●ただいま実験中 「ええと……次は、これを混ぜて……」 試験管の中の液体をフラスコの中の液体にそっと混ぜると、少女は静かに息を吐いた。 隣では大きな釜の中で煮詰められているらしい紫色の液体が、ぶくぶくぼこぼこと沸騰するような音を立てている。 「……うん、いい感じ……かな?」 博物館とかに並んでいそうな古めかしい本のひとつの項目に真剣な顔で目を通してから、となりで広げられているノートにシャーペンですらすら文字を書きこんでいく。 「ここがこうなって……じゃあ、もう少ししたら……」 交ぜ合わせたフラスコの中の液体を、そっと鍋の中にいれたその時だった。 一瞬で鍋の中の液体が赤く変色し、大きな音とともに液体が膨れあがる。 「わっ!? ま、まっずい!!」 少女があわてて粉末状のなにかを鍋に投入するが、変化はなかった。 そして、膨れあがった液体は、泡のように弾け飛んで…… 「だめーっ!!!」 ●無意識な自爆テロを阻止する依頼です 「この地域で爆発が起こる。爆心地はここ」 『リンク・カレイド』真白・イヴ(nBNE000001)が手元のパネルをタッチすると、ディスプレイに 表示されていた地図の一角が円形に赤く染まった。 「テロか何か?」 「違う。爆発を起こした本人も死亡するから」 「自爆テロ?」 「違う。本人に爆発を起こそうという意志はないから」 「無意識な自爆テロ?」 「この場合は情状酌量のありそうな業務上過失傷害、過失致死とかそういうのだと思う……法律はよく分からないけど」 ただし、本人は仕事だと思っているけれど世間一般にはそういう職業はない。 「とにかく、この市街地から離れた郊外のここ。ここにある人物の工房、実験場があって、そこで実験が行われる」 それが失敗して、爆発が起こり周辺一帯がふきとぶらしい。 「そうなる前に、何とかして実験を止めさせてほしい」 そういって彼女は詳しい説明を開始した。 実験を行う人物は、年の頃十代中盤の女の子。 「知り合いからヤミィと呼ばれている。本名の方を彼女はできるかぎり隠そうとしているようなのでプライバシー保護のために秘密」 なぜ隠すのかは分からないが、まあ隠したがっていることをわざわざ知る必要もないだろう。 今回の依頼の成否にはあまり関係なさそうだし。 「性格は真面目で頑張り屋。かわいいものと、とがったものが好き。知り合いからは変わり者と見られているけれど、性格もあって悪い子じゃないとも思われている」 すごく天然ぽく見えるけど、本当はとても思慮深いというかよく考えている。 「ただ、考え過ぎて一回転か二回転して、し過ぎてしまって、はたから見ていると思いつきで行動しているように見えるみたい」 おそらく天然成分も、多分にふくまれているのだろう。 「記憶力があって頭も良いのだと思う。ただ、真面目すぎて冗談とか分からなくてムキになったりとか、けっこう子供っぽいところもあるみたい」 集中するとひとりで完全に没頭するタイプだけれど、根は寂しん坊。 でも人見知りだったり照れ屋だったりもする。 その辺りは人付き合いになれていないとか、そういうのもあるのかも知れない。 「あと、人の話はちゃんと聞くし理解しようとはするけど、自分の研究とか実験に強い想いをもっている」 そして、それを認めてもらいたいという強い想いもあるのだろう。 そのせいでエリューション能力を得てしまったようだ。 ただ、幸いなことにフェイトも得たらしいので世界を壊す存在ではない。 もっとも、エリューション能力を得たせいで実験で爆発が起こることになってしまったのだとしたら、不幸ではあるのだろうけど。 「経歴は『中二病が高じて現実になった』で間違いないと思う」 とにかく、そういった力を得たのは最近の事で、リベリスタとかフィクサードとか分からない。 「フォーチュナの力も当然知らないだろうから、実験が失敗して爆発が起こると言われても信じないと思う」 そもそも自分自身の力というものも、おそらくハッキリとは認識していないだろう。 「最悪の場合は彼女を捕縛してアークで保護するというかたちになるけど、できたら穏便な方法で解決してほしい」 説得とか、何かに気を逸らすとか。ちなみに実験がある程度まで進行するまでは中止しても爆発は発生しない。 「とにかく、今やろうとしている実験を阻止できれば爆発事故は避けられる」 いちおう怪しまれないように錬金術研究会ってことで電話でアポ取っておいたので、着くまで実験は待ってくれると思う。イヴは携帯を指してそういった。 「でも、できたらちょっと早めに行ってあげる感じで。お茶を用意して待ってますねって嬉しそうに言ってたから」 信頼してもらうという事に関しての橋頭保はすでに構築してくれたらしい。 感謝しつつ、リベリスタたちは念のために質問した。 ちなみに、その実験の内容は? 「……風の特効薬をつくろうとしているみたい」 少しの間があった。 「それじゃ、気をつけて。いってらっしゃい」 沈黙を振りきるように。いつもに比べれば緊張感のない、どこか安心したような……皆を信頼したような声と表情で、イヴはリベリスタ達を送りだした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月13日(日)22:18 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●『どうしてもダメな場合は捕縛しアークに連行する』 「これでよし」 「どうしたんですか?」 「いえ何でもありません。それでは参りましょうか」 颯爽と吸血鬼の仮装をした雪白 万葉(BNE000195)は、穏やかな表情で問いかけに答えた。 近い未来、爆発が起こる予定のヤミィのアトリエの近くに、8人のリベリスタたちは集まっている。 各人それぞれ仮装をしたり、お菓子やプレゼントを準備したりして。 実験の見学から話がこういう方向に流れたのは、ちゃんとワケがあった。 「エリューションとして覚醒してるヤミィには幻視効かないけど、どうしようか?」 そういう意見が出たのである。 結果、すこし遅めのハロウィンパーティーということでみんな仮装すれば、耳とか翼とかあるひとを誤魔化せるんじゃない? ……という話になったのである。 「べ、別にノリノリな訳じゃないんだからね?」 とか言いつつ吸血鬼っぽい小道具で仮装してる『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)も、少し気合を入れた方が良いかな? とか意気込んでました。 なにしろ幻視が必要な人たちの姿を誤魔化すためなわけだ。 つまりは本物が本物と思われない、あるいは埋もれて分かんないくらいの仮装でなければ。 「ハロウィンパーティーがしたいからって訳じゃないよ?」 『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)も、魔法使いの仮装をバッチリ決めた状態でいってから……出来るだけ穏便にすませたいよねとつけ加えた。 ちょっとシリアスなその言葉に、リィンも頷いてみせる。 (全く、天然のうっかりと言うのは御しがたいものだよ。本人に悪気が無いなら尚の事) 「頑張り屋さんなのはよく分かるんだけどさ……まあ、良いや」 (言いたい事はいろいろあるけれど、頑張らせて貰おうか) 誰かに言うというよりは自分に言い聞かせるように、リィンは小さく呟いた。 「彼女の未来の為にも、ね」 ●「どこをどうすれば風邪薬が起爆するのか分かりませんが、悲劇は未然に防がなくてはなりません」 (何よりも、頑張り屋さんで寂しん坊なら、手を差し伸べてあげたいものです) ウサギの着ぐるみを着こんだ格好で、源 カイ(BNE000446)はウンウンと頷いてみせる。 「神と天才は紙一重と言いますけれど、彼女もそういう一人だと思うです」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)はさらりと言った。微妙に本来使われる言葉とは、一文字違った。 この表現の場合の神が何を意味するのかを知るのは、発言者である彼女ただ一人である。 ただ、なんとなく褒め言葉ではないように思えるのは……気のせいだろうか? とにかく、爆発事故を防ぐために、無理やりではなく本人に納得してもらって防止したい。 自前の耳としっぽを活かした小悪魔わんこの格好をした彼女は、アトリエの入口に立つとおもむろにインターホンを押した。 すぐに返事があり、続いて小走りするような足音が聞こえてくる。 それを聞きながら『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は考えていた。 「いろんな実験をして何かを生み出す。それが成功したらとても素敵なことなのだ」 その言葉は偽りのない本心である。 けれど、今回は失敗が大きな事故になる。 「それは食い止めなければなのだ」 彼女もまたフェイトを得た仲間。できればアークにきてくれると嬉しい。 仮装ということにした翼を動かさないように気を付けつつ、雷音は扉の前で待った。 すぐに軋むような音を立てて扉が開き、一人の少女が姿を現わす。 こう……普通の私服とか学校の制服とかじゃなさそうな……ちょっと中世とか、ちょっと昔の身分良さそうな人が着てたっぽい古めかしいような格好。 仮装なのか、実験する時はこの服装なのかは分からない。 「こんにちは、研究会のものだ」 雷音は少女と挨拶を交わすと、ラッピングされた包みを見せた。 「せっかくお会いしたのだ。良ければ少し遅いハロウィンはどうかな」 犬耳を付けて犬執事といった様子の七布施・三千(BNE000346)もうなずく。 三千はあらかじめ連絡し、ハロウィンパーティーをしませんかという打診を彼女にしてみていたのである。 雷音の、三千の、みなの言葉に、少女は少し戸惑いながらも丁寧にお礼の言葉で肯定をかえした。 ●「こんにちは。私……エリス。友達に……なりに……来た。よろしく」 寂しがりで人見知りで照れ屋という性格なので、まず親しくなりたい。 エリス・トワイニング(BNE002382)は、ゆっくりと、静かに、ヤミィにむかって挨拶した。 戸惑い、迷うような顔を一瞬して、それから彼女はちょっと照れたようすでありがとうございますと頭をさげた。 「みなさん、すごくしっかりした仮装でびっくりしました」 そういってから慌てて、戸口で失礼ですね、ささ、どうぞと彼女は少し赤くなって皆を中へと案内する。 建物の中はほとんど仕切りのない開けた作りになっていた。 大きな鍋というか釜というか、とにかく謎の液体で満たされた何かがあり、フラスコやビーカー、試験管立てに並んだ試験管などが置かれている。 それら、実験場のような場所との仕切りのような感じに木造の棚がいくつも並び、区切られた一角にソファと背の低いテーブルが用意されていた。 休めるような作りになったその場所には、今はティーセットとお菓子などが並べられている。 「ちょっとせまいかも知れませんけど、どうぞ遠慮なく」 ヤミィはそう言って一行をその場所へと案内した。 それから奥へと消えるとすぐにティーポットらしきものを持ってくる。 「ええと……珈琲はよくわからなくて、インスタントなんですけど」 申し訳なさそうにいって、彼女は瓶に入ったインスタントコーヒーをテーブルに置いた。 それにクリームと砂糖が付け加えられる。 続いて手作りだというすこし小ぶりのシュークリームもお皿にのせられて並ぶ。 「お茶を用意してもらってるとのことで、お茶菓子をみんなでもちよってきたのだ」 雷音はそういって包みをあける。中身はくまさんの形につくったリンゴのパイ。 そあらも持ってきた、いちごのタルトやクッキーをひろげ、エリスも手作りのクッキーをならべていく。 カイは途中で急いで買ったお菓子を差し入れる。 テーブルの上はすぐに、載せきれないほどのお菓子でいっぱいになった。 紅茶の香りにつづいて珈琲の薫りが、アトリエの一角をしずかにみたす。 こうして、アトリエでの少し遅めのハロウィンパーティーが始まった。 ●「ラヴといちごの研究してるそあらさんです」 まずは自己紹介からである。 という訳で、そあらの言葉を聞いたヤミィはハッとした表情を浮かべ、くちもとに手を当てると考えこんだ。 「ラヴといちごですか……その発想は、なかったです」 こう……大人の女性って感じでカッコいいですよねと、そあらにちょっと敬意のこもった視線をむける。 それについては深くは尋ねず、そあらは仮装にということでうさみみを彼女にプレゼントした。 エリスはプレゼントにとクマの縫いぐるみをヤミィに渡す。 「いえ、そのっ、そんなに皆さんから……すごく嬉しいですけど、私……なにも用意できてないですしっ!!?」 ヤミィはあわてて言うものの、なら次の機会に、友達だからと押し切られ、ちょっと恥ずかしそうにうさみみをつけ、嬉しそうに縫いぐるみを抱きしめた。 三千は色鉛筆のセットをプレゼントし、智夫は賢者の石みたいな感じの赤色の宝石がついたペンダントを差し出した。 こちらのほうも色々とあったものの、それじゃ次の機会にかならずということで彼女は何度もお礼を言いながら大事そうにプレゼントを受け取った。 ちなみに色鉛筆の方は三千の手で先端がしっかりと尖らせられており、ヤミィはすごく感嘆したようすで……じーっとそれを見てから我に返ったようにあわてて箱にしまいこんだ。 智夫のプレゼントに対して彼女がキチンと反応するのは、おそらく本物の賢者の石を見てからということになるだろう。 「遅くなったけれど、ハッピーハロウィン! 楽しいパーティーにしようね!」 パーティーを楽しむ無邪気な子供という感じでリィンが満面の笑みをうかべると、ありがとうございますとヤミィは笑顔でこたえた。 「突然の訪問にこのようなご用意ありがとうございます」 万葉は訪問を許可してくれたことへの礼をのべてから、シュークリームを受け取った。 「このシューは手作りですか? 美味しいですね」 微笑んで感想をのべ、ティーカップにくちをつける。 「いえ、でもこうなるまでに色々と失敗もありましたし……」 焦がしちゃったり、ふくらまなかったりしましたしと彼女は恥ずかしそうに説明した。 「ちかくの老人ホームみたいなとこの人たちに味見とかしてもらったんです……じぶんひとりだと片付けきれなくて」 ちょうどよかったとそあらはそのまま自分の体験を口にする。 「失敗ばかりで上手くいった試しがないんですよ~」 入れる順番を間違えたこと、材料費をケチって代用品を使ってしまったこと。 「ヤミィさんはそういう事はないですか?」 「むしろ私は最初は失敗ばかりな感じで……そあらさんはそうなんですか? なにか、こう……意外で……」 あ、すみませんとヤミィはあわてて謝ってから、すごく得意そうなイメージを感じましてと説明した。 ●「今日は来訪を快く了承していただきありがとうございます」 お礼をいってお辞儀したあと、智夫はヤミィにどんな研究や実験をしてきたのかを聞いてみた。 あまり硬くならないように、くつろぎながら話をできるようにと意識しつつ、聞き手にまわる。 最初はかたい感じで説明的だった彼女の口調は、しだいになめらかになり始めた。 「友達の方が……ヤミィのことを……よく知っていても……おかしく無い……と思うの」 エリスも話して欲しいと望み、研究についての苦労なども真剣に聞きながら邪魔にならないように気をつけつつ質問したり相槌をうった。 智夫も驚いたことには素直に感心の意を示す。 ときに実際に器具を見て、大窯のなかや試験管、フラスコの中の液体を確認しながら話をきく。 ヤミィはときおり自分が夢中で話していることを恥ずかしがったり謝ったりしたものの、気にしないでとエリスはうながし、様々な話を彼女に望んだ。 少女は熱心に、落ち着いているようで燃えるように、言葉を紡いでいく。 ふたりはそれをしっかりと聞けるようにと、良い聞き手であれるようにと彼女の言葉に耳をかたむけた。 ひとしきり話した後に我に返ったように恥ずかしそうにしたヤミィは、良ければ皆さんの事も聞かせて下さいとお願いする。 最初は雑談的な話をしていた雷音も、失敗談や自分のこと、いろいろなことを話していった。 話題を変えて少しずつ、話を深いところへとむけていく。 彼女の語る実験の失敗談をリィンは笑顔でフォローした。 「それでも頑張っているんですよね、偉いのです」 彼女の努力を、実力を認めるように……この気持ちが伝わって欲しいと願いながら、カイは優しく微笑んでみせる。 実際、彼女はいろいろなことについての知識を持っていた。 錬金術についての様々なものを。 それらは一般人的なものがほとんどだったけれど、どこか一般からずれたような部分もいくつかあって……彼女が無意識にではあっても、もうひとつの現実に適応し始めていることも実感させた。 だから雷音は……盛り上がったところで、切りだした。 この世界の、真実を。 ●「君に話したいことがあるのだ」 世界には不思議があるのだ。 雷音は、そう口にした。 「びっくりするかもだが、ボクの羽根、本物なのだ」 かすかに翼をゆらし、すこしだけ浮かんでみせる。 彼女はそれを見て驚いた。 けれど……怯えもよりも、恐れよりも、大きな何かが顔にうかんだのも……事実だった。 かすかに瞳に浮かんだ不安の色は、それを知りたいと思う心のように一行には思えたのである。 だからそれを……彼女の歩みを手助けするように、彼らは、彼女らは語り始めた。 8人の知る、もうひとつの世界。 「研究は失敗多かったですけどこういう事はできるんですよ」 そあらは刃物で指先を軽く傷つけると、彼女の目の前で……力を使った。 指先の傷を自分の力を使って、天使の息で治してみせる。 エリスも力の一端として天使の息を使用してみせ、三千も翼の加護を使って見せた。 それから、自分の参加した依頼についても話し始めた。 エリューションが引き起こした、いくつもの事件。起こるはずだった、いくつかの悲しい出来事。 自分たちがそれらを事前に防いできたこと。防ぐために、戦ってきたこと。 そして、事件を未発に終わらせるための何よりの力。 悲劇を防ぐための力、未来を知ることができる、フォーチュナの力について。 ●「その力で、今回のヤミィさんの実験が失敗することが分かったんです」 そう言って三千は彼女にお願いした。 「今の実験を一旦中止していただけませんか?」 そあらも続いて、実験に失敗しヤミィ自身が死んでしまうことを告げた。 少女は失敗もそうだが、自分が事故死するということについてかなりショックを受けたらしい。 青ざめたヤミィに、リィンは大丈夫だからと安心させるように声をかけた。 エリスも落ち着いてもらえるように、安心してもらえるようにと話しかける。 そして、事故が起こるのはヤミィ本人が力……エリューション能力を得たからだと説明した。 革醒者は世界から祝福を得た存在、ヤミィが研究にかける熱い思いが認められた証拠であると。 智夫は見せてもらった液体を思い返し、フラスコ内の液体や鍋の中の液体が作りたいものと違うものに変わっているんじゃないかと自身の推測を口にした。 「実験に間違いがあった訳じゃなくて、多分……ヤミィさんが僕達と同じような力を得た事で、物質が変化したんだと思う」 もしかすると……普通の錬金術を越えた領域に到達したって事かも? そう言って微笑んでみせる。 「力を貸してほしい、何より眼前の死の運命から貴女を救いたい……僕らの言葉を信じてくれますか?」 カイも自分たちのことを説明し、真摯に言葉を紡ぐ。 皆の言葉で少しずつ落ち着きを取り戻していったヤミィに、機を見て万葉は話しかけた。 「私も薬物の研究をしているのですがどんな風に考察しているのか興味がありますのでレポートを見せてもらえませんか?」 落ち着いてきていたのか、話題をそらす感じ万葉の言葉にヤミィはすなおに応じるようにして、机の引き出しから幾つかのプリントをひっぱりだす。 「こういう風にされているのですか、私も似たような事を試した事があるのですが」 万葉はそう言って、錬金術について調べてみたいくつかの話題を適度に誤魔化しつつふってみた。 「私も似たような反応を試したことがあるのですが思ったように反応しなかったのですよね、どうやら反応速度が合わないらしく」 色々と質問し、回答をもらいつつ、研究室内部を見渡すふりをしてから、万葉は彼女に意見をのべた。 「私の私見を足した場合で考えると少し機材を追加しないと厳しいかもしれませんね」 「ただ機材の値段が……」 これくらいは掛かるのではと、かなり高額な経費をもっともらしく説明してみせる。 それを見たヤミィの表情がガッカリ感でいっぱいになったのを見て、リィンはたたみ掛けでもするように口を開いた。 ●「アークに行けば君の実験もより捗るかも知れないよ?」 そう言って、リィンはアークの設備についていろいろと説明をしはじめた。 それから、僕も研究が完成する事を願ってる、一緒に来てくれると嬉しいと説得する。 続くように三千もアーク本部にラボがあること、ヤミィの研究に役立つものもあるかもと説明した。 研究の費用などもアークが援助してくれるかもと、そあらが付け加える。 ヤミィが開発しようとしている風邪薬みたいなものは天使の息でも治すことができないもの。 それはすごいものだとエリスは彼女の研究を肯定した。 「ただ……まだ……ヤミィの研究……も……未完成……だし……」 良ければアークという組織で研究をしてみないか? そう彼女はヤミィを勧誘する。 彼女がより多くの人と共にいられるように。 (そして……寂しがらずにすむように) 「信じられないかもしれないが、君には力がある」 ボクは今、この力を隠しているのだが君には最初から見えていたはずだ。 雷音は嘘をついたことをあやまってから、ボクたちはそんな人達が多くいるアークという組織からきたのだと説明した。 良ければ君と友達になりたい。 「一緒に、来てくれるとうれしいのだ」 そういって、そっと……手をさしだす。 ヤミィは……そう呼ばれていた少女は……皆の顔を見回した。 考えこむように少しだけうつむいて……贈られた言葉の、ひとつひとつをかみしめるかのように、うなずいて。 ……自分のアトリエを見渡してから、リベリスタたちの顔を見つめる。 「……ありがとうございます……私……」 感謝の言葉をのべてから、続くようにゆっくりと唇がうごく。 その日、雷音は養父にメールを送った。 『お友達が一人増えました』 その一文に、たくさんのものを籠めて。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|