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ロンギヌス・アーク>

 差し迫る破滅に非常事態の連続するアークに使いが舞い降りたのは青天の霹靂だ。
 混乱する市街上空を一筋の光が駆け抜けていく。アークがその対処策を決めるよりも早く『彼女』はリベリスタ達の視線を引き連れながら、街の広場へと降り立っていた。
『武器をしまうが良い』
 厳かで玲瓏たる女の声が遠巻きに自身を見るリベリスタ達の鼓膜を揺らした。抜群の神性を秘める戦乙女の言葉が天上の蜜のように響くのは彼等が戦士だからなのだろうか。
 その胸に白い槍を抱く女は、敵の渦中においても凛とした居住まいを乱す事はない。恐ろしく研ぎ澄まされながらも、言葉の通り殺意や敵意のようなものは感じられていなかった。
『貴様等の主人を呼べ』
「私の主人だと?」
 レオンハルト・キルヒナー(BNE005129)が戦乙女の言葉にせせら笑う。
「『主』をこの場に呼びつけんとするか――異教のハエ風情が何様か」
 苛烈なる宗教家であるレオンハルトは、この戦乙女と交戦の経験があった。自身をねめつけた硬質の瞳に全く怯まない彼の『主人』をこの世界に下ろす事は不可能だ。「今すぐに駆除してやろうか」と言わんばかりである。
 レオンハルトに次いで彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)設楽 悠里(BNE001610)が現場に駆けつけてきた。数は多くとも戦力的にはさして優れないリベリスタ達は、期待したエース達の登場に少し緊張を緩めたように見えた。
(あんまり、無根拠に期待されても困るけどね)
 肩を竦めた彩歌は一つ咳払いをして戦乙女を見た。
「神様の方は兎も角ね――『責任者』はちょっと無理かな。彼は『戦士』じゃあ無いから」
 成る程、彩歌の見る限りでは戦乙女には現状では戦闘の意志は無さそうだ。
 しかし、彼女の――そしてディーテリヒの――真意が何処にあるのか知れない以上は楽観は出来ない。取り敢えず敵であった事は確かなのだが、早晩に制圧を考えるにしても……
(……あれ、『本物』よね)
 ディーテリヒが先の戦いで手にしていた『白い槍』の存在がその判断を押し止める。
「それで……用件は何?
 戦いに来たんじゃないって事は――何か話したい事があるのよね」
 状況から現場の指揮官のような立場を引き受けた彩歌は周囲のリベリスタ達の暴発を未然に統制している。
『確かに戦士でない人間には用は無いな』
 戦乙女はその成り立ちからか武器を携える人間に好意的であるのかも知れない。
 沙織を出せという己が要求を早々に引っ込めた彼女は、ぐるりと周りを見回して――
『貴様だ』
 ――悠里の所でその視線を止めた。
「……僕?」
『貴様を代理と見立てよう。貴様の顔は特に良く覚えている。その美しき戦いもだ』
「ああ」と悠里は合点した。暗がりに猛スピード。歪夜に会敵した美しいヴァルキリーの姿は彼の中で朧なイメージに過ぎなかったが、言われてみれば彼女の長いブロンドには見覚えがあった。あの時の戦いでディーテリヒの抑え役に出撃した悠里を止めたのは視界の中の女だった――気がした。
「……」
 悠里がちらりと確認するとレオンハルトと彩歌は揃って一つ頷いた。レオンハルトは『異教のハエと交わしたい言葉等無い』、彩歌は『要求を何度も跳ね除けるのは失策』といった思惑だろう。
「……じゃあ、僕が」
 背筋を正した悠里に戦乙女は満足気に頷いた。
『私は主人より遣わされこの場所へ赴いた』
「主人……ディーテリヒだね?」
『然り。主人の望みはこの槍を貴様等に届ける事だ』
 場が一斉にざわめく。ディーテリヒが本物の『ロンギヌスの槍』を有していたというのはアークの共有情報である。そしてその神器中の神器が如何なる威力を秘めているのかも。
「どういう事だ? 何故、ディーテリヒはそれを僕達に――」
「――即座に受け取れ!」
 最も重要な聖遺物を前に怪気炎を上げるレオンハルトはさて置いて。
『それが主の望みだからとしか言えぬ。いや、私が敢えて多くを語る必要すら無いだろう――』
 白槍を悠里に手渡した戦乙女はすっと目を細め、柔らかな胸元から取り出した虹色の石を空にかざす。周囲の光を飲み込んだ石がオーロラのような輝きを放ち、空のスクリーンに衝撃のシーンを映し出した。
「これは……」
 リベリスタの見た映像は満願を成就させたアシュレイと、倒れるディーテリヒであった。
「セシリーとアルベールは……?」
『魔女は戦いに優れぬが、小手先の技術にだけは長けている。貴様等の予想以上の健闘と、主本人の意思が重なれば――邪魔を遅らせる位は容易かったろう』
 何よりもディーテリヒ本人が己が騎士の『邪魔』を望んでいなかったならば……
「でも、何故」ともう一度問うた悠里に戦乙女は淡々と答えた。
『主の計画は同時に成ったという事だ。
 私が貴様等への遣いとなったのはかの方の望みに他ならぬ。
 かの方はおっしゃっていた。『審判は公平に下されなければ意味が無い』と。魔女めに絶望の手段を与えたならば、貴様等には等価たる希望の手段が必要だという事』
 常人の判断を遥かに飛び越えたディーテリヒの考えはリベリスタには分からない。だが、永きを生き、一つの目的に邁進した魔術師の行く末を人間的な感覚で測る事は困難なのかも知れなかった。
「……あの穴を何とか出来るのね?」
『それは本来、唯の武器として使うものではない。どの道貴様等には使えぬ。
 但し――神秘を殺すという本来の用途であれば、その出力が十全で無かったとしても』
「私達の望みは叶う、のね。成る程、分かり易いわ」
「主の御心に沿わぬ者を全て処理すれば良い。元よりそういう話だ」
 彩歌は納得し、レオンハルトは尚更したり顔であった。
 魔術師なる深淵は理解し難いがどうでもいい。
 拗らせた馬鹿女の思考はなぞるだけ無駄だ。どうでもいい。
 重要なのは、アシュレイが曰く絶望に到る最後のパーツを埋めたという事。
 重要なのは、アークが曰く希望を拓く手段を得たという部分のみだ。
 騒然たる現場に多数のリベリスタ達が集まってくる。
 そこには多数の戦いを越えた歴戦の戦士達もあった。
 見た顔も、それ以外も。アークのリベリスタ達が――
『次は――敵として相対しよう。楽しいな、戦士達よ』
 ヴァルハラの乙女達は主を殺した相手を守護せよという主命にまで背く事は無い。
 それは己が死さえ、目的の礎にした主を今も加護しているからなのだろう。
 空へ飛び立った戦乙女は満足気に混乱の三高平市を後にする。
 決戦の足音は、既にその気配を隠そうともしていなかった。