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●Munit haec et altera vincit●

●緊
「六道の連中が暴れるって場所は……たしかこの辺りだったか?」
『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)は道を駆け抜けていた。
 すこし前、アーク所属のフォーチュナが未来を視た。六道フィクサードが街で暴れる……そんな未来である。
 本来ならば時間を掛け、人数を集めてから対処すべき所だが――残念ながらかなり緊急の案件であるらしい。時は無い。現場近くに偶々いるリベリスタで対処するしかないとの判断が下された結果、
「俺に御鉢が回って来た、と。そういうこったな」
 六道側の情報はここに至るまでに頭に叩き込んでおいた。
 そこから視た勝ち目はおよそ五分五分。リーダー格を速攻で潰せるかが鍵になるだろうと思案し。
「ハッ……上等だ。六道って言えば最近一番潰しがいのあるトコだしな。相手がフィクサードなら是非もねぇ」
 左の拳を右の掌に。己が眼前で軽く接触させれば、
「全力で、ブッ潰してやるさ」
 滾る戦意。五分の状況なぞ彼にとっては“油”でしかない。
 故なるかな。拳の武具に宿った文字が僅かに浮かぶ。油を糧に炎を得て。
 完全に文字を具現させる程の熱が籠ろうとした――
 そこへ、
「おや……君かな? 共に闘うと聞いていた、主演殿は」
 声が掛る。男の、随分とゆったりとした声だ。
 何事かと火車が振り向けば、いる。青髪束ねた胡散臭い男が一人、
『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)が。
「いやはや、お初にお目に掛る。私の名前は睦蔵・八雲。あぁ普段は依頼の説明を主に担当している者だよ。前線で力を振るう演者の役目は久方振りだし、故、およそ短き間の共闘と成ろうが宜しく頼――」
「話 が な げ ぇ」
 尻を蹴る。時間が無いと言うに、何を長々喋っているのだ。
 拳に発現しようとしていた文字も鳴りを潜めて。仕方なし、溜息一つ吐きながら、言葉を紡ぐ。
「いいか? 話は短く、要点纏めろ。演者だなんだの良く解んねぇ事グズグズ言ってんなよ?
 おっかねぇなら後ろで適当やってりゃ良い。前は俺が片付けてやっからよ」
「あ、ああ。うむ。元より私は後衛向き。前衛は任せよう……現場では臨機応変に、で良いかな?」
「時間もねぇしな。初めて会った奴と連携なんて期待できねぇし、それで良い。
 サッサと行こうぜ? 行き当たりばったりにぶつかって――」
 一息。
「勝ってこようや」

●闘
 それから暫く。共に進めば――出会う。
 目標の六道フィクサード達だ。リーダー格に見える男もいる。それは、
「三十代ぐらいのオッサンつーと……一番前のアレか」
 束廼・鹿央。前衛型のスターサジタリーと言う、少々特殊な戦闘をする人物だ。
 その彼に次いで取り巻きが三人居る。こちらは普通の接近戦型だろうか。剣を持った者達だ。合計四人、火車達は二人。数の上では不利だが、やれぬ事は無いだろう。故に、
「いよぉフィクサードぉ……ゴキゲンやってるかぁ?」
 火車が往く。ゆっくりとした動作で、のんびりと彼らに声を掛けて、
「年の瀬ってなぁ良いなぁ? アンタ等みてぇなチンケな低脳連中でも仕事あってお忙しそうだぁ」
「……リベリスタか。あぁお前らみたいな脳筋はこんな所にまで来るのか? 暇そうで何よりだな、羨ましいよ」
 ――睨み合う。開戦前から険悪な空気が流れるが、何も問題は無い。
 そもそも争う事は確定しているのだ。だから前後にどのような言葉が交わされようとも結末に影響は無く、
 この場で唯一意味を持つのは、勝利だから。
「良い仕事しろよぉ優男ォ!」
「任せたまえ。足は引っ張らんよ」
 視線を合わす事も無い。やるべき事は、分かっている。
 雑魚は抑えよう。だから頼む。フィクサード側で最も強き者を、討ってくれ。
 願いを込めて放つは光。視界に映る敵を呑みこんで、焼き払わんとして。
「行きたまえ。ま、私の引き付けではもって数十秒だが……」
「そんだけありゃあ充分だ」
 奥歯を噛み締める。燃え上がる己が戦意を、笑みと共に表現すれば。
「よし――ちょっくら勝ってくる」
「武運を祈る――勝ってきたまえ」
 行って、抜ける。雑魚は八雲が。火車は加速し、リーダーたる束廼の元へと一直線。

 Munit haec et altera vincit.(一方で防御し、もう一方で攻略する)だ。

「よぉ狙撃主……しっかり狙えよ? ココだぞココぉ」
 そして言葉と共に親指で指し示すは、己が頭部だ。
 挑発する様に……否、挑発しているのだ。当ててみろと。お前のそのチンケな腕で。穿ってみろと。
「どうした自信無くて怖ぇのか? 頭ばっか動かして、体はどいつもこいつも引き籠りかよ!
 テメェら全員玉ぁ付いてんのかッ!? インポ野郎が!!」
「喧しいッ……! ガキが、犬みたいにキャンキャン喚くんじゃない!」
 来た。引き鉄に、指が掛る。
 見える。ゆっくりと、絞り上げられていくソレが。
 火車の視界は捉えている。だから分かる。銃弾が、来るのが。
 放たれた。
 火車の、額中央に見事直撃し――

「甘、ぇんだボケぇ――!」

 ――ただけだった。
 怯まない。恐怖しない。銃弾? それがどうした。何かしたのか。
 直後に動く。左の足に力を入れ、跳ねる様に接近すれば、束廼の着る白衣。その胸倉を掴み取り、
「オ、ラァアアアアッ!」
 咆哮一閃。前進する力を一点に、束廼の顔面へ――頭突きをぶち込んだ。
「ガッ、ぁあ?! ク、ソ、ガキィ――!」
「るせぇ! ガキガキそう言うテメェはッ! クッソ寂れた唯のオッサンだろうがッ!!」
 束廼の視界が揺れる。鼻先から伝わる鈍い衝撃が脳に伝わったか、判断に遅れが乗じた様だ。
 その影響は僅か一秒。たったそれだけで思考能力を叩き戻すは覚醒者故だろうか。
 しかし遅い。それでも遅い。たった一秒。されど一秒。
 その重みは絶対だ。
 掴んでいた白衣を手放し、火車が体勢を立て直す方が一瞬速い。
 炎が、宿る。
「ぉ、の、れぇッ――!」
 声を頼りに束廼はライフルを向ける。銃口が示した先は、真正面。
「いいかぁ、よく覚えとけよ……!」
 熱が満ちて火が生まれ、
 浮かび上がって爆と成す。
 今度は消えぬ。腕に纏いし炎が波打つように燃え上がり、顕現すれば。
「オレはテメェらみたいなのが嫌いなんだよ……! だからどこに隠れようが、どんだけ足掻こうが……!」
 額に受けた傷跡が滲む様に痛みを発し、血液が頬にまで流れ往くも彼は頓着しない。
 踏み込む。
 束廼が引き金を引き絞るよりも早く。
 炎と共に、握った拳に全力込める。渾身を。至高の一撃として。
 狙う先は胸元、心の臓。
 肋骨の上からでもしかと伝わる様に。肉を焼いて、骨を折り。たった一針致命を届かせ。
「――必ずブッ潰してやるからな! 覚えとけよクソ共がッ!」
 振り抜き叫び、宣言した。

●幕
「回復だぁ!? ざけんな! 唾付けとけば治るわこんなもん!
 それより早く連中を追い掛けて潰せ! 倒せ! 今すぐたーおーせぇ――!」
「何 君 凄すぎて 怖い」
 闘いは案外に呆気なく終わった。
 束廼は、こんだけ殴られて退けるか、とまだまだやる気であったが、部下の方が怖気づいたか。強引に引っ張って六道達は撤退行動に移ったのだ。被害を最小に。リベリスタ達は見事目的を成し遂げた……しかし。
「回復じゃなくて攻撃! これが最優先だろうがッ! 敵は潰さなきゃ意味ねーだろ!」
 火車の戦意が現在進行形で昂ぶり続けている。
 物足りなかったか。あるいはここで殲滅しておくべきと感じているか。しかして、
「お、落ち着きたまえ。今回は敵の妨害さえ出来ればそれで良いのだ。
 数も少ない以上、追撃は難しい。こちらもこのまま退くが吉だともさ」
「……まぁ邪魔は出来たし、たしかにいっかねぇ……」
 そう。これ以上の邪魔は難しい以上、仕方ない。
 これで終わりだ。お互いに息を吐き、呼吸を整える。
 と、瞬間。八雲の背後から軽い衝撃が伝わった。
 蹴りだ。誰からかと言えば、無論火車である。
 彼は言う。純粋な笑顔と共に。終わりの言葉として。
「――お疲れ」