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●たまには教師らしく●

●悩みの種
 月ヶ瀬夜倉は、高等部の非常勤である。
 一応教員免許は取ってある。使うでもなく持て余していたので、ある意味有難いことでもあろうが……彼は子供の扱いが世辞にも上手くはない。
「はじめまして、巴とよです」
「初めまして、とよ君。確か初等部……でしたね。態々ご苦労様です」
 ので、こうして巴 とよ(BNE004221)が訪れたことに対し、驚きと言うよりは戸惑いが優っていた。
 態々会いに来たということは、それだけ重要な……夜倉とのコンタクトを必要とする出来事がある、ということなのだろうか。考えすぎだろうか。
「あ、あの、勉強教えて貰っていいです?」
「……あ、ああなるほど。態々高等部までご足労頂いて何だか悪いですね。取り敢えず……そうですね、図書室でもいきますか」
 この少女は律儀だな、と思う。これが高等部の一部学生だったら夜倉狩りを行なってから本題に入りかねないというのに。

 場所を移し、図書室。
 参考書と教科書を手に、とよは困ったように首を傾げた。
「今日は国語と理科と英語を……す、少し苦手で」
「苦手、ですか。どの程度? 学業に支障をきたす程度なのでしょうか?」
「へ、平均点くらいしかとれなくて……」
「……へえ」
 少し苦手、で平均点は取れるということは、取りも直さず、他の強化は平均点なんぞどうでもいいくらいには点数を稼いでいるということの裏返しである。つまりはそれだけ優秀で、且つ向上心があるということなので夜倉としては応援したい気持ちになる。
「僕はそのあたり門外漢なので教え方が下手でも勘弁して下さいよ。とよ君なら理解してくれると信じていますので」
「大丈夫です、始めましょう」
 無茶ぶりをする、と自分でも思う。だが、平均点程度とれてそれ以上が目指せないのは、理解力が足りないのではなく単に応用力の問題ではないか、と夜倉は分析した。返す返すに、基礎を固めれば自然と……というやつだ。幸いにして文系卒の夜倉にも何とかなりそうな科目群である。

●包帯と文章読解力の関係性めいたもの
「んーと、ここもう一度お願いします」
「心情の理解ですね。前後の文脈から、というのもそうですが、全体の流れも大事です。この作品の場合……と。英語でも翻訳すれば同じようなものです」
「あ、そうゆうことなのですね」
 軽くシャープペンで文章を示しながら、ゆっくりと確実に教えていく。想像以上に理解力はあるようなので、かなり楽な部類だ、とは思う訳で。
 ただ、問題があるとすれば彼女が時折こちらに向ける視線である。恋愛的な熱視線ならいざ知らず、明らかに照準が包帯である。大分減ったというのに、未だにその印象が強いのは二年間で醸成された弊習ということか……。

「夜倉先生、包帯取ろうとする子っているです? 全部取られちゃったりするです?」
「……ま、まあ。それなりには。こんなナリしてれば、気にしない人がおかしいくらいですからね、多分」
 直球どストレートな質問だった。流石にそこまで真っ直ぐに聞かれるとは思ってなかったので、思わず声が上ずってしまう。
 全部取られたことは数えるほどだが、結果的にこれだけ包帯量が減っているのが明確な証明でもあったりするわけで。
「あ、勉強、続けましょう」
 あからさまに話を逸らしにきた。流石に鈍い夜倉でも、明らかに動揺しているであろう彼女の心理は分かる。すっげえそわそわしてる。すきあらば的アトモスフィアがぷんぷんしてやがる。……いい子、なんだけどなあ。

「えい」
「うわっ……」
 果たして。油断などしていなかったが敢えて意識を切っていた結果として、夜倉は口元の包帯をぐいと引っ張られた。
 とよも意識してやったわけではなく、気づいたらやっていたレベルのエクストリーム出来心らしいので、気にしないコトにする。気にしたら負けだ。怒ってはいけない。いい子なのだ、いい子なのだ……。
「このひらひらが引っ張りたくしちゃうですよ」
「……そのような心理面もこう、文章から読み取れたりすると尚いいのかもしれないですね……引っ張られた側の驚きとか悲しみとか……」
 ぼそりと呟く。嫌味ではないのだが、つい。
 対するとよは、首を傾げつつも包帯の端に目をやり、思い出したように絆創膏を取り出した。
 年齢相応に、キャラクター柄の可愛い感じのあるそれである。
「これで止めればひらひらしないですよ」
(包帯留めのストックがあることは黙っておこう……)
 夜倉とて、人の気持ちを汲み取れないほどニブチンではない。彼女なりの気遣いは、遠慮なく享受する気では居たのだ。

「今日は楽しかったです、ありがとうございました」
「こちらこそ、久方ぶりに保健体育以外の教鞭を執った気がしますよ。教鞭、というほどでもありませんが……次のテスト、僕の顔を立ててくれると凄く助かりますね?」
 ぺこり、と丁寧にお辞儀をするとよに、少々意地悪な要求を添えつつ夜倉は首筋に貼られた絆創膏に手を伸ばす。
 純朴さとは斯くもむず痒いものなのか、と感じつつ、夕陽の眩しさに目を細めた。

 少年少女の未来は、あの陽の向こうに続いているのだろう。
 例え、それがどのような未来であっても、彼らにとっての幸運であらんことを願うばかりだ。