息吐く暇も与えない――城内の防備は熾烈そのものだった。 天空城の静寂を破る闖入者を許すまじと立ち塞がる敵の数々を振り切った『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は、大きく息を吐き出して『この後』を考えていた。 (……流石に厳しい。どれ位万全な戦力が玉座に届くのか……) アンフェアなチェス・ゲームは今に始まった事では無い。だが、果たして今回の決戦が最高究極に難しい盤面を描いているのは天才たる彼女ならぬ凡百にも理解出来ている事実である。『神威』の砲撃の混乱を突いて突入したリベリスタの数は百を超えているだろう。何れも精鋭と呼べる強力な戦士達ではあるが、それをしても何の保証も無いのは言うまでも無い。 「そっちも無事だったんだね」 「御蔭様で」 柱の影に身を潜め、呼吸を整えたミリィに声を掛けたのは『NonStarter』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539) だった。敵地で見るリベリスタの顔にリィの空気も少しだけ緩む。現場全体の把握は不可能だが、ミリィの見知る範囲ではアークの健闘は相当のものだった。 ――地上は概ね問題ない。勝負は予定通り空って訳だ―― 彼女のアクセス・ファンタズムを鳴らした『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)の言葉も実に頼もしかった。 つまる所、アークは少なくとも『絶望(ナイトメア)』への挑戦権を得たという事なのだ。 「空の上の高い塔か」 「……悪趣味な、塔ですよ」 空を衝くそれを見上げたメイにミリィが嘆息した。 あの塔に到達するまでにはまだまだ苦労が多いだろう。 しかし、この苛烈なる天空城の歓待も――所詮は前座に過ぎないのは間違いない。 敵はあくまでウィルモフ・ペリーシュ。 「越えましょう」 越えられるかではなく、越えるのだ。 それ以外に術が無いならば――是非も無し。 運命を従え、捻じ伏せるから彼女達はリベリスタなのだから。 |