●おなかがすいたの さいしょにきづいたのは くうきのいろ さわやかな『あお』をしているとおもった くさのいろ きれい くさ たべた おいしい おなかがすいたから もっとたべよう すこしくらいなら たぶん だいじょうぶ もっと もっと ●砂漠化はお前のせいか 「……うわぁ」 ブリーフィングルームに響き渡る、八名分の「うわぁ」。何か数名ほど声のトーンが「う↓わぁ↓」じゃなくて「う↓わぁ↑」な気がしたけど気のせいでしょうか。モニタしっかり見て。ジャイアントにアオムシだよ。 「青虫というと、往々にして成長後に期待したいタイプが多いわけで、白いともう即時排除したくなるのは定番です。まあ、そんな感じで。今回の任務は、このアザーバイド『はらぺこおおむし』の帰還にあります」 淡々と述べる『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)の言葉に、リベリスタ達は目が点になった。え、潰さないの? ぷちってやらないの? 成長してからでもいいけどだめ? 「駄目です。まず、潰した時の体液が危険です。五ミリリットルの体液が半径一メートルを深さ五十センチ分穿つ程の凶悪な体液です。纏まって溢れれば、それこそ大惨事です。かといって放置もできません。革醒を促すのもですが、食欲が異常です。放っておけば、十ヘクタールほどの敷地の草を食べつくし、二度と生えなくしてしまいます」 まさに蠢く砂漠化現象。倒すのも駄目、放置も駄目とは。 「帰還……って、バグホールは?」 「無論、そこそこ大きいのが開いてますよ。皆さんの役割はそこへの誘導とブレイクゲート。ただ、痛みに任せるのは賢い選択じゃないですね。そもそも、柔らかすぎて少しのダメージでも流血状態になりますから」 打撃武器でも。鋭くなくても。ということは、誘導には鞭じゃなく飴が要るのか。 「『はらぺこおおむし』の元居たチャンネルは、どうやらこちらより自然汚染が激しく、植物の生育も乏しいようですね。だからここまで飢えてるのでしょうが……誘導するなら、先ず対話、それと胃袋に訴えるくらいでしょうか」 胃袋というほど高尚な器官ないですけどね。っていうか、食欲に侵された相手を誘導って、どうやって? 「おや、こんなところに『蜜色ラプンツェル』が」 使えというのか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月23日(水)22:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●もぐもぐしたいから おそらきれい いつまでもみあきない でも おなかすいてるから たべるのはやめない やめられない どこからか ゆれるおと 「てつ」のにおい 「てき」だろうか 「あー、そんなの食べたらぽんぽんいたいいたいになっちゃうッスよー!」 ……ちがう みたいだ 「わかーばマークの運転手~♪」 ギャリギャリギャリギャリギャリッ、とスキール音を立てて『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の駆る乗用車がおおむしからやや距離をとって停車する。免許取りたてとはいえ、そこは終の性格だ。……タイミングよく声を掛けた『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)の功績はかなり大きい。 勢いをそのままに、荷台を準備中の終を置いて計都は自前の食料を取り出し、極力魔眼(偽)を視界に入れないよう、おそるおそるりんごを差し出した。 「……ごはん?」 「そう、ごはんッスよー! この世界のあおむしさんディナーっす!」 「でぃな、あ? でもおいしそうだからたべる」 もっさりもっさり。計都が梨、林檎、すもも、苺、オレンジと並べていくと、おおむしは夢中で追いかけ、食べていく。つかみはオッケー、というやつか。 「……か、可愛いです」 「なんとなくかわいい……」 一方、トラックを乗り付けた『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)と『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)は、揃って序盤に可愛さ余って抵抗ン倍、魔眼(偽)の虜になってました。マリス、シュコーシュコーとかガスマスク響いてるから。蒸れるけど見えにくくなって結果オーライだよやったね! 「すごく……大きいです」 我知らず呟いてから、『寝る寝る寝るね』内薙・智夫(BNE001581)は自身の言葉を疑った。間違っちゃいないが、場面を違えたら色々とアレである。アレってどれとか、ほら「よいこのばろっくないといくりぷす」ですし。 「こんにちはぁ~♪ 一緒に遊びましょ☆」 計都が最初の食料を渡し終えたタイミングで躍り出たのは、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)だった。あおむしの模様で一度は動きを止めたが、そこは計都の誘導中。問題なく回復した上で復帰してきたのは僥倖だったといえる。 「赤い色もきれいでしょ~?」 「あかいの、おいしい。あかいところ、おいしい。もったいない」 皮を剥いていくとらと、その皮を追うおおむし。皮が向けたら放り、そのまま食べさせていく。その案は誘導という面ではこども知能には効果的、なのだが 「夜倉おにーさんの包帯みたいに、ながーくしようねぇ~♪」 おい。……おい。 「HQ(総司令部)へ。レギンレイヴ4(ミーシャ)、ターゲットを発見。これより作戦を開始します」 『夜明けのシューティングスター』ミーシャ・レガート・ワイズマン(BNE002999)の出身は民間軍事会社である。つまるところ、そういう話し方が板についているということだ。うっかり戦車よろしく「上から潰せそう」とかそんなことは考えていない。 大群で暴走するような芋虫はもうちょっと別のチャンネルだったら居そうだけど、幸いにしておおむしは平和主義だった。菜物を次々と差し出すミーシャに驚きこそすれ、自分のためだと分かっていれば危害を加えるわけもない。 因みに、彼女の今日の眼鏡は父ゆかりのサングラス。色調さえ変われば模様の悪影響は……うん、ゼロではないけどだいぶ減っているとみていいだろう。 「それでは、私からは先ずこれを」 今回の案件に於いて、最も凝った食料を用意してきたのは誰あろうマリスその人だ。普通の野菜類でもよかったのだろうが、それでは彼女の気が収まらなかったのだろう。「オペレーターで一番大事なのは真摯さなのです」とは彼女の言である。 そして、取り出されたのは塩菜。アイスプラントとも呼ばれ、簡易な形であれば家庭でも栽培できる、少々変わった菜物である。味は名の通り……塩気があるのである。菜物なのに。 (しょっぱい、おいしい。もっと) (大丈夫ですよ、まだまだありますから) 更に、マリスはハイテレパスも完備。これで誘導できない道理がない。見事なまでにおおむしの誘導が成り立っていた。 「……しかし、塩気のあるものをこうも食べさせても大丈夫なのか?」 『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)は、今回に於いては主に食料についてのメモをとる役としての行動を主としている。例え模様を見て動きを止めてしまっても、後から何とか書くことを始めれば容易に追いつくこの役割、不可欠である割に遅延のリスクが少ない。こうして声をかけることも出来る程度には、ということだ。 「おいで、こっちだよ……」 遠子が用意したのは、花だ。といっても、その辺の野草の類ではなく、無農薬栽培されたもので、極力カラフルなものを選んでいたのだ。言葉こそ通じずとも、その声のトーンや仕草、そして目を引く花の色はおおむしを誘引するに十分すぎる要素だった。こころなしか、おおむしの本来の目(複眼)にも喜色が点っているように感じられようか。 「こっちだよ、付いてきてー」 智夫が用意した野菜も、またベーシックなものが中心だ。だが、ここで取り出したのは「蜜色ラプンツェル」。先ほどの塩菜の影響も加味すれば、甘い野菜を提供しておくタイミングとして絶妙だったのかも知れない。 実際のところ、計都もマリスも、顕著な反応を示して食べているのを耳で、或いは精神感応で聞き及んでいただけに、微笑ましい事この上ない。 「わーでかーい☆ 歌のうまい双子の妖精さんとか側にいないかな? かな?」 バグホール方向からがらがらと台車を曳いて戻ってきた終は、改めておおむしのサイズに圧倒されていた。とはいえ、それはそれ。「事前準備」を果たして戻ってきた彼にとって、次になすべきことはおおむしの誘導だ。魔眼を見ないようにするなら、いっそ前を向いて次々と食料で誘導してしまえばいい。そうでもしなければ視界に入る強制力があるのだ。でけえのよ、あの模様。 「さあさ、蜜色ラプンツェルを食べるッスよー!」 終が間を挟んだとはいえ、誘導を交えつついきなり四つ取り出した計都に、にわかに仲間たちからもざわめきが起きる。こと、記録していたリィンなどは驚愕の表情を貼りつけて計都に掴みかからんかという勢いだ。しかも。 「い、五つ目はちょっと不味いんじゃないかな……!」 「作戦行動に支障が出るのでは……」 無論、智夫とミーシャだって慌てはする。が、計都の顔に憂いはない。会心のしてやったり顔で、切り札を叩きつけるようにおおむしの経路上にそのレタスを置き―― 「あまくないよ、すっごくにがいの、おいしいけど、にがいの」 「あたしが心を込めて収穫してきた、ほろ苦さ満点の大人の味ッスからね……一味も二味も違うッスよ!」 「……それって、『ビターライフ』って呼ぶんじゃない?」 終、「蜜色ラプンツェル」の命名者としてそこはもうちょっと踏み込んで突っ込んでいいぞ。事実だぞ。 「では、次はこれを差し上げましょう。……わさび菜です」 (うっく、から、でもおいし……) わさび菜とかからし菜とかあるけど、基本的に子供には不評ですよね。味覚的に。でも、マリスの用意したそれを食べるおおむしに一切の動きの遅延は見られない。気に入ってはくれたようだが、だとするとどれほど彼のチャンネルは大変な状況なんだろう……などと。ちょっと気になってしまうのは人の情というやつだ。 そんなかんじで。 各人の趣向と勢いと愛に溢れた食料は、おおむしを尋常ならざる勢いでバグホールへと向かわせていた。 「きゃ~しびしびする!?」 待ち時間にちょっと痺れるのはうん、仕方ないよね。 ●ぽっぽやしたいから 「おおむしさん、あーそびーましょー?」 道のりも半ばを過ぎた頃、とらがおおむしの前に躍り出る。開かれたノートPCに映るのは、ロープを介して電車を模すリベリスタ達と、それに並走するおおむし、そして前に位置するとらの姿だ。簡易な絵ではあるけれど、それだけでどのようなものかは分かるだろう。 「……がたごと、なく、おっきくてはやい『てつのかたまり』?」 「そうそ、『でんしゃ』ッスよー。よく知ってるッスね? でもこわくないッスよ、『ごっこあそび』ッス!」 とらの絵だけで理解したおおむしもなかなかのものだが、それを怯えさせずに説明を重ねる計都の会話能力があってこその状況成立とも言えるだろうか。 最初におおむしが車掌役になり、切符と称して「蜜色ラプンツェル」の葉を一枚ずつ渡していく。それをあおむしにすこしずつ渡していく、というのが大方の流れだ。 「ぽっぽっぽ~と♪」 とらの軽快な声色とミーシャが用意したパレードの音楽がその遊びに色を添え、おおむしの気分を弥が上にも盛り上げる。甘いレタスを頬張ることが幸せであるのは言わずもがなで、……まあ、乗客役の時に危うく食べてしまう一幕があったとか、そんなのは仕方ないと思うんです。 続いて、目隠し鬼。この説明に際しては、マリスのマスターテレパスが見事に功を奏したといえる。適切な説明を行える点で、これ以上ないわかり易さを伴っていたことだろう。 「鬼さんこちら、手のなる方ぇ~♪」 おおむしの眼前にリボンを翳し、目隠しがわりにするとらと、鬼役を務めるおおむし。こうあっては目の前にいるのだろうと分かるのだが、それでもおおむしにとっては新鮮で楽しいことには違いない。傍らでは、ミーシャが活発にシャッターを切りまくっているのも見て取れる。情報収集と記録はリベリスタ必須の事項。彼女の行動は確かに後々の依頼の糧になることも、十二分にありうるだろう。 遊んで疲れたら、勿論食事は欠かせない。 各人が持ち寄った野菜を改めておおむしへ配っていき、移動経路を丁寧に確保していく。すこし後から駆けてきた遠子は、大きな花冠を抱えておおむしへと差し出す。身長的に届かないのならば、そこはとらの出番であり、頭上に載せられた図はミーシャが撮影。 撮影されたプレビュー画像をマリスが視認し、マスターテレパスでおおむしへと送る……各人の技能とアイデアが結集したその記憶は、おおむしにとっての幸せに他ならない。 (おはな、かわいい。きれい。すき) (喜んでくれたなら何よりです。似あっていますよ) おおむしが嬉しそうに身を捩ると、周囲の雰囲気も少しだけ和らいだ気がした。……これは、何かの兆候だったのか。 ●さよならはしたくなくないけど アザーバイドは、異世界の住人である。 ということは、こちらの世界の常識も非常識も知らないがために、幻想に弱い節もある。つまり、 「お腹がいっぱいになったら、ママの所に帰りたくなったんじゃないッスか?」 「ママ、いない。でも、もどりたい、かも」 計都の(本来の意味での)魔眼は見事におおむしの意思を揺さぶり、その意思を確たるものにすることができたのだ。既に出口までの距離はかなり詰まっている。目の前に見えるバグホールだって、おおむしの複眼には見えているだろう……が、それ以上にその目を惹くのは、台車に山積みにされた野菜や果物の山。 そう、終が最初に姿を消したのは、偏にバグホールの前へ台車をつけて、おおむしへの土産として提供することが目的だったのである。周到な準備と各人の思いやり、ここに炸裂。 「おいしそう。おなかもけっこう、いっぱい。もってかえっていい?」 「もちろんッスよ、そのために置いたッスから!」 少しずつ、バグホールへ向けて邁進するおおむし。そこまで行くことは確立されたのだから、あとはその背を後押しするリベリスタの言葉があってこそ。(もち、通訳は必要だが) 「お別れの時間だよ」 「早く大きくなってお空を飛べるといいね……」 「きっと綺麗になれるよ、元気でね」 「世界を救ったりとか頑張ってね☆」 「貴重な体験でした。ふかふかでした」 ……ちょっと待てミーシャ、まさか乗っかってたのか。 でも体液も溢れず角も出ず、ということは無事に乗っていたのだろう。まさに(検閲削除)。 終が、ゆっくりと台車を押す。 落ちていく野菜を見やり、一瞬だけこちらを見て、おおむしは先程までより幾分か小さい声で、鳴いた。 「ありがとう」、それだけを残して。 「僕らしくない言葉ではあるけれど……無事に暮らせるよう、願ってやるとしようじゃないか」 リィンが、小さく祈りに似た願いを向け。 「さよなら、お空が青くなるといいね」 「元気でねー……って、もう聞こえないけれど」 「向こうでまた、お腹すかせたりとかしないといいな……」 「十分な量は用意しましたから、大丈夫かと思いますよ」 「そうだねー、その時はまた来てくれるといいね☆」 都合五人のブレイクゲートがバグホールを破砕する音は、秋空に澄んだ音色を響かせる。 帰途についた面々は、僅かに服に付着した粉に目を丸くしたが、それはまた別の話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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