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●紅と黒の深淵●

●紅と黒
 ――薄暗い地下室に、足音が響く。
 耳聡くそれを聞き付けた少年は、来たか、と何処か嬉しそうに顔を上げた。
「すまないね。小生のような無名の新人につきあわせてしまって」
 緩やかな所作を伴って姿を見せたのは、一見すると華奢な少女。しかしてその実態は、底の知れぬ紅涙の一族が一人。
 彼ないし彼女の名は――『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)。
「何、俺が呼んだのだから細かい事は気にするな。それに全くの素人……という訳でもないだろう」
 仄昏き微笑を浮かべて士郎がテーブルを挟んで己の向かいの席を指し示すから、いりすは其処に腰掛けて向かい合う。
(「それにしても、やれやれさ」)
 真正面から士郎と向き合うと、いりすは改めて思う。
 齢は同じ。寧ろ年を越せばいりすの方が上である。にも拘らず、士郎はギャンブルの世界では負け無しと来た。
 対して、いりすは負け越しの人生であったと己を顧みる。
(「こっちは負け続けて。負けっぱなしで。勝った事なんて、それこそ数える程だって言うのにね」)
 対とも言える紅と黒。それが今の二人の現状で。それ以上でもそれ以下でも有り得ない。
(「彼がもつ者なら、小生は持たざる者なんだろうよ」)
 それが、羨ましいか。妬ましいか。
 ――否。だからこそ。
「だからこそ、ヤる。僕は、結構、君みたいなヤツが好きだしな」
「……そうか」
 未だ二人の表情から、笑みは消えぬ。



●最高の勝負を
「そんじゃ一つ勝負をするとして、折角の勝負だし、何か賭けようか」
 朱鷺の羽を持つ、毛先の赤い黒髪を持つギャルソン服の少女がシャッフル&カットを行う間、いりすがそう切り出した。
 ノーリスクってのはお互い面白くないだろうし――そう笑むいりすの提案を、士郎が蹴る筈も無く。
「つっても、何も持ってないんだよな。仕方ないから、小生が負けたら、小生の性別を教えようか」
「性別?」
「紅涙の一族は、性別を死んでもバラさないんだ。 ある意味、れあだよ」
 いりすの言葉に、ふむ、と士郎は考え込む素振りを見せるが、それも僅かな時間の事。
「判った。では俺はこの賭場を畳む事にしよう。元々非合法なものだし黄泉ヶ辻の拠点がひとつ無くなるのだから、悪い話ではないと思うが」
 こうして、互いが持つものを一度、その手の届かぬ所へと、差し出して。
 そして、運命を決めるカードが、配られ始める。
 いりすも士郎も、表情ひとつ変える事は無い。
 此処までで、互いの様子は一切読み取れない。
 そして徐に口を開いたいりすが告げたのは。
「チップ全ベット」
「ほう」
 ディーラーの少女によって、いりすのチップが全て、中央のポットへと積み上げられた。
 感心とも呆れとも付かない士郎に、いりすは言う。
「別に自棄になってるわけでも舐めてるわけでも無い。ましてやハッタリでもないさ」
 ならば、その真意とは如何なるものか。
 それはいりすの『性分』であるからに他なりはしない。負け越しのいりすが『勝ちに行く』その為には、様子見だの何だのと、ヌルい事はやっていられないししたくない。
 何は無くとも覚悟はある。士郎の誘いを受けた時点で、既に、心に決めていた事だ。撤回するつもりも毛頭無い。
 博徒騎士、何する者ぞ。たとえ相手が最強のギャンブラーであろうと、負けるつもりでは挑まない。
「それに、ハッタリかましたところで、君は降りたりしないだろ? それが『勝負』なら」
 『勝負』ってヤツは、でかけりゃ、でかいほどチャンスは一度――いりすの持論はそうだった。
 現実、運命というものは、そういうものだ。
「成程。ああ、そうだな。それでこそ、『勝負』というものだ。良いだろう、乗ろう。此方も撤回はしない」
 士郎の視線を受けて、再度ディーラーの少女が動く。士郎のチップもまた、その全てが中央へと積み上げられる。
 互いの手持ちの全てを明け渡して、二人は中央に決意の塔を建てる。それは唯、真っ直ぐに聳え立つ。
 それからは、言葉を紡ぐ事も無い。此処に来て、最早そんなものは不要だった。
 唯黙々と、淡々と、手持ちのカードを換えてゆく。
 やがて互いの手が、止まった。当初の宣告通り、双方ベットの賭け直しも、無し。
「自信は?」
「勝つよ。勝つさ。負けるのには慣れてる。だけど負けるのが好きってわけじゃないんでね」
「そうか、野暮な事を聞いたな」
 双方、深まるのは不敵な笑みとその深淵。
 そして、運命を指し示すカードは翻り、答えを導き出した。



●紅と黒 turn.2
 士郎の示した役は、黒のスートが中心の、Qから成る8までのストレート。
 そして、いりすのそれは――赤のスートが中心の、しかしそれもまた、Qから成る8までのストレート。
「……」
「…………」
「「………………」」
 長い長い、沈黙が落ちる。
 しかしやがて、どちらとも無く声を上げて、笑い出した。
 大声でこそない。派手にでこそない。しかし僅かに腹を抱えて、肩を震わせて。
 心底、可笑しそうに笑っていた。
「はは、こりゃあ仕切り直しだね」
「ふふ、もう一戦……やる気は、ある様だな」
「当然」
「ならば最初から、始めよう」
 二人に妥協は無い。
 勝つか負けるか。それがこの世界だ。そうと決めたのなら、最後まで。
 それは紛れも無く、勝負師達の『誇り』に違いないのだ。
 今、カードは再び配られる。


 ――その勝敗の行方を、当事者達の他に知る者は無い。
 唯ひとつ確かな事は、此処で相見えた二人が、いつかの再戦を誓った事――