計画にはトラブルは付き物である。 水を漏らさぬ覚悟で、考え付く限りの全ての対策を用意した所で、必ずしも常にその努力が報われるとは限らない。いや、多くの場合においては何事もなく報われるのかも知れないが、少なくとも人間の認識とは輝かしい成功体験よりも苦心惨憺たる悪い結果の方を強く印象に残すものであるらしい。 「……マーフィーの法則って言うんでしたっけ」 不都合を生じる可能性があるものは、いずれ必ず不都合を生じる――些か悲観的な考え方には違いないが、運命の性悪さを考えたならばあながち間違っているとも言い難い所か。 アークによる反撃を受けたのは手痛かった。 例の計画に利用出来る兵隊を先んじて失ったのは有り難くは無い。お陰であの粗忽なユミを使わざるを得なくなったのは予定外だ。 日本エリアの崩界度は魔女の言通り、日に日にその深度を増している。百年、それ以上にも一度とも言われる特異点の発生――運命の日までのカウントダウンは既に始まっている。同時にその『兆候たるもの』が現れたのも彼女の予期通り。『それ』を集めれば優位に事が進むという言も納得はいく所である。 多少の予定違いはあったが『計画』は概ね順調に進んでいる筈だった。 伝説は前に進んでいる。 間もなく、未曾有の時が訪れるだろう。 強者は更に盛り、主は世界中のリベリスタ、フィクサードに恐れられ、敬われる事だろう。 「……」 しかし、それでもシンヤの気は晴れなかった。 胸の奥で蟠る何とも言えない不快感、それは予感である。何かが起きる予感。そしてそれが有り難いものにはならないという確信。彼に未来を識る力は無かったが、自称『未来を視る』魔女の不誠実な予知よりは、彼は自分の勘を信じていた。 「マーフィーの法則って言うんでしたっけね」 言葉は繰り返された。 二度目を口にするとシンヤは「フ」と口元に笑みを浮かべた。 問題があるならば切除すればいい。 何者にも、そう何者にも主の伝説の邪魔はさせない―― ――高揚する彼はまるで自分がその為に生まれてきたような気さえして、いた。 ※日本エリアの崩界度が21から23に上昇しました。 |