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●鶏(串)狩り●

●真相は先に語られるべきである
 月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は三高平学園高等部の非常勤講師である。科目は保健体育。他意はない。事実、教員免許はれっきとした『常人時代の』顔である。
 なので、アークの件を差し引いても学園外で誤解を招く行為を誘発することは許されない。
 それが彼の担当の外である大学部の学生であっても、である。
「偶には難しい事考えずに、旨い焼き鳥で一杯もいいかと思ってさ」
 そんなことを口にした『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の厚意には当然与りたいものと考えるし、夜倉は彼のことを一定レベルで理解している、つもりだ。
 アークの盾、と名を響かせ、良きにつけ悪しきにつけアークに影響力を持つ人物。だがその実、女運には随分と恵まれず、つい最近までぼっちだった男である。
 そして、酒に異様に詳しい。家柄の関係だそうだが、そこは詳しくないので割愛しよう。
 ……兎も角。彼の誘いに乗るからには、『覚悟』が必要だった。

●当然のリアクション
 で、その覚悟の結果。
「……誰?」
「僕ですよ、夜倉です」
 快は、呆気にとられていた。
 確かによくブリーフィングルームで聞く、あの若干いけ好かないと言わしめる夜倉の声には違いない。だが、目の前に居るのは包帯まみれの姿ではない。
 顔の各所に痛々しい、というよりは凄絶な傷を刻んだ如何にもすぎる『三十絡みの男』である。
 自分の知っている○○ではない、というケースは往々にして存在する。だが、この場合は……何も考えまい。
 何も考えずに、といったのは自分であったと快は思い直した。精一杯の賢明さである。
 たまには包帯を外したいのだろう、蒸れるし。

「あ、新田さんに……誰?」
「そうですね、そのリアクションですね」
 快、そして夜倉が食事に赴くという事実は、誰が語るでもなく『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の耳に入っていたらしい。恐ろしい地獄耳である。
 だが、さしもの彼女も獲物が狩る前に鍋に入って葱を添えて現れるなど露程にも思っていなかったのだろう。
 言葉を失うこと数秒、やっとそれが自らのターゲットだと気づいた時に出した頓狂な声は、ああしかし、何時もどおりだなあとスルーされたのはここだけの話である。

「これから二人でゴハンですか? いいなー、いいなー」
「ここは日本酒もいけるんだ」
「へぇ、僕は割となんでもいけますが日本酒ですか。興味深いですね」
「ここ、すっごい美味しそうですもんねー」
「ほら、『旨さは第一』なあのお酒も」
「……!?」
「……わたしは、今日もぼっちご飯かぁ……」
「……快君」
 認めるしか無かった。すっげぇ面倒だけど、この小娘を放っておけるほど成人組二人は鬼畜でもなかったという事実を。

●食事なので騒々しく
「うはー、どれから食べていいのか迷っちゃいます!」
「舞姫君の分は……いや、いっそ全部僕が持ちましょう、ですから」
「舞姫ちゃんは可憐な乙女なので、小食だから……、とりあえず端から順に全部ください」
「おい」
「じゃあ俺も鶏皮とぽんぽちと、あとつくねで! お酒はこれで」
「……快くんの注文が健全だ……」
 舞姫の言動不一致はいつものことである。注文数がとんでもないことになっていても、余裕を持って考えていたので夜倉は呆れこそすれ慌てる気はなかった。
 それと比較すれば、酒を主目的としてここに誘った快はといえば大人しいものである。選別基準も純粋に酒の肴にしようとしているフシが伺える。
 まあ、斯く言う夜倉も大して食べる方でもないので、彼の勧めるままに頼んでいるわけだが。
「鶏は胸皮、パリっとした皮目とジューシーな胸肉のコンビネーション! ここで飲む一杯は堪らないね!」
「ひゃっはー! 鶏狩りだァー!!」
「……舞姫君、大人しくなさい。周りに迷惑でしょう」
「夜倉おじさまは心配性ですねぇ、私達なんて大して騒々しくないですよ?」
 純粋に酒と焼き鳥を楽しんでいる快に対し、舞姫は終始ハイテンションである。体面上たしなめることはするものの、それで止まるわけでもないことを夜倉は知っている。
「まあ、いいんじゃない? しんみり飲む為に来たんじゃないし!」
 そんな感じで笑う快の言葉は、こころなしか上気しているようにも思えた。或いは、自分が酔っているのだろうか。彼がそこまで酒に弱いとは聞いた覚えがない。
 ので、酒の所為ということにしておこう。何より、郷里の酒は戻る宛のない身には沁みるのだ。恐らく。
 つくねを頬張りながら、そう考える。成る程、これはいいものだ。軟骨も適度に砕き、混ぜているために歯ごたえがあり、飽きの来ない感触を顎に伝えてくる。
 つづいて、豆肝――鶏の脾臓に手を伸ばす。内臓といえば北の方が一般的だが、それすら揃えているとは末恐ろしい店であるとつくづく思う。
 舞姫は舞姫で辺り構わず食べているが、あれで味が分かっているのだろうか。分かっているのだろう。
 そうでなければ、あそこまで楽しそうな顔はすまい。

「や、何だかんだで俺たち夜倉さん頼りにしてんのよ! 俺たちの目だしな!」
「……痛いです、快君」
 串を銜えたまま背中を叩かれる。実際危ない。
 どうやら自分よりもハイペースで飲んでいたのか、はたまた雰囲気か。快は、完璧に酒の回っている人間のリアクションである。
「夜倉おじさま、飲み足りないんじゃないですかぁ~? ほら飲んでー飲んでー♪」
 一方の舞姫は……あれじゃないだろうか、こう。飲んでなくてもハイテンションである。否、中学生を呑ませたらどうあっても大問題なのだが。
「ここだけの話ですから、一応正直に述べておきましょう。僕は、君等……ああ、君達個人にもですが、概ね広義で。リベリスタを尊敬しています。敬愛と言っていい」
 串を引きぬき、若干赤いものが混じった先端を軽く弄びながら夜倉は語る。その空気を感じてか、二人の騒ぎが僅かに収まったのを見て、語り始めることにした。
 夜倉は、当然ながら二人のこれまでを知っている。馬鹿みたいに騒いでいても、快と舞姫の得た苦痛はかつての自分の比ではないだろう。
 それが義務と言えばそのとおりだし、切り捨ててしまうのは楽な話である。だが、それを差し引いても無理をする彼らリベリスタを理解している。
 どこまでも思考のネジが飛んだ態度を貫きながらも、最後に芯を通し確たる信念を見せつける舞姫。
 求める侭進み続け、結果としてもてはやされる立場となっても誠実さを忘れることをしない快。
 ブリーフィングで嫌というほど無理を押し付けてきた二人を見て、ひいてはリベリスタ全体に対し悪感情などあろうはずもない。
「ちょっと愛想無いとこで損してるよね、印象が」
 ぽつりと、快が口を開く。彼曰く、夜倉はマメらしい。そんなことはないのだが、と返そうとしてやめた。『新田・快にとっての月ヶ瀬
夜倉』であるのなら、否定する要素はないだろう。
「ところで夜倉さん、女子中学生と飲み屋にいるって大丈夫なの?」
「問題無いでしょう。少なくとも酒に関しては厳重に管理してますし、そもそも僕の顔、誰も知りませんから」
「ああ……」