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●群体筆頭●


 普段行かない通りに足を運んだ理由は、うまいタバコがあるという噂を聞いて足を運んだにすぎない。
 そのタバコ屋の前でガラの悪い輩がたむろしており、タバコを買ったらインネンをつけられた。そして彼らが六道のフィクサードだったわけで。
 どうもそこは六道の麻薬販売ルートの一つだったらしい。それに気付いた頃のは『ヤツ』が現れたからで――
 

『群体筆頭』……阿野 弐升(BNE001158)の二つ名。
 意味は一人にして群。その筆頭。
 
 酒とタバコ、そして犯罪。この路地裏を的確に表す単語であった。
 この場から離れないと。背後にいるフィクサードの気配を感じながら、弐升は必死に走っていた。ここでは勝てないと直感が告げている。状況から論理を導くのがプロアデプトなのだが、この状況ではそうも言ってられない。
「そもそも、俺はまともなプロアデプトじゃないしな」
 とにかくヤツはマズい。アークで見た報告書を思い出す。六道のフィクサードの一人、『チャプスィ』とか言う二つ名の中華ロリ。
「ケタケタケタ! アークのリベリスタが紛れ込むとはナ。想定外だが、ここで始末しとくカ」
 哂うのはコウモリのビーストハーフの娘。見た目はチャイナ服を着た10代前半の少女だが、その性格の悪さと強さはアークの報告書を通して聞いている。相手の隙をつくのはナイトクリークの特徴だが、あの女は心の隙もついてくる。
 弐升と彼女が出会ったのは偶然というより他にない。
 ついてない、とは思わなかった。確かに不幸とは思ったが、それを嘆く弐升ではない。

 逃げるのではなく、勝つために。弐升は必死に足を動かしていた。


『チャプスィ』……六道フィクサードの一人。神秘による変装を行なう為、性別不明年齢不詳。
 二つ名の意味は広東系の野菜ごった煮料理。群集に紛れて隠密索敵を行なう暗殺者。


 ここは路地裏の袋小路。建物の塀が生み出す街の死角。弐升は『チャプスィ』をここに誘うように逃げていた。
「さーて、かかってこい五目うま煮。ちゃんと美味しく頂いてあげるのですよ」
 弐升の持つ『論理決闘専用チェーンソー』が回転数を上げて『チャプスィ』に襲い掛かる。彼女が纏っていた影が、それを受けて霧散した。
「ケケッ! か弱き乙女を頂クってか。女に飢えてるのカ? オメー」
 チャイナ服のすそを片手で上げてふとももを露出させながら、もう片方の手でナイフを繰る。速度と不意をつくような動き。夜の暗殺者のナイフが弐升を刻んでいく。
(やっば! まともに戦うと辛いわ)
 故に常に攻勢にでる。守勢に回れば一瞬でもっていかれそうな鋭い一撃。しかし、
「この路地裏だト、そのチェーンソーはでかすぎルンじゃネーノカ?」
 巨大武器の宿命か、大仰な動きをすればチェーンソーが壁に掠り、威力が削られる。

「狭いなら狭いなりの使い方があるんだよ」
 壁をけって宙を舞い、店の看板をチェーンソーで切り落とす。支えを失った看板は『チャプスィ』の真上に落下してくる。
 済んでのところでそれを避ける『チャプスィ』。しかしわずかな隙がそこに生まれる。それは弐升からわずかに看板に意識を向けた程度。視線すら外していない本当に小さな隙。
「こういう戦い方がね!」
 それを狙っていた弐升にとっては、その隙で充分だった。振り下ろすチェーンソーに手ごたえがある。肉を裂き、出血する『チャプスィ』。痛みに揺れるその顔は――
 すぐに勝利の確信への顔に変わった。一歩踏み込み、ナイフを突き立てる。踊るように回転しながら、ナイフは弐升を切り刻む。
「うわあ!」
「これで仕舞いダ!」
 回転の勢いを殺さぬまま、『チャプスィ』の足が上がる。回転ベクトルの乗せたまま、その足は弐升の胸部に叩き込まれた。


 ――ああ、このまま死ぬかもなー。
 弐升は呆然とそんなことを考える。服はボロボロ。身体はズタズタ。機械化した右腕は露出し、メガネはひびが入っている。まぁ、メガネは伊達だからいいけど。
 そして目の前には自分を蹴り倒した『チャプスィ』がいる。こちらを見下ろしながら端末片手に報告している。
「アア、捕まえたゼ。S3の準備も忘れンなよ」
 S3、ってのが何かはわからないけどまあ碌でもないことだよなぁ。それは判る。
 死ぬかもしれない。そんな状況の中で、

「ん、いいね。もっと楽しく遊ぼうぜ」

 弐升は立ち上がり、論理決闘専用チェーンソーを回転させる。
「ハ? まだやる気カ?」
「当然。だって楽しいじゃん。こんな機会そうそうないから。最後まで踊らないと」
 それは戦闘を求める渇望。刹那的に生きる弐升の性分。
「ケッ! 戦闘狂ガ」
『チャプスィ』は端末をしまい、ナイフを取り出す。その間に弐升は横なぎにチェーンソーを振りかぶる。
 しゃがみこむようにしてそれを避ける『チャプスィ』。そのままブレイクダンスのような動きで逆立ち、弐升の顎に向けて蹴りを放つ。
「やばッ!」
 チェーンソーの腹でその蹴りを受け止めながら、弐升は少しずつ判って来た。
(『チャプスィ』の目的は俺を捕まえることだ)
 おそらくは情報が何処から漏れたのかを知りたいのだ。それが『万華鏡』なのか。それとも他のルートからか。それを知り、販売ルートを見直すために。
 これがいつもの依頼のように複数人で来ていれば、弐升はここで殺されていただろう。情報源は他にもいるのだから。だが単独行動であるのなら、殺すわけにはいかない。拷問するにせよ、最低限生きてもらわないといけないのだ。
 ナイフよりも主に格闘で攻めてくることが、その証拠だ。
「隙、見つけたぜ」
 弐升は牽制の為にナイフで攻撃してくる『チャプスィ』の攻撃を――あえて防御せずにガードをといた。チェーンソーを下ろし、力を込める。
「……ナッ!?」
 喉笛を狙ったナイフは、その直前で軌跡が変わる。本当はナイフを破界器で受けてもらいたかったのだろう。だが当たらないとわかっている以上、防御する理由はない。
『チャプスィ』がナイフを構えなおす間に、弐升が動く。この一瞬を逃せば、もう勝ち目はない。
「戦鬼――」
 下ろしたチェーンソーに風が集う。三枚刃のチェーンソーに風が絡みつくように纏わり、回転数を上げた刃が激しく音を響かせる。
 隙を生み、神秘を集わせ、暴力を叩き込む。それが弐升の論理決戦。
「――烈風陣!」
 神秘と物理。二重の風をその身に受けて『チャプスィ』は吹き飛ばされ、地に伏した。


 群体の筆頭たる阿野弐升は勝者の如く破界器を掲げ。
 群に紛れる『チャプスィ』は敗者の如く、背中に土を着けていた。


 増援の六道フィクサードが見たのは、まさにそのシーン。彼らは地に伏す『チャプスィ』を見て、一瞬気圧される。
 弐升はその隙をついて塀を乗り越える。振り返り様に『チャプスィ』を見た。半立ちのまま、こちらを睨んでいる『チャプスィ』。
「テメー、殺すゾ!」
「また遊びましょう、中華ロリ」
 弐升は気糸を『チャプスィ』のおでこにぶつける。そのまま塀の向こうに身体を躍らせた。
「クソっ! 覚えてロ!」
 おでこを押さえながら『チャプスィ』は叫ぶ。その声が、戦闘終了の鐘になった。


 六道の麻薬販売ルートは、アークの活動により潰される。
『チャプスィ』たちは既に撤退しており、その尻尾を掴むまでには至らなかった。

「……へぇ、コイツは」
 そして――あの日弐升の買ったタバコは、それなりにうまかった。