 「なら、うちが連れてきたる! 楽しみにまっててな?」 『ありがとう~!』 きっと足が生えていたら、ケースの中のブレスレットが跳ねてそうだ。 それぐらい、声に喜びの躍動が満ちている。 『ふたばちゃんに、みつるちゃん、しおんちゃんに、いつきちゃん、あとむつみちゃんも何してるのかな? やえちゃんと、くみちゃんも……』 楽しそうなSN7の名前数え、より一層悪党の手に渡すわけにはいかないと椿は思う。 例え適合者でも、心無き者が振るえば彼等の心が黒く潰されてしまうだろう。 「こうなったら、皆と会わせてたる!」 それはSN7にも、そして自分にも言い聞かせた言葉であった。 |