● 「――蝮と仕事? はは、嘘だろ?」 「俺が態々嘘吐くと思うか?」 「まじ?」 「二度も言わせんじゃねぇ、行くぞ霧島」 「あっちょっ、置いてくなよぉ!」 そんな遣り取りがつい先ほど、の様に感じる。 夜の町、その片隅、廃ビルのとあるフロア。コンクリートの上。 二人になるなら、美女が良かった……『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)は超が付く程の緊張を嚥下し、それを紛らわすかの様に文句を垂れた。 「誰だよこんな依頼したの、メルクリィか! メルクリィだな!」 後で肩の突起かち割ってやる、なんて思ったが彼は彼で今は大変そうなので見逃してやろう。再度の溜息。その視線の先には『相模の蝮』蝮原 咬兵(nBNE000020)の広い背中と、彼が吐いた細巻の紫煙が。 更にその向こう側――自分と咬兵をぐるり囲むは大量の黒い靄状のE・フォース、曰く人々の心に潜む悪意が覚醒したものらしい。 そして、この大量のフォースを討伐する任務に当たったのが、俊介と咬兵なのである! 「え? 大丈夫? なんか敵さんは大量にいるけどおお!?」 「怖ェか?」 「べべべ別に怖くねーし! 震えてるけど怖くねーし!!」 背中にしがみついてひっくり返った声を出す俊介に咬兵は咽奥でくつりと笑う。畜生め。なんか悔しいから彼から離れ、そのちょっと後ろ。仁王立ち。 「いけ! まむっさん!!」 右腕を敵へ高らかに向け、必殺★人任せ! 「じゃ、俺帰ります」 「『独りで』帰れるのか?」 嗚呼振り返った咬兵の視線の、冗句を含んで可笑しそうにしている事。 独りで、って……視線を逸らす様に俊介が見渡す周囲。じりじりと包囲網を詰めて来ているフォース達。逃げ出せそうな穴なんて、無い。 「あぁもー! やるっきゃねーってか畜生ー!」 「頼りにしてるぜ?」 こちらを見遣ったからかいを含んだ視線にムッと来て、やってやるよ!声を張り上げ俊介は己が魔力を活性化させる。同時に抜き放ったのは花染――命の色に染まりゆく、護る為に唯願う。 仁義上等。咬兵も呟き、捨てた細巻を踏み消して。 「往くぜ、ビビんなよ霧島!」 「だぁーからビビってねーし怖くねーし!」 俊介が叫んだ言葉の最後は幾つもの銃声に掻き消えた。硝煙。咬兵の早撃ちに穿たれ、消えるフォース。だがその数は多く、別の靄が悪意を込めた手を伸ばす。が、 ばぢり。 「オイこら、俺のまむっさんに手ェ出してんじゃねーぞ!」 俊介が祝詞によって顕現させ咬兵に付与した浄化の鎧。光の障壁はあらゆる攻撃の前に堅固に立ちはだかる。更に反撃の棘となって悪意の靄を切り裂いた。 「おい、俺はいつからお前のモンになったんだ?」 苦笑交じりの声、背中合わせ。 「えー、じゃあ、今!」 「俺の所有代は高いぜ」 「マジで? ナンボ!?」 「当ててみな」 「えーとな……」 銃声。それから、焼き払う閃光。 「分からん!!」 「そうか」 「今鼻で笑っただろまむっさあぁあ!」 テメコノヤローと広い背中を睨む序でに聖神を讃える祝詞を紡ぐ。紡いで、視線を戻して、フォースの猛攻を躱し防ぎ、焼き払いながら。背後の銃声を聞きながら。 「……まさかまむっさんと共闘なんて夢にも思わなかった。 初対面はいつかの海上? あんときのあんたはフィクサードそのものだった」 思い返せば遠い様な近い様な。 「それが今じゃ、頼れる兄貴だ」 「そりゃどうも。……俺もまさか、リベリスタの友軍になるたァな」 事実は小説よりも奇なり。奇妙な因果だ。リベリスタとフィクサードが背中合わせで戦っている。 「ホントにまさかのまさかよなー」 苦笑を一寸、その刹那。靄が放った黒い炎が俊介を掠める。じりっと頬に焼ける痛み、今が好機と言わんばかりに押し寄せるフォース達。 「生きてるか?」 咬兵なりの案ずる台詞。それに「大丈夫」と、敵を遍く神気閃光で薙ぎ払い、一歩も退かず。 「蝮はずっと攻撃してて、俺は大丈夫だから」 自分は自分で護れる。凛然と敵を見澄まし、構える花染。赤い瞳。 ――蝮が心置きなく戦ってくれりゃ嬉しい。 「背中を押すのが俺の仕事。俺は仲間しか護らない。だから蝮は、仲間」 「……そうかい、ありがとよ」 咬兵の答えはシンプルだった。だが、敵を荒々しく薙ぎ倒す拳が銃弾が、何より俊介に預けた背中が、その返事。 幾重もの敵波が押し寄せて来ようとも、この二人を揺るがす事は出来ない。 コンクリートを埋める悪意のフォースが一つ、また一つと消えていく。 「根性勝負だ。気ィ抜くなよ霧島!」 「分かってらー!」 襲い掛かって来たフォースを蹴っ飛ばし、花染で切り裂き、構える掌から放つは悉くを焼き払う聖なる光。それは俊介の度重なる神気閃光によってダメージ蓄積していたフォース達を一網打尽に消し払った。 いや、未だ一匹――しかし直後に『ズドン』と銃声、頭を吹っ飛ばされたフォースが掻き消えて。 「……鎧の礼だ」 くるんと手の中で拳銃を一回転させ、懐へ仕舞った咬兵の一言。振り返った俊介が辺りを見渡せば、そこに立っていたのは自分と咬兵の二人だけだった。 「終わったっぽい?」 「そうだな。帰るぞ」 「あっ ちょま、待てよ歩くの速いし!」 一息ぐらい吐かせろ、なんてぶーたれつつも咬兵の横に俊介は並び。言おうか、でも躊躇、ちょっと口をもぞつかせて、それでも決心するや彼の前にパッと出、早速細巻きを吹かせる無頼をビシっと指差し。 「仲間認定のお礼は、後で俺の頭なでなでしやがれ!!」 上から目線の言動は、ただの照れ隠し。 一緒に居るのが、嬉しくて。 「……」 顔を真っ赤にしたその台詞に、ちょっと目を丸くする咬兵。 それから、嗚呼、成程ね。ふっと噴き出す様に緩める口元。次の瞬間、ふーっと吹いた細巻きの煙が俊介の目に直撃して、ぶわぁなんて変な悲鳴が出て、「何すんねん」と、煙に涙目な目を開いたその刹那。 「はいはい、良い子だ」 頭の上に柔く質量、武骨な手がくしゃくしゃと俊介の髪を掻き交ぜる。ボサボサになった髪をそのままに見上げた無頼は、口元を緩く笑ませていた。と思った時には踵を返して歩き始めていて。 「置いてくぞ」 一言。俊介はその背を見。 (まむっさんは好きだ、大切な誰かが居るって、凄く俺に似てる気がして) なんて、言ってやらないけどな! 「おい蝮ジュース奢れよ!」 そんな台詞と一緒に、追い掛けて横に並んだのであった。 『了』 |
●あとがき 以上、オフ景品『まむっさんと二人で特別任務!!大量発生したエリューションをバッサバッサとなぎ倒すSS』でした。 まむっさんと戦うシナリオ、ってことで、VSまむっさん的な意味の『と』じゃないですよ!Withの『と』ですよ! そんなこんなでこんにちはガンマです。大阪公認オフお疲れ様でした! 皆様にはいつもお世話になっております。 皆様との関わり、一つ一つが私の宝物です。 これからも一緒に三高平ライフを全力でエンジョイしましょう! 俊介さんはご当選おめでとうございます&ありがとうございました^^ノ |