「はーい、ゲームオーバーと」 時村邸襲撃失敗の第一報を聞いた千堂遼一は楽しそうに鼻を鳴らした。携帯を手にした彼は手慣れた調子で短縮ボタンをプッシュして、その報告を待つ自らのクライアント『御老人』に顛末の報告をする。 「……はい。はい。まぁ、そういう事ですね。砂蛇の狙いも分かりましたよ。何でも相良邸からお姫様をさらったとか。いや、良くやります」 受話器の向こうの声が満足そうなのを察して千堂は小さく肩を竦めた。最初から戦力を温存し――というよりはこの後の『三高平市総攻撃』に振り分けていたクライアントの組織は何も傷んだ所は無い。この作戦を熱心に主導していた主流派は別だが。 「逆凪さんも相当イラついてるでしょうね。潮時と言うか、何と言うか。ああ、やっぱりそうですか。連合は崩壊、まぁそりゃそうでしょうね」 まるで他人事のように言った千堂はフィクサード陣営が受けた相当の痛手にもまるで頓着した様子は無い。 「……元々、バランスの悪い計画だったんだ。連中、僕を撃退したんですよ? まともな連中じゃない。なら、これも遅かれ早かれですよ」 バランス感覚の男は言って小さく笑う。 そんな彼の表情が幾らか真剣味を帯びたのは次の瞬間だった。 「相模の蝮の姿が消えた?」 未だ笑みを含んだまま。しかしその眠そうな目に鋭い知性の光が宿っている。 「……黄咬砂蛇の姿も消えたって?」 この二つの情報は千堂にとっても些かの予想外だった。 蝮原は言うまでもなく、あの砂蛇も組織の意向を受けて動いていた筈である。単純な二つの事実は同じ意味を表している。 「……二人共、組織のコントロールを外れた……か」 受話器の向こうで「お前は外れてくれるなよ」と苦笑いする老人に二つ返事で頷いて彼は電話を切った。 「……うん、他人事だけど中々面白くなってきたじゃないか」 アークがこの機会に倒れる事は最早無い。 しかして、相模の蝮の結末まではあと一山といった所か。 「まぁ、二人共外れたならバランスは良いし――」 千堂は口笛を一つ吹いた。 「――精々、楽しませて貰おうかな」 |