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●梅子とお化けと御厨・夏栖斗●


「ウオォン!」
「うわああああ! 出たあー!!」
 ――こんなトコ見られたら、消される。
 涙目で、E・ゴーレムの咆哮よりも大きな悲鳴を上げて傍の男に抱きつく『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)を見下ろした『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の頬に何か冷たいものが走った。
 お化け屋敷の『お化け』たちが革醒した事件。
 その対処に向かう梅子の顔が、何故か青ざめているように見えて。
 心配して付いて来てみたらこのざまだ!

 ブレイカーを物理的に壊し、お化け屋敷を無理矢理休止させることは、梅子一人でもすぐ出来た。
 問題は。
「うわああーん、助けて、パパぁ!」
 ――真っ暗な中に懐中電灯ひとつ持って『お化け』に出くわす度、幼稚園児並みの根性――おっと。繊細なお嬢さんである梅子がこう叫んで泣き出す、ということだった。
「はいはい追加人員ですよーっと。まったく梅子と一緒かよ~」
「夏栖斗? ……な、なによあたしと一緒で文句あるっての!?」
「文句はありませんよ文句は、文句なんか言ったら――」
 慌てて目元を拳で擦り意地を張る梅子を、夏栖斗は軽く小突き――その直後が、冒頭である。


 とりあえず目の前のE・ゴーレムを撃破し、パニック状態の梅子をなだめて話を聞けば。
「奥の一体が革醒の中心……つまりボスね。
 で、ボスが自発的に動くのは夜になってから。厄介なのは、ボスを倒したら逃げちゃう他の『お化け』たち。だから一体ずつ撃破しようと思ったんだけど――」
「予想以上に怖かった、と」
 右手と左手のひとさし指をくっつけてもじもじする梅子に、夏栖斗は呆れた声を出した。
「し、仕方ないじゃない! ただのエリューションならあたしだって別に怖くないのだわ!
 だけど相手はお化け屋敷の、怖がらせるために最適化されて配置されてるお化けなのよ?
 つまり、さっきの角でどーん! って出てきたからには、次の角、あそこの看板のとこね、あれはびくびくさせながらも何も出てこない。「あ、何もなかった」ってほっとするタイミングを狙って、横から飛び出してくるはずよ!」
「……梅子、そこまでわかっててどうして怖いの?」
「おどかされてるのよ? びっくりしないはずがないのだわ!」
 夏栖斗が天井を仰ぐ。暗闇の中に、吊るされた人形が見え――
「って、来た!」
 降り掛かってくる数体の『お化け』。飛び退り、急いで迎撃態勢に入る。
「梅子! やれるか?」
「当たり前! 全部ぶっ倒してやるのだわ! あとプラム!」
 取り囲むは4体。合わせた背中越しにいつものやり取りを返す梅子に、夏栖斗は唇の片端を上げた。
 ――やれやれ、急襲されるのは怖くないらしい!
「んじゃま、全部蹴散らすとしますか!
 ――なあ、どっちがたくさん倒せるか競争しようぜ」
「覇界闘士がマグメイガスに撃破数で挑むつもり?」
 手加減しないのだわ、と梅子が笑い、雷撃の術を撃ち放つ。腕から伝った業炎を纏う炎顎が、機械配線を引きちぎり、がこりと床に落ちた機械が動かなくなる。
「よっしゃ1体撃破!」
「あたしが先に削ったんだからおあいこなのだわ!」
「待ってそれちょっと卑怯過ぎない!? ええいなにくそ! 2体目!!」
 畳み掛けようと夏栖斗が更に炎顎を振るう。引き離される撃墜数(スコア)に苛立った梅子が、
「ああもう鬱陶しい! フレアバ――」
「やめてここ狭いから! 燃えるから! つーか、僕を巻き込むなよ!」
 慌てて口を噤む様に隙を見出したか、作り物の口を無理矢理開いた『お化け』が跳びかかった。
「しまった――!」
 ダメージを覚悟して強く目を閉じた梅子に、しかしその痛みは訪れず。
「――ペース落ちてきてるよ? もしかしてもう疲れたの?」
「そんなわけ、ないのだわ!」
 恐る恐る目を開けた梅子の前で、トンファーで贋物の顎を受け止める夏栖斗の姿。
 挑発するような言葉に背を押され、梅子は再び雷撃の術を組み立てた。


「ぎゃあああ! 出たあああ!!」
「さっきの勢いはどこいったの!?」
 撃破したりビビったりを繰り返しながらも、夏栖斗たちはようやく出口近くの、いかにも死霊たちの大ボスといった雰囲気の大型人形までたどり着いた。
 瞑想の時を騒がしく引き裂いた闖入者を、『お化けの王』はひと睨みする。
「――毎日毎日、ひとを驚かしひとに倒される。その苦しみが、主らにわかるか?
 私は静かに生きる――そのために、夜闇を待っていたというのに――」
 最後までただ驚かすのではなく、ちょっとしたカタルシスを持たせるための仕組みがあるお化け屋敷というのはそこまで珍しいものではない。ここもそのひとつということなのだろう。
 ぎしりと機械の軋む音を響かせ首を振る仕草が、いやに人間臭い。
「ざっ、こほん……残念だけどね!」
 裏返った声を慌てて咳払いで誤魔化し、梅子は『王』に指を突きつける。その足元は少しがくがくしているが、よく見れば地面から一センチ浮いてる。
「あんたがひとに復讐するつもりなのもわかってるのよ、そんなことさせないのだわ!」
「ならば――ここで死ぬがいい!」
 チープな捨て台詞が、決戦のゴング。
「んじゃま抑えるから、僕に構わず好きな攻撃しろ」
「――言ってくれるじゃないの、夏栖斗」
 掌打の構えをとる夏栖斗に、梅子がにやりと笑い返し――詠唱を始める。
「力あるマナよ、我エインズワースの声に応え、今ここに力を示せ!」
「おおおおお!!」
 梅子の術と同時、夏栖斗は『王』へと一気に距離を詰め、機械の内部へと破壊的な気を叩きこむ!
「馬鹿め、仲間の術で死にたいか!」
「そうでもないさ」
 侮蔑の笑みを浮かべる『王』。魔力が背後に迫り来る感触に、夏栖斗は不敵な笑顔を浮かべ――4つの術式は狙い違わず、夏栖斗の四肢の隙間を縫って『王』に突き刺さる。
 魔曲・四重奏。『王』の表情が動揺に歪む。
 無傷の夏栖斗が『王』から僅かに距離を取り、もう一度、掌打を叩き込んだ。


「はー! つっかれた!」
 全ての討伐を終えて園内のベンチにどさりと腰を下ろし、夏栖斗は声を上げた。
 任務の報告はさっき梅子がやっていたから、後はアークに任せればいいだろう。
「思いっきり戦いまくるのも悪くないよな。んで、数えてた? 倒した数」
「ちょっと夏栖斗! 追加人員なんて出してないって言われ――へ?」
 数を競っていたことなどすっかり忘れていたらしく、梅子が慌てて指を折り数えだす。
「まいっか、梅子ちゃんがんばったー、すげー、ぱねー」
「なんか腑に落ちないけど……まあ、よしとするのだわ!」
 にっと笑った夏栖斗は、ふと気がついた、という顔をして梅子の頭を指さした。
「梅子、お前三つ編みぼろっぼろだぜ?」
「――あんたの髪も、大概なのだわ」
「うはは、お互い様だったな」
 むくれた梅子が投げてよこした缶ジュースをキャッチして、御厨・夏栖斗はもう一度笑った。

<了>