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――彼女はもう『此の世界』には、いない。 新田快は思う。 『あの時』……あの、雪の降っていた夜。 もしかして、嗚呼、もしかしたら――あの、『香り』は彼女のものであったのでは無いか、と。 そう。 あの時、彼女は此の世界に存在していた。 確かに『星川天乃』はあの場所に居たのだ。 寒かっただろう、心も身体も。己の事を想って、でも……届かない苦しみに独り耐えていたのだろう。 其れを表情や態度に表す事も無く。此の苦しみも彼が与えてくれている感情だと、幸せだと、言うのだろう。 何故、気づかなかった。 何故、気づけなかった? あの時、何かが違えば。繋ぎ止めておけば、彼女は今でも此処にいたのかもしれなかったのに。 薄い笑いがこみ上げて来る。寄りかかった壁が、何時も以上に冷たい。 真っ暗な世界から空を見上げた。 「よりによって、今日も雪だよ……」 想えば想うほど遠すぎる距離。 もう、埋まる事の無い、距離。 記憶を辿れば辿る程、君を失った世界が色濃い。 でも、一瞬。 ほんの刹那。 夢か幻か。 彼女の香りがした……ような、気がした。 |
星川・天乃(BNE000016) 新田・快(BNE000439) |
担当VC:ハツキリゥ 担当ST:夕影 |