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●Temps heureux●

 ひやりと、首元を撫でる空気は冷たくて。深まる冬の気配を感じながら、『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は首元に巻き付けたスヌードを少し引いた。
 11時半。約束の時間はそろそろで。少しだけ上げた視線が捉える、見知った顔。
「響希さーん、お待たせしましたー」
 ひらひらと。振られる手と、揺れるレザーのマーメイドスカート。普段は確りとアーク制服を着こなす『絹嵐天女』銀咲 嶺(BNE002104)の私服は何だか珍しい気がして。
 響希は興味深げに、その姿を眺めた。黒のダウンジャケットも、凛と清楚ながら中性的に整った面差しに良く似合っている。
「ちょっと前に来たところよ。……なんか、新鮮ね。良く似合ってる」
 歳が近いからこそ興味も湧き、恐らくは趣味も合うのだろう。女子二人、初めてのデート先は、三高平にあるショッピングモール。
 昼間から人で賑わう其処の品ぞろえは相当なものらしい。服とか、アクセサリーとか。飲食物も勿論。加えて、お勧めは併設のカフェ。
「もう11時半ですし、お昼がてら行ってしまいましょうか」
 人も多い。込み始める前に食事を済ませるのもいいだろう。そんな提案に頷いて、その日のお出かけの第一歩は踏み出された。

「ランチタイムは、パスタとケーキのセットが800円なんだそうです」
 食べごたえも味もなかなかのものらしいそれは、三高平マダム御用達。メニューを眺めていた銀の瞳を上げた嶺は、このセットですよ、と向かい側のメニューを示す。
 その情報収集力は一体どこから来るのだろうか。雰囲気も良いカフェの椅子にゆったり腰かけて、響希は緩く首を傾けた。
「日中出かけないから詳しくないんだけど、嶺チャンと来れば大丈夫そうねえ」
 半熟卵のカルボナーラ、と呟いて。微かに眉を寄せる。ケーキもこんなにあると悩んでしまうな、なんて考える彼女の目の前で、嶺もまた自分の注文を決めていた。
 パスタは、ワタリガニのクリームパスタで。ケーキは……折角だ、ティラミスとチーズケーキセット。ちょっと大人なスイーツは、やはり嶺のイメージにもぴったりで。選び終える頃には響希の注文も決まっていた。
 程なくして並んだパスタはやはり、噂通り美味しそうな香りと湯気を漂わせていた。
「カニの風味がしっかりあるカニクリームってなかなか無いですよね……」
 たっぷりと絡むクリームごとくるくる、フォークで巻いて口に運べば、まず感じるのは甘み。そして、広がる蟹の香り。この味でこの値段なら、納得どころか大満足である。それは、目の前の予見者も同じだったようで。
 割った卵は見事にとろとろ。確り絡めて一口。濃厚で、けれどしつこすぎない味わいに、思わず満足げな笑みが漏れた。
「そういえば、響希さんは普段はどんなところで外食なさっているのですか?」
「ん? うーん、そうねぇ。やっぱりカフェとか、あとはファミレスとか。……断頭台サンとか、世恋と出かける事が多いから」
 元々、出かけると言う事は少ないのだろう。少し考え込んで、嗚呼、と顔を上げた。
「バーとか、雰囲気のいい居酒屋くらいなら分かるけど。……嶺チャンがお酒飲むなら」
「夜行けそうなお店ですね、是非教えてください」
 アーク本部から程近いお好み焼き屋だとか、ちょっと静かでおしゃれなバーとか。おひとりさまでもばっちり、アットホームな居酒屋だとか。
 気の向くままに雑談と、美味しいスイーツも楽しんで。席を立つ二人が向かうのは、女性客で賑わう化粧品コーナーだった。
 何時も頑張る自分へのご褒美に、なんて銘打たれて並ぶのは、色とりどりのウィンターコフレ。あそこのブランドは今年は当たりで、こっちは例年通りの実力派。
「やっぱり沢山出てますね、折角ですし試してみましょう」
 手慣れた様子はやはり嶺の女子力の高さの象徴だろうか。若干目を白黒させていた響希も、興味ありげに並ぶサンプルたちを覗き込んだ。
 これ一つでメイクばっちり! なんて豪華セットから、可愛らしいチークとリップのセットだったり、アイシャドーだったり。変わり種ではシャンプーなどもあるらしい。
「響希さんの髪色と肌の色だと、こんな色が似合うんじゃないでしょうか?」
 アイシャドーはこれで、リップはこれ。チークはこっち。ささっと選ばれたそれを乗せてみれば、良く馴染んだ色が少しだけ大人っぽさを足してくれていて。出るのは感嘆の息ばかりである。
「センス良いのね、あたしマジお手本通りなんで尊敬するわ……」
 あれも可愛い、こっちも素敵。眺めて試して、満足行くまで売り場を回り。次はどこに行こうか、なんて歩き出した途中、嶺の瞳が何か見つけた様に店の中へと流れる。
「おっと、ちょっと待ってて下さいね!」
 首を傾げた響希にそれだけ告げてさっと店内に消えた嶺は、程なく大きめの袋を抱えて戻って来る。何買ったの、と言う声に袋の口を開ければ、丁寧に畳まれた色違いのフリースパジャマが顔を覗かせていた。
 男性用と女性用。良く似たデザインは、明らかにペアの証明。そう言えば、確か。彼女には同じくアーク勤務の恋人が居たっけ、なんて。思い返して、少し目を細めた。
「めっきり寒くなってきましたし、うちには薄めの寝間着しか無いもので」
「なんかもう夫婦みたいね、いいなぁ、嶺チャン料理とかも上手そうだし」
 所帯じみてる、なんて意味では無く。見た目も中身も大人の女性にぴったり、なんて言うイメージである。お裁縫とかさらっとこなしそうな。そんな嶺は機械にも強いらしいが、それは未だ予見者の知らない一面である。

 気付けば、日は落ちかけていた。そろそろ帰ろうか、なんてエントランスに向かう途中の輸入食品店で、嶺が手に取ったのはアイスワイン。豊かな甘みを持つそれを二本、レジに通して。
 同じく何か買ったらしい響希の下に戻る。冷えてきた、なんて暗くなり始めた外の空気を感じながら、可愛らしい袋に入れられた瓶を差し出す。
「今日はありがとうございました」
「此方こそ。……よかったらどーぞ」
 お返しに、と差し出されたのは、濃い紅。開ければ甘く香るカシスリキュールが、瓶の中でゆらゆらと揺れる。
 初めてのお出かけは、本当にあっという間だった。また遊んでね、なんて気恥ずかしげな声と共に、距離を近づけた女子が二人、帰路についた。