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BaroqueNight in the Witch II>

「南無阿弥陀仏――」
 如何な悪徳も果てれば彼岸。
『彼女』を悼む者は山と居よう、されど孤独な彼に手を合わせる者は僧侶の自分以外にはあるまい。
「――ええと、まぁジャックでいいか」
 目を閉じて、 焦燥院 フツ(BNE001054) が合掌する。
 かつて倫敦を、現代日本を、三ツ池公園を覆った無明の霧が晴れていた。悪辣な歪夜の主の『呆気無い』とも言える最後を境に深く傷付き、疲れ果てたリベリスタ達の間には刹那の安堵が広がっていた。
 しかしそれは単なる事実への反射反応に他ならない。
「『これから』よ――」
 彩歌・D・ヴェイル(BNE000877) の青い瞳が『ジャックが居なくなった今も変わらず、この場に『赤く赤く蟠る次なる闇』を見据えていた。
「フフ。本当に、今夜は得難い夜なのね。
 後、どれ位の『特別』を私に見せてくれるのかしら――」
「現界に在りながら深淵に到り、またその深淵を覗き込む……
 珍しい経験だが、させて欲しいとは思わないわなぁ――」
 フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)富永・喜平(BNE000939) の言葉はそれぞれの立場から愉悦と辟易をそれぞれ抱えてはいたが――その意味合いは概ね同じ一事を指していた。
「『穴』が――!」
 レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523) の声に緊迫が走る。彼女の視界の中で脈動したそれは不吉な赤い闇を何処からかこの世界に吐き出していた。それは、言われるまでもない現実。目の前には『儀式の主』を失って尚、その勢力を拡大せんとする『穴』がある。『塔の魔女』が言った穴がある。激戦の終わりに浸る暇も殆ど無く――リベリスタ達は『次』へと意識を切り替える事を余儀なくされていた。
「あらあらまあまあ」
 戦いの空気の爆ぜた戦場、新たな緊迫感を湛え始めた戦場にアシュレイの気楽な声が場違いに響き渡る。ジャックとの戦いでは成り行き上『味方』となった魔女だが元はと言えばこの事態は彼女が招いたものとも言える。
 リベリスタ達は気を許す事は無く、魔女に対して構えを取った。
 その、一方で。この穴を『閉じないもの』と称したのはこの魔女自身である。故に彼女は少なくともリベリスタよりは今夜の状況を知っている。これをどうすればいいかを知っている可能性があった。それは間違いが無い。
「責任、取って欲しいんだけど」
「全くっす」
 その顔に色濃く消耗を貼り付けた アンナ・クロストン(BNE001816) が苦笑を浮かべ、つい先刻自身が言った言葉の繰り返しに 宵咲 刹姫(BNE003089) は大きく一つ頷いた。
 唯、立っているだけで異質を感じる空間である。
『ジャック』という動の異物が消え失せれば、否が応なく際立つのは穴の魔性――静の違和感ばかりであった。
「何とか、ならないの?」
「これがしたかった事……には思えないんだが」
 目の前の女をどうも憎み切れない理由は同じか。 御厨・夏栖斗(BNE000004) が問い、 結城 竜一(BNE000210) が続けた。
「儀式は成立。ジャックは死亡。最後の一ピースは何処にある?」
 駒井・淳(BNE002912) の言葉にもアシュレイは微笑を漂わせるのみ。
 しかし、コン・ゲームは『彼』の言葉を境に動き出す。
「男はいい女と長話をしたいもんさ。でも、美人ってのは大抵気まぐれな猫みたいなもんでね。特にお前みたいなとびきりのは、扱いが難しいって決まってる」
 女木島 アキツヅ(BNE003054) の口元には確信めいた笑みがある。
「『敵』の渦中に用が済んで長居をするようなタマじゃないよな。
 今は『とっても味方、これ重要』なアシュレイちゃん」
「やるなぁ」
 アシュレイはアキツヅの言葉に破顔した。
 彼の言葉は色めいた軽口のその艶を湛えながらも、実に論理的に的確に魔女がここに居る意味を抉り出したらしい。
「嘘は言いません。この穴は普通では閉じられない。それは間違いありませんが……」
 アシュレイはちらりと赤い闇の奥に視線を投げ、それからリベリスタ達の顔を見つめた。
「結論から言えば拡大を『抑制』する方法はあります。尤も、『抑制』は『抑制』であって、閉じる事にはなりませんし、唯『結末を遅延』させる事でしかありませんけど」
 アシュレイは続ける。
「私の今の目的は『ジャック様を仕留める事』と『この穴を開く事』でした。ジャック様は倒れ、穴は姿を現した。
 ……皆さんには本当にお世話になりました。だから、私は皆さんに可能な限りで協力しようとも思うのです。それが『フェア』な取引……いえ、『愛すべき友人』に向ける誠意というものでしょうから」
 ウーニャ・タランテラ(BNE000010) は自身が先に告げた言葉を冗談めいて切り返すアシュレイに目を丸くした。
 アシュレイの目的は知れない。しかし彼女の言を信じるならば、何人かのリベリスタがかねてから読んでいた通り、彼女の『穴を開きたい』は『日本や世界に必要以上の、甚大な悪影響を与えたい』とはイコールしなかったという事だ。
「皆さんが望むならば今度は私が尽力いたしましょう。
 条件は、そうですねぇ。『私を見逃してくれる事』。方法は簡単です。穴を『抑制』するにはちょっとした儀式をやればいいんです。そうですね、皆さんの中に百人程……『運命を燃やし尽くしてくれる人』が居れば、すぐにでも……」
「――――」
「見逃せ」等とは何処まで本気か。悪戯な猫のような金色の瞳が笑っていた。
 いざという時ならば覚悟をしている者も、そうでない者も。晩御飯のおかずを尋ねてくるような気楽さでとんでもない事を言った魔女の言に応えられない。
 ……と、言うよりも初めから答えようも無かった。真実は彼女の中にしかない。手放しで信用出来る女では無いのだ。この、『塔の魔女』は。
「あはははははははは! 冗談ですってば!」
 森閑と静まった夜に全く空気を読まないような魔女の笑い声が響き渡った。
「お借りするのはそこに転がっている……あれ。無い。
 ええと、そこの――ラヴィアン様とトビオ様が動かした『賢者の石』ですね。大分消費してはいますが、まぁ『抑制』には足りるでしょう」
 名指しを受けた ラヴィアン・リファール(BNE002787)トビオ・アルティメット(BNE002841) が顔を見合わせる。
「皆さんには色々これからお話したい事もあるのですけど」
 石を元の場所に戻すように言ったアシュレイはそこで言葉を切って、血の色を失いつつある真夜中の月を見上げていた。
「長いお話をするには、お互い今夜は余りに傷み過ぎた。
 ……アークの方に、何れご連絡差し上げます。その時は是非に、よしなに」
 魔女(フィクサード)の行動は、結論は全て予定通りだったのだろう。彼女が再三口にした『占い』は恐らくは当たったのだろう。
 気に入らないのは間違い無い。
 口惜しいのは間違い無い。
 しかして、今夜彼等に出来る事は終わっていた。戦いは終わったのだ。魔女は穴を辛うじて『抑制』し、リベリスタ達は今夜を終える。どれ程にそれ以上を望もうとも、今この場に未来(さき)は無い。
「……あら」
 黒絹の片手袋を嵌めた左手を皿にするように宙に翳したアシュレイがふと呟いた。
「雪、ですね」
 言葉にリベリスタが空を仰げば暗い闇の向こうから影がちらちらと舞い落ちてきていた。
「そう言えば、クリスマスじゃないですか」
 雪が降る。ちらちら舞う。
 影が舞う。はらはら散る。
 多くの痛みと、悼みを抱え――聖夜はやって来る。
 素直にそれを喜ぶ事は出来なくても、リベリスタ達が噛んだのは苦い勝利の味でしかなかったとしても。

 ――決戦の夜は静かに、閉じた。


※ジャックの大規模儀式と『閉じない穴』の影響で崩界レベルが31→53に上昇しましたが、更なる拡大を続けるかに見えた『閉じない穴』はアシュレイのカウンター・マジックにより一時的な小康状態を迎えています!
 又、『閉じない穴』周辺は大きな悪影響が予想される為、三ツ池公園付近は一般には封鎖され、アークの管理下に置かれます。