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<ハロウィン2011>橙灯る夕闇の街

●馴染みがなければ馴染ませればいいじゃない
 アーク本部の前で、白いシーツが屈み込んでいた。
 見ない振りをするべきか、一瞬だけ迷ってしまったリベリスタ達の袖をそれは掴む。

 Trick or Treat.と。

「むしろトリートアンドトリートで。ああ、お前もういい年だろうとか言うのはなしですよ。お祭りなんて全力で乗っかった方が楽しいじゃないですか。どうせなら踊りましょうよ。ぼくは好きですよ、お祭り。なので遠慮なく堪能します。あ、そうですそうです、ハロウィンです」
 マジックで顔を書いた白いシーツ――『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は、布を揺らしながらそうのたまった。
 シーツの合間から除いたチラシを持った腕が、いつも通りのシャツな辺りが本気でもう少々努力点であった。
 チラシに書いてあったのは、ハロウィンの飾り付けの案内。
「つまりですね、『お化けが出てきて、いつもの街を怖い怖いお化けの世界にしちゃうぞ!』というコンセプトで行われるイベントです。具体的に言うと常闇の世界の住人の侵略です。怖いですね。助けてリベリスタ。で、やる事はつまり飾り付けです。三高平公園と周囲の商店街が飾り付けの対象だそうで」

 フェルトで作られた温かみのあるジャック・オ・ランタンのぬいぐるみ。
 コミカルな顔をしたお化けが描かれた風船。
 橙と黒で作られた紙のチェーンの下、薄い綿を広げた巣には画用紙を切り抜いた蜘蛛が住む。
 その程度の飾り付けは各店舗でも少しだけやっていたが、折角だからイベントにして商店街の客足ごと盛り上げてしまおう、という魂胆らしい。
 日本では馴染みが薄かろうがなんだろうが、行事として定着させてしまえばこっちのもの。
 商売人は逞しい。
「ある程度の小物は準備されているそうなので、それを使って飾り付けても良いですし、自前で道具を持ってきて本気を出して下さっても構わないそうです。飾り付けを見ていく人の中には審査員も混じっていて、『ベストオブハロウィン』に選ばれると何か賞品も貰えるそうですよ」
 何でしょうねえ、楽しみですねえ、とシーツを震わせる男が本気か否かは定かではない。
「小学生以下の方はトリックオアトリーターでもありますからね。商店街に行った場合は例の台詞を言えばお菓子を貰えるはずですよ。いいなあぼくも欲しいです。お菓子というより気持ちが欲しい、ギロチンです。それはいいです。大人ですか。だめですよ。だめですよ?」
 参加証として首から掛けるのは、紐の先に薄いプラスチックの南瓜を付けたペンダント。
 夜光塗料が塗られたそれは、暗くなってくると参加者の胸元でぼんやり光るのだと言う。

「さっきの通り『お化けがこの世界を自分の世界にしてしまう』という設定なので、仮装で行くのが喜ばれると思いますよ。ぼくもこれで行こうかと思います。皆さんの仮装が楽しみですね」
 本番までにもっと凝れよ。
 数名のリベリスタが抱いたであろう突込みをギロチンが認識する事は、多分ない。
「さてさて、それでは日常を闇に染めてやろうという『お化け』の皆さんはこちらにサインをお願い致します。ああ、大丈夫ですよ、別にこの機に乗じて変な契約させようとかは考えてませんから」
 無駄に一抹の不安を煽りながらギロチンは参加申込書を机に置く。
 上に乗せたペーパーウェイト代わりのミニ南瓜は、楽しげに笑っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年11月11日(金)22:39
 不気味な小物が店に堂々と出現するハロウィンが大好きです。黒歌鳥です。

●目標
 三高平公園、及び許可済みの商店街の店舗をハッピーハロウィン。
 この飾り付け自体がイベントの一環なので、仮装が全力で推奨されています。
『ベストオブハロウィン』の基準は見回る審査員の好みやセンスに左右されますので、怖さや精巧さだけで選ばれる訳ではありません。

●状況
 午後の遅い時間~程々に暗くなるまで。
 ※お友達やグループで参加の場合、フルネームとID、グループの場合は【】で名前を括るのを忘れないで下さい。はぐれてしまう危険性があります。

 【1】三高平公園で飾り付けをする
 木々やベンチ、池の周り等に。 
 本気振るいたい方は此方にどうぞ。
 ライトアップ等もあまりに大掛かりでなければ可能です。
 人が怪我をする危険性のあるものは却下されます。
 
 【2】商店街で飾り付けをする。
 一般的な商店街にありそうなお店があります。窓や看板、ディスプレイ等に。
 子供が泣いたりお客さんが引いたりしない程度のほのぼの飾り付け推奨。
 小学生以下の参加者さんは、飾り付けしつつの「トリックオアトリート」で商店街の方がお菓子をくれます。大人でも何か頑張ればもしかしたら貰えるかも知れません。
 ほしいひとはおとなげなくがんばってください。
 ※アイテムとしての発行はありません。
 
 どちらに参加したいか頭に数字をお書き下さい。
 このシナリオのメインは『飾り付け』なので、差し入れ等は程々に。
 休憩用として多少の飲食物を持ち込むのは問題ありません。
 飾り付け用にお菓子を持ち込むのも、もちろん問題ありません。
 他、『楽しいイベント』を逸脱しない程度にお楽しみ下さい。

●NPC
『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)がいます。
 ギロチンに何ぞ用があります場合、ID等は不要ですので名前でお呼び下さい。

●注意事項
 ・色々と手を伸ばすより、「これをやりたい!」という一点に絞るのが良い感じです。
 ・イベントシナリオでは描写が確約されません。描写量は趣旨に沿ったプレイング優先となります。
 ・未成年の飲酒、喫煙は禁止です。
 ・違法行為や他の参加者さんに迷惑になる行為、白紙は描写致しません。

 ・このイベントシナリオに参加したキャラクターがハロウィン専用SD商品を所有している場合、挿絵として挿入される可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 0人■
■サポート参加者 36人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
ナイトクリーク
倶利伽羅 おろち(BNE000382)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
プロアデプト
氷雨・那雪(BNE000463)
デュランダル
石川 ブリリアント(BNE000479)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
スターサジタリー
ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
デュランダル
桜小路・静(BNE000915)
覇界闘士
レイ・マクガイア(BNE001078)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
スターサジタリー
リーゼロット・グランシール(BNE001266)
インヤンマスター
龍泉寺 式鬼(BNE001364)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
ソードミラージュ
エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)
スターサジタリー
立花・英美(BNE002207)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
クリミナルスタア
李 紅香(BNE002739)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
クリミナルスタア
黒 狗鳥(BNE002790)
ホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)

小手鞠 深弥(BNE003021)
ソードミラージュ
津布理 瞑(BNE003104)

アルジェント・スパーダ(BNE003142)


 橙色の灯りが木々を彩る。
 夕暮れに溶けるような色合いのそれも、時が進むにつれて存在感を増していくに違いない。
 発泡スチロールで作られた墓は、暗くなればぴかぴかと目のように光るのだ。
 それより先に、枝に吊るされた骸骨が揺れだすだろうか。
 一夜の幻、死者と闇の国が広がり始める。

 もふもふとした体。しかし腰にはベルトをつけ、赤いマントをなびかせるモル。
「やっぱり定番はお化け南瓜の提灯だよねえ」
 もとい、モルぐるみに身を包んだ疾風は両手に抱えた南瓜を見た。
 あるものはフェルトで作られた魔女の帽子を被り、あるものは木で作られた杖を横に付けている。
 日々子供たちのヒーローとして活躍する彼は、仮装してもやっぱりヒーローだった。
 折角のイベント、少しでも楽しくなれば良い。
「こうするとハロウィンらしいかなあ?」
「うん!」
 近付いてきた子供を肩車、南瓜を被ったモル人形を枝の片隅に置いて貰い、疾風は楽しげに笑った。
 枝の先に覗くのは、派手な電飾が目立つトラックだ。
『爆走南瓜街道』、『アーク御用達』、『真夜中の幽霊』……どこで調達してきたのか、釣り下がる行灯の文字は若干違う気がしないでもないがそれでもしっかり今宵に合わせたもの。
「ハロウィン仕様、龍虎丸ぅ」
 赤青きらきら輝くトラックに物珍しげに寄ってきた子供に、御龍は荷台を開いた。
 ひゃあ、という声が子供たちから漏れる。積まれていたのは、飾り付けの為の小物。
「さ、君らどれから飾り付けるぅ?」
 ころり転がってきたオバケの顔を片手に、彼女は悪戯っぽく問いかけた。

「人ってよくわからないものが基本怖いのですよね」
 その言葉を体現したかの如く、沖縄のシーサーの着ぐるみを着た桐がふむ、と頷く。
 何ゆえ沖縄。そしてシーサー。だが仮装は自由である。本物の悪霊を追い払ってくれるかも知れない。
 ベンチに近寄り、まずは布とダンボール。崩れてはいけないから念入りに強度を確認し、己の背よりも高く積む。
 ついで付けるのは腕に見せかける枝と木切れ。腕は二本とか細かい事は言わない。だってよく分からないものだし。
「こんな感じですかね?」
 下がって眺めた桐が頷く。その姿はさながら溶け始めた雪だるま。
 そこに現れたのは、ミュゼーヌと三千だ。
 繋いでいた手が離れる瞬間、執事は騎士に声を掛けた。
「あ、あのっ、とっても、いいにおいがしますね……よく、お似合いだと思いますっ」
「……そう?」
 華やかな薔薇の香り。ピンクのボトルの向こうに見えた顔がそこにあるのを思いながら、ミュゼーヌは少しだけ顔を背ける。
 離れた温度は少しだけ名残惜しかったけれど、飾り付けには手を抜かない。
 長いツタを各所に存在するジャックオランタンに巻きつけ、ベンチに這わせる。
「三千さん、此処にツタを。そっちを持ってくれる?」
「はいっ」
 二人で仲良く作業を続け、一段落した後に三千はミュゼーヌの傍らに黒馬のペーパークラフトを置いた。
 気の利く執事に凛々しい騎士が微笑めば、彼も少しはにかんだように笑って温かいお茶を差し出した。

 大物狙い。この場合設置するから狙いではないのかも知れないが、とりあえず大物。
「じゃじゃーん☆ か~ぼ~ちゃ~のばしゃ~♪」
 どこかで聞いたような声真似をしながら、終が飾り付けた馬車の傍でくるくる回る。
 とは言え公園内に馬は連れ込めないので車の部分だけ、動いてはいけないので車輪ロックもしっかり。
 子供が乗って遊んでも大丈夫なよう、安全設計も完璧であった。
 ハツカネズミの御者はせっせと周囲の木々に照明を巻き、暗くなった時の光景を思い笑う。
 ここに乗るのは、違う国へと遊びに行く夢を持つ子供達か、それとも二人の時間に浸りに来たアベックか。
 少し先の池の傍では、南瓜頭の魔女が何やら叫んでいた。
「スワンよ、今宵お前はバジリスクになるのです!」
 指差した先にはスワンボート。
 どうやって持ち込んだとかこまけえことはいいんだよ。幻想纏いとか自力とか色々あるんだよ。
 ともかくそれは既にエーデルワイスの手によって完全に変化――むしろ進化を遂げていた。
 近付けば漂う、鼻を通る香り。薄ぼんやりと光るランタン。
 窓からは謎の骸骨の手が覗き、たまに尻尾がばしゃんと動く。
 完成したのは池の主。
 池に浮かんだそれに子供らが恐る恐る、それでも目を輝かせながら乗り込むのを見て、エーデルワイスはふふりと笑った。


 通りを飾るのはジャック・オ・ランタン。
 どの店も照明を控えめに、闇と橙を際立たせる。
 今宵だけ、この通りはこの世のものではなくなるのだ。

「ふむ、ハロウィンの飾りつけと言うからには、カボチャの切り抜いたモノを……」
 フリルの付いた着物から九本の尾を生やし、南瓜を片手にリーゼロットは思案する。
 飾り付けの経験には乏しく、何をどうすればいいのか完全に手探りだ。
 とりあえず積んでみた。
 左右に棒もつけてみた。
「お、これは……」
 何となく形になった気がする。南瓜だるまか。もしくはあれだ。
「トーテムポール?」
 思案。なぜこうなったのか。だが存外、見た目的には悪くない気がする。多分。
 考えた彼女は更に頭に看板を刺す。

 ――『三高平ハロウィン通り』

 入って真っ先に目に入るのは、達哉の作ったケーキだ。
 南瓜プリンの土台の上に生クリームやカスタード入りのシュークリームを積み、上からチョコレートを掛ける。
 更に鮮やかな色のカラーシュガーを散らし、アクセントとしてホイップクリームで飾り付け。
 これを食べるのは最後のお楽しみ。
 けれども既に、甘い香りと見た目に引かれた子供達が集まってきている。
「SWEETなDREAMで子猫ちゃんたちを虜にするぜ? と言ったところか……」
 アーク本部でいつも涼しげな顔で謎な事をのたまうフォーチュナの青年を思い出して達哉は呟いてみるが、どうにも及ばないなと苦笑した。
 瞑が謎なうなぎの着ぐるみを着ながらやはり謎にうなぎの装飾を付けて回る隣、雪女の仮装をした光が街路樹にジャク・オ・ランタンを飾る。
 シンプルに、だが丁寧に。
 ハロウィンの分かり易さを一番に考えた光は、頭につけたうさ耳を揺らして頷いた。
 ついでにふらふら歩いていた白いシーツにもランタンを渡し、次の場所に移ろうとした光に『トリックオアトリート』の声。
 振り返れば可愛い猫娘と悪魔が笑っている。
「人参チップスだ! 美味いぞ!」
 そんな彼女らに、光も笑ってラッピングされた袋を差し出した。

「街を練り歩くだけで菓子を頂けるとは文字通りに美味しい行事じゃの」
 鬼面を被り歩く式鬼の言葉は、ある程度子供たちの素直な心情であろう。
 柵に鬼面を掛け、呪符を貼る。
 なんかこの一角だけのろわれている。
 和風ではあるが、いいのだ、日本のハロウィンはこんなものだ。
「とりっく、おあ、とりーとー」
 本屋の扉を開けた式鬼に、にっこりと菓子が差し出されたのは言うまでもない。
「さあ、子供達よ泣き叫ぶがいい。これが恐怖というものだ!」
 何の仮装だか分からない、というか仮装なのかも分からない。
 けれど確実に属性:ゴーストな格好をした九十九が両手を広げて見せれば、きゃーっと叫んだ子供達は辺りに散らばった。
 が、彼がぽんぽんぽん、と店先の机に明るい色の箱を並べてみればその視線も好奇心に変わる。
 最初に近寄った子供が勇気を出して開けてみれば、バネが弾けて飴があふれ出た。
 様子見をしていた子供達は、それに歓声を上げて走りよる。
 とある箱からは銀紙に包まれたチョコレート、色とりどりのガム、そしてたまに飛び出す南瓜頭。
 わくわくしながら箱を開ける子供達からは、お菓子ではなく笑顔が弾けた。
 彼が飾るのが待ちきれず手を伸ばしてきた子供に箱を差し出しながら、九十九は仮面の奥の目を細める。ああ、此処は平穏だ。

 ふらりふらりと歩く那雪は、通りの中心でぱちりと目を開く。
 あれ、ここは何処だろう。
 確か自分はハロウィン用のお菓子を買いに来ていたはずだから、通りにいるのはおかしくないのだが。
 記憶が定かではない。けれど楽しそうだ。周囲にはハロウィンの飾りが溢れている。
 よく見ればどこかで見かけたような顔があるような気がしないでもない。
 賑やかで楽しそうだから手伝っていこうか、そんな事を思いながら歩く那雪は真っ直ぐの方向からずれ人に当たった。
「あら……ごめんなさい、ね?」
「いえいえこちらこそ前方不注意で、というか実は殆ど見えなかったりするんですけどね。一応ちょっと目は開いてるけど動くとずれてよく見えないんですよ、困りましたね」
 訂正。白いシーツに当たった。
 なんだかよく分からない、けれどなんとなく元気な人だなあ。
「おわびがわり……はっぴーはろうぃん」
 そんな事を思いながら那雪はまだ眠気の残る頭で、バルーンを浮かべる糾華の方へと歩き始めた。
 蝙蝠とお化けのバルーンを店先に繋ぐ糾華の腕にかけたバスケットには、キャンディとマシュマロ。
 吸血鬼の仮装に合わせ、端からはトマトジュースも覗いている。
 もう夕暮れは過ぎた、ここから先はお化けの夜。
『ホンモノ』の吸血鬼も歩く通りで、白銀の少女はバルーンを浮かべる。
 飾り付ける中で、時折すれ違う大人に目線をちらり。
 お菓子は貰えるだろうか。いや、別にそこまで欲しい訳じゃないのだけれど。だってそこまで子供じゃないもの。けれど言ったら貰えるだろうか。
 考える彼女の前に、似たような籠を持った女性が一人。
 目が合ったので、覚悟を決めて例の台詞。
「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ血を吸っちゃうわよ?」
「あら、可愛い吸血鬼さんね」
 笑う女性はチョコレートで顔が書かれたクッキーを、糾華の掌に乗せた。

 壁がある。
 謎の壁がある。
 ポスターの一枚も貼られず、何故かフックや画鋲を備えた壁がある。
「よーし、うまいぞ!」
 可愛い子供フランケンを肩車したエルヴィンは、そんな壁に色画用紙の葉っぱを飾る彼に笑い掛けた。
 見た目はちょっと怖い感じのお兄さん(一応吸血鬼仮装)であったが、優しいと分かれば子供達は寄ってくる。
 手に南瓜をお菓子を電飾を持つ子供らと、屈み背負い肩車をしながら飾り付けるエルヴィン。
 程なくして小さな南瓜のランタンが下がり、蝙蝠やお化けが舞う立派な壁が完成した。
 と、そこに通りかかった白いシーツに彼は声を掛ける。
「そこの白いのー、お菓子あるからこっちこねーかー?」
「わーい、トリートですね」
 警戒なく寄ってきた白いシーツを飾りで指し、彼が子供らにやっちまえ、と囁いた所で、壁が動く。
「うおっ!?」
「トリックオアトリート!」
 壁、もといぬり壁仮装の快が両手を広げれば一瞬子供達も目を見開き、そして、
「こっちもかざれるー」
「やっちゃえー」
「あ、チャックは開けちゃ駄目チャックは」
 あっという間に飲まれた。
 十分もしない内に歩くハロウィン背景になった快は、この夜各所で写真をねだられる事となる。
 

 Happy Halloween!
 幻想の世界を楽しもう
 Trick or Treat!
 三高平におかしな祝福を

 公園から響くのは、英美の声。
 ピーターパンの仮装をしたアウラールと手を繋ぐ彼女の仮装は猫姿の巫女。
 空に南瓜の馬車を走らせようとしたアウラールは、ふとこちらを見詰める目と視線がかち合い頬を緩めた。
 念願の猫耳です、とはしゃいでいた英美の姿。猫耳云々で血を見かねないレベルの修羅場が繰り広げられたのはさて置き、とても可愛らしい。
 一瞬見とれた彼の頬を、飛び出てきたティンカーベル(ひよこ)が突く。
 なりきりすぎだ、と指先で突き返したアウラールは、もう片手も取って英美と向き合った。
 集中した彼が描き出した幻影は、英美に被さりゆったりとした夜着に変わる。
 そう、それはウェンディ。ピーターパンの手を取った少女に、アウラールは語り掛ける。
 ずっと寄り添って生きていけるなら、永遠もいらない、と。
 歌う唇を一度止めて、英美は顔を綻ばせた。

「やるからには、至高を目指すわよ……作業しにくい、駄椅子」
「椅子!? しかも駄椅子!?」
 普段から小悪魔な彼女の小悪魔な仮装に見惚れていた夏栖斗は、咄嗟の命令に声を上げるが逆らえない。逆らえるはずもない。だって可愛い彼女だもの。
 次いで命令されたのは肩車。持ち上げたこじりの太ももが近い。
「ちょっと、余り頭動かさないでよ、変態」
「って殴るな! 暴れるな」
 そわそわする夏栖斗の頭を叩くこじりの手は止まらない。
 カラースプレーで描き出すのは、一つの物語。
 悪戯好きなお姫様、魔女のお姫様。王子様を南瓜に変えて、解く魔法は一度のキス。
「こじりさんすごい! 僕何もしてないけど!」
「御厨くんも、お疲れ様」
 褒め称える王子様の頬に、お姫様は唇を捧げた。
 初めての共同作業だから、これこそ一番素敵な悪戯。
 首に腕を回して囁くロマンチストな恋人の髪に、夏栖斗も一つキスを落とした。

 小悪魔なお姫様と同じような言葉を発していたのは、怖くて可愛いキョンシー。
「うむ、やはりやるからには頂点を目指すのだ」
 公園内で一番大きな木を目指し、根元から電飾を巻きつけて行く。
 そんな妹の姿を微笑ましく眺めながらドライアイス入り壷を並べていた狗鳥だが、呼ばれて彼女を肩車。それでも届かず、彼の肩に立つようにして紅香は手を伸ばした。
 そうして苦労した末に、龍が完成。蓮の行灯も飾り付ければ、立派に光るアートが一つ。
「フフ、狗鳥と合体した紅香は一番背が高いぞ!」
「……フフッ、そうネ。今の紅香は一番高くて、ビッグだよ!」
 飾るよりも壊すのが得意な彼ではあったが、普段強がる紅香がこれだけはしゃぐ姿は中々見られない。
 可愛い妹の為ならば、大人げなど捨ててやろうじゃないか。
 盲信にも似たそれだが、彼が義妹に向ける目は優しい。
「二人で飾ったものが、一番キラキラだ!」
「そうネ、ああ、それにしても星がきれ、」
「上は見るな」
 側頭部に膝蹴りを受けた彼が倒れず手を放さなかったのも、妹愛故である。

 そんな空気の中、己を貫く男が一人。竜一だ。
「脳裏にほとばしる芸術を形と成すのが俺の役目……!」
 今宵彼は芸術家と化す。具体的に言えば痛い南瓜、つまり痛カボ製作者と化すのだ。
 白い布でスクリーンは張った、後は映し出す影だけだ!
 とはいえ彼が彫るのはアニメや漫画の女の子ではない。
 アーク所属のフォーチュナ……イヴとか和泉とかその辺りである。男はいらね。萌えない。
 折角のハロウィンだから仮装もさせよう。
 何がいいか、定番魔女っ子か、それともバニーガールか。
「うっひょー! 皆かわいいよおおおお!」
 想像して彫りながら叫ぶ竜一が完成を見る前に通報されかかったのは、ここだけの話。


 店の前で南瓜が笑う。
 茂みから毛を逆立てた黒猫の人形が覗き、街灯に蜘蛛が釣り下がる。
 角を曲がればミイラ男が鎮座、柵の隙間からは頭蓋骨が通りを眺めていた。

 日が沈み、更に賑やかになってきた通りに転がる姿。
「じゃーん! 本場の孫悟空が遊びに来たぜー」
 にひひ、と笑う狄龍は、手を伸ばす子供達からひょいひょいと逃れてみせた。
「トリックオアトリート!」
「よーしじゃあ俺もトリックオアトリート!」
「大人じゃん!」
「心は子供なんだよ! ってコラ、尻尾をひっぱるんじゃねーっ!」
 言いながら狄龍の顔は笑い、本気で怒る雰囲気ではない。
 それを察した子供らが尻尾を狙い始めれば、ますます逃れる動きがスピードアップする。
「尻尾を弄りたけりゃお菓子をよこしなー!」
 狄龍の豪快な笑いに、駆け回る子供達の笑い声が重なった。
 それを眺めながら、おろちは蛍光塗料片手に窓に向かう。
 窓の近くにはライトをセット。一定時間で明滅するそれは、驚きと笑いを齎してくれるに違いない。
「商店街はすでにおばけのものなのだー、なんてねん」
 鼻歌を歌いだしそうな様子のおろちの手によって、次々と描かれていくお化け。
 既に描き終わった窓の傍で戦利品を眺める子供達が、照らし出されたお化けに驚く姿を見て目を細める。
 と、ちょっと飾りが豪華になったシーツが近寄ってきたのを見て、おろちは塗料を押し付けた。
「あ、ギロチンサン手伝ってちょうだい」
「お任せ下さい、ぼくに任せれば阿鼻叫喚の」
「リアルなのダメよ」
 要らん事を言い出しそうになったシーツに、おろちは唇を尖らせて釘を刺した。
 シーツで視界が悪いフォーチュナが描いた絵の出来は推して知るべし、である。

 そんなギロチンに本名を問うたのは、カボチャナイトの格好をした静と血塗れ白衣を着た七海だ。
 七海は翼となった片腕に綿やモールを抱えている。
 そんな二人に、ギロチンはシーツをばさばさ広げてみせた。
「やだなあぼくの名前はギロチンですよ、今呼んでくれたじゃないですか。断頭台のギロチンです。首を落とす無害なギロチンです」
「ギロチンって言うからには武器はデスサイズだったりするのか?」
「よくご存知ですね。身の丈より大きいデスサイズをぶんぶん振り回すんですよ。嘘ですけど」
「オレの『超必殺・アルティメットダイナミック静スペシャル』より凄い技、持ってるか?」
「もちろん。『スーパーウルトラクリティカルエンダーイヤーギロチンクラッシュ』って必殺技があります。でもきっと室長の方が凄いですよ。眼鏡を外すと凄くパワーアップするんです。なんか多分三段階くらい飛んで進化するんです」
「そうなんですか」
「いえ、嘘なので本人に言っちゃ駄目ですよ」
 素直に頷いた七海に、ギロチンはシーツの端から出した指を口の前に立てて『内緒』のポーズを取る。
 名前は特に大事ではないので、イベントが終わった後で会ったら、こっそり教えてあげます。
 近くで配布されていたココアを七海に手渡しながら、さも重要そうな事のように声を潜め、ギロチンは嘘か本当か分からない調子の笑い声を上げた。

「よーし、くろすふぉーめーしょんだー!」
「はいはい。……あんまり背伸びするとちょっとキツいですね。いえ服が」
 はしゃぐブリリアントを肩車しようとしたレイは、借りた魔女服のサイズが合わずに肩を回す。
 年齢的にはブリリアントの方が実は年上なのだが、どう見ても姉妹の見た目は逆だ。
 彼女が取りこぼした電飾をレイが拾い、ゆっくりとディスプレイを完成させていく。
「あっ、おかし……」
 近くで渡される飴に気付いたブリリアントが視線を其方に向ける。
 ごくり。
 そんな視線に気付いたのか配っていた男性がお菓子を差し出すが、彼女はレイの上で腕を組んで首を振った。
「いやいや、私は大人なんだぞー! べつにおかしがほしいとかそういうんではないのだ!」
「そうかい? 悪かったねえ」
 あ。
 人の良さそうなおっちゃんは謝って引っ込めてしまった。
 な、なかない。だってアークの戦士だもの。
 ぐっと堪えたブリリアントに、レイから大きな飴が買い与えられるのはもう少し後。

 そんな二人でも手の届かない所になれば、エレオノーラの出番だ。
「高い所はエレーナにじゃんじゃん任せるといいのよ」
 金髪から角を出し、普段の翼とは異なる色形の羽を生やした悪魔は看板の上を橙色の灯りで染めていく。
 南瓜の顔に作り物の飴を加えさせ、街灯にぺたりと蝙蝠を貼ればそこには大きな大きな南瓜と蝙蝠の影が伸びた。
 三高平の人々は神秘の存在を知っている。だから空飛ぶ悪魔にも動じない。
 降り立った彼がトリックオアトリートとねだってみれば、酒屋のおじさんは笑いながらウイスキーボンボンをくれた。
「くれなかったら悪戯しようかと思ってたんだけど」
 口の中でチョコレートを噛めば、溢れ出す甘さと酒の辛さ。子供にはちょっと刺激の強いそれ。
 エレオノーラの嗜好と実年齢を彼が知っていたのかどうかは、定かではない。
「菓子が欲しいのか? ほら、ちゃんと分けて食えよ」
 筋肉隆々の牛男の仮装をしたランディにも、果敢に子供達は声を掛けてきた。
 仮装の厳つさとは対照的に、穏やかな様子で彼はひそかに作ったモルの形のクッキーを渡す。
 喜び走り出す子供の背には、白い翼。
 エレオノーラの『本物の』翼と同じようなものだろう。
 いい街だ、と彼はその背を見送って思う。
 いくら世界に愛されているのだとしても、人に愛されるとは限らない。
 平穏でいたくとも、平穏でいさせてくれるとは限らない。
 それはある意味、運命に愛されたがゆえの宿命。
「これが俺達の街だ……綺麗なもんだよな」
 橙色の灯りが、いつもの白い灯りに戻ったとして、その灯りは何時だって温かい。
 革醒者が、そして革醒者に理解のあるものが作り上げた街。姿を偽らずとも暮らせる街。

 橙の世界を、兎を伴わずアリスと帽子屋が歩いていた。
 南瓜の形をした籠に、目一杯のお花とリボン。
 ルアは並ぶ扉に、赤いリボンと白の彩を加えて行く。
 そんな姉が手の届かない所があれば、ジースが背負い、肩車。
「ちゃんと押さえてるから、大丈夫だ」
「うん♪ これでよし!」
 微笑むルアを見て、ジースは遠い日に思いを馳せた。
 追われ続けたあの日々を。姉を庇い、街の光から遠く離れた闇に隠れていた事を。
 光が余りに遠くて、届くと思えなかった。別の世界のようだった。
 けれど今、姉は花を片手に笑っている。
「ジース、ありがと」
 笑う彼女の目から、涙が零れた。肩車の事ではなく、万感の思いを込めて告げられる言葉。
 そっと拭って、ジースは笑う。
「ああ、もう大丈夫だ」

 ここは三高平。
 現実と紙一枚を隔てる神秘が混ざり合う街。
 今宵はハロウィン。
 生者と死者が列を成し、一夜に混ざり溶け合う日。

 全ての人に、ハッピーハロウィーン。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 ハロウィンの雰囲気、拘り等を吟味し審査員が悩んだ上で、今回の『ベストオブハロウィン』は一般参加の方になりました。
 来年、またありましたら再チャレンジもお待ちしています。

 皆様が良き日を過ごせましたように。