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鉄を鎧う猟犬達2>

「何よ。全然大した事無いじゃない」
 人の世の暗闇のそのまた裏。人知れず蔓延る大いなる神秘は神の呪いか寵愛か。運命が引き合うように互いの矛先を交わらせた『アークの敵』は皮肉にも『次なるアークの敵』とその存在を戦わせていた。
「自分から仕掛けておいて――退屈だわ」
 路地裏に伸びるシルエットに小さな体躯のものがある。『リコーダーを手にした少女』が鉄火場に相応しくない少し気の抜けた――『幼い』音色を奏でれば、物言わぬ筈の屍が望まぬ動を得るのはここ最近、この国のリベリスタ達が飽きる程見てきた光景だ。
「そりゃあねえ。腐っても『楽団』だ。
 久方振りの『同格』なら多少はね。でも、こっちにも事情があるしねぇ。
 お嬢ちゃん達、この国のマフィアに受けが悪すぎるんだよ。
 ちょっと点数稼いでおかないと纏まる話も纏まらなくなるからね。
 申し訳無いが、中尉の命令は絶対でね。死んで貰わないと始まらない」
 飛び掛かってきた『死体』を両手のナイフで切り裂いた坊主頭の軍人は口元に食えない笑みを浮かべたままそんな風に呟いた。「馬鹿じゃないの!」とややヒステリックな声を上げた少女は外見相応といった風だ。一方でこの軍人の――ブレーメ曹長のずんぐりむっくりとした体型はスタイルが良いとは表現出来ない。されと身長は低いながら如何にも鍛え上げられているその外見を裏切る事は無く、ブレーメの動きは素早かった。
「逃げてばっかりで勝てるのかしら?」
 嘲笑めいた少女にブレーメは構わなかった。彼が口にした通り、『親衛隊』と『楽団』は一応同格だ。得手とする力や『やり方』は違えど一筋縄で片付く相手では無い。
 アークのリベリスタを散々苦しめたネクロマンサーの戦術がどれ程厄介かは言うに及ぶまい。だが『それをそうと知って一人でやって来たブレーメと状況に優位を確信している少女』の認識はそのものの土台が違う。
 獣の如きその動きに業を煮やした少女が死体を一気に攻勢に移した。
 敵は一人。圧殺を旨とする楽団の敵では無い――

 ――されど、銃声。思惑を阻んだのは強烈な一つの『音』である。

 目の前で少女の頭が果物か何かのように爆ぜ割れた。
 声も無く、赤色をぶちまけて重力に崩れる少女はあどけなく可憐な元の姿を残していない。
「試合ならお嬢ちゃんが勝ってたかも知れねぇよ」
 ブレーメの言葉が本気かどうかは分からない。
 手強い敵が相手ならば極力楽な手段を取るのは当たり前だ。
 少女の性格と少女の能力を鑑みれば、これが手早い。堂々と現れた目の前の敵に集中するのは未熟であり、戦いの本質を知らない愚かである。『七派』のフォーチュナ能力を或る程度あてに出来る以上、情報戦で『親衛隊』が劣る理由等ない。
「全く、自分ばかり楽をするんだから。少尉は」
 服の汚れを払ったブレーメは恨み節めいてビルの屋上で紫煙を燻らせた上官に視線を送る。ライフルの銃口を一息吹いたアルトマイヤー少尉は素知らぬ顔のままである。
「……ええと、フュリ・アペレース、バッテンね」
 主の死と共に動きを失った死体共を一瞥しブレーメは呟く。
 後はガソリンか何かかけて燃やしてしまえば話は済む。『繊細な時期』に騒ぎを大きくするのは論外。『心象』を回復する為の仕事ならば、マフィアの面子は立てるに限るだろう。
「……あの人、手伝わないんだろうなぁ」
 何処か気楽なブレーメは頭をボリボリと掻いて一人こぼしている――