● もはや訪れる者も絶えた山奥の廃墟―― 懐中電灯を手にそんな僻地を探検するのは好奇心盛んな若いカップルだった。 「そう怒るなよ。もう少し見たら帰るから。な?」 「もう! 蜘蛛の巣だらけて、髪もぐちゃぐちゃ。やってられないわよ」 男のデートのロケーションを選ぶセンスの無さに女はすっかり臍を曲げてしまっている。 「あれ、ここ露天風呂じゃない?」 彷徨った末に辿り着いたのは、屋根の無いスペース。 他と比べ、周囲は荒れておらず、月明かりに照らされる水面が神秘的にさえ見える。 「あら、ちょうどいい温度。ついでだから入っていきましょう。どうせ誰も見てないわよ」 さっきまでの様子とは打って変わって積極的になる彼女にやれやれと肩を竦める男。 「お前ってほんと現金な奴だな。まぁいいさ。せっかくだから楽しんで行こうぜ」 男は満更でもないと笑みを浮かべ、服を脱ぎ始める。 「ね、ねぇ、後ろ……」 ふいに女が血相を変え、震えながら掠れた声で男の背後を指差す。 「今更そんな手に引っ掛かるかっての。冗談はいいから、お前も早く……」 言い終わらぬ内に男の首が胴体と離れ離れになり、地面に転がる。 絶叫を上げ、パニックに陥りながらも逃げ出そうとした女はバランスを崩し、浴槽に転げ落ちる。 必死に水面を目指しもがく女の手首や足首を掴んだのは、恋人の首を刎ねたのと同じ灰色の肌をし、曇った眼差しの男達だった―― ● 「山奥の隠れ家。源泉かけ流しの温泉」 アーク本部、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を前に真白イヴは淡々とした調子で切り出した。 「慰労会とは悪くないね」 「そうだったらいいんだけど、今回は仕事……今度の任務はある山中の潰れた温泉宿に出没するE・フォースを撃破する事。今は周辺に人が居ないからいいけど、放っておくと数日後に好奇心旺盛なカップルが肝試しに現れて襲われる……」 そこで言葉を切るとイヴは集まったリベリスタ達一人一人を見回し、一呼吸置いて続ける。 「E・フォースは全部で4体。温泉に誰かが入ろうとすると現れる。個々の力はそれ程でもないけれど、 麻痺や毒の能力も持っているから充分に気を付けて」 頷くリベリスタ達。 「ああ、そうそう……」 立ちあがり準備を始めたリベリスタ達にイヴは最後の注意を告げる。 「……言い忘れていたけれど、温泉は美肌に火傷、切り傷の治療に効能があるらしいの。 仕事が終わったら、ゆっくり浸かってくると良いわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:柊いたる | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月15日(火)23:04 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●銭湯前 「これが噂に聞く、混浴露天風呂連続殺人事件。うわー、TVでしか見たことありませんよー。楽しみー(棒読み)」 今にも崩れそうな日本建築を見上げて呟いたのは『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。 任務を受け、リベリスタ達がやって来たのは、草木が生い茂り、訪れる者も居なくなった廃墟。 日も暮れ、月明かりに浮かぶ荒れ果てたその光景は不気味と言うより他無い。 一言で言うなら、如何にも出そうなロケーション。 「E・フォースが現れるとは、ここで何かあったのだろうか」 珍粘の横で思索を巡らせるのは『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)だ。 しかし、その問いに答えられる者はここには居ない。ならば、とにかく犠牲が出ないうちに片付ける迄と決意を新たにするゲルトであったが、一方の残ったメンバー達はまた違った考えの様であった。 「潰れちゃった温泉旅館にでる敵なんて怪談みたいなお話だね~。お化け退治みたいでワクワクしちゃうよ~」 「肝試しはわたしも好きなのですけど、今回は運が悪かった……ということなのでしょうか。犠牲者を出すわけにはいかないですし、ご褒美もあるとなりますとテンションあがりますねっ」 と、どこか嬉しそうにも見える『ものまね大好きっ娘』ティオ・ココナ(BNE002829)や『シトラス・ヴァンピール』(BNE001084)日野宮 ななせを筆頭に、 「温泉!! 露天風呂!! 人間ご褒美があれば頑張れるものよ」 「おんせん、おんせん~♪ 速攻で終わらせてゆっくり温泉で寛いじゃいましょー!」 と最早、未来を見ている『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)や『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)はまだ可愛い方。 『夢幻の住人』日下禰・真名(BNE000050)に至っては、 「お風呂に入って満足するまでが作戦よ、ていうかエリューションとかどうでもいい」 などと、完全に目的が違っている様子。いやあの、今回は温泉旅行じゃなくて、討伐任務だからね? じっとりとしたゲルトの視線に気が付いた『』源 カイ(BNE000446)は、愛想笑いで返しながら、冷や汗と共に持って来たお風呂セットと酒盛りグッズを後ろ手に隠すのであった…… ●銭湯の攻防 カレイドとフォーチュナによる情報もあって、リベリスタ達は廃墟の中を迷う事も無く、風呂場へ辿り着く事が出来た。 月明かりに照らされるその場所には当然誰もおらず、静かでどこか物悲しさを感じさせる。 「さー、お風呂入ろっかなー」 予め打ち合わせておいた通り、珍粘が囮になって浴槽へと近付いた。 他のリベリスタ達は後ろで待機し、いつ敵が現れてもいい様に各々体勢を整えておく算段だ。 ちゃぷ…… 珍粘の白い足が静かに水面に差し入れられ、緩やかに同心円の波紋が広がってゆく…… いろいろ残念でも見た目は美少女な珍粘。月明かりに照らされるその光景や仕草は扇情的に見えなくもない。 しばらくは何も起こる様子は無かったが、程なく水面が揺らぎぶくぶくと泡立つと、溺死体の様な肌をしたおぞましい腕が何本も水面を割って姿を現す。 通常の人間であれば恐怖に錯乱し悲鳴を上げてもおかしくないシチュエーションだが、そこは怪異など嫌と言うほど見慣れたリベリスタ達。動揺一つする事は無い。 腕に続いて、その頭、その身体が不気味に揺れながら一つ二つと現れる。 「さあさ、敵さん皆さん寄っといでー」 予定通りに敵の出現を確認した珍粘は飄々と身を翻し、後方の仲間の所まで後退して合流を果たす。 即座にきなこが印を結び、瞬時に仲間の周囲に守護結界を展開させた。 「それでは、惨殺と参りましょう。あれ、斬殺ですかね?」 とぼけた口調とは裏腹に、珍粘はハイスピードを発動させると身体能力のギアをトップに叩き込んだ。 「浴槽から出て来た所で皆で叩いて潰して惨殺するのよ?」 その横で敵を見据える真名は意識を集中し、最も効果的な一撃を与えるチャンスをうかがう。 まるでホラー映画のワンシーンの様に、ゆらゆらと緩慢に身体を揺らしながら、亡者達はリベリスタ達を同じ死の世界へ引きずり込もうと手を伸ばし迫って来る。 その口からブツブツと洩れる生者を妬み呪い続ける不気味な呻きが、リベリスタ達の抵抗力を下げ、その虚ろな眼差しがそれを覗いてしまった者の身体の自由を奪い、整えた姿勢を崩していく―― 「任せろ! すぐに治す!」 攻撃を警戒し、距離を取っていたゲルトのブレイクフィアーが放つ神々しい光が身を蝕む邪気を退け、リベリスタ達の戦う力を再び呼び戻す。 体勢を立て直したカイとななせ、珍粘、真名が浴槽から這い上がって来る敵をブロックに駆け出す。 「頑張りましょう、ち……けふけふ……那由他さん」 「行きますよ! やま……那由他さん!」 掛け合う声の呂律が若干回ってない気もするが、大丈夫だ問題ない……筈だ。 ガキィッ! 「あなたの相手はわたしです。他の方のところにはいかせませんよっ」 際どい所で繰り出された攻撃を鉄槌で受け止めたななせ。激しく打ち合わされてガチガチとなる爪は、不潔に汚れ不快感を煽る。 その横ではギャロッププレイの気糸を伸ばしたカイがギリギリと敵を締めあげている。 「カイさん! 右から来ます!」 相対する敵に気を取られたカイ。その死角に回り込んだ敵に気付いたななせが声をかけ、間一髪。 カイの足元から伸び上がった意志を持つ影――シャドウサーバントが攻撃をいなし、難を逃れる。 「信頼できる仲間がいるので、安心して壁になれます」 カイの無事にほっと胸を撫で下ろすななせ。 「覚悟してくださいねっ! いっきますよーっ!」 気合いを上げると、今まで我慢していた分も合わせ、全力全開で反撃に移る。 ななせの鉄槌を受けて体勢を崩した敵に真名のオーララッシュが炸裂する。輝きと共に目にも止まらぬ連撃で襤褸雑巾の様にその身体が切り刻まれる。 (まともに1体1体相手にしてると長引いて危ないもの……初めから全力火力でぶっ飛ばすわ。なによりも入浴時間確保の為に……!!) 詠唱によって体内の魔力を活性化させ、強力に増幅させたソラが気合いと共にチェインライトニングを放った。迸り輝く一条の稲妻は怒れる竜の様に激しく荒れ狂いながら拡散し、全ての敵を貫き通す。 まだ動いている敵へは珍粘のソニックエッジが襲いかかり、澱み無き連続攻撃の餌食とする。 「うつべし、うつべし、うつべし~!」 合わせて後方から魔方陣を展開したティオのマジックミサイルの魔力弾が援護の弾幕をお見舞いする。 リベリスタ達の作戦は順当。連携も上手く行き、戦況は優勢。しかし―― 敵から距離を置き、回復役を務めていたゲルトときなこは、得も言われぬ違和感を感じていた。 敵は全部で四体――そう聞いた筈ではなかったか? そして今、目の前に立つ味方が相手にしている敵は三体…… 予知の中でカップルが襲われた時の状況は、女は浴槽で襲われたが、男は浴槽の外で背後から襲われたのではなかったか……つまり (後ろ!?) 思考がそこに到達するのと同時にゲルトの背を焼ける様な激痛が襲う。 振り返れば、背後には爪から血を滴らせる灰色の肌の亡霊が一体―― 「ゲルト!?」 異変に気が付いたソラが、素早くチェインライトニングを放ち、敵を吹き飛ばし、駆け寄るきなこの天使の息が癒しの微風でゲルトの傷を塞ぐ。 「すまん……油断した」 「大丈夫ですね。良かった」 ゲルトの傷が深くない事を確認したカイは敵に向き直り、ギャロッププレイの気糸が捕えた敵に向かってブラックジャックを放つ。 黒いオーラが動けない敵の頭部を強打し、その姿を霧散させる。 真名は全身のエネルギーを手にしたクローに集中し、エネルギーを収束させると裂帛の気合いと共に一閃――メガクラッシュ。 直撃を受けた敵は浴槽の反対方向へ猛烈な勢いで吹き飛ばされ、そのまま姿を消す。 「後で入るのだから、風呂を汚されても困るのよ」 あくまでそこに拘る真名であった。 「これで温泉ーっ!」 ななせのマジックミサイルが最後の敵を射抜く。 影が光に消されるようにその姿は崩れて消滅し、ようやく周囲に静けさが取り戻された。 ●温泉タイム(本編) 「いっちばーん!」 ざっぱーん 宣言と共に大きな水しぶきを上げて浴槽に飛び込み、泳ぎ出したのはティオ。 テンションが高いのは彼女だけではない。 「混浴?混浴よね?女子は水着。男子は裸体。アークの仕事では女性が変な目に合う事が多いわ。不公平よ。女性に向けたサービスも必要じゃないかしら。若い男性の裸体とかBLとか……」 不穏な夢を描くソラ。 そこへ空を見ながらぷか~と浮かんでいたきなこが流れ着き、その希望を打ち砕く一言を告げる。 「ああ、そういえば、ゲルトさんが男女分かれてって言ってましたよ」 「……そう考えると混浴じゃなくてもいいわね。若い男性二人きりで入浴。きっとなにかのフラグよ。そうに違いないわ……」 男女を隔てる高い壁を見上げ、拳を握りしめるソラさん。諦めの悪い方である。 「第一回おっぱいちゃんぴおん決定戦~!(どんどんぱふぱふ)」 唐突に謎の宣言を繰り出すティオさん。 「おおお~!」 ソラや真名が期待の声を上げる。 「にゅふふ……ボクがみんなのおっぱいを超直観やエネミースキャンで大きさを測って、さらに直接もみもみした触り心地でちゃんぴおんを決めちゃうのだー!」 両手をわきわきとさせながら無邪気に微笑むティオ。 その様子を見てななせは 「はわ~」 と温泉に顔まで浸かってぶくぶくさせるばかり…… 「あら、水着なんて着ちゃって。女同士、遠慮は要らないでしょ」 どこからか取りだした酒を片手にした真名が、一人静かに入浴する珍粘を目ざとく見つける。 「いえ、ちょっとお見せできるようなものではないので……」 なるべく巻き添えを喰らわない様に距離を取る珍粘だが、一方の真名さんも只者ではない。 「う、ふふふふふ」 妖しい笑いを浮かべながら、亡者の如く珍粘に迫って来る……酔ってますね。あーれー。 ●月身酒 一方その頃―― 戦いの後、旅館の中を調べてみたゲルトだが、E・フォースの発生した原因に繋がる確たる情報を得る事は出来なかった。 この場所に残された何らかの想いが、ふとした拍子に革醒現象と結びついたのかもしれない。アークに連絡を入れ、念の為に調査の依頼を出しておく。 そうしてから、浴場に入る。 「どうでした?」 「ああ、特に分かった事は無いな……」 先に温泉に浸かっていたカイの横に身体を沈める。 「お疲れさまでしたー、たまにはこういうご褒美も悪くはないのです♪」 日本酒と肴を持ち込んで静かに月見酒。たまには男同士でこういうのも悪くは無い。 「戦友と飲む酒はいいものだ。ましてこの状況なら言うことはない。」 時々、仕切りの向こうからソラの 「でかっ……!!」 とか、 「きっと成長するわよ……」 とか、想像をかき立てる声が聞こえてくるが、聞こえないふりをするのが大人の男である。 杯の中に揺れる月を眺め、男達は互いに労い、祝杯を挙げるのであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|