ディーテリヒの望んだ最後の審判を前に二人の騎士が佇んでいた。 主人は最後の最後までその真意を二人には告げなかった。 恐らくは止められる事を分かっていたからであろう。 アルベール・ベルレアンは理解し得ても、セシリー・バウスフィールドは不可能である。孤児だった自らをその手で拾い上げ、養育し、現在の彼女のアイデンティティを築き上げた――ディーテリヒは間違いなく彼女の信仰対象だったからだ。 「……セシリー」 荒事の気配を増す現場を遠く見詰めるセシリーに兄のようなアルベールが声を掛けた。 受けた喪失感は等しい。しかし、アルベールには諦念があり、セシリーには無い筈だった。 歯を食いしばり、拳を握ったセシリーの手元からポタポタと血液が零れ落ちている。 「……どうする」 アルベールは他に何を言う事も出来ず、彼女に訊いた。 その言葉はある意味で彼女の肯定だった。「どうするにせよ、付き合ってやる」という宣言に他ならない。 「知れた事」 氷のような眼差しでセシリーは言った。 「あの、魔女を殺す」 「ディーテリヒ様が望んだ事だとしても、か」 「ああ」 セシリーは迷わなかった。 「それに、ディーテリヒ様が望んだのは『最後の審判の発動』までだ。 その結果――魔女が勝つ事は特段望まれていなかった筈だから」 白刃が赤い光を跳ね返す。 アルベールを振り返ったセシリーの目は大粒の涙に濡れていた。 「あの方を、唯――心から愛していた。それだけだった」 |