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【ほのぼのわーるど】ゆるいにんぎょうたち

●その人形、危険につき
 だるーん。
 のへー。
 ぐたー。
 
 擬音にすればそんな気の抜けた感じの人形が道に転がっていた。
 腕が長く垂れ下がっており、そのくせ足は短く不恰好。瞳の焦点はあわずに胡乱げに上を向いていた。表情もどこか緩んでおり、惚けているような口元がそれを増している。全体的な造型は正方形。四角く茶色い何かに長い腕と顔がついている。
 不恰好であるが故の癒し。そんなものがその人形にある。道の真ん中に転がってあったとしても、人によっては思わず拾い上げてしまうような愛嬌があった。
 利根川藍子もそんな女性だった。小さい頃は人形を抱いて寝て、今でも部屋のインテリアに人形を置いている。そんな現代社会の一女性。道に落ちてあるその人形を、思わず拾い上げてしまう。
「変なのー。かーわーいー」
 その姿に思わず笑い、そして汚れを払ってやる。きっと誰かが落としたんだな。そう思って誰かが探しに来たらわかるように人形を置く。軽く人形を撫でて。
「もうすぐご主人が探しに来るから、それまで待ってるんだよ」
 人形にそう呟く。ちなみに彼女の精神は正常だ。人形に語りかけたのは彼女本来の優しさと、日々のストレスからくる童心回帰な部分がある。何が言いたいかというと、
「ごしゅじんなんていないよー」
 人形から返事が返ってくるとは思わなかったことだ。
 え。自分の常識外の現象にショックを受けている間にも人形は立ち上がり、その腕を伸ばす。腕の長さが二倍、三倍、五倍……明らかに伸びて絡み付いてくる。
「ひ、ぃ……!」
 その腕から逃れようともがく藍子。しかしそれ以上の力で締め付けられ、身動きが取れなくなる。恐怖のあまり悲鳴を上げることすらできない。
「おねーさん、おねがいがあるのー」
 声は別のところから聞こえてきた。藍子の肩。そこにもその人形はいた。
「肝臓ちょうだーい」
「む……無理……」
 首を振る藍子。その耳に、
「胃袋ちょうだーい」
「肋骨ちょうだーい」
「脊髄ちょうだーい」
「心臓ちょうだーい」
「脳みそちょうだーい」
 かかる声は増えてくる。緩んでいた口は大きく開き、その中にはノコギリのような歯が並んでいる。あれに噛まれればどうなるのだろうか? 骨も内臓も食いちぎられるのではないか?
 逃げよう。ダメだ。腕が絡みついてる。逃げなきゃ。はやく逃げなきゃ。
 人形が迫ってくる。あと5cm……。
「なんで、どうして? ねぇ、何か悪いことした?」
 あと3cm……。
「私なんか食べても美味しくないよ。だってほら、健康診断で数値悪かったし」
 1cm……。
「たすけて。だれかたすけて。私ころされる……」

 0。

●黒猫とリベリスタ
「そして始まる血の宴(スプラッター)。そんな未来だ」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は肩をすくめて『万華鏡』から得た未来を締めくくった。
 集まったリベリスタのほうを見る。嫌悪感と怒り。そして伸暁の怪談めいた喋り方に怯えるものもいる。
「この人形は異世界の生物だ。数は六体。名称は『ゆるキモ』。文字通りゆるくてキモい人形だからだ。手が長くて足が短い。首もない四角形の座布団型人形。そんなアザーバイド。
 見た目はそれ好みの人を癒す風貌だが、人を食うらしい」
 比喩じゃなく文字通り、な。そう付け加えて伸暁は近くにあった物を掴んでを口に運ぶジェスチャーをした。三度咀嚼してから飲み込むところまで行なう。芸が細かいことだ。
「能力はさっき説明した通りだ。腕で相手を絡み付けて、噛み付く。単純だが、威力は高い。気をつけてかかってくれ」
 集まったリベリスタはモニターに映った人形の歯を見て、確かに痛そうだと口には出さずに納得した。
「急げばレディを巻き込む前に人形のところに到着できる。お前たちが先に人形を倒してしまえば、彼女は何事もなく平和に明日を迎えることができる。OK?」
 指を鳴らし、人差し指をリベリスタたちのほうに向けた。悔しいが様になってる。
「連中は逃げることは考えない。こっちの世界の存在を餌としか思っていないみたいだからな。全滅させるまで戦ってくれ」
 言われるまでもない。決意の瞳を宿し、リベリスタたちは互いを見つめあった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月20日(日)00:08
 どくどくです。
 キモカワ系に癒されます。

 このシナリオはらるとSTのリプレイ『うさぎのこうぶつ』、黒歌鳥STのリプレイ『【ほのぼのわーるど】すききらいのないうさぎ』、ももんがSTの『【ほのぼのわーるど】山狩に行こう!』と関連性があるように見えますが、微妙なところです。

◆成功条件
 アザーバイド『ゆるキモ』の討伐。

◆敵情報
『ゆるキモ』6体
 瞳の焦点は合わず、表情も胡乱げ。
 四角くて茶色い座布団に長い腕のようなものがついて、顔がある。そんな人形です。

スキル
 うでがのびる:神遠単 腕がのびて相手を拘束します。ダメージ無。呪縛。
 いただきます:物近単 ノコギリのような歯で噛み付きます。出血。
 むしゃむしゃ:自付  口に含んだ物を咀嚼します。リジェネレート40。

◆場所情報
 時間は夜間。人通りの少ない通り。光源はやや不安気味。
 利根川さん以外の人が来る確率は低いです。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
クリミナルスタア
桐生 武臣(BNE002824)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)
★MVP
ソードミラージュ
津布理 瞑(BNE003104)
デュランダル
エクス キャリー(BNE003146)

●ゆる
「ゆるキモスプラッタかー」
『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)は懐中電灯をリボンで腕に固定しながら、目の前のアザーバイドを見た。座布団状の身体に長い腕。気の抜けた表情だけど彼らが求めるのは食人なのだ。
 そういう設定のキャラクターは確かにある。瞑もUFOキャッチャーで見たことはある。だがそれが実在すると胸糞悪い。
「全然ほのぼのじゃないよね!」
 騙されたわ、とばかりに地団駄をふむのは『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)だ。なにに騙されたかはともかく、目の前にいるのは人を食らう凶悪なアザーバイド。けして逃すつもりはない。
(こいつらもきょぬ~好きなのか?)
 過去の事件を頭に思い浮かべながら、『素兎』天月・光(BNE000490)は自らの肉体を抱くように守る。こいつらが欲するのは内臓なのか、それとも胸なのか? 脂肪ならいいのか? いいや、脂肪を含めた内臓全てなのか?
「敵だ! 倒すべき敵だ! こいつら絶対敵!」
「いまさら何言ってるんだ?」
『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)は突如叫びだした光に向き直り、ツッコミを入れた。今回の討伐対象があの人形であることはいまさらなのだ。少し暗い戦場を懐中電灯で照らしながら、改めてアザーバイドを見る。眉をひそめて思考までして出た言葉は、
「うーん…可愛いか? あれ。解んねえ感覚だわ……」
「同感。確かに踏んづけ易いツラはしてると思うが」
 軽自動車のライトで戦場を照らし、強結界を展開しながら『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)はサングラス越しに人形を見る。四角の生命体は、確かに踏み心地のよさそうな弾力がありそうだ。美醜はともかく、一般人に危害を加えるならぶっ潰すだけだ。
「え? ぐたーとした人形さんってかわいいですよ」
 そんな意見に対するのは風見 七花(BNE003013)だ。他のリベリスタの何かいいたげな視線を受けながら、言葉を続けた。
「ついつい机の上にのせて勉強机のスペースを占拠されてしまいます」
 何かを反論しそうになって、まぁ十六歳の少女だしなぁ、と思って言葉を引っ込めるリベリスタたち。もちろん七花だってわかってる。相手は文字通りの意味で人を食うアザーバイド。可愛いからといって加減をしていい相手ではない。
「友好的なアザーバイドさんだったらよかったのですが……残念です」
 マジックガントレットを腕にはめ、ゆるキモのほうに向き直る。その眼光はもはやリベリスタのそれ。一般人に害をなすものを守る神秘の申し子。
 他のリベリスタたちも武器を構える。
「にんげんだー」
「おいしそー。おねがいがあるのー」
「眼球ちょうだーい」
「耳朶ちょうだーい」
「唇ちょうだーい」
 ガチガチと葉を鳴らしながら、アザーバイドは肉体を食べ体、と主張する
「見た目に反して、エグいやつらだな……」
 桐生 武臣(BNE002824)はアザーバイドの要求を聞き、嫌悪感を露にする。すっていたタバコを地面に投げ捨て、靴で踏みしめてから紫煙を吐く。ゆらゆらと揺れる煙が、夜の闇に消えた。
「見た目的にはあまり好ましくないが……」
 エクス キャリー(BNE003146)が剣を構える。実戦経験は少ないが、今まで振るってきた鍛錬が戦闘前の震えを消した。柄を握れば心が落ち着き人を襲うアザーバイドへの恐れが消えていく。
「気を引き締めて打たせてもらおう」
 エクスの言葉に皆気を引き締める。自分たちが倒せなければ、犠牲者がでるのだ。幻想纏いからそれぞれの武器をダウンロードし、リベリスタたちは地面を蹴った。

●ゆるキモ
「内臓が欲しいのか? 骨の髄までしゃぶりつくしたいのか? ならば、僕を喰らうがいい!」
 集団の中で最初に動いたのは光。自らのギアを上げながら速度を増し、ゆるキモの中に突っ込んでいく。高速で移動しながら残像を残しつつ刃を振るう。流れるような剣の動きが人形の腹を凪いだ。
「なあ、知ってるか?ゆるキモども! 健康体の僕は心臓も、肺も、胃袋も全部美味しいぜ?」
 夏栖斗は胸元をはだけて、相手の攻撃をひきつけようとする。相手の数はこちらの前衛よりも多い。できるだけ相手をひきつけようとあえて人形の気を引いた。
「僕を食べれば強くなれるかもよ? 捕まえれたら好きなだけくわせてやんよ!」
 多少のダメージは覚悟の上。自らの犠牲の上で勝利が得られるのなら安いものだ。仲間を信じて自らは人形の狂気に身をさらす。
「ほっぺたちょうだーい」
「のどぶえちょうだーい」
 ゆるキモの手が夏栖斗に伸びる。そのいくつかを手で払うが、全てを払い切れずにその一つが絡まる。そして人形が、夏栖斗に向かって殺到する。ノコギリのような歯が夏栖斗に食らいつく。その痛みに耐えながら夏栖斗は叫んだ
「美峰、七花! まとめてけちらせ!」
「わ、わかりましたっ」
 ゆるキモ全員を視界内に入るように移動していた七花が、マジックガントレッドを突き出す。集約する魔力がガントレッドに集い、淡い光を発する。魔方陣より生まれた稲妻が戦場を駆け巡り、アザーバイドを撃った。きゃー、と緊張感のない悲鳴を上げて転がる人形。
「あいよ、頑張るとするか!」
 美峰は不可視の盾でリベリスタ全員を守護し、自らの傍らには補助用の子鬼を召還する。自らを前衛と後衛の位置につけて、戦場全体をコントロールできる場所に立った。その上で札を取り出し、印を切る。凍えるような雨粒が、ゆるキモに降り注ぐ。冷気がアザーバイドの体力を奪っていく。
「無茶するなよ、夏栖斗!」
 後衛で待機するエルヴィンは集中砲火を浴びている夏栖斗に向けて癒しの吐息を送る。体内で循環するマナが流れ出るイメージ。やわらかく暖かい風が、包み込むように仲間の傷を癒していく。
 エルヴィンの戦いは『守る』戦い。傷つくものあらば癒すこと。敵を穿つわけではないが、これも立派な役割。
「……てめーら一体どこから来やがった?」
 タバコを吹かしながら武臣が問いかけた。そしてアザーバイドの視界から武臣が消える。疑問符を浮かべる前に背後から響いた銃声。超スピードで消えた武臣に背後を取られ、そのまま撃たれたのだ。深紅に染まった武臣の羽織が、さらに紅に染まった。
 オートマチックを構えたままタバコを口にして、その味を肺一杯に溜め込んだ。武臣の思考がクリアになっていくのを感じる
「悪いがお前は押さえさせてもらう」
 エクスは手に馴染んだ剣を構えて、自らの手を通じてエネルギーを剣に集中させる。自らと武器が一体化する感覚。幾度となく剣を振るってきたものが得られる熟練の結果。注ぎ込まれたエネルギーを叩きつけるように、ゆるキモに剣を振り下ろした。エネルギーがゆるキモを吹き飛ばす。
「内臓とか心臓とかちょーだいって、イヤだって言ってるんだからガタガタ騒ぐな!」
 二本のナイフを構えて瞑が疾駆する。反応速度を上げながら右に左にステップを踏んで相手を幻惑する。二刀のナイフを交互に繰り出す。虚と実。右と左。一撃はけして重くはないが、しかし幾度となく襲いかかる刃にアザーバイドは確実に傷ついていく。
「血管ちょうだーい」
 痛みを感じていないかのようにアザーバイドの口調は区変わらない。ゆるキモな外見がその不気味さを一層深めていた。

●キモゆるキモ
「次はこいつに集中!」
 夏栖斗が指示すると同時に拳を叩き込む。振動がアザーバイドの体内を駆け巡り、脳に相当する部分を激しく揺らす。
「おう! かじってくれたお礼だ! 人参食べろよ!」
 その指示に従い光が人参の形をした剣を振り下ろす。ギアをあげた光の速度にゆるキモは追いつけない。その剣の動きを知覚した時にはすでに刃は身体に入っている。
「……鉛玉でも喰っときな」
 武臣の抜き打ちが集中砲火を浴びせていたゆるキモを穿つ。そのアザーバイドはその弾丸で倒れ、そのまま動かなくなった。硝煙を払うように銃を振るう武臣。
 リベリスタたちの戦略は、各個撃破だ。一体ずつ数を減らし、後衛に行かさないように包囲網を狭めていく。受けたダメージを癒しながら、後衛の火力と共にじわじわとアザーバイドを追い詰めていく。
 しかしゆるキモも無抵抗ではない。腕を伸ばして動きを拘束し、噛み付いて傷をつけていく。うにょーんとのびる腕が、頑丈な夏栖斗と回復を行なっているエルヴィンに向かって伸びた。
「すまん。年下を守るのはおねーさんの役目だってのに!」
 美峰はエルヴィンを射線に含めないように動いていたが、複数の射線から守り抜くことは不可能だった。
「うわぁ!」
「くっそ。取れねぇぞこれ!」
 瞑やエクスが伸びた腕を切り裂くが、絡みついた腕はテープみたいに粘着していてはがれない。そのうえゆるキモの腕は植物のように根元からにょーんと伸びていた。きりがないと、諦めるリベリスタたち。
「腎臓ちょうだーい」
「膵臓ちょうだーい」
 何も考えていない顔のゆるキモだが、思考能力がないわけではない。この戦いの中でリベリスタたちの役割をを見極め、戦略上厄介そうな相手から拘束していた。そして全体攻撃を仕掛けてくる七花にも腕が伸びてくる。
「おおっと、させないよ」
 それを庇うように美峰が動く。ぎちりと拘束されるが、それでも構わない。彼女の役割は戦場コントロール。インヤンマスターの面目躍如だ。何より彼女を庇ったことには意味がある。
「皆さん。いきますよ」
 七海から波紋のように広がる淡い光。それは困難な状況を打ち砕く力を与える勇気の光。絡まっていたゆるキモの拘束が緩み、自由になるリベリスタたち。
「大腸ちょうだーい」
「足の爪ちょうだーい」
 残ったアザーバイドがくちゃくちゃと口に含んだものを咀嚼する。どうやら長期戦になると踏んだらしい。お腹に物を入れ、自己回復を促進させる。
「ハンバーガーとか人間の食べるもの食べてれば可愛気もあったろうに!」
 瞑がナイフを繰り出しながら文句を言う。目の前で食べているのは、仲間の身体であり、あるいはどこかで襲った人の一部なのだ。緑とピンクのオッドアイがアザーバイドを睨みつける。思考より先に体が動き、二本のナイフが空を斬る。回復以上のダメージを与えてしまえばいいのだ、といわんばかりに。
「しぶとい……!」
 幾度となく斬りつけているのに、まだ倒れないゆるキモの耐久力にエクスは悪態をつく。ダメージがないというわけではない。アザーバイドが頑丈なのだ。ゆるキモに齧られて出血している部位を抑えながら、剣を構える。幾度となく幾度となく繰り返してきた構え。そして戦い続ける以上これからも続けるであろう構え。ただ硬派に。力の限り、戦闘に身を投じていく。
「ハハッ、この程度唾でもつけておけば治るよ!」
 ゆるキモに噛み付かれた光は、お返しとばかりに自らの武器をアザーバイドの口内に叩きつけた。その武器をも飲み込もうとする食欲に感心しながら、そのまま押しつぶそうと力を込める。しばらくじたばたもがいていた人形は、糸が切れたように動かなくなった。
これで前衛の人数とアザーバイドの人数が逆転する。
 少しずつ、ゆるキモへの包囲網は狭まっていた。

●ゆるキモゆるキモ
「心肺ちょうだーい」
「……てめぇばっかり喰うのもフェアじゃねぇな」
 長期戦になれば、重要になるのは体力ばかりではない。スキルを放つエネルギーも枯渇してくる。足らないエネルギーを補充する為に、武臣はゆるキモに噛み付きエネルギーを補充した。
「余裕ねぇなぁ、ちくしょう」
 エルヴィンはゆるキモが伸ばす腕や咬傷の対応に引っ切り無しだ。かまれたときの出血も積み重なれば大きなダメージになる。余裕が在れば自動治癒の加護を味方に付与しようと思っていたが、そんな余裕はとてもない。しかしエルヴィンの奮闘あっての戦線維持である。彼の『守る』力がなければ前線は崩壊していただろう。
 そして七海と美峰の稲妻と雨は確実にアザーバイドの体力を奪い、殲滅速度を速めていった。七海は機械の肉体がエネルギーを生み出し、美峰は自然の中からエネルギーを得る術を会得している。この二人の攻撃は、まだまだ止みそうにない。
「これで!」
 エクスは剣を振り上げ、移動のエネルギーをそのまま剣のベクトルに加え、身体をひねって振り下ろした。力が足元から身体を伝って武器の先端に届くイメージ。剣そのものの切れ味と重量ではない。エクス キャリーそのものが剣となって唯敵を切り裂く為だけに動く。
 その一撃がアザーバイドを吹き飛ばし、動かぬ人形と化す。
 ようやく倒した。安堵するエクスに仲間の仇とばかりに飛び掛るゆるキモ。ぎざぎざの歯がエクスに迫る。
 割って入ったのは褐色の肌の少年だった。
「大丈夫か」
「夏栖斗か……すまない」
「こんくらいまかせとけ」
 噛まれた部位から血を流しながら、それでも気丈に夏栖斗は微笑んだ。
「今夜、犠牲になる利根川さんがそうならないために、ぼくが傷ついても構わない!」
 光は回避力に秀でる。その足捌きで複数のアザーバイドの攻撃を右に左に避けながら踊るように剣を振るっていた。もちろんどれだけ回避力が高くとも、全ての攻撃を避けれるわけではない。事実、光は度重なる攻撃で息絶え絶えになってきている。
 だけど傷つき倒れるつもりはない。勝利を勝ち取るために戦うのだ。
「最後の一匹、ゲットー」
 瞑のナイフがゆるキモに迫る。刃の軌跡がまるで詰め将棋のように逃げ道を塞ぎ、四閃目で顔の部分を切り裂いた。それが致命傷。
「筋肉ちょうだーい」
 最後までゆるキモはそのキャラクター性を崩すことなく喋って、物言わぬ人形となって地面に倒れ伏した。

●そして平和な夜の街
「Dホールは……なさそうだな」
 リベリスタたちはゆるキモがやってきた『穴』を探したが、見つからなかった。捜索を終えてから、さてどうしたものかという顔でゆるキモの残骸を見る。
「……どーすんだコレ、伸暁の土産にでもするか?」
 エルヴィンは力尽き果てて本当にぬいぐるみとなったゆるキモをつまむ。
 異世界の生き物であるとはいえ、ゆるキモは人形系生物。そしてその命が尽きれば、本当に唯の人形でしかないのだ。
「えと、こっそり持ち帰っちゃだめですよね……」
 おずおずと七海が言う。倒れている人形はもはや神秘の断片もないただの人形だ。死体(?)を隠す意味も含めてリベリスタが管理するのはいいのではなかろうか。
「ま、こっそりじゃなく報告はしておいたほうがいいかもな」
 その言葉に比較的傷ついていない人形を拾う七海。口元が少し緩んでいる。
「あ、じゃあ僕も。妹の土産にしよう」
 そして夏栖斗も人形を一つ拾った。彼自身は七海ほど興味はもてないが、妹が気に入りそうと思ったのだ。
「座布団に座るとき口がついてねぇか、思わず確認する癖がついちまいそうなヤツらだったな」
 七海が抱く人形を見ながら武臣が呟く。他のリベリスタも思わず呻いた。
「さーて、お金お金っと」
 美峰は幻想纏いに武器をしまいながら、報酬の算段をする。人形には癒されないが、仕事の報酬は癒される。頑張ったかいがあるというものだ。
「あれ? 瞑は?」
「ああ、彼女なら……」

 戦場から少し離れたところに、利根川藍子はいた。強結界の効果によりいつもと違う道を歩いていた彼女は、地面に落ちてあるぬいぐるみを見つける。ゆるゆるした表情のネコのぬいぐるみ。
「変なのー。かーわーいー」
 それを拾い上げる利根川さん。泥を払ってその姿に癒される。
「すみませーん。それうちのです」
 遠くから走ってくる瞑。
 現代社会に生きるオフィスレディのストレスを癒せるのなら。そう思って彼女の道先に自分のもつゆるネコぬいぐるみを置いたのだ。
「あ、そうですか。はい」
 利根川さんは人形を瞑に渡し、そのまま帰路につく。
 その姿が見えなくなるまで見送ったあとで、瞑も仲間のところに戻っていった。

 利根川藍子は明日も変わらず仕事に忙殺されるだろう。だけどそれは彼女の物語。
 その物語を守ったリベリスタたちは、疲れた身体をほぐしながら日常へと帰って行った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 ほのぼのしていただけたでしょうか?

 HP高い人間が盾になったり庇ったり、バッドステータス回復要員を守る手段がしっかりしていたのは見事です。単純な戦闘依頼の中でもキャラクターの個性と思いが伝わってきました。
 MVPは迷いましたが、戦闘後の行動で津布理様に。利根川さんはしっかり癒されて、明日も仕事にがんばるでしょう。
 
 ほのぼのわーるどは続くかもしれません。どくどく以外のSTが書くかもしれません。書かないかもしれません。

 ではまた三高平市で。

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レアドロップ:『ゆるきも』
カテゴリ:アクセサリー
取得者:御厨・夏栖斗(BNE000004)
風見 七花(BNE003013)