人はよ、簡単に俺を下衆とか何とか言うけどよ。 正直、分からねえんだわ。 這い蹲って誰かの靴舐めて卑屈に卑劣に卑怯に他人の顔色伺ってばかりでよ? そんな生き方何が面白いんだ。 全く理解不能だろ。俺に言わせりゃ生物失格。イキモノってのはな、イキモノに生まれついたその瞬間から何でも競争原理にさらされてこそってもんだろ。糞食らえ、いっそ死ねよ。まず勝ってこそ、自分だけ生き残ってこそ何ぼじゃねえか――? 無機質なデジタル数字が2:04を示している。 部屋の主の気質を示すかのように乱雑に散らかったマンションの一室。床にべったりと座り込み、ビールの缶を傾ける黄咬砂蛇の目の前には車座に座る六人の男女が存在していた。それぞれ独特の雰囲気を持つてんでばらばらな面々である。肝心な砂蛇本人も含め、一見するだけでは誰にも共通項は感じないのだが……鋭敏な人間ならば雰囲気で分かるかもしれない。彼等は皆同じ世界に生きる似た『臭い』を漂わせていた。 「そういう訳だ。話はもう聞いてんだろ?」 あん? と柄悪く確認する砂蛇に一人の男が頷いた。 「何事かと思いましたけどね。黄咬兄さんの指名なんて。 碌な事じゃねーと思いましたけど。やっぱり碌でもなかったし」 軽い口調で言う彼――火吹は『ヴォルケイノ』の異名を持つ魔術師である。目の前の砂蛇との付き合いは長く『仕事』を共にした事も多い。 「本当にそうよぉ。見たいドラマあったのにぃ。まるで不幸の宅配便だわぁ」 紅一点『virus』のミヤビは胸元の首飾りを弄りながら厚めの紅い唇を尖らせた。五人がそれぞれ『突然の仕事』を依頼されたのはつい先日の事である。二人が言う通りそれは砂蛇からの指名だった。より厳密に言うなら『上』から命令を受けた砂蛇が仕事を受諾する条件に挙げたのがこの五人の召集だったという訳だ。 「がはは、そう言うなミヤビ。たまにはこうして顔揃えるのもええわい。何もお前が戦わんと、俺が全部片付けてやるけ」 「滾る仕事ではあるな。仕事と私情は別だが溜飲は『別腹』か」 とりなすように豪放に笑う固太りの男は、『岩喰らい』の匡。静かな口調で言葉を吐き出したのは『斬鉄』の刃金である。 「まぁ、いいじゃねえか。最高のパーティに混ぜてやろうってんだ。喜べよ。それとも別を呼んだ方が良かったか? あ?」 一同の声から吐き出した台詞とは裏腹の喜色を見出した砂蛇はそんな風に冗句めいた。 「あらやだ。砂蛇ちゃん、あたし以外で満足出来たの?」 「てめぇ以外なら誰でも満足出来るっての」 「砂蛇ちゃんちっちゃいからぁ」 「殺すぞ。てめぇがユルいんだろ」 「ほら、前に可愛い男の子と素敵な神父のお兄さん見つけたって」 「ハッ、あの尻は良かったなぁ!」 茶々を入れるミヤビに砂蛇はこれ以上無い位下品に笑う。 何を考えているのか物騒な談笑に興じるフィクサード達を傍目に沈黙を守る男――『夜駆け』のウィウを加えた五人は何れも彼にとって『珍しく気の合う』仲間であった。 今度受けた『ある命令』は砂蛇にとって愉快なものである。 ……とは言え、失敗しては元も子も無い。より確実にそれを達成する手段として集められたのが彼の考えるこの――最高の編成だった。 上は砂蛇の要求を受諾した。一同に多額の褒賞を約束している。 「腕が鳴るわい。楽しみだのう」 「ああ。糞つまらねえ仕事にはうんざりしてたんだ。 ハッ、こうでこそフィクサードじゃねえか」 腕をぶす匡に頷いた砂蛇の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。 何事も本懐を果たす事が大切である。 仁義? 人情? 正々堂々? そんなモンは糞食らえ! 「勝ったモンが一番強ぇんだよ。いつでもな」 車座からバカ笑いが上がった。 まだ彼等は闇の中。深い闇のカーテンの向こう側。 所変われば品変わる。矜持変わればやり方、変わる―― |