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傀儡の奏者

●Own fault.
 さて、今俺の前には一つの薬瓶がある。半透明なオレンジ色の瓶の中に、白色の錠剤が数十粒見える。効能は、わからない。ただ、これを飲むと高揚感が得られる、とだけ聞いている。
 買ったのは昨日、居酒屋で飲んだ帰りに、たまたま通った路地裏で、いけ好かないおっさんに会った時だ。おっさんはこれを合法的な麻薬のようなものだと言った。酔っていたといっても記憶や理性が飛んでいたわけではない。俺は至って冷静にこれを買ったのだ。仕事の疲れやストレス、人間関係がうまくいかなかったりと、あまりに不安定な精神状態がそれを促したのだろう。現に今、俺はこの薬を飲むためにそこに置いたのだから。
 薬瓶のふたをゆっくりと開け、中の錠剤を取り出す。用量は一度に二錠。薬を口の中に放り込もうとして少しためらったが、ストレスや疲労からの解放への欲求が、それを後押しする。息を飲み、覚悟を決め、薬を口の中に入れ、水で一気に流しこむ。
 心臓を高鳴らせながら、じっとその場に留まる。何が起きるのだろう、という期待とも不安ともわからぬ感情が生まれる。やがてそれは多幸感となって俺の頭を占拠する。仕事とか義務感なんてものがもはやどうでもよくなってくる。何かから解放されたような爽快な気持ちになり今ならなんでもできそうな全能感さえ生まれた同僚や上司はもはや軽蔑の対象だあいつらに従っていた自分が馬鹿なんだあいつらにかまうひつようなどどこにもないじゆうなんだそうだあんなむのうなばかどもはいっそしんでしまえばいいんだそうでないならコロシテシマエバイイソレデボクハシンニカイホウサレルンダソウダボクニデキナイコトナドナニモナKUTEQASWDEFRGTHYJUKILOPmn97yuv5c5ibnuvvhji76cfhjhj--。

●Other's fault?
「当該対象のフィクサードはとある路地裏の廃屋をアジトとしています」
 フィクサードに関する資料をリベリスタたちに渡しながら、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は淡々とした口調で説明していく。そこに表情は特に無く、ほんの少し冷淡さが伺える。
「『傀儡の奏者』伊織彰彦。メタルフレームのクロスイージスで、攻撃能力は保持していますが、基本的に防御が主体のようです。かつて薬品会社で働いていたそうで、彼の影響を受けて覚醒したアーティファクトも、そういう性質を受け継いでいるのでしょうかね」
 そう言って和泉は一枚の資料をリベリスタに見せる。そこには極普通の、無色透明の瓶の写真と、それのもつ能力が記されていた。
「名は『メディスン=ファクトリー』。小瓶のアーティファクトで、その中の物質に特殊な効能を与えることができます。ただわかっている限りでは飲み薬としてしか効果がないようです」
「その特殊な効能ってのが、これか……」
「はい。服用者の精神を破壊し、アーティファクト所持者の傀儡にします。要は奴隷生成薬ですね。服用者はロボトミー手術を受けた患者のように一切の自我や感情が抜け落ちてしまい、再起も望めません……お気の毒ですが、エリューションと同じように倒してしまうのが一番でしょう。まぁ、彼らも麻薬としてそれを購入していたようなので、自業自得と言えばそれまでですが。
 傀儡となった服用者は、9人。エリューションで言えばフェーズ1相当ですが、すべての行動は伊織彰彦の指揮下にありますので、体感的にはそれよりも強力であるかもしれません。当然ですが服用者の受け取ったすべての情報は彼に筒抜けです。彼は件の廃屋の3階におり、各階には3体ずつ傀儡を置いているようですので、それまでに彼にあなたたちの弱点でも知られれば、厄介になるでしょうね。
 では、お渡しした資料を元に、きちんと準備して任務にあたってください」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:天夜 薄  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月17日(木)23:48
どうも、天夜薄です。

●目的
 フィクサード1名の撃破あるいは捕縛。生死については問わない。
 アーティファクトの回収あるいは破壊。
 傀儡となった服用者の撃破は任意とします。彼らは当該フィクサード及びアーティファクトを処理した時点でフィクサードの指揮から外れます。その後の処理はアークが行うでしょう。

●敵・アーティファクト
・『傀儡の奏者』伊織彰彦
 無職。元製薬会社社員。メタルフレームのクロスイージス。
 クロスイージスの初級スキルを所持。

・『メディスン=ファクトリー』
 小瓶のアーティファクト。自身の内部にある物質に、飲用者をアーティファクト所持者の傀儡にする効果を付与します。飲用時、飲用者の精神を破壊するため、飲用者は再起不能。
 なお、直接的な攻撃能力は持たないが、アーティファクトが所持者に傀儡の指揮権利を与えているため、アーティファクトの破壊は傀儡の解放と同義です。

・傀儡
 エリューションに換算するとフェーズ1相当の強さ。また、彰彦の所持スキルを扱うことができます。彰彦の指揮下にあるため、統率は取れています。9人全てと戦うことになれば苦戦は免れないでしょう。通常はあくまで人間として常識の範囲内の行動しか取れないので、浮遊するなどはできません。行動は飲用者の体力に依存するので、飲用者が死亡した場合は動作不可となりますが、服用時点で生命維持活動(飲食、就寝など)の必要はなくなるため、傀儡から解放するには彰彦の指揮下から逃れさせるか、殺害するしか道はありません。

●戦場・戦況
 3階建ての廃屋。各階にはそれぞれ3体ずつ傀儡がいます。壁は彰彦によってほとんど取り払われて障害物のないシンプルな構造となっているため、リベリスタ全員と敵が十分に戦えるだけの広さはあります。傀儡は彰彦の指揮により、リベリスタたちが上の階に行くのを阻止しようと動くので、無理に3階まで突っ込むと最悪8対10という劣勢を強いられる場合もありますので、その辺はうまく作戦を練ってください。

●備考
 傀儡に慈悲は必要ありません。慈悲をかけた所で、彼らは元に戻らないのですから。
 彼らをこんな目に合わせたフィクサードを討ち、これ以上被害者を増やさせないと誓う、正義感の強いリベリスタの方々のご参加をお待ちしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
プロアデプト
老神・綾香(BNE000022)
クロスイージス
★MVP
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
インヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
覇界闘士
衛守 凪沙(BNE001545)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
ナイトクリーク
クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)

●Drug and Drunk
 薬、麻薬、毒。その違いは人体にどんな影響を与えるかによる。優れた薬も過剰の摂取で毒となり、麻薬も使いようによっては薬となる。『メディスン=ファクトリー』と呼ばれるそれが作り出した物質は、果たして本当に『薬』を生み出すものだったのだろうか。
 どちらにしろこんな物が世に存在してはいけない。『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)は目の前の廃屋の3階にいるであろうその悪魔に、思いを馳せる。悪魔は飲んだ者を操るだけでなく、その所持者さえも踊らせているような、そんな気さえした。そして操られるように、彼らは悪魔を退治しにいく。
 廃屋に入り、彼らが傀儡たちと対峙すると同時。
「うるとらぁぁっ☆かみなりぃぃぃっ☆きぃぃぃっくぅぅっ!!!!」
 雷鳴の如き叫びを伴って、『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)は傀儡の一体を吹き飛ばす。
「容赦無いですね」
 と傀儡を引き付けつつ、『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)は言う。心のなかは謝罪の気持ちで満ち溢れていたけれど、彼女はそれをぐっとこらえた。
「なんにせよ、マンボウ君の錆になるので関係ありませんし?」
 雪白 桐(BNE000185)は自分の請け負った傀儡に斬りつけつつ言う。仰け反ろうと叫び声もあげず、ただこちらに向かってくるそれに、桐は恐怖を感じずにはいられなかった。
「しっかし硬いね。ちょっと長くなりそうかな」
「痛いよ……何するんだい」
 凪沙と対峙した傀儡が頬を抑えて微笑む。凪沙は思わずたじろぎ、傀儡はその隙を狙うが、四条・理央(BNE000319)がそれを阻む。
「15点。表情が死んでて、わかりやすいよ」
「ご忠告、感謝する」
 傀儡がニヤッと笑う。その表情には、先ほどと違って明らかな悪意が詰まっていた。
 凪沙と理央は傀儡から少し距離を取る。その後ろでは、桐が傀儡と斬り合っていた。いや、傀儡からすれば殴り合っていた。剣と腕。ありえない斬り合い。
「生身の人間に刃物で斬りかかってくるなんて、卑怯だと思いません?」
「非情な貴方よりはましだと思いますね」
「他人の価値観でそれを言われてもねぇ」
 傀儡の腕がボディを狙う。桐は素直にそれをいなし、後退する。『罪人狩り』クローチェ・インヴェルノ(BNE002570)と『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)が、その間に割って入る。
「お前さんの価値観も、大概だがな」
「価値観が高尚だなんておこがましいことを言うつもりもありませんよっと」
 クローチェが不意を打って攻撃するのを、傀儡は慌てて避ける。
「あなたの存在自体がおこがましいということを知りなさい」
「そっくりそのまま、返しますよ」
 傀儡は大上段から拳を振り下ろす。鉅がそれを左腕で受け止め、弾く。左腕を抑える鉅を横目に、クローチェと桐が傀儡を挟み、両側から斬りかかる。傀儡はクローチェに向け十字を切り、その軌跡から光線が放たれる。クローチェは怯むが、桐の放った斬撃を傀儡は避けられず、ゴトッという鈍い音を立てて左腕が落ちた。
「ほう、首ではなく、腕ですか」
「えぇ、彼女がいましたから」
 傀儡はゆっくりと振り向く。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が、その眼前へと迫っていた。

 理央が傀儡を引き付けつつ、凪沙がその隙を叩く。綾香も加わり、徐々に傀儡の動きも鈍ってきた。綾香は攻撃を受けつつ、傀儡をはじき飛ばす。その先には、傀儡と互角に殴り合っている躑躅子の姿も見えた。
「面倒だ、二人共片付けてしまおう」
「えぇ、そうですね」
 凪沙が躑躅子の相手していた傀儡を、倒れこんだ傀儡と同じ場所に吹き飛ばす。躑躅子はそれに合わせて、魔落の鉄槌を放つ。その一撃が、片方の頭を砕く。もう一体の傀儡は素早く起き上がり、綾香に攻撃を仕掛ける。綾香が攻撃を受けきった時、突如傀儡は糸の切れたように崩れ落ちる。その後ろには鉅がスローイングダガーを手に立っていた。
「やれやれ……これでも厄介ごとはまだ序の口か」

●Doll or Puppet
「痛い……痛いヨォ……」
 二階に上がると、三体の傀儡がのそのそとこちらに向けて迫ってくるのが見えた。それは人や人形というより、ゾンビの仕草。
「……悪趣味だな」
 綾香は吐き捨てる。心を壊し、意志を奪い、悪意を宿す。こんなことができる人間に、心はあるだろうか。それが少しでも心をよぎると、彼女は寒気に襲われた。
「こういう愚図でも生きられる世の中ってのも、皮肉なもんだな」
 ユーヌは呟く。三体の傀儡が体をピタっと止め、次の瞬間には素早く動き出した。
「ふん、わかりやすいね」
「半端にやるなら、なんで演技なんてするのでしょうかね」
 躑躅子は向かってくる傀儡の一体にヘビースマッシュを叩きこむ。残りの二体が彼女の方を向くが、理央と鉅がそれを庇い、凪沙と桐がそれぞれの傀儡を分断しにかかる。
「少し離れてくださいね」
 桐はやや大ぶりに剣を振るう。傀儡はゆったりとそれを避け、やがて孤立する。ユーヌが背後から攻撃を仕掛けるが、ダメージの気配が少ない。
「面倒なスキル使ってんだろう? ちょっとそれ剥がさせろよ」
 言葉に気を取られ、傀儡が振り向く、その動きの隙をつく。壁に頭を強く打ち付け、傀儡のまとっていた光のオーラが消える。
「ない頭が弱点だなんて、やっぱりあんた皮肉屋だね」
「頭が弱点じゃない人間なんていないさ」
 鉅は傀儡の方へ素早く歩み寄る。傀儡の放った十字の光が彼の左肩をかすめるが、特に気にせずその首元にナイフを突き立てる。傀儡は、口を数度パクパクと動かすと、やがて力なく崩れ落ちた。

 クローチェは踊るように傀儡を斬りつける。傀儡は彼女の攻撃をさばきつつも、隙を見れば攻撃をしてくるだろう躑躅子から気を逸らす事ができない。
「ほら、ついて来れないの?」
「ついてったって、いいことありませんからね……それに」
「なによ」
「分断が完璧だとは限らないという事です」
「危ない!」
 躑躅子の声に、クローチェは振り返る。眼前に迫る傀儡の拳。避けきれず、彼女は受け止める。
「ほら、いいことはなかった」
 彼女が隙を見せるその背後から、傀儡は攻撃を仕掛ける。
 そのとき確かな隙が生まれたのを、躑躅子は逃さなかった。
 傀儡の脇腹に彼女は思い切りヘビースマッシュをいれる。クローチェに攻撃を入れてほくそ笑んでいた傀儡はそれを避けることはできず、棒のように吹き飛んだ。クローチェと二体の傀儡の間には理央と凪沙がそれぞれ入って彼女を庇う。
「女の子に二人掛かりでいくんなら、こっちが四人でも文句は言えないよ?」
「誰も文句は言ってませんよ」
 傀儡は大上段から拳を振り下ろす。理央は弾き飛ばされ、地に転がった。躑躅子はその傀儡と全く同じ格好で、頭蓋に拳を振り下ろした。傀儡は前のめりに突っ伏して、しかし即座に体を起こそうとする。だが凪沙が雷を帯びた蹴りをその顔にぶち当てた。傀儡がとっさに伸ばした腕は、彼女にほんの少しかすっただけだった。
 攻撃の隙を見せた凪沙を、二階の最後の傀儡が狙う。理央がすぐさま庇いに割って入る。
「もう、その行動は飽きました」
 傀儡は全身の力を込めて彼女に殴りかかる。衝撃のあまり理央は大きく後退したが、その時傀儡にクローチェと桐が立ちはだかる。
「助かる命なら、よかったものを」
 クローチェが傀儡を牽制しつつ、ユーヌが素早く隙をつき、その際放たれた十字の光に足が傷ついたものの、傀儡の首はクローチェのちょうど足元へと位置した。
「一時の快楽に身を委ねた代償がこの結果。同情はしないけど……せめてあの世での冥福位は祈ってあげる」
 最後の一撃は、罪と罰からの解放のために。

●Autonomy or Heteronomy
 桐の耳には、上階から残りの傀儡が迫ってくる音も、彼らが何かが策を弄しているような音も、入らない。おそらく、あくまで『対等に』迎えたいということなのだろう。下階の傀儡を倒すのにこれだけ時間をかけたのに、未だ慌てふためいているということは、ないだろうから。
 階段を登り、やがて彼らの姿が目に入る。三体の傀儡を盾にして、伊織彰彦は悪趣味な真っ赤なソファに座り、偉そうに踏ん反り返っていた。
「ようこそ、みなさん」
 耳に優しくないヌメリとした声で、彼は呼びかける。
「出会い頭にバイバイしたいところだけど、どうだい?」
「そんな言葉に乗るようなら、素直にリベリスタになっていたでしょうね」
 彰彦は微笑みながら言う。
「でもそうなるより、こっちのがよっぽど面白い」
「貴方は自分がしていることがどれほど非道なことか自覚があるんですか?」
 躑躅子の問いに、彰彦は思わずはぁっと溜め息を吐く。
「悪人がさぁ、悪やってないって自覚ないと思います? アーティファクトだって、手口だって、悪質なのわかりきってるのに。自覚ないのは君たちリベリスタ。悪をもって悪を制し、それを善と称するその悪辣さ……全く、だからリベリスタには反吐が出る」
 張り詰める空気。否定、嫌悪、憎悪。糸を切ったのは、綾香。
「右胸のポケットだ。よく狙え」
 躑躅子が先陣を切り、クローチェがその後に続く。彰彦は目をカッと見開き、ニヤッと笑ってから傀儡と共に行動を始める。躑躅子に向けて三体全ての傀儡を走らせる。囲まれ、攻撃を受けるが、躑躅子は傀儡の間を抜け、なお彰彦の元へ急ぐ。傀儡は彼女を追えないと見るや、三体同時に十字を切る。しかし、二体の光はその途中で消えた。
「邪魔しないでください、私が相手します」
鉅と桐がそれぞれ一体ずつ吹き飛ばす。が、残り一体は十字の光を放ち、躑躅子を追撃する。当たったが、彼女の足は止まらない。その代わりとばかりにクローチェが傀儡の足を止める。
「さぁ、躑躅子のもとに行きたければ、私を倒してもらおう」
 踊り、踊り、クローチェは傀儡を翻弄する。傀儡は彰彦のところに行こうとするが、阻まれる。
 躑躅子は一人、彰彦と対峙する。
「ふーん、偽りの善もやるもんですね」
「偽りではないと、証明します」
「証明ね……そんなもののために戦うなよ」
 彰彦は腕を振りかぶり、一気に振り下ろす。躑躅子はギリギリで避け、素早く攻撃に転じる。視線を彰彦の目からそらさず、全身の力を込めて彰彦に叩き付ける。その大振りの攻撃は、彰彦の急所をとらえきることはできなかった。
「遅いですね。そんな貴方にでっかいプレゼントを!」
 彰彦は魔落の鉄槌で躑躅子を襲う。もろに食らい、衝撃に体が痺れる。しかし、止まってなどいられない。彼女は自らを鼓舞するように、叫ぶ。
「貴方の悪行は、ここで終わりです!」
 躑躅子は素早く彰彦の懐に入り、彼の胸ポケットをつかむ。彰彦は慌てて引きはがそうとするが、離れない。躑躅子は必死に、アーティファクトを探り、そして、探り当てる。アーティファクトを引っつかみ、勢いのまま彰彦から離れ、転ぶ。
「やっ……た!」
「くっ、この!」
 躑躅子は起き上がりながら、手につかんだアーティファクトに目をやる。彼女はそれが少し、禍々しく思えた。そしてその小瓶を割ろうとしたとき、彼女の目に光の軌跡が映る。顔を上げる。彰彦の攻撃が、彼女の腹を貫いていた。躑躅子はゆっくりと、倒れる。彰彦は、薄らと笑いながら、もはや戦うことのできない彼女に、近付く。
 小瓶を再び手にしようとしたその時、彰彦は突如吹き飛び、壁に叩き付けられる。鉅が、さきほど彰彦のいた場所から、じっと彼を見つめる。綾香が倒れた躑躅子に、ゆっくりと近付く。
「こんなもの」
 綾香は、躑躅子の手にあるアーティファクトを手に取り、呟いた。
「アークやフィクサード……何方の陣営にも、存在するべきじゃない……!」
 綾香はアーティファクトを投げ、放った気糸でそれを打ち抜く。小瓶は粉々に砕け、欠片が散乱した。
「頼みの傀儡は消滅したぞ。どうするつもりだ」
「……皆さんと一緒になるのは、嫌ですね……」
 ゆっくりと、彰彦は立ち上がる。その体にはもはや、戦いへの執念しか、感じられない。
「せいぜい、最後まで踊りましょうか!」
 彰彦はジャスティスキャノンを乱発する。嘆きを孕んだ微笑みで、もはや人の心など感じぬ叫びをあげて。彼はもはや、どんな攻撃から避ける術も、持たなかった。クローチェは彼を素早く押し倒し、武器でその首を狙う。しかし、理央がその手をつかみ、遮る。
「……殺すのは、やめましょう」
 理央は落ち着いた口調で、クローチェを諭す。
「こんなやつのために、人殺しになる必要はないよ」
 理央の言葉に、クローチェは唇をかみながら、手にこもる力を抜いた。

●Own and Your fault
 彰彦を拘束し、アークの人間が回収するのを待つ。そこには倒していない三体の『傀儡だったもの』が佇んでいる。心がなく、意志もなく、ただ人間の本能的な生命維持行動しか起こさないそれは、もはや人形と言った方が近いように思えた。
「……人間って、脆いものね」
 クローチェは静かに呟く。理央もその言葉にうなずく。
「こんなアーティファクト、どうして生まれたんだろうね」
「私は勤めていた研究所にあったものを盗んだだけですよ」
 彰彦は言うが、すぐさまユーヌに殴られる。
「その口、二度と聞けなくしてあげようか?」
「おっと、怖い怖い」
 彰彦は言い、二度と言葉を発することはなくなった。
「天罰だったと思って、納得するしかないな」
 ただ一点のみを、その身の死まで見つめ続ける彼らは、いったい何を見るのだろう。凪沙は首を振って逃れようとしても、それが頭から離れなかった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
誰も救われず、誰も救えず、幸福にはなり得ない戦い。
それでも、これ以上救えなくなる人が増えなくなるのは、一つの救いであるでしょう。
……プレイヤーに可愛い娘が多かったのは、こちらにとっては一つの救いになりましたが。
ともかくお疲れさまでした。
皆さんのこの次の戦いに幸多からんことを祈って。