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●こころないはなし●

●注釈:鬼畜ピエロ
 その経緯経歴前科趣味主張目標一切を、所属以降実害がなければ問うことはない。

『大兄の肖像』。
 そういう銘の破界器が、かつて存在した。存在した。過去形にするとやや語弊がある。現在という時点において観測が出来ていないだけで、その消滅・あるいは実存を裏付ける某かがあるわけではないからだ。
 過去、実際に使われていて。現在、これを使用した形跡はない。つまるところそういうことだ。だからこれは、今ではなく昔の。今は昔とも言えない近い過去の。せいぜい長くとも十年やそこらでしかない、その掘り返しである。
 大兄の肖像。それは革醒者すら洗脳を可能とする強力な暗示装置である。だが、その大きな性能を発揮するには対象者の無力化と長時間の起動を要し、定期的に再度装置にかける必要もある。また、更新期間も対象が持つ意志力に左右されるため、使い勝手が良いとは評せない代物だ。
 しかし、と。心ない者は考える。であれば、意志が弱ければ問題はないのだろう。そうだ、無力化も容易な子供を使えばいい。なに、仕込み続ければそのうち更新だって要らなくなるかもしれない。
 それが有益な可能性を持ち、かつ失敗しても時間と労力以外に害はない。ノーリスク・ハイリターン。そんなものが転がっているのなら、ねえ。試してみるというものだろう。良心が痛まなければの話だが。

●前話:日食ダウナー
 ただし、その業に枷はある。

 空が橙ばんできた頃、とある公園。
 ふたりきりで遊ぶ姉妹の姿を確認する。他にひとはいない。隠れている自分に誰か気づく様子もない。
 仲が良い、のだろう。それで合っているはずだ。好き好んで仲の悪い相手とふたりだけで遊ぶ子供なんていない。だから、仲が良い姉妹、であっているのだろう。
 その片方だけを殺す。殺せ。そう言われている。そういう仕事を言い渡されている。片方だけ。片方だけらしい。両方殺してはいけない。すべてを失わせてはいけない。失ったら、失うものがなくなったら。ひとはどうとでもよくなる。恨みと自分の天秤が崩れてしまう。だから。
 片方だけ。片方だけを殺す。まだ失うものがあるから、失う辛さを味わうから。残った方が惜しくなる。それをも失うことを恐れてしまう。だから片方だけだ。
 それに、人死にというのはショッキングなものだ。親しい人物、家族であれば尚更である。それを眼前で行われれば心がひび割れを起こすだろう。
 残った彼女。失われていないもう片方。だけど壊れてしまったもう片方。それが、惜しむものにはさらなる負担となるのだ。なるのだ、そうだ。そう聞いている。
 私はまだ実力が足りないから、所謂『戦闘』を主体とした仕事よりもそれに関する一般人への『工作』が多い。
 人手の足りないリベリスタ。事後対応が多く、未然に防ぐことの叶わないリベリスタ。だから、戦闘性能のない身内を襲う。こんなやり方が有効だ。
 傷つかず、傷跡だけ残す。まさにローリスク・ハイリターン。
 私は自分に仕事を与える彼らから、魚の小骨。『フィッシュボーン』と呼ばれているらしい。魚で、小骨。ちょっと格好悪いと思う。思っている。でもまあ、いいや。そんな記号も、自分が今使っている、使わされている名前もどうせ偽物。嘘でしかないのだから。
 さて、さて。気持ちを切り替えよう。仕事に集中しよう。どっちを、殺そうか。殺してしまおうか。
 自分で選べって、言われている。理由を尋ねたら『お前の情操教育の為だ』と笑っていた。よくわからない。なにが情操教育に良いのかも。どうして笑っていたのかも。まあいいや。まあ、いいや。
 頭のなかがチリチリする。変な感覚。不快感。そろそろ『更新』して貰わないといけないようだ。このチリチリが増えたら更新しないといけないらしい。そう聞いている。何でだろう。よくわからない。チリチリ。チリチリ。不快感。もしかしたら、開放感。何かを思い出すような。チリチリ。チリチリ。よく、わからない。よく、わから、ない。まあいいや。まあいいや。まあいいや。
 ほら、だから。気持ちを切り替えてしまわないと。殺さなきゃ。殺そう。殺してしまわないと。
 よし、おねえちゃんのほうを殺そう。足枷になるなら足手まといなほうがより効果も大きいはずだ。小さい頃から心を痛めつけてしまえば、回復にも時間がかかるだろう。まだ自分が確立できていない幼少期であるならなおさらだ。あれ、今なんか引っかかった気がする。なんだろう。わからない。まあいいや。まあいいや。
 よし、殺そう。殺すのだ。だって仕事だから。そうしろって言われているから。
 姉妹に近づいていく。おねえちゃんのほう。自分と同じくらい? 自分より少し下? あるいは少し上? わからない。そんなこともわからない。振り向いた。笑いかける。相手も笑顔を返してくる。手の届く距離。警戒はない。警戒してももう遅い。手を振るふりをしてその首に私は―――