「辛うじて……命拾いをしたという所か」 邸内から響く騒音が見る間に大人しくなっていた。 ざわついた気配と荒事特有の空気の濃度が減じている事に老人――時村貴樹は明敏に気付いていた。 「……これは、沙織の失点か? リベリスタに感謝しなければなるまいな」 荒れ果てた邸内の様子を見ればどれ程の激戦が行なわれたかは考えなくても分かる事である。『相模の蝮』のその牙を辛うじてかわした彼はそれでも怯える事は無く、油断無く彼を守る最後の護衛を従えたまま、大広間の戸を開けた。 「御老人、無事でしたか」 「お陰でな。そちらも大事ないようで安心したぞ」 「いえいえ、これが仕事ですからな」 傷んだリベリスタ達の姿に敬意を払うように目を伏せた貴樹に『静かなる鉄腕』鬼ヶ島 正道(BNE000681)は言葉をかけた。 大広間の荒れ具合は相当のものである。つい先程までここにあった男がどれ程のものか誰もが皆知っている。 「お怪我などはありませんか?」 「いや、大丈夫だ。助かった。有難う」 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)に貴樹は微笑んだ。達成感と疲労が滲んだ……傷付いたリベリスタ達の顔を一人一人見回しながら、彼は十分な謝意を伝えた。ひねくれた司令代行の御曹司と比べればこれが年の功というものか。彼を称して「男っていう生き物は自分の都合でしか連絡を寄越さないものだから」と言った『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)は小さく肩を竦めた。 「さおりんパパが無事で良かったのです」 心から安堵したような『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の言葉に素直でないこじりは「それはそうだけど」と素っ気無く付け足し視線を逸らした。 「まさかとは思ったがな、こんな手も使うか連中は」 「危ない所でした。他の場所も無事だといいのですが」 「確かに……予想外でした。カレイド・システムが感知しなかったのも気になります」 貴樹の言葉に『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)と『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)が頷いた。 「……きっと大丈夫なのだよ」 動くにはまだかなり億劫さを感じる所である。しかし、事の外気楽な調子で『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は笑った。 「信じる者は救われる。まさに今、証明された所なのだよ」 敵は『相模の蝮』である。これを撃退したのは他ならぬ面々の力なのだ。ならば信頼と連携で敵わぬ敵は外にも居まい。道理である。 「しかし……気になるな。砂蛇、か」 『捜翼の蜥蜴』司馬 鷲祐(BNE000288)の言葉に『Scarface』真咲・菫(BNE002278)が頷いた。 蝮原の狼狽の理由は分かる。 状況が彼にとって最悪で、アークにとって流動的だという事も。 果たして、フィクサード達の本意は何処にあるというのか? 「兎に角、何もかもこれからばい」 沈黙が降りた場に人の良さそうな『星守』神音・武雷(BNE002221)の笑顔がこぼれた。 今だけは、一先ず―― 但し書きはあれど危機は去ったのだ。 オズワルドの弾丸は届かなかった。 彷徨う彼の動向は、未だ掴めねど。 「ここはまだ危険ばい。早く行くとね。アーク本部に!」 |