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●※このSSは実在の店舗・人物・人形とは一切関係ありません●


「今は調子悪くないって言うけど、虎また何年優勝遠ざかってるんよ」
「なあに、85年の前かて20年以上弱かったんや、また蘇るて。不死鳥や!」
「85言うたら……神様仏様バァス様?」
「うちら生まれてへんのによう知ってるな」
「それに不死鳥て。福岡ちゃうねんで」
「それ鷹やろ」
                                  ――道すがら見かけた女子校生の会話――


「ぬおっち。むぉっちだ。むめこ」
 大きな竜のオブジェが突き抜けるラーメン屋。そこを通り過ぎかけた梅子の耳に届いた、もがもがした声。足を止め、店の中を伺おうと後ろ向きにちょろりと歩いた彼女の羽に、人の弾力とぶつかる感触。
「あ、ごめんなさ――って、なんだ。あんただったの?」
 しおらしく頭を下げようとした梅子が、相手の顔を見てその態度を悪い方に改めた。
 ぶつかったのは『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)。さっきのイマイチ不明瞭な発音の原因は手に持ったラーメンどんぶりと箸が雄弁に語っている。
 店の中で、中年のおっちゃんが一人首を傾げる。
 ――はて、さっきあの男は自分の後ろ、もっと店の奥に居たような気がしたのだが。
 男の首を傾げる様にはまるで気がつくことなく、梅子たちはあっちだこっちだと、地図を広げ周囲に指を彷徨わせ、場所の確認に忙しい。
「いい匂いが……。 ! たこ焼き売ってるのだわ!」
 確認に忙しい……のは、鷲祐だけかもしれない。鼻をひくつかせて周囲を見回した梅子は、目を輝かせるや否やたこ焼き屋の前にできた行列に並んでしまった。
「……しかし、なんでまた俺が大阪まで。護衛かなんかなのか?」
 呆れたため息と共に嘆きを漏らした鷲祐の尻尾が、びたーんびたーんとアスファルトを打ち鳴らす。
 さっきのおっちゃんが、何事かと周囲を見回した。――梅子の翼や鷲祐の尻尾。それらは神秘に属するものなれば――幻視で隠せば、普通のおっちゃんには見えやしない。
「まぁ観光出来るのも悪くないんだけどな。なぁうm――あれっ、どこいった」
 たこ焼き屋の行列に目を向ければ、既に色黒の少女の姿はなく。
 鷲祐の中に焦燥が現れる。これから向かわなければならない場所があるのだ。
 空は日暮れ前――もうそろそろ、時間だというのに!


 まだ新しい印象の強いその橋は、形だけ見れば丸いものを飲み込んだ蛇の腹のようにも見える。
 広さはそこそこあるはずなのだが、そこかしこにいる黒服茶髪の男たちのせいで手狭に感じられる。彼らは女性だけで歩いている姿を見かけると、わらわらとそのあたりに集まって、ナンパめいたことに必死だ。女性が男性に声をかける姿も、男たちに比較すれば少ないが幾らか見受けられる。もっとも、その殆んどはナンパではなく、彼らの『店』への呼び込みと同意義なのだが――実際、『本物のナンパ』でない限りは、急ぎ足で目的意識を持った歩き方をする人を呼び止めることは、そうそうない。
 だから、ずんずんと歩いて橋の膨らんだ欄干の前で立ち止まった不審な少女に声をかける人物は、普通の黒服たちの中にはいなかった。
「……いたいた。全く、こんな橋の上で何を」
「鷲祐。降りるわよ」
 川面の一点を見つめたまま、切羽詰まった様子で梅子はひょいと欄干を飛び越える。
「おい!?」
 ――黒服たちの殆んどが、客にならない二人組に興味を示していなかったのは幸いだった。
 鷲祐は橋の周囲を見回すと、川沿いの歩道に向かって『常識的な速度で』足を進める。身体のギアはもう切り替わっている。気を抜けば、『自分の速度』で動いてしまいそうだ。
 梅子が何を見つけたのか、鷲祐にももうわかっていた。そのために来たのだ、この地に。
「下がっていろ、梅子」
 歩道には、橋ほどの人はいない。
 梅子が小さめの結界を展開し、人の意識を逸らさせたのを確認して、鷲祐は梅子に声をかけた。
 ゆっくりと鷲祐の後ろに降り立った梅子が油断なく視線を投げかける先。
 そこにいたのは、川面を滑るように歩道に近寄ってくるE・フォース――
「ってどっかで見たことあるぞアイツー!?」
 白いスーツ、白い髪、白いひげ。黒縁の大きな眼鏡、腕にかけたステッキ。
 その顔に湛えられた穏やかな微笑み。何かを抱え持つように広げられた両腕。
 どこからどう見てもカー○ル・サ○ダースである。
「……そういえば聞いたことがある」
「な、なんですって! 知っているのねわしすけ!」
 何故か劇画調の雰囲気で呟く鷲祐に、同じノリの梅子が問いただす。
「かつて強虎の治めたこの地において、鳥を以て財を為す『大佐』の御姿を乱雑に扱ったことにより、混沌とした呪いが始まる。その後、虎は燕、鯨、巨人の進撃に晒されることになるという……。
 まさか奴がッ!!」
 このコモドオオトカゲ、ノリノリである。
「しかし、放ってはおけん。やるぞ梅子。俺が前に出る。構わず撃て。全て避ける」
「すごい自信ね? あとプラム!」
 戯言を口にする梅子を後に、高く跳躍し橋桁を蹴り、鷲祐はカーネ○さんへと飛び掛る。
「うおおおおいつもお世話になっておりますパーンチッ!」
 ぉぃ。
「何故チ◯ンホット◯イがレギュラーにならないんだキィーックゥ!!」
「個人的にはいつか噂の一時間食べ放題店に行ってみたいとか思ったりしててもなまじっか近くて未だ行ったこと無いんだけどそんなことはともかく落ち着くのだわ!?」
 その速度に物を言わせ、続けて蹴りつけた鷲祐の掛け声に梅子がわけのわからない悲鳴をあげる。
「――はっ!? し、しまった、このE・フォース、見てるだけでBS混乱を与えてくるのだわ!」
 ※気のせい。
「……ハッ。つい、日頃の感謝と欲望が」
 冷静さを取り戻した鷲祐が、振り下ろされた○ーネルさんのステッキを避ける。
 鈍重なその動きに痛手を負うことはないだろうが――ちらりと、歩道と橋の間の階段を見る。
 結界が作用しているからか、人の気配はない。それでも、橋の人通りは多く――不測の事態を避けるには、やはり速攻が重要に思えた。
「梅子! 一番強い技を使え! 合わせるッ!」
 一気にケリを付けるべく振りかざしたナイフ。それがネオンライトの光を飛沫のように反射するのを、その飛沫をも切り裂く速度で閃く。背後から聞こえる詠唱がエリューションにぶつけるべく魔力塊を生み出したのを察して、にやり、口元を歪めた。

「――神速斬断『竜鱗細工・香散見草』ッ!!」

 かざみぐさ。それは梅を表す異名のひとつ。


 ぴしり、ぴしりと。亀裂の入る音がした。
 見る間に、E・フォースの白い体は灰色にくすんでいき、見る間に砕けていく。
 ──嗚呼、ヨウヤク終ワル。コノ苦シミガ……
 その声は鷲祐と梅子だけでなく、橋の周辺にいた全ての者の心に直接届く。
 ──冷タイ水底カラ……ヨウヤク……アタタカイ……光……チキン……
 何処からか染み出す淡い光に溶ける様に、その巨体は消滅した。
「いや、あの……何言ってるの……?」
 呆然と突っ込む梅子とは裏腹に、まずい、という表情で鷲祐は周囲を見回す。
 さっきの全方位テレパス(造語)のせいで、結界外の人々に困惑が広がっているのだ。
「――チッ。逃げるぞッ!」
 舌打ち一つして、呆然としたままの梅子を小脇に抱えると全速力でその場を離脱する鷲祐。
「ふぎゃー!!!??」
 手荷物状態の梅子の声が、ドップラー効果とともに遠ざかっていった。

 なお、その日。
 現場周辺の某フライドチキンチェーンでは、何故か売上が急増したという。

<了>