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●午後1時13分●


 アーク本部のすぐ傍、昼下がりのコーヒーショップ。
 冷えた掌をストロベリー・ラテの白いカップで温めながら『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)は外を眺めていた。
 と、その視界に見た事のある顔が映る。
 向こうもそあらに気付いたようで、笑って手を振った。

『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は大体に置いて愛想が良い。
 というか、喋る相手を見つけるのに余念がない。故に、顔を知ったリベリスタであるそあらの席の隣に来るのも割と予想された出来事である。
「こんにちはそあらさん、お隣いいですかー」
「こんにちはギロチンさん。どうぞなのです」
 静寂と平穏を愛する人間ならば溜息を吐くのかも知れないが、幸いそあらはこのお喋りフォーチュナに付き合うだけの余裕と心の広さがあったらしい。
 今日の天候と予定、近況などを聞いた後は自然、共通に知る人物――そしてそあらが最も興味のある人物の話と移行していた。

「ラ・ルカーナの事が終った後、すぐにこんな事件になってしまって……。ここの所、さおりんの心労が激しそうですから癒してあげたいのです」
 はふり。憂う溜息を唇から零したそあらの口にした愛称は、言わずと知れたアークの戦略司令室長こと、時村沙織のものである。気楽に生きているように見えて、表の仕事に加えて数千以上のリベリスタを有する『アーク』の舵取りを行う彼の重責は相当のものである。
「あたしは未来の妻としてさおりんを支えなければいけないのです」
 そして、ぎゅっと拳を握って身を乗り出すそあらが沙織に懸想している事は周知の事実。
 本人も一切隠す事なく、彼に日々アタックをかけているのだが――相手は一癖も二癖もある時村の御曹司だ。そあらの気合をさらりとかわしては、(´・ω・`)となっているのを見て悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「そうですねえ。本部とかで会った時に声をかけるだけでもだいぶ」
「だめなのです。そんな適当な感じじゃなくて、もっと真心が篭ってないといけないのです」
「あ、じゃあ生霊を飛ばして四六時中見守ってみるとか。ぼく試した事ないんですけど、昔オカルト好きの彼女から聞いた幽体離脱の方法が……」
「怖い話は嫌なのです。><。 んもう、しっかり考えるのです」
 ぺちぺち机を叩いて少々拗ねた様子のそあらを見て、ギロチンは軽く笑った。
 本人に言えば否定されるだろうが、この状況では小柄な外見も合わせて些か子供っぽく……というよりは小動物に似た感覚も覚えなくはない。

「とは言え時村室長ですからねぇ、必要なものなら全部自分で揃えられるでしょうし」

「そうなのですよね。何かを贈るにしてもなかなか……あ、そういえばもうすぐあたしの誕生日ですし、さおりんに盛大に祝ってもらわないと!」
 ふと思い当たった事実。
 数多の女性と浮名を流す時村沙織が覚えているはずがない、などと言うなかれ。彼は実にソツのない男だ。完全に希望を叶える事はなくとも、同時に如才なくこなすのが彼である。
 そんな立ち回りのうまい沙織の人物像と、恋する乙女そあらの夢が重なれば――まあ、どうなるかは実に簡単だ。
「何してもらおうかしら? ドライブしてショッピングして、素敵な映画を一緒に見て……」
 勿論、映画はラブロマンス。生き様や価値観の違う男女が時には擦れ違いながら心を触れ合わせ、いつしかかけがえのない存在として相手を意識して、最後はそっと手を取り合ってキスをする。
「おされなレストランで夜景を見ながらお食事して、おされなバーで軽く飲んで……」

 ちなみにその外見から時折勘違いされる様子だが、そあらは立派な成人女性だ。
 故にバーも何ら問題はない。
 静かに触れ合わせたグラスの向こう、薄暗がりの中で見る彼は普段と少しだけ違って見えて、いつになくどきどきしてしまうかも知れない。
「そしてほろ酔いになった所で、『部屋、とってあるんだけど?』とかいわれたらどーしよーかしら?
 やだ、恥ずかしいのです……!」
 その時の彼も、きっと悪戯っぽい笑みを浮かべているのだろう――ばたん。


 テーブルに突っ伏してもだもだするそあらにギロチンは若干遠い目をしていたが突っ込みは野暮だ。
 恋する乙女の夢に現実を突っ込んでも何らいい結果は得られない、という事程度は沙織と対極の甲斐性なしの元ヒモでも理解はしている。
「……まあ、好きな人と一緒に過ごす妄そ……想像って楽しいですよね」
 選んだ。珍しく言葉選んだ。ちなみにそあらの考えを馬鹿にしている訳ではなく、ギロチンの中の沙織像とうまく合致しなかっただけである。うん。

 と、そんなギロチンにそあらが突っ伏していた顔を上げた。
「そういえば、ギロチンさんは好きな人いるのです?」
「え」
「あたしだけ言ってるのはずるいのです。ほらほら、気になる人とか」
「えーと……」
 そのイチゴソーダの瞳は、今度は年頃の女性らしい好奇心で満ちている。
 ギロチンはしばし視線を彷徨わせ、窓の外へ視線。ああ、今日は風が強い。と、そこには――。
「……ほら、ええと、陽立さんとか……」
「え……!?」
 たまたま本部から出てきたばかりの不運なフォーチュナを指差したギロチンに、しかし彼の想像と異なりそあらは目を丸くする。
 あ、まずい、と思う間もない。
「ギロチンさん、まさかあの人のことが!?」
「すいません嘘です信じないで下さいごめんなさい嘘です」
 がたっ、と立ち上がったそあらに平謝り。
 ふわふわの金髪に包まれたわんこの耳が、ぴくっと動く。
「……んもー!」
「あっすいませんごめんなさいそあらさん痛い痛い。ケーキのイチゴあげるので許して下さい」
 べちべちべち。
 突っ込みを受けるギロチンが差し出したケーキに、そあらはふう、と溜息を吐いた。 

「乙女の心をもてあそんだ罪はそんなに安くないのですよ。ゆるしませんが、いただきます」
 ひょいぱく。小さな唇に消えた赤い果実に、ギロチンはまた笑う。
 女子たるもの、この位は強かであるべきである。百戦錬磨の時村沙織と渡り合う気ならば尚更だ。

 すっかり冷めたカップの最後の一口を飲んで、そあらはふと時計を見る。
「いけない。そろそろ次のお仕事の説明を聞きに行かないといけないのです」
「と、もうそんな時間ですか」
 指した時間は二時半過ぎ。三時の休憩で、再びコーヒーショップが込み始める時間だ。
 そあらがトレイを持って立ち上がる。
「今日は楽しかったのです」
「いえいえ。こちらこそお付き合いありがとうございました。そあらさんも忙しいですね」
「バロックナイツもフィクサードも、なんだか怪しい動きをしてるですから大変なのです」
 顔に微かに落ちる影。
 アークが幾ら戦力を増強しようとも、強大な暴力と悪辣に晒されている事は変わりなかった。
「フォーチュナの皆さんも予測頑張って下さいです。――あたし達も、戦場でがんばるのですよ」
 こうして平穏に過ごす『日常』の一枚裏で、そあらも含めたリベリスタは、いつ命を失うとも知れない『日常』を送っている。
 それを知るフォーチュナは、少しだけ浮かべる笑みを浅くして、目を伏せた。
「はい。……ぼくらも、時村室長も、いつだって皆さんのお帰りをお待ちしていますから」
 どうか、無事で。
 囁いたギロチンに、そあらは笑った。
「大丈夫なのです。――恋する乙女はか弱いけど強いのですよ」