『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)がそれを確保出来たのは一瞬の判断。 しかし、その集中力が展開のあやを引き寄せた事実は重要だ。 何時も大事なモノを横取りしていく――塔の魔女にそれを渡さなかった事は大きい。 何よりも恵梨香は考えた。 (モリアーティの行動計画書は――アークの利益になる存在の筈……!) さもありなん。モリアーティは自身の行動計画書と万華鏡を重ねる事で『完璧』を目指したのである。逆を言えばアークが万華鏡とそれを重ねる事が出来たならば、それはモリアーティの望みを叶えた事になろう。 しかし、恵梨香は異変を察知していた。 「これは……」 手にした行動計画書の存在が希薄になっていた。 彼女自身はこの時点で知らない事実ではあるが――モリアーティは至極特殊な存在である。彼と行動計画書はその特殊な関係から、或る意味で一蓮托生だったのだ。モリアーティは行動計画書であり、行動計画書はモリアーティである。互いの欠損を決して認められない両者は『片方』の撃滅で消失する…… 「そうだ――」 恵梨香は希薄化する『アーティファクト』の存在感に咄嗟に機転を利かせていた。 入手した行動計画書が消滅するよりも早く、何らかの状況をこのアイテムに掛けるのだ。 具体的に複雑な条件付けを考える余裕も時間も無い。単純で、効果的な何かを―― ――アークが、これからも存続し、この世界を守る為の最適解―― 咄嗟に求めた答えは全く生真面目な少女らしいものと言える。 答えが得られるかは分からなかったが『使用法』さえ分からぬ恵梨香に果たして。 それは完全な消失と引き換えに『答えのようなもの』を返していた。 少女の赤い双眸が真っ直ぐ見据えたのは「今回は負けましたねぇ」と笑うアシュレイだ。 響いた答えは、極単純。 ――アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアを今すぐ殺す事。99・999%…… |