●Rider's Necklace 「ふひゃひゃひゃひゃ!! ゴボウ抜きだぜぇ!!」 『高速道路』を『低速』でしか走らないマヌケ共を置き去りにして、俺は勝利の雄叫びを上げる。胸元で煌めくのはナンバーワンの証、"1"を象ったネックレスチャーム。 「この場所でオイラたちに敵はねぇ!! オイラたちは無敵のチームだっ」 緑のバイクに"松"を象ったネックレスをつけたこの男は、俺の相棒の一人。 「まったく、お前等と居ると退屈しないぜ。最っ高にスリリングな夜だ!!」 そして青のバイクに"α"のネックレスのこの男もまた、俺と夜の街を走り続けて来たかけがえのない仲間だ。 それぞれに最上、筆頭、第一級の証を帯びた俺たちは、いつか走りでこの世にその名を轟かせてやろう。"ネックレスのライダーズ"の名を聞けば、誰もが震え上がらぬ者のないように。 「俺たちは誰にも抜かれない!! 俺たちは風になるんだ!! そうだろ!?」 俺は同意を求めて隣を伺う。 と。いつもだったらヘルメットの奥で俺の言葉にニヤリとニヒルな笑みを返してくれる筈の"α"の顔が、どこにも見当たらないじゃないか。 なんでコイツは、首から赤い血柱なんて吹き上げてるんだ? クールなコイツには正直血柱なんてあまり似合わない。 少しだけ残った首の上で"α"のネックレスが濡れて赤くてらてら光っている。 ぱた。ぱたぱた。ヘルメットに粘り気のある液体が落ちる。 ナンダコレハ。 「な、ナァ見ろよ"松"ぅ。"α"の奴、頭をどっかやっちまったみたい……だ……ゼ?」 反対側を伺った俺の目に映るのは、巨大な鳥の、鱗みたいな脚が、ごきりと"松"の頭をもぎ取るところ。 なんだ。"松"の奴。お前も首、なくなっちまったのか。仕方のない奴だな。 誰にも抜かれないと誓った俺の真上を、翼の形をした黒い影が易々と追い越す。追い越して、戻って来る。 あは、あははははは。 う、嘘だろ。冗談だよな? 俺、ま、まだ、し、しにたくな…… 空と。俺のモノだったバイクと。俺のモノだった身体が見えてくるりと回った。 ●Rider's Neckless 「クビ」 アークの中枢にあり『万華鏡』の制御を一手に担う『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が冷たく言い放ったその言葉に、数人のリベリスタが思わずびくり、と肩を竦める。 「首がないの。今度の敵は。……ところでその反応は、何?」 自らの勤務態度に若干の後ろめたさを感じていた少数の者たちは、皆てんでに視線を反らす。 イヴは表情を変えぬまま、吐息だけはアンニュイにふぅ、と溜め息をついた。 「……何も解雇しようと言うつもりはないわ。アークは今、ただの一人でも人材が惜しい。 今回の依頼は、まさにそれ。人手の問題。高速道路に出没したE・ビーストが民間人を殺害したのだけれど、その死体のうちいくつかがエリューション化してしまったようなの。E・ビーストの方は飛行して逃げ回る厄介な固体だから、こちらの討伐を担うチームは奴の『副産物』にまで手が回らない。後始末みたいな仕事で悪いけれど、お願い。頼まれて」 見渡したリベリスタたちの間から、異論や不平が返らないことにイヴは満足げに頷き、先を続ける。 「『副産物』とはいうものの、彼らは原因となったE・ビーストと同等に厄介だわ。敵の出現地点は高速道路上、全部で三体。その何れもが、彼らが駆っていたバイクと融合する形でE・アンデットとなってる。どの固体もフェーズは2。彼ら、生前はチームを組んでいつも一緒に走り回っていたらしいけれど、首無しのエリューションになっても仲が宜しいことね。現在も徒党を組んで、その区域を通行する車やバイクを襲っている。 今はそれで満足しているみたいだけれど、『首無し暴走族』の噂が広まってその区域を通行する者は少なくなってきているわ。そうなれば、彼らは獲物を探して高速道路から街へと彷徨い出てしまうかもしれない。エリューションの乗った暴走バイクが市街地を駆け回る、なんてことになる前に、速やかに処理してほしい。 といっても。原型は人間だとはいえ、バイクと一体化している彼らの速力は危険だわ。回避能力が高いというだけじゃない。全速力でぶつかられただけでも、普通の人間ならひとたまりもないでしょうね。その上エリューションとしての能力もいくつか身につけているようだから、十分に気をつけて。任務中はアークが該当区間を封鎖するから民間人は入ってこられないけれど、そのバリケードも、彼らがその気になれば飛び越えられてしまうかもしれない。だから万が一にも逃げられないように、区間の前後から挟撃することを勧めるよ。 三体一組のエリューションだけど、その動きには全く統制がとれていない。真夜中に現れては誰彼構わず闇雲にスピード勝負をふっかけて、彼らが勝てば相手を壊すだけ。 ……まぁ、チームワークがとれていないのもある意味当然かもしれない」 イヴはそこで言葉を切ると、少しだけ声を落とした。 「なにしろ彼らには統率者(ヘッド)がないのだもの」 「…………」 静まり切ったリベリスタたちを前に、イヴはこほん、とひとつ、気まずそうな咳払いをする。 「……とにかく。公道を我が物顔で走り回る彼らの鼻っ柱をへし折って頂戴。……ああ、当然分かってると思うけどこれも勿論言葉の綾。鼻っ柱を折るために彼らが失くした頭をわざわざ探してやる必要はないわ。きっとそれだけで随分、骨が折れるでしょうから。 高速道路を封鎖できるのはせいぜい一時間がいいところ。仕事は早く、そして速くね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諧謔鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月06日(日)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●疾走 閉鎖区間、西端。『素兎』天月・光(BNE000490)は天に燦然と輝く満月を嬉しそうに見上げる。きっちりと締めた鉢巻きが、涼やかな風に流れた。 「月夜に駆ける♪ 駆けっこ日和のいい月夜っ」 「がんばって……ね。ふたりとも……」 『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は、ウォーミングアップを怠らない二人のビーストハーフに声をかける。 「E・ビーストのせいで、首無しライダー……ね。なんて可哀想……」 零した涙はしかし、かみ殺した欠伸のせい。 うみゅ、とふやけた声を漏らしながら目尻を拭う。 「ねむいねむいねむい……」 「はしる、はしる、首無で。 行く場所、迷子、世界の迷子 死んでも心はこちらにおきざりに 不条理今日も牙をむく——」 歌のように。或いは詩のように。もしくは見えないお友達との世間話のように。 『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は韻律を持った呟きを夜風に流す。 行き先を持たないその散文詩に、しかし耳を傾けて嘆息したのは『後衛支援型のお姉さん』天ヶ瀬 セリカ(BNE003108)。 「仕事でクビが飛ぶのも、借金でクビが飛ぶのも、勘弁だけど」 セリカの口調は『仮定』ではなく『実体験』を語るかのように苦々しい。 「でも、物理的にクビが無くなるよりはマシよねぇ……」 「愚痴ってないで出発しよ? 東班はもう出たかもしれないし、ぼくらだけサボってたらホントにクビになっちゃうよっ」 光に促され、セリカはバリケードから腰を上げる。すう、と深く吸い込んだ冷たい空気が、彼女の射手としての感覚を研ぎすませていった。 「よし、それじゃ、出発しんこー!!」 「必要……ないみたい、よ」 光の号令を、那雪はおっとりと遮る。彼女の視線の先には、目映く光るヘッドライト、ふたつ—— 「挟まれたのに気づいて、二手に別れたみたい……ね。へぇ、ちょっとは賢いんだ……」 「向こうで止まってる。ルカたちを誘ってるんだ、駆けっこしようって」 「ルカルカ、準備はいい? 始めはぼくの後についてきてね」 「うん。彼らの鼻、もうないから、代わりにプライドをへし折ってあげるの。 ルカは、最速よ」 光とルカルカは互いに頷きを交わしあう。 「ってことは、東には一体行ってるのね。 向こうのスピード担当はリュミエールひとりだから……競争としては対等の条件かしら」 セリカは5キロ向こうの西端、三人の仲間たちがこちらへ向かっているはずの方角を見やった。 同刻。閉鎖区間東端付近。 「いっけぇええ!! リュミエールちゃん!!そのまま抜いちゃえーー!!」 「バリバリだぜぇー!!」 「ふぁいとです〜」 夜の高速道路を必死で走り抜けながら、前方に向かってあらん限りの声で送るのは、東班『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)、『エリミネート・デバイス』石川 ブリリアント(BNE000479)及びユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)。 そしてその声援、音の速さすら置き去りにしかねない速度で、銀弾の如く夜を切り裂くのは。 「徒歩の私に並ばれるバイクの気分ドウダ? アー?」 並走するエリューションに向かって毒を吐く、『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)。 真っ赤なバイクに跨がった首無しのライダーは、答えを返さない。 ただ胸元に”1”のネックレスチャームだけが、流星のように通り過ぎる街灯に煌めく。 「……死人にクチナシ。でもお前に山梔子(ハナ)は、ヤラネーヨ。勝つのは私ダカラナ」 しかし彼女の挑発は、しっかりと”1”の『耳』に届いていたようで。 鋭い音と共にタイヤが滑り、大型バイクの重量が横様にリュミエールに迫る。 「チッ」 体当たりを跳躍によって躱したリュミエールは、走行の足場を防音壁へと移す。 重力に対して直行する本来有り得ない体勢での疾駆ながら、面接着と類い稀なるバランス感覚が彼女の速度を鈍らせない。 今のところ、彼女の方が僅かに”1”を追いかける形となっている。 しかし彼女の中に眠る獣は『狐』。獲物を追う瞬間にこそ、その狩人の本性は牙を剥いた。抜くことは能わず。しかし一歩たりとも遅れることなく、彼女は駆ける。 と。前方から迫る二つのヘッドライト。そしてそれらに挟まれる形で並走する、二人。 互いが互いの勝負の行方を確認する暇もなく、西班と東班の最前線はここで、交錯する。 ●交錯 遮る物のない風圧を一身に受け、しかし切り裂き。駆け抜けるのは光。そして彼女の背後を影のように付き従いながら走るのは、パーティ最速の羊ルカルカ。 ここまで徐々に高めてきた体内のギアは、そろそろ最高潮。タイミングは今しかなかった。 と、言っても。両隣は"α"と"松"が塞ぎ、抜かせまいと幅を狭める。ならばこの人間のカタパルトから砲弾を撃ちだす唯一の手段は—— 「受け継ぎ引き継ぎ渡して伝える! 兎の運び屋が運んできたのはルカルカくんだ! ……魅せてあげてよね!!」 光は強く地を蹴り宙に、跳んだ。 その輪郭が満月に重なる刹那、彼女の真下を、最高速度に達したルカルカが一息に抜き去る。 光も、ニ体の首無しライダーも、景色も、風も。 目的も、意図も、未練も、しがらみも、この世に遍く不条理と理不尽とを背中に残して、 世界の全てを置き去りにして。 速度の化身となった獣は、駆ける。駆ける。 最速の称号を、恣(ほしいまま)にする。 ニ体のエリューションが如何にエンジンを唸らせようと、どれだけの手管を用いようと。この差はもう、覆せない。 ……速度の勝負は、ここまでだ。ここからは、血を流す闘い。 東端バリケード手前、速度を殺さぬままに反転したルカルカは、ナイフを抜き放つ。その唇は既に勝者の愉悦を浮かべ…… 圧倒的相対速度を以て、前方に迫るエリューションに向けて、突き出した。 そして再び西端付近。 互いに先行を赦さないリュミエールと"1"の争いにも、終わりが近づいていた。 このままの速度で跳躍すれば、おそらく"1"はバリケードを突破できる。しかし、そうすればその一瞬タイヤは空転し、依然加速を続けるリュミエールに抜き去られることになるだろう。 何よりも走りを誇る首無しライダーは、『リベリスタ』たちとの勝負より、今、まさに、速度を競うリュミエールとの勝負を選んだ。 バリケードに衝突し、粉々になる直前で。チキンレースの限界離脱点で。両者はブレーキをかける。 "1"のブレーキが軋る。リュミエールの靴底が火花を上げる。 両者は殆ど同時にバリケードの目の前でぴたり、と止まった。 誰が審判を務めたわけでもない。しかし結果は誰より彼女ら自身がよく分かっていた。 「同着、か……オシカッタナ……」 依然闘争本能を滾らせたバイク一体型のエリューションは臓腑を揺らす力強いエンジン音を上げる。 突進、そして衝突。 ぶつかりあった鋼の車体と高速の剣撃は火花を上げて弾きあう。 再び離れた距離、リュミエールは"1"が反転する隙を狙おうと、ソードエアリアルでの追撃を試みる。壁を蹴り、街灯が撓るほどの反動をつけて。彼女は自分の身体を撃ち出した。 と。 突撃するリュミエールに向かって、"1"はバイクの前輪を持ち上げる。 「!!」 空中。それは翼を持たない者にとって、推力を得る足場を持たない、『開かれた行き止まり』。リュミエールが射線に重なった瞬間、"1"のヘッドライトが目映く輝いた。 閃光、そして衝撃。 レーザーによって射抜かれたリュミエールは、防音壁に叩き付けられる。焼け付く痛みに、一瞬飛ばしかけた意識を。突き刺すような前輪の一撃が追撃した。 さらに、もう一撃、とどめを—— 「させないよっ!!」 幻影を伴い横様に突き刺さる一撃が、リュミエールの上にのしかかっていたバイクを弾き飛ばす。 「ヘイ!かけっこの後は楽しい舞闘の時間だ!」 少しずらしたサングラスの奥で。光の真紅の瞳が煌めいた。 「リュミエール、大丈夫かっ」 続いて駆けつけたブリリアントが、リュミエールを助け起こす。 「くっ、アバラをヤラレタカ……」 げほっ、と咳き込み、リュミエールは赤い唾を吐き出す。どうやら致命傷ではないようだが、暫く立ち上がれそうにはなかった。 「うむ、ここからは私達の出番だ。どーんと任せておけい!!」 ブリリアントは、体勢を立て直して再びエンジンを噴かし始めた”1”に向けて、身の丈の大太刀を正眼に構える。 「西班はドウナッタ?」 リュミエールの問いかけに、真っ直ぐ敵を見据えたブリリアントは背中越しに答えた。 「ああ、向こうは——」 東側へ向けるブリリアントの視線の先で。夜空を照らす爆炎が、上がった。 ●血戦 「あたしを焼くには熱が足りないよ!! もっと、もっと熱く!!」 未だ黒煙を上げ、燃え盛る炎のただなかを斬乃は真っ直ぐに突っ切って”α”へと向かってゆく。 高速回転するチェーンソーの刃が炎を引きずり赤く灼けた。 ”松”が放った爆炎に眩んでいた”α”は、斬乃の接近に対して無防備な側面を晒していた。 雷電を帯びた大上段の一撃が、バイクに跨がるその肩口を袈裟懸けに切り裂く。 ルカルカによって走りのプライドをへし折られた"α"は、逃走を図ることも厭わなかった。 傷を受けたエリューションは、バリケードを突破せんと敗走を開始する。 助走をつけ、飛び上がったその車体をしかし、地表から伸び上がった気糸が絡めとった。 「待ちなよ。 ……少し、遊んで行かないか?」 醒めた口調で問いかける那雪の瞳には、集中の光が宿っている。 バリケードの上に腰掛けていた那雪は、立ち上がるとその細い指先でくい、と眼鏡を押し上げた。 「……さて、そろそろ本気だすとしようか」 「二度目の爆破はもう、ありませんよ〜」 間延びした口調とは裏腹に、ユーフォリアの連撃はその剣速によって"松"を圧倒する。 このままでは圧し切られると思ったのだろうか。”松”はユーフォリアの一撃を敢えて受ける。 刃が肩口に食い込み、止まった瞬間。”松”はオイルタンクを解放した。 直撃を避けるため、ユーフォリアは片方のチャクラムを捨てて飛び上がった。 と、攻撃が止んだ隙に飛び退いた"松"はマッチを擦る。 空中とはいえそこは十分に爆炎の、効果範囲内。退避は間に合わない。 ならば火元を狙うのみと突きだされたユーフォリアの刃はしかし、放り投げられたマッチを僅かに掠めて空振る。 「……っ!!」 爆炎にまかれる覚悟を決め、身構えた時。 小さな炎が、まき散らされた油に触れる直前に、路面すれすれのそれを撃ち抜いたのは那雪のピンポイントだった。 「小さい対象だろうと……狙える」 「那雪ちゃん、上っ!!」 ユーフォリアの声に反応して那雪が見上げると、トラップネストの縛めを解いた”α”が、今にも彼女の頭上に落下しようとしていた。紙一重で反応した那雪は、”α”の影が落ちる範囲から滑り出る。 踏みつけを躱されたとみた”α”は、アクセルをふかし旋回しながら、広範囲に有毒のガスを散布した。 ルカルカと斬乃は示し合わせた通り互いを背にし、呼吸を合わせる。 「いくよ、斬乃、遅れないでね」 「応!!」 ルカルカのソニックエッジ、斬乃の疾風居合い斬りが、彼らを覆わんとするガスを散り散りに斬り飛ばした。 しかし”α”の狙いは、ガスを取り払う為に振るわれる攻撃の、大振りの隙。 フルスロットルの突進は真っ直ぐにルカルカと斬乃へと向かい—— しかし、針の穴をも射抜く精密射撃が、斜め後方から”α”の前輪を貫く。 スパークしたタイヤから、ゴムの黒い残骸が散った。 「スピード出し過ぎ注意、よ。早死にしてもしらないんだから。 ……もっとも、もう、遅いみたいだけど」 勝利を確信した科白の後で。セリカはライフルの銃口に燻る紫煙をふう、と吹き消した。 制御不能に陥った”α”を、真正面で待ち受けるのは。 笑みを浮かべ、チェーンソーを構えた斬乃。その刀身は既に紫電を纏い、敵の肉を抉るその瞬間を待ちわびている。 ”α”自身が提供した速度によって。 その肢体は。そして死体は。 真一文字に、両断された。 鎖を断ち切られ、投げ出された”α”のネックレスを斬乃は空中に掴みとる。 「……ドックタグとは、いかないけどね」 一方、”α”撃破を確認するまでもなく”松”へと向かったルカルカは、逃走を試みるその背中に追いついてソニックエッジを浴びせる。 「死んでもまだ、世界に縛り付けられるその不条理ごと…… ルカが、ぶった切ってあげる」 オイルをまき散らしながら転倒する首無しライダーに向けて、さらにもう一撃。連撃が敗北を刻み付けた。 尚も立ち上がろうとする”松”を、那雪のトラップネストが縛り付ける。 「そろそろ、遊びの時間は終わりにしよう。 ……もう、眠る時間だろう?」 苦し紛れに油の海の中に放り込もうとしたマッチは、ユーフォリアのチャクラムが手首ごと斬り飛ばす。 胸の真ん中にセリカの狙撃が突き刺さり。仰け反る身体を。 「さー、天国へ逝かせてあげるよ!!」 振り下ろされたチェーンソーが、縦割りに引き裂いた。 西端の戦場では、繰り返しバリケード突破を試みる”1”を、ブリリアントがメガクラッシュのノックバックによって押し戻していた。 正面に立てば、レーザーの的になる。しかし立たなければ、突破を赦してしまう。ブリリアントは満身創痍となりながらも人間のバリケードとなっていた。 そんなブリリアントになるべく攻撃の手が及ばぬよう、三次元的に立ち回りながら”1”を翻弄する光は、徐々に相手の体力を削っていた。 時には彼女自身が盾となり、この幽鬼を外界に逃がすまいと奮戦する。彼女の体力も、既に限界が近かった。 互いに血で血を洗う削りあい。後はどちらが先に倒れるか。それだけだった。 もう何度目になるだろう。”1”の突進を、真正面から拮抗させるメガクラッシュによって防いだブリリアントは、遂にバリケードの後ろへ倒れ込む。 既にそこへ退避していたリュミエールの隣で、ブリリアントはぐるぐると目を回した。 的をひとつに絞った”1”は光に向かって怒濤の攻勢を加える。 ウィリーから放たれる前輪の殴打が、光の細い身体を弾き飛ばす。 既に体力は尽きた。しかし彼女は残る気力を振り絞って、叫ぶ。 「オイルを燃やして走り抜けるのがバイクなら、命を燃やして駆け抜けるのが人間だ!!」 今にも断裂しそうな全身の筋肉に再び力を漲らせ。跳躍に備えて屈んだ光。 それに先行して、再び空中戦を仕掛けるべく”1”が跳ねる。 そして追って光も跳ば…… なかった。 ——フェイント。 起死回生の策の成功に、光は笑む。 「引っかかったなあほめがっ!!」 真上に振り上げられたナイフの刺突は。 バイクの腹側、オイルタンクを深々と刺し貫いた。 轟音とともに立ちのぼる火柱を見て、仲間達が駆けつけた西端では。 光、ブリリアント、リュミエールが仲良くならんでのびていた。 周囲には、散り散りになった”1”とバイクの残骸。 光が煤だらけの頬を緩めながら手を振るのを見て、仲間達は胸を撫で下ろす。 「不運と踊っちまったのかー。同情はしないが、哀れではあるな」 目を覚ましたブリリアントは、改めてエリューションの残骸を見下ろし呟いた。 「我らにも『統率者(へっど)』は無いが。チームワークの勝利だな!!」 「怪談にでも出てきそうな首無しライダーですけど~、彼らの首はどこに行ったんでしょ~か~?」 「気になるなら……探して、みる……?」 那雪の問いに、ユーフォリアは笑みを引きつらせてたじろいだ。 「じょ、冗談ですよね〜?」 問いかけるユーフォリアに、那雪はただ眠たげな欠伸を返す。 「あ。あれ見て!!」 そう声を上げて斬乃が指差す先には。一棟の高いビル。 そこから放たれた閃光に射抜かれて、巨鳥の姿をしたエリューションが今まさに、墜落しようとしていた。 「向こうのチームとのスピード勝負にも、勝ったみたい」 得意気に言うルカルカに、セリカは安堵の溜め息を吐く。 「どうやら私たちのクビは、飛ばずに済みそうね——」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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